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第11話 そして追及は変な方向へ流れ出す

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「どうしたの?何も無かったのなら、すぐに話せるでしょ。早く言いなさい」

美雷は華憐からの追及を沈黙で逃げようとしたが、すぐにそんな弱気のままでは王道に振り向いて貰う事など出来ないだろうと悟った。

「信じられないかもしれないけど私が日課のランニングを終えて、汗を流そうと女湯に入ったら中に王道さんが居たの」

「はあっ!?何で女湯に王道が居るのよ、それにそこの入り口に掛けられている暖簾は混浴じゃない。嘘で誤魔化そうっていうのなら承知しないわよ」

「それは私も知らない、だって私の裸を見た王道さんも男湯と間違えたって慌てて出ようとしていたし」

「ちょっとストップ!あなた、王道に自分から肌を晒したの!?」

「そんな恥ずかしい真似する訳無いでしょ!?王道さんが居たのに驚いて前を隠していた布を落としてしまったの」

「それで?その後、どうしたの」




美雷は頬を赤く染めながら、正直に話し始めた。

「王道さんはすぐに出ようとしたけど、こんなチャンスは今後無いかもしれないと思ってこのまま一緒に入りましょうって私から提案したの」

「そんな羨ま恥ずかしい事を・・・多分同じ立場だったら私もきっと言っていたわね」

華憐がウンウン頷きながら納得しているのが不思議だったがそのまま話を続ける。

「それから2人で背中合わせで入りながら、雨宿りした時のお礼と王道に抱いている想いを告白したの」

「告白ですって!?一体何て言ったのよ!!」

鬼の様な形相で華憐が睨んできた、ここで顔を背けたら2度と華憐に勝つ事は出来ない。そう信じてその時言った言葉をそのまま華憐にぶつけた。

「『華憐達に王道さんを奪われたくない、王道さんが望むのなら何だってしてあげる。だから、このまま私をあなただけの物にして』、王道さんの背後から抱き付きながら私はそう言った」

「それって、布越しで抱きついたのよね?」

「直接、肌に触れながら・・・私を王道さんの物にしてもらおうとしたの」

ツー・・・・ 華憐の鼻から一筋の血が流れ出した、何を想像しているのか美雷には分からない。

「それで王道はどうしたの?」

「私の方に振り向いてくれたのだけどその時に王道さんのを見ちゃったら急に恥ずかしくなって、その場にしゃがみ込んだの。そうしたら何故か電流が流れて王道さんはそのまま気絶しちゃって、助けを呼んで騒ぎになったら2人で居たのが華憐達にバレると思って布を被せてその場から逃げ出しちゃった。これが王道さんとのやりとりの全て、何か文句有る?」




華憐から平手打ちが飛んでくるのも覚悟の上で美雷は全てを話し終えた、しかし華憐から平手が来る気配は無い。それどころか美雷の両肩を掴むと息を荒くしながら別の事を聞いてきた。

「ハァハァ!美雷さん、王道の何を見ちゃったの?」

(えっ!私が告白した事よりも、そっちの方が大事!?)

「華憐さん、私が王道さんに告白した事は問題じゃないの?」

「そんな事はどうでもいいのよ!早く王道の何を見たのか言いなさい!!」

「はっ、はい!!」

華憐の気配がまるで変質者の如く異質な物に変わっており、それに恐怖心を覚えた美雷は今度も正直に話してしまう。

「その・・・王道さんの、大事な場所を」

ドボドボドボ・・・ 華憐は両目を閉じながら、滝の様な鼻血を出した。中庭の芝生は華憐の周囲だけ赤く染まる。




「それ、私達にも詳しく教えて頂けませんか?」

背後からの声に華憐と美雷は驚き振り向いた、誰も居なかった筈なのに背後には奈央・門音・薫・みどり先生の4人が立っていた。

「4人ともいつの間に!?」

「最初から居ましたよ、2人の様子が少し妙だったので私が空気中の水分の屈折率を変えて姿を隠して見ていました」

しれっとした顔で奈央が説明する。もしかしたら、優秀なストーカーの才能が有るかもしれない。

「美雷さん、王道さんに関する情報は皆で分かち合いましょう。そうしてくれたら、今回の抜け駆け行為は大目に見ますので・・・」

みどり先生がニコニコと笑顔を見せながらゆっくりと近づいてきた、しかし・・・目は全く笑っていない。美雷は涙目になりながら、皆の前で身振り手振りで具体的な説明をするのだった。




「みんな済まなかったな、朝から騒ぎを起こしてしまって。まだ身体の調子が悪いから、今日からやる予定だった邪族退治は明日以降にしてもらっていいか?」

昼過ぎになってようやく意識が戻った王道は、宿の広間で昼食を食べていた華憐達6人を見つけて話しかけた。すると、6人は王道を見た途端に顔を真っ赤にするとそそくさとその場から逃げる様に去ってしまう。

(一体、俺何か悪い事でもしたのか?)

街中の男から、たこ殴りにされるだけの良い思いをしていながら王道は全く反省していなかった。




「美雷から具体的な説明を受けた後に王道を見ちゃうと、変に意識しちゃうわね」

「そうだね、きみ兄ちゃんには申し訳なかったけど恥ずかしくて顔をまともに見れなかった」

「でも・・・私達の誰かがもしかしたら、いずれ王道さんとするのですよね?」

「奈央さん!そんなはしたない事を言うもんじゃありません!?相手をするのでしたら、年が近い私が」

ここで、美雷が油断して不用意な発言をする。

「みどり先生の場合は、先に老後の心配を・・・」

「まな板娘の分際で、王道さんに裸を見られたからって調子こいてると額射抜くぞ」

華憐達5人が騒々しくしている中、薫は1人だけ別の事を考えていた。

(男の人って美雷さんの言う様なグロテスクな物を持っているの!?小さい頃に弟と遊んでいた時はそんなもの無かったのに・・・。きっと王道さんはご病気でそうなられてしまったのだわ、普段は冴えない男にしか見えないけど傷ついた心を隠し続けてこられたのね)

王道は男としての正常な反応を、薫の勘違いから病気扱いされる事となる。それが後日フラグを立てる結果を招いた。王道と美雷の1件は女性陣に王道を男性として強く意識させたが、それは軽はずみな行動を慎む結果を呼んだので良かったのかもしれない。だが王道はこの後テンプレ・王道のハーレムルートを更に開拓してしまう。





その日の午後、まだ少しだけ違和感の残る身体で王道は1人下磐咲の町をぶらぶらと歩いていた。普段だと華憐達のいずれかが一緒に行動しようとする筈なのに、何故か付いて来なかった。

(1人だけで町を歩くのって物凄く久しぶりに思えるな)

商店街を見て回ったりしていると気付かない内に、これは華憐が喜びそうだ、この犬のブローチは奈央がきっと欲しがるな、門音の奴にこの洋菓子店を教えてやるか、この洋服はみどり先生に似合うかもしれない、美雷のランニングシューズそろそろ新しいのに変える頃合かな?等、これまで縁の無かった女性達の事を真剣に考える様になっていた。

そんな考え事をしていたら、いつの間にか町外れまで来ていた。特に用も無いので引き返そうとすると、目の前に小さな教会が目に入る。何故か、中から呼ばれている様な気がしたので王道が教会の中に入ると2人の女性が温かく出迎えてくれた。

「6柱教教会磐咲支部へようこそ、私はライア派のシスターでミレイアといいます」

『お久しぶりです王道、ここは神界に最も近い神域。降臨する事は出来ませんがこうして仮の姿で話をする位は可能です』

「お前はライア!何でここに居る!?」

『その説明は後で、とりあえず明日にでも他の6人を連れてまたお越し下さい。渇濡馬周辺の邪族退治を終えた褒美として何か差し上げようと思います』
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