16 / 26
16、新酒
しおりを挟む
京都のとある酒蔵。 薄ぐらい蔵に大きなタンクが並んでいて、はしごをかけて中をのぞく。白濁した諸味が、ぷつん、ぷつん音を立てていた。わかい甘ずっぱいかおりがする。 かおりと寒気が一緒になって、はだにしみるようだった。
蔵の人たちが使う独特な酒言葉のなかに、雑味というのがあった。雑味かならずしも悪い味ではない。よい雑味もある。酒の味のくせ、である。酒蔵ごとに、それぞれの雑味がある。今はホーローびきのタンクで酒を造るが、昔は杉のを使った。それだけ今は雑味が少なくなっている。
昔、杉の桶は何年何十年も使った。年々きれいに洗うのだが、杉材の灰汁や去年の酒のにおいが、いやな雑味になって、新酒につく。 このいやな雑味を消すために、昔は新酒を真新しい杉の桶につめて売った。酒のおこりだ。古い杉の悪い雑味を、新鮮な杉の雑味で化かしたのである。
また、新鮮な杉材の芳香が、酒によく合った。木香ともいう。ほんとうは、雑味の少ない今の酒には、もう杉樽は必要ないわけだけれど、それでも町の通人は、今なお樽酒の木香の風味をよろこぶ。 急いで無理やり木香をつけるために、杉の鉋屑で味つけしている酒屋もあるそうだ。
雑味や木香のほかに蔵人たちがいう酒の味・かおりに関する言葉の豊かさ、深さには感心した。
甘い、辛いこく。このへんは普通だが、ふくらみ、はば、にぎやか、薄い。この薄いは、薄馬鹿のウスだという。 ゴム臭、日光臭、びん臭。ガラスびんのガラスにも臭気はある、と専門家はいうのだ。
仕込んだ諸味は日に日に熟して、きのうきょう、この冬はじめての新酒が出来るころである。
蔵の人たちが使う独特な酒言葉のなかに、雑味というのがあった。雑味かならずしも悪い味ではない。よい雑味もある。酒の味のくせ、である。酒蔵ごとに、それぞれの雑味がある。今はホーローびきのタンクで酒を造るが、昔は杉のを使った。それだけ今は雑味が少なくなっている。
昔、杉の桶は何年何十年も使った。年々きれいに洗うのだが、杉材の灰汁や去年の酒のにおいが、いやな雑味になって、新酒につく。 このいやな雑味を消すために、昔は新酒を真新しい杉の桶につめて売った。酒のおこりだ。古い杉の悪い雑味を、新鮮な杉の雑味で化かしたのである。
また、新鮮な杉材の芳香が、酒によく合った。木香ともいう。ほんとうは、雑味の少ない今の酒には、もう杉樽は必要ないわけだけれど、それでも町の通人は、今なお樽酒の木香の風味をよろこぶ。 急いで無理やり木香をつけるために、杉の鉋屑で味つけしている酒屋もあるそうだ。
雑味や木香のほかに蔵人たちがいう酒の味・かおりに関する言葉の豊かさ、深さには感心した。
甘い、辛いこく。このへんは普通だが、ふくらみ、はば、にぎやか、薄い。この薄いは、薄馬鹿のウスだという。 ゴム臭、日光臭、びん臭。ガラスびんのガラスにも臭気はある、と専門家はいうのだ。
仕込んだ諸味は日に日に熟して、きのうきょう、この冬はじめての新酒が出来るころである。
0
あなたにおすすめの小説
ママと中学生の僕
キムラエス
大衆娯楽
「ママと僕」は、中学生編、高校生編、大学生編の3部作で、本編は中学生編になります。ママは子供の時に両親を事故で亡くしており、結婚後に夫を病気で失い、身内として残された僕に精神的に依存をするようになる。幼少期の「僕」はそのママの依存が嬉しく、素敵なママに甘える閉鎖的な生活を当たり前のことと考える。成長し、性に目覚め始めた中学生の「僕」は自分の性もママとの日常の中で処理すべきものと疑わず、ママも戸惑いながらもママに甘える「僕」に満足する。ママも僕もそうした行為が少なからず社会規範に反していることは理解しているが、ママとの甘美な繋がりは解消できずに戸惑いながらも続く「ママと中学生の僕」の営みを描いてみました。
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。
あるフィギュアスケーターの性事情
蔵屋
恋愛
この小説はフィクションです。
しかし、そのようなことが現実にあったかもしれません。
何故ならどんな人間も、悪魔や邪神や悪神に憑依された偽善者なのですから。
この物語は浅岡結衣(16才)とそのコーチ(25才)の恋の物語。
そのコーチの名前は高木文哉(25才)という。
この物語はフィクションです。
実在の人物、団体等とは、一切関係がありません。
百合ランジェリーカフェにようこそ!
楠富 つかさ
青春
主人公、下条藍はバイトを探すちょっと胸が大きい普通の女子大生。ある日、同じサークルの先輩からバイト先を紹介してもらうのだが、そこは男子禁制のカフェ併設ランジェリーショップで!?
ちょっとハレンチなお仕事カフェライフ、始まります!!
※この物語はフィクションであり実在の人物・団体・法律とは一切関係ありません。
表紙画像はAIイラストです。下着が生成できないのでビキニで代用しています。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる