あなたの隣で

ほろ苦

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ハンターランク1のアイヴァンとハンターランク2のゼノ、この二人とハンター依頼をこなすとハンターランクがすぐに5になった。
まあ、上位の魔獣討伐の頻度が増えているし、仕事が早く1日2つ依頼を完了させることもあるので当たり前か。
報酬も沢山入り、懐もホクホクだ。
そして、狩りの合間に私がゼノに治癒魔術を教えるのだが……

「まず左手を私の手のひらに合わせて下さい」
「こうか?」
「はい、で、この手のひらに魔力を集中して下さい」

私のすぐ目の前に瞳を閉じた美形な顔がある。
さすが上位魔術師、魔力の質も集中力もそして、顔もピカいちだ……

「治癒をイメージして……?」

ゆっくりと瞳を開けゼノはジーーーーと私を見る。

「あの……?」
「ムカつく」
「は?」
「お前の魔力に」

私がゼノの魔力がわかるように、ゼノも私の魔力がわかるという事だ。

「それをアイツの為に抑えているのも、腹が立つ」

そんなこと言われてもなーと私が困っていると近くでアイヴァンが苦笑いしながら私たちを眺めていた。

「怒りの感情ではうまく治癒魔術は発動しませんよ」
「……わかった」
「じゃあ、もう一回、手のひらに集中して」

私が仕切り直しと瞳を閉じると唇に何か触れる感触がした。
ん?
眼を開けるとゼノの顔がある。
すっと唇を離されてキスをされたのだとわかった。

「……」
「これで集中できる」

私は固まり、近くで見ていたアイヴァンも固まっていた。
な、なに?なにが?
急激に顔があつくなり、私は立ち上がり後ろに飛び退く。

「な!!なにするんですか!!」
「はぁ。うるさい、集中出来ないだろ。怒りの感情をコントロールしただけだ」

なんの悪びれもしないゼノにアイヴァンの顔がひきつる

「えっと、ゼノ?」
「お前に口づけしたら、なんかアイツに悔しくないだろ?」
「「はあ?」」

私とアイヴァンは間の抜けた声を出した。
ゼノはちょっと……いや、だいぶ変わっている。

そんなこんなである日、ギルド館で報酬整理などをしていると、ギルドの職員に話しかけられた。

「ミリアさん、実はお願いしたい依頼がありまして」
「どんな依頼ですか?」

アイヴァンとゼノは、ちょっと特別な依頼に出掛けており、今日の私はフリーだった。
聞くと簡単な探索依頼だけど、場所が危険度が高くハンターランク5以上のクエストらしい。
もうひとりハンターが決まっており、先に向かっているので援軍として行って欲しいという内容だった。
私は念のためナナンの許可をもらわなくてはと言ったら、その職員さんはナナンにちゃんと伝えているらしい。
これまでの関係性から、信頼できる人だったので私は引き受けて向かうことにした。

南の森の奥、もうひとりと待ち合わせ場所に行くと森の木々の隙間から光が差し込み、金色の髪が輝く。
一目で誰かわかった。

「レックス」

私の声に気がつき手をあげる。

「やっときたか、じゃ行くか」
「えっと……久しぶり」
「ああ、毎日忙しそうだな。最近はアイヴァンたちと一緒に行動しているらしいな」
「う、うん」

レックスと森の奥に歩きながら話をした。
私にとっては夢のような時間だった。
森の奥には中級から上位の魔獣がポツポツと現れる。
レックスと私は連携をとりながら難なく探索を進めて行くと、大きな地割れを見つけた。
レックスは地割れの周りにある魔獣の足跡が気になるようだ。

「念のため行ってみるか」
「はい!」

その足跡をつけていくと、なんと上級のレア魔獣だ。
普段の魔獣とは違い毛色が真っ白で、常に気が立っている。
暴走している魔獣はとても危険だ。
レックスの太刀が蒼白閃光と共に宙を舞い、私は遠隔からサポートメインに立ち回った。
暴れる魔獣の動きさえ止めれればと、足を中心に攻撃をすると一瞬魔獣の動きが鈍る。
そのすきにレックスが一気にたたみかけた。
一時間の闘いの末に、なんとかふたりで倒し、疲れきって私は座り込むとレックスはレア魔獣の戦利品を回収して私に手を差し出した。

「強くなったな」

微笑みかけてくれるレックスの手を掴み立ち上がった。
そこから少し進むと聖なる地という休憩ポイントがあり想定外の戦闘をしたため、暗くなってきたのでそこで野宿をすることになった。
木々の隙間から見える星空は今日は一段と綺麗に見える。
レックスは手際よく焚き火を準備して私も非常食を並べて座っていると、隣にレックスがやってきてドサッと倒れるように横になって、私の膝に頭をのせた。
これは、俗に言う膝枕である。

「あー疲れた……」
「お、お、お、お、お疲れ様です」

私は自分の汗臭さを気にしながらカチンと固まった。
焚き火のパチパチと弾ける音と森の木々が揺れる音。
そして、たまに遠くから聞こえる生き物の鳴き声。
私はドキドキしてレックスをみると、スヤスヤと眠っていた。
変に期待していた私は一気に肩の力が抜ける。
でも、あの手の届かないと思っていた人がここで寝ていると思うと、なんだかむず痒く嬉しい。
私の夢のような時間はこうして過ぎていった。
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