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第四章 伯爵家からの客

突然の客

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 王太子バージル・ホローネルからの手紙を読み、ロバートはため息を吐いた。
 王宮の夜会への呼び出しだ。招待への返事は結婚前にしているから出席は確定しているが、ミエリーの同伴を求められた。
 しかも、王宮でロバートの結婚は噂になっているらしい。
 バージルはロバートの幼馴染だ。子どものころから親しくしている。結婚の詳細を説明しないとならないだろう。まあ、彼はロバートが先祖返りなのもラダーが使い魔なのも知っているため、他の相手に説明するよりは楽だ。
 他の貴族相手にはなんと説明したらいいのか。縦断街道を見越した政略結婚で押し通すか。
 大げさになってしまうと、離縁しづらくなってしまう。
 ……それならそれで都合がいい。
 ふとそんな思いが横切った。
 縦断街道ができる前に離婚すると利益が見込めないと伯爵家が切り捨てられたように見える。そうミエリーを説得したら……。
「いや、ダメだ」
 ロバートは頭を振って、不穏な考えを追い払う。
 手紙を持ってきたラダーは、ロバートの悩む様子を楽しそうに見ていた。
 ロバートはラダーの笑顔を見て眉をしかめるが、それには触れずに、
「王宮の夜会にミエリーも同伴する。準備を頼む」
「かしこまりました」
 そこで、執務室の扉が叩かれ、執事が現れた。
「キュール伯爵のご令嬢とご令息がいらっしゃいました」
 怪訝な顔をするロバートに、執事は「お泊りになると伺っておりますが」と困惑したようにラダーを見る。
 二人から視線を向けられたラダーは笑顔でうなずいた。
「ええ、そうですよ」
「聞いていない」
 強い口調で立ち上がるロバートに、「お伝えし忘れていたようですね。申し訳ありません」とラダーは口だけで謝る。
「客間の用意は?」
「ええ、終わっております」
「ミエリー様のお部屋も?」
「はい、お荷物の移動も終わっております」
 ラダーが執事に確認した内容に疑問を覚え、ロバートはラダーを質す。
「どういうことだ?」
「客室が足りないので、ミエリー様は今日から公爵夫人のお部屋にお移りいただきます」
「客室が足りないわけがないだろう!」
「いいえ、足りないのですよ」
 ロバートはにらむが、ラダーは全く意に介さない。
 二人の間で執事は無言で立っていた。ラダーとファナ以外の使用人は人間だ。執事や家政婦や料理長など、代々公爵家に勤めている者はラダーが初代の使い魔だと知っている。四百年以上、見た目が変わらないのだ。ロバートが生まれるまではラダーはあまり表には出てこなかったため家政や領地運営に影響はなかった。しかし、今はロバートが先祖返りのせいでラダーがいろいろ口を出し、今代の執事にはいささか申し訳なく思う。
 ロバートは「もういい」とラダーに手を振り、
「悪かった。ラダーの指示通りで構わない」
 執事に伝えると、珍しく微笑んだように見えた。
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