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名も無き少年

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 部屋でしばらくぼーっとしていると、ノックの後に男の子が入ってきた。

 さっき王宮内で見た男の子だ。


「失礼します。お体をお拭きしますね」

 男の子に言われて気付いた。

 俺はオーケルマンに襲われたまんまだった。


「いいよ。自分でするから。そのタオル貸して?」

 でも……と遠慮がちな男の子からタオルを奪い取った。


「この部屋ってあのオッサ、えっと、オーケルマンって人が使ってるの?」

「はい、オーケルマン様のお部屋です。お妾様はここでオーケルマン様のお相手をいたします」

 俺がこのくらいの年齢の時って、もっとバカみたいな喋り方だったぞ?


「君、こんなに小さいのに働いて偉いねー。名前はなんて言うの?」

 男の子は目を丸くした。

「私に名前はありません。オーケルマン様が『あと10年くらいしたら、名前を付けてやる』とおっしゃいました。私はただの側用人です。お妾様にそのような軽口を叩くことは許されません。どうか、お許しください」

 仲良くなりたかっただけなのに、男の子を恐縮させ頭まで下げさせてしまった。

 名前がないってどういうことだ?

 文豪による小説の書き出しじゃあるまいし、オーケルマンは何を考えてるんだ?


「ご、ごめんっ。俺、そういうの全然知らなくて! ロマーリア? だっけ? ルールとかぜーんぜん知らないから、言われるがまま、されるがままって感じなんだよねー! ハハッ! ……ハハ……」

 俺は何て惨めなんだろう。

 何も分からず、ハゲデブのおっさんに犯されましたーって、全然笑えない……。

 今更悔しさと怒りがこみ上げてくる。


 男の子は俺が唇をギリっと噛んだのを見た。

「お妾様はとっても幸運でございます! オーケルマン様は国王に次ぐ権力をお持ちの方です。ですからその愛妾になるのは大変光栄なことでございます!」

 必死な感じだけど、嘘を言っている感じじゃないな。

「オーケルマン様のお妾様は現在、50人ほどいらっしゃいますが、特例で全員高い身分が保証されております。きっとお妾様も幸せな王宮での生活が始まりますよ!」


 50人!?

 権力者ってのは何でもアリかよ……。

 俺なんて1人しか彼女いたことないのに。


 だが、身寄りのない不審人物の俺が、ロマーリア王国で王宮暮らしができる――。

 考えようによっては運が良いのか?

 あと、俺はこれから「お妾様」って呼ばれるのか!?
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