2 / 23
一章.パーティ追放
2.ユニークスキル
しおりを挟む日が暮れて、辺りが薄暗くなっていく。
ロキはひとり、人気のない広場で、ベンチに座ってパンを食べていた。
パンは大きなバケットで、拾い集めた銅貨を二枚使って、先ほど買ったものだ。
酒場で拾った銅貨は、全部で488枚だった。
几帳面なルーラはきっちり500枚入れていただろうから、きっと拾い忘れがあったのだろう。今のロキには、その拾い忘れた12枚すら勿体なく感じた。
残りの金は銅貨486枚。
銀貨1枚と銅貨100枚の価値が同じなので、全財産は銀貨5枚弱ということになる。
「ルーラにしては……けっこうくれたな……退職金……」
そうひとりごちてから、ロキは思い直すように、大きく首を振った。
そもそも今まで、報酬の分け前を全くもらえなかったのだ。それを考えると足りないぐらいだった。
思い返すとモヤモヤしてきて、感情を打ち消すように、一気にパンを口に放り込んだ。そのせいでむせてしまい、慌てて水をごくごくと飲む。
ルーラのパーティに入ったばかりのとき、ロキは夢心地だった。
何しろ、ルーラはSランクの冒険者で、女でありながら勇者候補の一人だったからだ。
少ない錬金術師でよかったと、心から思った。
この世界には、ダンジョンと呼ばれる迷宮が乱立している。
冒険者たちはダンジョンの攻略や、冒険者ギルドからの依頼を請け負って、その結果によって冒険者としてのランクを競っていた。
難攻不落のSランク級ダンジョンは、この世界に3つあり、未だかつて誰も攻略をしたことがない。
その3つのダンジョンを攻略した人間が、勇者の称号を手にすると定められており、冒険者たちはこぞってこのダンジョンの攻略を目指していた。
Sランク冒険者のルーラは、今一番勢いがあり、いつかSランクのダンジョンを、攻略するのではないかと期待されていた。そんなパーティに、ロキはいたのだ。
「はぁ……これからどうしよう……」
全財産は銀貨にして5枚弱。
堅実に生きるなら、冒険者として生きるのは諦めて、錬金術師のはしくれとして、ポーションなどのアイテムを作って、生計を立てるのが一番だろう。
しかし、ロキの錬金術スキルはBランク。
高品質のポーションAやSはとても作れず、市場で飽和しきっているような、並みの回復薬かそれよりマシ程度のものしか作れない。
貧しい暮らしになるのは、確実だった。
(……そうだ。久々に、自分のスキルを鑑定してみよう。上がってるかもしれないし)
ロキは何となくそう思い、もう一つの所持スキル『鑑定』を発動させた。
自分のスキルが、目の前の空間に文字となって現れる。
魔法少女:U
錬金術 :B
鑑定 :C
剣術 :D
弓術 :E
以前見たときと全く変わっていない。スキルアップはしていないようだ。
ロキはがっかりして、うなだれた。
ちなみにスキルランクはE~Sまであり、最上位のSランクは、とても珍しい。
才能と努力を兼ね備えないと、Sランクにはなれないと言われていた。
「それにしても、この魔法少女って……一体、どんなスキルなんだろうなぁ」
うなだれたまま、ロキはひとりごちる。
魔法少女、というのは、ロキが生まれたときから所持している、ユニークスキルで、詳細は不明だ。
ユニークスキルというのは、『剣術』や『魔法』のような固定スキルとは違い、普通では取得できないスキル。つまり唯一無二の生まれ持った特別なスキルのことだ。10万人に1人の確率で発生すると言われていた。
ロキは『鑑定』のスキルを所持しているが、Cランクでは、ユニークスキルがどんなものかまでは分からない。
ユニークスキルの詳細を知るためには、S級の鑑定士に見てもらう必要があり、結構な金がかかるため、貧乏だったロキはその機会がなかった。
男なのに『魔法少女』という名称から、ルーラにも馬鹿にされそうで、このことは早くに他界した両親以外、誰も知らなかった。
ふと、ロキは生き抜くための、もう一つの案を思いついた。
今ここに、銀貨5枚分の金がある。
この金で『魔法少女スキル』をS級鑑定士に鑑定してもらうというのは、どうだろう。
もしこのユニークスキルが特殊なもので、需要の高いスキルだったら、これから金に困ることはなくなる。
しかし、ユニークスキルといえど、ハズレは多々ある。
むしろ、ハズレの方が多いぐらいだ。
ロキが今まで会ったことのある、ユニークスキル所持者は、『対象者の背中をかゆくするスキル』や『対象者の毛髪を抜けやすくするスキル』など、何てコメントをしていいのか分からないほど、微妙なスキルだった。
もし金にならないユニークスキルだった場合、貴重な金をほとんど失うことになってしまう。
(……かなり微妙な賭けだけど)
ロキはそう思いつつも、もう心は決めていた。
このままBランク錬金術師として、アイテムを売ったところで、貧しい生活のままだ。
ずっと気になっていた、ユニークスキルを調べるチャンス。
パーティをクビにされたことで、自暴自棄になっていたロキは、そう決めた。
Sランクの鑑定師は、パーティ時代によくお世話になっていた、街一番のギルド『黒龍の枕』に在住している。
明日一番に、鑑定してもらいに行こう。
そう思った。
「そうと決まったら、今日はもう寝よ……」
ロキはベンチに寝そべって、薄い白衣をかぶる。
広場で一夜を明かすことにした。
★補足★
銅貨1枚=100円
銀貨1枚=10,000円
金貨1枚=1,000,000円
ぐらいの価値とイメージしています。
応援ありがとうございます!
0
お気に入りに追加
434
1 / 2
この作品を読んでいる人はこんな作品も読んでいます!
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる