雑文エッセイ

越川千太郎

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16、新酒

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京都のとある酒蔵。 薄ぐらい蔵に大きなタンクが並んでいて、はしごをかけて中をのぞく。白濁した諸味が、ぷつん、ぷつん音を立てていた。わかい甘ずっぱいかおりがする。 かおりと寒気が一緒になって、はだにしみるようだった。
蔵の人たちが使う独特な酒言葉のなかに、雑味というのがあった。雑味かならずしも悪い味ではない。よい雑味もある。酒の味のくせ、である。酒蔵ごとに、それぞれの雑味がある。今はホーローびきのタンクで酒を造るが、昔は杉のを使った。それだけ今は雑味が少なくなっている。
昔、杉の桶は何年何十年も使った。年々きれいに洗うのだが、杉材の灰汁や去年の酒のにおいが、いやな雑味になって、新酒につく。 このいやな雑味を消すために、昔は新酒を真新しい杉の桶につめて売った。酒のおこりだ。古い杉の悪い雑味を、新鮮な杉の雑味で化かしたのである。
また、新鮮な杉材の芳香が、酒によく合った。木香ともいう。ほんとうは、雑味の少ない今の酒には、もう杉樽は必要ないわけだけれど、それでも町の通人は、今なお樽酒の木香の風味をよろこぶ。 急いで無理やり木香をつけるために、杉の鉋屑で味つけしている酒屋もあるそうだ。
雑味や木香のほかに蔵人たちがいう酒の味・かおりに関する言葉の豊かさ、深さには感心した。
甘い、辛いこく。このへんは普通だが、ふくらみ、はば、にぎやか、薄い。この薄いは、薄馬鹿のウスだという。 ゴム臭、日光臭、びん臭。ガラスびんのガラスにも臭気はある、と専門家はいうのだ。
仕込んだ諸味は日に日に熟して、きのうきょう、この冬はじめての新酒が出来るころである。
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