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第54話 式の準備

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外遊は特に問題も無く終える事が出来た・・・っとウィル達は考えている。訪問した先の相手の感想は違うかもしれないが。

「外遊も終えて無事に帰国出来そうだし、そろそろ式に呼ぶ人を決めておかないか?」

「父さん達をぜひ呼びたいけど、アリアの兄上やリーンの叔父上達と会ったらショックで気絶しそうな気がするわ」

「そんな堅苦しく考える必要も無かろう、これからは全員が家族になるのだから対等の親戚付き合いをしていけば良いのだ」

アリアが珍しく良い事を言った、しかし続けて言った言葉はサチの家族にとって良い事とはいえなかった。

「だが、今後の新しく出来る親戚のお祝い事の出費は結構かさむかもしれないぞ。王族の祝儀の平均額は金貨100枚以上は当たり前だからの」

「いやいやいや、無理ですから!田舎の村人にそんな金額出せる訳無いでしょ!?」

珍しくサチが動揺する、残される家族にとんでもない出費の予定が出来た事で対処が思いつかないのだろう。

「ねえウィル、相談が有るのだけど?」

サチが猫なで声でウィルに近づいてきた、ろくでもない話に決まっているのだが逃げる訳にいかない。

「私の家族がアリアやリーンの家族同士の付き合いでお金に困らない様に他の世界に行く前に残していってくれないかしら?」

「え~俺が!?」

「あなたがホイホイ私以外の女性に手を出したのが原因なのよ、責任取りなさい」

「冗談だ、サチ。祝儀なら前に話していた木で作る手作りのお守りで十分だ」

アリアがサチに謝罪する、サチはアリアが嘘を言っていない事が分かると胸を撫で下ろした。

「王族は基本自分達で何か作るなんて事はしない、だから持っているお金で済ませようとしてしまう。だが、本来は幸せを願って自ら作る物にこそ価値がなければいけないのだ」

それにな・・・っと言いながら、アリアが突然脂汗を流し始める。

「サチ・・・怒らないで聞いて欲しい。式の場所は既に目星が付いているのだ、だが場所が場所だけにサチの家族に知らせるのは最後にしようと判断したのだ」

「ねえ、ウィル。第1正妻の私に隠し事を早々とする訳?」

サチの怒りのボルテージが膨らむにつれて周辺の木々が揺れ始める、このままいくと竜巻すら容易に起こせそうだった。

「サチ・・・お前の家族に式の場所はダンジョンの中と早々と言ったら尻込みすると思ったんだ」

「ダンジョンの中?」

「そう、シェルナーグの孤児院で闇の女王が作ったダンジョンの中で式を挙げようと思うんだ。孤児院に居る子供達にも出席して貰うつもりだ」

「どうしてダンジョンの中で挙げる事にしたの?」

「まずはリーンの母親や国王夫妻もそうだけど、アリアの親族を外敵から守る為。それと孤児院の子供達も数日の間リスティーらが居なくなると寂しがると思ってさ。もう1つは子供達を見せる事で他の孤児院への支援を増やしたい目的もある」

ウィルは一旦話を止めて深呼吸すると式場にダンジョンを選んだ本当の目的を話し始めた。

「シェルナーグの孤児院はリスティーと闇の女王のお陰で永続的な運営の目処が出来たが他の場所の孤児院はいまだに廃院する寸前のままだ、それじゃあレーメルやリスティーとした『姉妹の運命を変える』って約束は果たせない。リスティーは自分達と同じ様な者を出したくないと願っているからね」

ウィルは更に話を続けた。

「この国だけじゃない、世界中の孤児達が各々の幸せを掴める機会を与えられる場所に孤児院を変えていきたい。それがこの世界を発つ前に有る程度は進めておきたい俺の計画だ」

サチはレーメルを見ると、彼女も頷いてウィルの計画に賛同している事を示した。

「まあ、外遊を再開させる前の感じだとリスティーが自分の幸せを掴むのも遠くない気がしたけどね」

そんなウィルの言葉にレーメルが反応した。

「ウィル、何それ!?あの子、何時の間にそんな人を見つけていたの?」

「いや、見つけた訳じゃないよ。相手の方が積極的に会いに来ているだけ」

「それってウィルがお世話になったというあの方?」

「そう、ジェイク。リスティーに一目会いたくて毎日理由を付けては孤児院を訪れていると闇の女王が言っていたよ」

「あの子を見初めてくれる人が私の気付かない間に現れていたのね。私がウィルと出会って幸せを掴めた様にあの子も同じだけ・・・いいえ、それ以上の幸せを掴んで貰いたい」

「だからって、会っても2人を必要以上に煽ったりするのは駄目だぞ。闇の女王も温かく見守っているんだから」

「お母様まで!?」

レーメルは驚いた顔をしているが、何故自分の近くに居て気付かなかったのか不思議でならない。

「まあ、式場をダンジョンにする事は既にリスティーと闇の女王には俺1人で何回か行って話をしてある。あと、神様にも話は通してあるから当日皆で分かれてそれぞれの家族をダンジョン内に転移で運べば誰にも気付かれずに済むよ」

「ねえ、ウィル。非常識な頼みになるけど、1つ考えが浮かんだので聞いて貰える?」

それまで黙っていたリーンが1つの提案をした。

「このダンジョン内に転移出来るのなら、各国の代表者も1人ずつお招きしない?前日にスライムを倒して遊びながら運営費を稼ぐ子供達の姿を見せる事で何か考えさせられると思うの」

そこまでの考えが至らなかったのか、ウィルは静かにリーンの話の続きを聞く。

「他の孤児院にはこんなダンジョンは全く無い、ならば運営費はどこから手に入れているのか?子供達に不自由な思いをさせていないか?とかそんな気持ちを芽生えさせられるかもしれないわ」

「そうだな、実際にその光景を見て貰った方が分かり易いかもしれない。予定変更で泊まれる部屋の数をもっと増やせないか闇の女王と打ち合わせしてくるから待ってて!」

言うが早いか、他のメンバーを残してウィルは1人で転移する。

「相変わらず思い立ったらすぐに行動を始める困った人ね」

サチの呆れた感想に皆で笑い合う。

「だけど、その行動の先で不幸になったのは居ない。非常識な行動で驚かされたりもするけど結果的に良い方向に進んでいる、私達の式で世界中の孤児達の運命が良い方向に進む事を期待しましょう」

それから何だかんだと準備している間に予定に無かった招待客となった各国代表者に招待状が手渡されたのが式の2日前。翌日、ウィル達に手分けして連れてこられる羽目になった代表者達はこの非常識な結婚式を生涯忘れる事は無かった。
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