73 / 127
行間11 いつの間にか・・・
第73話 瞬間移動(テレポート)
しおりを挟む
敦盛がファウナにいる時の朝食は『海の神』と決まっている。いや、無理矢理食べさせられているといった方が正しいかもしれないが・・・。
エミーナとルシーダも実は『海の神』を使っている。今だから言えるけど、最初のころは本当に金が無くて「食べ残しでいいから頂戴」と真顔で言っていた事もある程だから、セルボが見るに見かねて一般の宿泊者と同じメニューの朝食を一般の宿泊者より格安で出していた。さすがにタダにしてくれなかったけど、それでもエミーナとルシーダにとっては有難い話であった。敦盛とパーティを組むようになり経済的に余裕が出来た今でも以前と同じ値段だ。
魔術師は大きく分けて2種類ある。どこかの国の魔術師協会に所属しているか、フリーかの2種類だ。
普通、フリー魔術師というのは元はどこかの国の魔術師協会に所属していて、他国の王家や貴族とかの専属魔術師になった時に利害関係で板挟みなるからフリーになる事が多い。冒険者ギルドも形の上では王国とは独立した組織だし、他国の仕事を請け負う事もあるから、冒険者ギルドに所属している魔術師は、どこの国の魔術師協会にも所属してないフリー魔術師だ。
エミーナはドルチェガッバーナ王国魔術師協会出身どころか、どの国の魔術師協会にも1度も所属した事がない唯一のフリー魔術師なのだ。
ヒューゴボス帝国魔術師学校中退(正しくは帝国滅亡により魔術師学校が強制的に廃校になった)だから、卒業試験を受けてないエミーナは3級魔術師、つまり正規魔術師の免許を持ってないのが理由だ。中退者は再入学できないし、他の魔術師学校への編入という制度もないから、エミーナが3級魔術師の資格を得る為にはもう1度、他国の魔術師学校の1年生からやり直す必要があるのだが、エミーナにそんな経済的余裕はなかったから「諦めた(本人の話)」のだ。
実力はあっても正規の魔術師ではない、それがエミーナなのだ。
ただ、レクサス支部長の仲介があったから、ドルチェガッバーナ王国魔術師協会の『準会員出身』という特例扱いで協会への出入りは認められている。形の上ではエウロパ大陸冒険者ギルドのファウナ支部所属のフリー魔術師だから、ドルチェガッバーナ王国魔術師協会経由で魔術の研究成果を発表すれば特許料を得る事も出来るが、借金返済のため一獲千金の遺跡調査に明け暮れていたから、新魔術の研究や魔法道具の開発はやった事がない。公開済の魔術や魔法道具については、かつて堕天使リーザが恐怖したほどの知識力で、並みの魔術師を凌駕していると自負しているが、エミーナを上回る魔術師はゴロゴロいる。
2級魔術師になると『導師』を名乗れるが、1級と2級の違いは・・・
「・・・あー、エミーナちゃんにルシーダちゃん、おはようー」
今日もエミーナとルシーダは二人揃って『海の神』へ行ったけど、そこには既に敦盛と満里奈来ていて先に朝食を食べていた。以前は敦盛とエミーナ、ルシーダの3人が同じテーブルで食べるのが当たり前だったのだが・・・昨日から4人に増えている!そう、満里奈がいるからだ!
満里奈はまだ自分の部屋を持ってない。だからファウナの街に最初に来た日から『海の神』2階の1号室を借りている。
「・・・マリナはこの国の朝食は2回目なんだろ?」
「そうなんですよー。ウチにとっては新鮮なんですけどー」
「アツモリはウンザリなんだろ?」
「みたいですよー」
エミーナと満里奈はそう言って敦盛を見ながらニヤニヤしてるけど、ルシーダは聖職者らしくテーブルに座ってからは神に祈りを捧げているから会話に加わっていない。
「・・・悪かったな!俺はただ単に銀シャリに味噌汁の朝食が恋しいだけだ。別にトーストが嫌いとは一度も言ってないぞ!」
「はいはい、お兄ちゃんはホテルに行っても朝は和食でないとブーブー言う人でしたねえ」
「マリナ、その『ワショク』って何?」
エミーナは素朴な疑問を口にしたのだが、たしかにこの世界には『和食』という言葉が存在しない。満里奈と敦盛にとっては常識かもしれないが。
さすがの満里奈も自分たちの常識が通用しない事は昨日、一昨日のうちに実際に体験している。かと言って、他の一般のお客さんやエポを始めとした店の関係者にあっちの世界の話を聞かれるのもマズイというのは分かっている。ちょっとミスったと満里奈も認めざるを得なかった。
「・・・あー、みなさん、おはようございますー」
いきなりエミーナたちは後ろから声を掛けられたからそっちの方を見たけど、そこにいたのは・・・ココアだ。
「あれっ?ココアちゃん、どうしたのー?」
満里奈はココアが来た事でさっきの話が宙に浮いた格好(?)だから、ここぞとばかりにココアに話を振ったが、そのココアは満里奈の右の席に「よいしょ」と座った。
「・・・いやー、ただ単にアツモリさんたちと一緒に朝食を取りたいと思っただけですよ」
ココアはニコッと微笑んで、通りがかったエポに「わたしの分、作れますか?」と尋ねたけどエポが「いいですよー」と答え、そのまま厨房の方へ歩いて行った。
ココアの前には紅茶が置かれたが、その紅茶を飲みながら視線をエミーナに向けている。
エミーナはそのココアの仕草を見て『ピン!』と来た。
「あのー・・・ココアさん、もしかしてボクに話したい事があるとか」
「あれっ?よく気付きましたねえ」
「なんとなくだけど、話し掛けたいけど何を言えばいいのか分からない、という雰囲気を醸し出していたからねえ」
「魔術師に隠し事は出来ない、という話は聞いた事がありますけど、こうもズバリ言い当てられると逆に怖くなっちゃいますー」
「おいおいー、ボクはホントに偶然だぞ」
「その偶然がビンゴだったから怖いんです!」
「わりーわりー」
エミーナはそう言って左手を頭の後ろに廻しながら笑ったから、敦盛たちもそれにつられる形で笑った。
ひとしきり笑った後、ココアは真面目な顔をしてエミーナの顔を見たけど、その目は真剣だった。
「あのー、エミーナさん・・・実は、お金をちょっと貸して欲しいんですけど」
ココアはちょっとだけ躊躇したけど核心部分から話した。魔術師相手に小細工しても無駄だと思ったから直球勝負に出たのだ。
「・・・ボク個人としては金額次第ではOKしてもいいけど、アツモリの意見を聞かないなんとも言えないなー」
「どうしてですか?」
「ボクは財布番だけど、『ニャンニャンクラブ』は独立採算制を取ってない。あくまでパーティ全体の出費として考えるから、例えば仕事先でお昼ご飯を食べるにしても、一人50Gまでと決めている。まあ、ボクとルシーダの二人しかいない時には、昼ご飯は二人で30Gどころか食べないで我慢してた程だから、今でもそのケチケチ根性が抜けないと言うか、誰かが個人的理由でパーティの金を使い込まないよう、出費は全てオープンにして透明性を確保してる」
「要するにあの話と一緒で相互監視ですか?」
「言い方を変えればそうなるけど、ココアさんがお金を使いたい理由を教えてくれ」
「分かりました」
ココアは話した。
亡くなったシビックの荷物の整理はもう終わっているに等しいけど、シビックの両親はシビックが亡くなった事を知らない。だからシビックが亡くなったのを伝えたい事と、『もし死んだら両親に渡して欲しい』と言っていた物を届けたい。
「・・・ですが、シビックさんの御両親というのは、今はヒューゴボス帝国領にはいないんです」
「それじゃあ、どこにいるんだ?」
「セレネーです」
「セレネー?ガニメデ大陸の?」
「そうです」
「でも、元はヒューゴボス帝国の騎士か貴族の令嬢だったんだろ?」
「それはそうですけど・・・恐らくエミーナさんの知識なら、これを見たらどこの家の出身か分かるんじゃあないですか?」
ココアはそう言ってから自分の服のポケットから小さい箱を取り出したが、その箱に入っていたのは・・・指輪だ。
エミーナはココアから箱ごと指輪を受け取り、その指輪に描かれた紋章を見たが、それを見た瞬間『ハッ!』と気付いた。
「そうか、バラード伯爵の・・・だから天使殺しを使えたのか」
「シビックさんは自分の出身の事をあまり話した事はなかったんですけど、ひょっとして名門なんですか?」
「超名門と言う訳じゃなあないけど、ヒューゴボス帝国の中では重鎮と言われていた家だ。何しろ、アプリオ皇帝に直接意見を言える、数少ない家だったからな」
「うっそー」
「本当だ。もしアプリオ皇帝がバラード伯爵の、多分シビックさんのお父さんになると思うけど、その人の忠言を真に受けていたら、世界は今のようになってなかった」
「どういう事ですか?」
「簡単に言えば、アプリオ皇帝が古代魔法王国の遺産『世界の扉』を復活させようとした時、堂々と皇帝に反対意見を述べたのがバラード伯爵だ。でも、その事で皇帝の怒りを買って伯爵家は取り潰された。ラルゴ皇后が助命を嘆願したから国外追放処分で済んだけど、本当なら一族全員、断頭台行きだったのさ」
「そうなんですか・・・」
「ま、それが当時帝国騎士団長だったレヴォーグ卿の抗議の辞任に繋がってるけど、もしレヴォーグ卿が帝国騎士団にいたら帝国軍は魔王軍との決戦に勝っていたとまで言われてるし、『世界の扉』が暴走して地上界と魔界をつなぐ門が出現する事もなかったんだから、ある意味、セレナ王女と同様、シビックさんもアプリオ皇帝によって人生を狂わされた人間なんだよ。ラルゴ皇后も『世界の扉』復活に反対してたし、魔王が出現したという報告を聞いた直後に卒倒してそのまま亡くなっているから犠牲者といってもいい」
「「「「 ・・・・・ 」」」」
「バラード伯爵は国外追放処分になったけど、夫人の出身がティファニー王国の伯爵家だったから、そちらが身元引受人になってセレネーの街の屋敷を与えられて、そこでヒッソリと暮らしてるはずだ。魔術師学校の教官がバラード伯爵と繋がりがあったから、ボクも少しだけど事情は知ってる」
「ふーん」
「何なら、ボクがセレネーまで跳んでシビックさんの家族に届けてやってもいいよ」
「ふーん」
ココアは何気に返事をしたし、敦盛や満里奈は話の大半が分かってないから特にエミーナの話におかしな点があったと思ってないが・・・ルシーダが『バン!』とテーブルを叩いて立ち上がった!
「ちょ、ちょっとエミーナ!今の話、本当なの!?」
「お、落ち着けルシーダ、何を慌ててるんだあ?」
「あんたがさっき言った話、『セレネーまで跳んで』って部分、それって本当なのって聞いてるのよ!」
ルシーダはエミーナの襟首をつかみながら絶叫している程だが、ココアも敦盛も満里奈も、なぜルシーダが絶叫するのかが分かってない。
「・・・エミーナさあ、あんた、公式には『魔術師見習い』だけど本当は2級魔術師、『導師』を名乗れるんでしょ!」
「「「「 えーーっ! 」」」」
さすがに敦盛や満里奈もエミーナから情報として聞かされているが、2級魔術師というのは『導師』と呼ばれているけど、その2級魔術師の課題の1つになっているのが『エウリュアレ海を一人で瞬間移動で渡れる』なのだ!つまり、エミーナは瞬間移動の呪文を使えると自ら暴露したと同じなのだ!!
「・・・ルシーダ、落ち着け!」
「これが落ち着いていられますか!2級魔術師と同等なら、最低でも『銀』クラス確定じゃあないの!支部長に掛け合ってでも『銀』になれば報酬だって上がるのよ!まさかとは思うけど、ココアさんを連れてセレネーまで行けるとか言わないでしょ!!」
「そのまさかだよ」
「「「「 嘘でしょー!! 」」」」
ルシーダは絶叫と共にエミーナの襟を離してしまった程だけど、1級魔術師、つまり上級の導師の課題の1つは『エウリュアレ海を大人一人を連れて瞬間移動で渡れる』なのだ。つまり、自力でお客さんを連れて対岸まで瞬間移動で行ける事が条件なのだから、冒険者ギルドのクラスでいけば金クラスなのだ!!
「・・・別に黙っているつもりはなかったけど、この前、エルフの集落へ行った時、あいつとやり合った時に自分の魔法力がとてつもなく上がっている事に気付いただけだし、それを試したのが昨日の夕方だ。飲み薬で魔法力を回復させて往復したけど、帰って来た時の魔法力から見て、片道だけならココアさんを連れていっても問題ないって確信してるよ。もちろん、一人だけなら往復できる」
「それって、金どころか白金じゃあないの?」
「さすがに白金は無理だよ。ボクはエスクードさんと試合をしたら絶対に勝てない、それだけは自信がある」
「そんな事で『自信がある』とか自慢してどうするのよ!どーでもいいから、今日はギルドに行かなくてもいいからココアさんを連れてセレネーまで行ってこーい!行かなかったら私が強制的に『懺悔』を受けさせるわよ!」
「勘弁してよー。私的に『懺悔』を使ったら神が怒るぞ」
「問答無用!」
結局・・・エミーナは渋々だけどココアを連れてセレネーの街へ行く事を了承した。
当然だけど・・・ギルドの仕事をやらない事になるから、ルシーダはファウナのバレンティノ教団のボランティアをやった。しかも敦盛と満里奈を強引に連れ出して教会が運営する孤児院の掃除や給仕をやらせたのだから、二人から見ればいい迷惑だ(もっとも、子供たちは敦盛を見て『サムライさまだあ!』と熱狂してたけど)。シルフィはというと・・・どこへ行ってたのか全然分かりません、はい。
エミーナとルシーダも実は『海の神』を使っている。今だから言えるけど、最初のころは本当に金が無くて「食べ残しでいいから頂戴」と真顔で言っていた事もある程だから、セルボが見るに見かねて一般の宿泊者と同じメニューの朝食を一般の宿泊者より格安で出していた。さすがにタダにしてくれなかったけど、それでもエミーナとルシーダにとっては有難い話であった。敦盛とパーティを組むようになり経済的に余裕が出来た今でも以前と同じ値段だ。
魔術師は大きく分けて2種類ある。どこかの国の魔術師協会に所属しているか、フリーかの2種類だ。
普通、フリー魔術師というのは元はどこかの国の魔術師協会に所属していて、他国の王家や貴族とかの専属魔術師になった時に利害関係で板挟みなるからフリーになる事が多い。冒険者ギルドも形の上では王国とは独立した組織だし、他国の仕事を請け負う事もあるから、冒険者ギルドに所属している魔術師は、どこの国の魔術師協会にも所属してないフリー魔術師だ。
エミーナはドルチェガッバーナ王国魔術師協会出身どころか、どの国の魔術師協会にも1度も所属した事がない唯一のフリー魔術師なのだ。
ヒューゴボス帝国魔術師学校中退(正しくは帝国滅亡により魔術師学校が強制的に廃校になった)だから、卒業試験を受けてないエミーナは3級魔術師、つまり正規魔術師の免許を持ってないのが理由だ。中退者は再入学できないし、他の魔術師学校への編入という制度もないから、エミーナが3級魔術師の資格を得る為にはもう1度、他国の魔術師学校の1年生からやり直す必要があるのだが、エミーナにそんな経済的余裕はなかったから「諦めた(本人の話)」のだ。
実力はあっても正規の魔術師ではない、それがエミーナなのだ。
ただ、レクサス支部長の仲介があったから、ドルチェガッバーナ王国魔術師協会の『準会員出身』という特例扱いで協会への出入りは認められている。形の上ではエウロパ大陸冒険者ギルドのファウナ支部所属のフリー魔術師だから、ドルチェガッバーナ王国魔術師協会経由で魔術の研究成果を発表すれば特許料を得る事も出来るが、借金返済のため一獲千金の遺跡調査に明け暮れていたから、新魔術の研究や魔法道具の開発はやった事がない。公開済の魔術や魔法道具については、かつて堕天使リーザが恐怖したほどの知識力で、並みの魔術師を凌駕していると自負しているが、エミーナを上回る魔術師はゴロゴロいる。
2級魔術師になると『導師』を名乗れるが、1級と2級の違いは・・・
「・・・あー、エミーナちゃんにルシーダちゃん、おはようー」
今日もエミーナとルシーダは二人揃って『海の神』へ行ったけど、そこには既に敦盛と満里奈来ていて先に朝食を食べていた。以前は敦盛とエミーナ、ルシーダの3人が同じテーブルで食べるのが当たり前だったのだが・・・昨日から4人に増えている!そう、満里奈がいるからだ!
満里奈はまだ自分の部屋を持ってない。だからファウナの街に最初に来た日から『海の神』2階の1号室を借りている。
「・・・マリナはこの国の朝食は2回目なんだろ?」
「そうなんですよー。ウチにとっては新鮮なんですけどー」
「アツモリはウンザリなんだろ?」
「みたいですよー」
エミーナと満里奈はそう言って敦盛を見ながらニヤニヤしてるけど、ルシーダは聖職者らしくテーブルに座ってからは神に祈りを捧げているから会話に加わっていない。
「・・・悪かったな!俺はただ単に銀シャリに味噌汁の朝食が恋しいだけだ。別にトーストが嫌いとは一度も言ってないぞ!」
「はいはい、お兄ちゃんはホテルに行っても朝は和食でないとブーブー言う人でしたねえ」
「マリナ、その『ワショク』って何?」
エミーナは素朴な疑問を口にしたのだが、たしかにこの世界には『和食』という言葉が存在しない。満里奈と敦盛にとっては常識かもしれないが。
さすがの満里奈も自分たちの常識が通用しない事は昨日、一昨日のうちに実際に体験している。かと言って、他の一般のお客さんやエポを始めとした店の関係者にあっちの世界の話を聞かれるのもマズイというのは分かっている。ちょっとミスったと満里奈も認めざるを得なかった。
「・・・あー、みなさん、おはようございますー」
いきなりエミーナたちは後ろから声を掛けられたからそっちの方を見たけど、そこにいたのは・・・ココアだ。
「あれっ?ココアちゃん、どうしたのー?」
満里奈はココアが来た事でさっきの話が宙に浮いた格好(?)だから、ここぞとばかりにココアに話を振ったが、そのココアは満里奈の右の席に「よいしょ」と座った。
「・・・いやー、ただ単にアツモリさんたちと一緒に朝食を取りたいと思っただけですよ」
ココアはニコッと微笑んで、通りがかったエポに「わたしの分、作れますか?」と尋ねたけどエポが「いいですよー」と答え、そのまま厨房の方へ歩いて行った。
ココアの前には紅茶が置かれたが、その紅茶を飲みながら視線をエミーナに向けている。
エミーナはそのココアの仕草を見て『ピン!』と来た。
「あのー・・・ココアさん、もしかしてボクに話したい事があるとか」
「あれっ?よく気付きましたねえ」
「なんとなくだけど、話し掛けたいけど何を言えばいいのか分からない、という雰囲気を醸し出していたからねえ」
「魔術師に隠し事は出来ない、という話は聞いた事がありますけど、こうもズバリ言い当てられると逆に怖くなっちゃいますー」
「おいおいー、ボクはホントに偶然だぞ」
「その偶然がビンゴだったから怖いんです!」
「わりーわりー」
エミーナはそう言って左手を頭の後ろに廻しながら笑ったから、敦盛たちもそれにつられる形で笑った。
ひとしきり笑った後、ココアは真面目な顔をしてエミーナの顔を見たけど、その目は真剣だった。
「あのー、エミーナさん・・・実は、お金をちょっと貸して欲しいんですけど」
ココアはちょっとだけ躊躇したけど核心部分から話した。魔術師相手に小細工しても無駄だと思ったから直球勝負に出たのだ。
「・・・ボク個人としては金額次第ではOKしてもいいけど、アツモリの意見を聞かないなんとも言えないなー」
「どうしてですか?」
「ボクは財布番だけど、『ニャンニャンクラブ』は独立採算制を取ってない。あくまでパーティ全体の出費として考えるから、例えば仕事先でお昼ご飯を食べるにしても、一人50Gまでと決めている。まあ、ボクとルシーダの二人しかいない時には、昼ご飯は二人で30Gどころか食べないで我慢してた程だから、今でもそのケチケチ根性が抜けないと言うか、誰かが個人的理由でパーティの金を使い込まないよう、出費は全てオープンにして透明性を確保してる」
「要するにあの話と一緒で相互監視ですか?」
「言い方を変えればそうなるけど、ココアさんがお金を使いたい理由を教えてくれ」
「分かりました」
ココアは話した。
亡くなったシビックの荷物の整理はもう終わっているに等しいけど、シビックの両親はシビックが亡くなった事を知らない。だからシビックが亡くなったのを伝えたい事と、『もし死んだら両親に渡して欲しい』と言っていた物を届けたい。
「・・・ですが、シビックさんの御両親というのは、今はヒューゴボス帝国領にはいないんです」
「それじゃあ、どこにいるんだ?」
「セレネーです」
「セレネー?ガニメデ大陸の?」
「そうです」
「でも、元はヒューゴボス帝国の騎士か貴族の令嬢だったんだろ?」
「それはそうですけど・・・恐らくエミーナさんの知識なら、これを見たらどこの家の出身か分かるんじゃあないですか?」
ココアはそう言ってから自分の服のポケットから小さい箱を取り出したが、その箱に入っていたのは・・・指輪だ。
エミーナはココアから箱ごと指輪を受け取り、その指輪に描かれた紋章を見たが、それを見た瞬間『ハッ!』と気付いた。
「そうか、バラード伯爵の・・・だから天使殺しを使えたのか」
「シビックさんは自分の出身の事をあまり話した事はなかったんですけど、ひょっとして名門なんですか?」
「超名門と言う訳じゃなあないけど、ヒューゴボス帝国の中では重鎮と言われていた家だ。何しろ、アプリオ皇帝に直接意見を言える、数少ない家だったからな」
「うっそー」
「本当だ。もしアプリオ皇帝がバラード伯爵の、多分シビックさんのお父さんになると思うけど、その人の忠言を真に受けていたら、世界は今のようになってなかった」
「どういう事ですか?」
「簡単に言えば、アプリオ皇帝が古代魔法王国の遺産『世界の扉』を復活させようとした時、堂々と皇帝に反対意見を述べたのがバラード伯爵だ。でも、その事で皇帝の怒りを買って伯爵家は取り潰された。ラルゴ皇后が助命を嘆願したから国外追放処分で済んだけど、本当なら一族全員、断頭台行きだったのさ」
「そうなんですか・・・」
「ま、それが当時帝国騎士団長だったレヴォーグ卿の抗議の辞任に繋がってるけど、もしレヴォーグ卿が帝国騎士団にいたら帝国軍は魔王軍との決戦に勝っていたとまで言われてるし、『世界の扉』が暴走して地上界と魔界をつなぐ門が出現する事もなかったんだから、ある意味、セレナ王女と同様、シビックさんもアプリオ皇帝によって人生を狂わされた人間なんだよ。ラルゴ皇后も『世界の扉』復活に反対してたし、魔王が出現したという報告を聞いた直後に卒倒してそのまま亡くなっているから犠牲者といってもいい」
「「「「 ・・・・・ 」」」」
「バラード伯爵は国外追放処分になったけど、夫人の出身がティファニー王国の伯爵家だったから、そちらが身元引受人になってセレネーの街の屋敷を与えられて、そこでヒッソリと暮らしてるはずだ。魔術師学校の教官がバラード伯爵と繋がりがあったから、ボクも少しだけど事情は知ってる」
「ふーん」
「何なら、ボクがセレネーまで跳んでシビックさんの家族に届けてやってもいいよ」
「ふーん」
ココアは何気に返事をしたし、敦盛や満里奈は話の大半が分かってないから特にエミーナの話におかしな点があったと思ってないが・・・ルシーダが『バン!』とテーブルを叩いて立ち上がった!
「ちょ、ちょっとエミーナ!今の話、本当なの!?」
「お、落ち着けルシーダ、何を慌ててるんだあ?」
「あんたがさっき言った話、『セレネーまで跳んで』って部分、それって本当なのって聞いてるのよ!」
ルシーダはエミーナの襟首をつかみながら絶叫している程だが、ココアも敦盛も満里奈も、なぜルシーダが絶叫するのかが分かってない。
「・・・エミーナさあ、あんた、公式には『魔術師見習い』だけど本当は2級魔術師、『導師』を名乗れるんでしょ!」
「「「「 えーーっ! 」」」」
さすがに敦盛や満里奈もエミーナから情報として聞かされているが、2級魔術師というのは『導師』と呼ばれているけど、その2級魔術師の課題の1つになっているのが『エウリュアレ海を一人で瞬間移動で渡れる』なのだ!つまり、エミーナは瞬間移動の呪文を使えると自ら暴露したと同じなのだ!!
「・・・ルシーダ、落ち着け!」
「これが落ち着いていられますか!2級魔術師と同等なら、最低でも『銀』クラス確定じゃあないの!支部長に掛け合ってでも『銀』になれば報酬だって上がるのよ!まさかとは思うけど、ココアさんを連れてセレネーまで行けるとか言わないでしょ!!」
「そのまさかだよ」
「「「「 嘘でしょー!! 」」」」
ルシーダは絶叫と共にエミーナの襟を離してしまった程だけど、1級魔術師、つまり上級の導師の課題の1つは『エウリュアレ海を大人一人を連れて瞬間移動で渡れる』なのだ。つまり、自力でお客さんを連れて対岸まで瞬間移動で行ける事が条件なのだから、冒険者ギルドのクラスでいけば金クラスなのだ!!
「・・・別に黙っているつもりはなかったけど、この前、エルフの集落へ行った時、あいつとやり合った時に自分の魔法力がとてつもなく上がっている事に気付いただけだし、それを試したのが昨日の夕方だ。飲み薬で魔法力を回復させて往復したけど、帰って来た時の魔法力から見て、片道だけならココアさんを連れていっても問題ないって確信してるよ。もちろん、一人だけなら往復できる」
「それって、金どころか白金じゃあないの?」
「さすがに白金は無理だよ。ボクはエスクードさんと試合をしたら絶対に勝てない、それだけは自信がある」
「そんな事で『自信がある』とか自慢してどうするのよ!どーでもいいから、今日はギルドに行かなくてもいいからココアさんを連れてセレネーまで行ってこーい!行かなかったら私が強制的に『懺悔』を受けさせるわよ!」
「勘弁してよー。私的に『懺悔』を使ったら神が怒るぞ」
「問答無用!」
結局・・・エミーナは渋々だけどココアを連れてセレネーの街へ行く事を了承した。
当然だけど・・・ギルドの仕事をやらない事になるから、ルシーダはファウナのバレンティノ教団のボランティアをやった。しかも敦盛と満里奈を強引に連れ出して教会が運営する孤児院の掃除や給仕をやらせたのだから、二人から見ればいい迷惑だ(もっとも、子供たちは敦盛を見て『サムライさまだあ!』と熱狂してたけど)。シルフィはというと・・・どこへ行ってたのか全然分かりません、はい。
0
あなたにおすすめの小説
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。
空手馬鹿の俺が転生したら規格外の治癒士になっていた 〜筋力Eのひ弱少年治癒士が高みを目指す!?〜
くまみ
ファンタジー
前世は空手部主将の「ゴリラ」男。転生先は……筋力Eのひ弱な少年治癒士!?
「資質がなんだ!俺の拳は魔法を超える!……と、思うけど……汗」
ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー
俺は五里羅門(ごり・らもん) 35歳独身男だ。硬派すぎて女が寄り付かず。強すぎる空手愛と鍛え抜かれた肉体のせいで不本意ながら通称「ゴリラ」と呼ばれていた。
仕事帰りにダンプに跳ねられた俺が目覚めると、そこは異世界だった。だが転生した姿は前世とは真逆。
病弱で華奢。戦闘力最低と言われる職業の「治癒士」(ヒーラー)適正の10歳の少年・ノエル。
「俺は戦闘狂だぞ!このひ弱な体じゃ、戦えねぇ!
「華奢でひ弱な体では、空手技を繰り出すのは夢のまた夢……」
魔力と資質が全てのこの世界。努力では超えられない「資質の壁」が立ちふさがる。
だが、空手馬鹿の俺の魂は諦めることを知らなかった。
「魔法が使えなきゃ、技で制す!治癒士が最強になっちゃいけないなんて誰が決めた?」
これは魔法の常識を「空手の技」で叩き壊す、一人の少年の異世界武勇伝。
伝説の騎士、美少女魔術師、そして謎の切り株(?)を巻き込み、ノエルの規格外の挑戦が今始まる!
勇者パーティーにダンジョンで生贄にされました。これで上位神から押し付けられた、勇者の育成支援から解放される。
克全
ファンタジー
エドゥアルには大嫌いな役目、神与スキル『勇者の育成者』があった。力だけあって知能が低い下級神が、勇者にふさわしくない者に『勇者』スキルを与えてしまったせいで、上級神から与えられてしまったのだ。前世の知識と、それを利用して鍛えた絶大な魔力のあるエドゥアルだったが、神与スキル『勇者の育成者』には逆らえず、嫌々勇者を教育していた。だが、勇者ガブリエルは上級神の想像を絶する愚者だった。事もあろうに、エドゥアルを含む300人もの人間を生贄にして、ダンジョンの階層主を斃そうとした。流石にこのような下劣な行いをしては『勇者』スキルは消滅してしまう。対象となった勇者がいなくなれば『勇者の育成者』スキルも消滅する。自由を手に入れたエドゥアルは好き勝手に生きることにしたのだった。
【完結】スーパーの店長・結城偉介 〜異世界でスーパーの売れ残りを在庫処分〜
かの
ファンタジー
世界一周旅行を夢見てコツコツ貯金してきたスーパーの店長、結城偉介32歳。
スーパーのバックヤードで、うたた寝をしていた偉介は、何故か異世界に転移してしまう。
偉介が転移したのは、スーパーでバイトするハル君こと、青柳ハル26歳が書いたファンタジー小説の世界の中。
スーパーの過剰商品(売れ残り)を捌きながら、微妙にズレた世界線で、偉介の異世界一周旅行が始まる!
冒険者じゃない! 勇者じゃない! 俺は商人だーーー! だからハル君、お願い! 俺を戦わせないでください!
侯爵家三男からはじまる異世界チート冒険録 〜元プログラマー、スキルと現代知識で理想の異世界ライフ満喫中!〜【奨励賞】
のびすけ。
ファンタジー
気づけば侯爵家の三男として異世界に転生していた元プログラマー。
そこはどこか懐かしく、けれど想像以上に自由で――ちょっとだけ危険な世界。
幼い頃、命の危機をきっかけに前世の記憶が蘇り、
“とっておき”のチートで人生を再起動。
剣も魔法も、知識も商才も、全てを武器に少年は静かに準備を進めていく。
そして12歳。ついに彼は“新たなステージ”へと歩み出す。
これは、理想を形にするために動き出した少年の、
少し不思議で、ちょっとだけチートな異世界物語――その始まり。
【なろう掲載】
貧民街の元娼婦に育てられた孤児は前世の記憶が蘇り底辺から成り上がり世界の救世主になる。
黒ハット
ファンタジー
【完結しました】捨て子だった主人公は、元貴族の側室で騙せれて娼婦だった女性に拾われて最下層階級の貧民街で育てられるが、13歳の時に崖から川に突き落とされて意識が無くなり。気が付くと前世の日本で物理学の研究生だった記憶が蘇り、周りの人たちの善意で底辺から抜け出し成り上がって世界の救世主と呼ばれる様になる。
この作品は小説書き始めた初期の作品で内容と書き方をリメイクして再投稿を始めました。感想、応援よろしくお願いいたします。
ボクが追放されたら飢餓に陥るけど良いですか?
音爽(ネソウ)
ファンタジー
美味しい果実より食えない石ころが欲しいなんて、人間て変わってますね。
役に立たないから出ていけ?
わかりました、緑の加護はゴッソリ持っていきます!
さようなら!
5月4日、ファンタジー1位!HOTランキング1位獲得!!ありがとうございました!
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる