あなたの隣で

ほろ苦

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次の日も探索を終えてギルド館に帰ると、ナナンはカンカンに怒っていた。
どうやら、親しくしていたギルド館の職員さんが私に気をきかせてくれていたようで、ナナンの許可は降りてなかったらしい。
必死に頭を下げる職員さんに私は感謝をした。
だって、レックスとふたりっきりで素敵な時間が過ごせたのだから。
ついでにレア魔獣の討伐をしたおかげて、私のハンターランクが4になったので、ナナンもそれ以上責めなかった。

アイヴァンとゼノと狩りをしていると、不吉な噂を耳にした。
数百年に一度の災いドラゴンが誕生したという噂だ。
ドラゴンは強個体が多く魔獣の中でも、最も危険でチームで挑むのが常識だ。
レックスやアイヴァンも数える位しか戦ったことがないらしい。
私が興味深く話を聞いているとゼノが私に

「魔術師としてなら、ミリアも参加できるかもな」

と言っていた。
それから暫くして、本当にドラコン討伐依頼がギルド館にやってきた。
各地のギルド館から精鋭を集めて、チームを作るらしい
私がお世話になっているギルド館からは、レックス、アイヴァン、ゼノ、ロッソ、モモ、そして……なんと私が選ばれた。
私は嬉しくて舞い上がっていたが、ナナンはいつものように心配をしていた。

「本当だったら参加させたくないけど、ドラゴンの討伐は国家最優先事項でもあるの。いい?絶対最前に出てはだめよ?こまめに回復を忘れないで」
「わかってるって、ナナン」

討伐組の出発の日、私はナナンに見送られていた。
最後に私をギュッと抱きしめる。
そして、耳元で

「いざとなったら、魔術を使って。絶対生きて帰って。約束」

そう小さく囁いていた。

ドラゴンが出現した場所は今回運がよく、ひとがいない山だった。
これが街中だったから大惨事だろう。
他のギルド館から20名が合流して、レックスが指揮をとる。
討伐日当日、レックスから私にナナンと同じように最前には出るなと言われた。
それは、弱いからとかではなく、作戦として、前衛が崩した状態から追加攻撃をして欲しいというものだった。
初めてドラゴンを見た時、私はあまりの美しさと神々しさに言葉を失った。
これが、魔獣ドラゴン……
口から炎を巻き散らし、周辺を焼け野はらにしている。
戦闘が始まり、ドラゴンの強さに圧倒されながらも、ハンターたちは負けていない。
レックスの統率のもと、魔術師との連携は完璧で、少しずつ確実にドラゴンの体力を削っていった。
これなら、倒せるかも。
私はそう、甘い考えを抱いた次の瞬間、ドラゴンの炎がトゲのような姿を変えて飛んできた。
何本か避けたが私の左脇に一本刺さってしまった。

「ミリア!!」

激痛が走り血が滴り落ちる。
レックスが遠くで私の名前を呼んでいる。
私は倒れ意識を失った。

それから、何日眠っていたのだろうか。
目を覚ました時、私はナナンの宿のベットの上だった。
周りを見回すとナナンが床に座ってベットに頭をのせて眠っている。
きっと、私の看病をしてくれていたのだろう。
身体を起こそうとすると左脇に激痛が走る。
少しの魔力を使って自分に治癒魔術をかけた。
私が魔術を使っているとナナンが目を覚まして驚き立ち上がった。

「ミリア!大丈夫?」
「いま、治癒魔術を使って回復しているから、大丈夫だよ」

私の声にナナンは少しだけ顔を緩めた。
良かったと安堵の声を漏らしベットに腰を掛ける。
そういえば、皆は戦いはどうなったのだろうか、気になってナナンに尋ねた。
すると、なんとかドラゴンに勝つことが出来たが、なんと次のドラゴンが出没したらしい。
こんな連続でドラゴンが現れることはかなり珍しい。
私は早く治療をして戻らなければと思っていたがナナンは少し言いづらそうにしていた口を開いた。

「ミリア、チームから外されたよ」
「え……」
「レックスが決めたんだ」
「そんな……」

私はショックで呆然とした。
確かに私は弱く足手まといだ。
でも、それでもレックスの力になりたかった。

「せめて後方支援だけでも!」

ナナンが首を振った

「ミリアをドラゴン戦に関わらせないと周知していた。」
「っ……」
「……ミリア、ハンターはここまでだ。あなたの使命、国の姫に戻るべきよ」
「……」

私はなにも答えずに黙り込んだ。
まだレックスの隣に居たい……

二匹目のドラゴン戦にハンター達は苦戦していた。
私のような脱落者も出て、戦える有能なハンターが追加されても倒せないで被害は広がった。

『最悪災のドラゴン』
そう呼ばれた。
ナナンはレックス達の後方支援に向かい、私はナナンの宿で待機をしていた。

「今回は無理じゃないだろうか」
「あのレックス達でも……」

そんな不安な声が下級ハンター達から聞こえてくる
私はハンター受付所に向かい、ハンター登録証を渡した
よくお世話になっていた従業員さんは目をパチパチしている

「ハンター登録証を返納します」
「え?なんで!?ハンター辞めるのですか!!」
「はい。これまで、ありがとうございました」
「待って下さい!ダメですよ、辞めては。今回は訳あって外されたわけですし、考え直して下さい!」

いつも冷静な従業員さんが必死に私を説得してくれた。
でも、私はもう覚悟を決めたのだ。
私は深々と頭を下げた

「本当に、これまでありがとうございました」
「っ……」

そして、ハンター協会を出ていった。
二度と戻らない覚悟で。
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