上 下
23 / 23
四章.仲間集め!②

2.出張! 隣町の誘拐事件②

しおりを挟む

「婚約者がさらわれた、ですか……? 今どきそんなことあるんですか……?」

「信じられないかもしれないが、今どきそんなことがあったんだッ!」

 エドワードは、ロキの顔に近づいて叫んだ。
 ロキはあからさまに嫌そうな顔をして、エドワードの顔を押し返す。距離感が近い人だと思った。
 
「……この街の冒険者ギルド長の名前はアーロン。とてつもない金持ちで、この街を完全に牛耳っている。金に物を言わせて、欲しいものは何でも手に入れている危険な奴なんだが、この街を拠点に冒険者をしている奴は、アーロンを敵に回したくないから、いくら金を積んでも誰も手伝ってくれないんだ」

「なるほど、だから街外の冒険者を探していたんですね……」

 ロキが納得してそう言うと、エドワードは大きくうなずいた。

「……その通りだ。もう時間がない。二日後にはアーロンとリリーの結婚式がある。どうか、リリーを助けるのを手伝ってくれないか?」

「いやいや、急にそんなことを言われても困りますよ! 僕らだって用があってこの街に来ているんですから」

「こ、この状況で断るなんて、お前人間かッ!? 今明らかに受けてくれそうな雰囲気だったじゃないかッ!」

 エドワードは、泣きそうな表情で食い下がってくる。
 その犬のような表情を見て、ロキの心が少し揺らいだ。
 どこの街だろうが冒険者ギルドを敵に回すことにメリットはない。拠点にしている街は違っても、ギルド同士が繋がっていることも珍しくないからだ。普通の冒険者なら、エドワードの話を相手にしないだろう。
 だがロキは目の前のこの男が、とてつもなく可哀想に思えてきてしまった。

『――ロキ、待ちなさい。全く、お人よしもほどほどにしなさいよ!』

 今まで暴食を続けていたスイが、呆れたような声をあげた。
 大きな魚を丸飲みしたのち、ロキの肩に飛び乗ってくる。

『簡単に安請け合いしようとするんじゃないわよ! 大事なのは報酬でしょ? こういうのはまず、報酬を聞いてから考えるのが定石よ』

「たしかにそうだね。エドワードさん、僕らがそれを手伝った場合の報酬を教えてください」

「受けてくれるなら、報酬ははずむつもりだ! こう見えて実家が金持ちだからな。前金で金貨2枚、成功報酬でさらに3枚出す」

「えっ、そんなにくれるの!?」

 羽振りのいい報酬に、ロキの心がさらに傾く。
 現在の全財産のほぼ2倍だ。かなりいい報酬だと思った。
 逆に、その報酬でも協力者が現れないのは、それほど冒険者ギルドを敵に回すことが、危険だということを意味していた。

『ふんふん、成功したら金貨5枚ってことね。ロキ、それは串肉何本分に値するのかしら?」

「……大体、1万本分かな」

『す、すごいわ! 串肉のプールを作って泳げるじゃない! ロキ、これは絶対に受けるべきよ!』

 スイは興奮したようにそう言った。
 さっきまで気が乗らない様子だったのにも関わらず、串肉換算で簡単に心変わりしたようだ。
 ぴょこぴょこと跳ねまくるスイは無視して、ロキは改めてエドワードを見た。

「……具体的に、どうやって彼女を助けるつもりなんですか?」

「ぐ……っ! それを聞かれると痛いんだが、まだ何も考えていない。だが監禁されている場所は分かっているし潜入ルートもある! ギルド長の自宅の最上階に閉じ込められているらしい。これは、酒場に来ていたアーロンの使用人が話していたから、間違いない」

 エドワードが再び涙目でロキを見る。
 この犬のような目に、どうも弱い。
 ロキは振り返って、レイラを見た。

「レイラさんは、どう思いますか?」

 たずねると、レイラはにっこりと笑った。

「わたくしは、ロキさんに従いますわ。リーダーはロキさんですから。けれど、報酬はかなり良いと思いますよ。それに、そもそもわたくしたちは、身元がばれませんから、ギルドとの確執を気にする必要はないかと思います」

「あ、そっか。そうだよね……」

 レイラに言われて、納得した。
 ロキたちは基本的に変身して戦っているが、ギルドの受注は元の姿で行っている。
 変身後の姿で何をやらかそうが、元の姿がバレなければ、問題ないような気がした。

「分かりました。エドワードさんの依頼、お受けしま――」

「本当かッ!? ロキくんとやら、ありがとうッ!」

 エドワードが勢いよく抱き着いてきたせいで、ロキの言葉は途切れた。
 ロキは少しイラッとしつつ、エドワードを足蹴にして引きはがしながら、体勢を整えた。

「ちょっと、離れてください! では明日の夜に、リリーさんを取り返してきます。エドワードさんは危ないので、待機していてください」

「いやいや、何を言っている! もちろん俺も行くぞ! 囚われた姫を王子が自ら助けに行く。これこそロマンじゃないか! リリーもさらに俺に惚れ直すはずだ!」

 エドワードは目を輝かせてそう言った。
 めんどくさい青年だ。
 ロキは、あからさまに不満げな目を向けてしまう。
 そもそも、エドワードが着いてくるのは、問題がある。
 『魔法少女』のことをエドワードに明かす必要があるため、できればロキは三人で行動したいと思っていた。

「……きっと強い使用人とか護衛とかいるでしょうし、一般人のエドワードさんが一緒だと、僕らも動きにくいんで、出来れば待機しててほしいんですけど」

「そういうことなら心配ない! 俺も、ロキくんぐらいの年齢のときは冒険者をしていた。自分の身ぐらいは、自分で守れる!」

 エドワードは自信満々にそう言った。
 ロキは胡散臭い目でエドワードを見ながらも、試しに鑑定してみることにした。
 『鑑定』スキルを発動させた途端、エドワードの周りに情報が文字になって浮き上がってくる。

 剣術 :B
 魔法 :B
 采配 :C
 回避 :D

 冒険者としては普通のステータスだが、自分の身は自分で守れるという言葉は嘘ではないらしい。
 このまま説得しても、エドワードは応じてくれないだろう。
 ロキはため息を吐いた。
 
「……分かりました。けれど、その前に話があります。今から僕らの宿に来てくれませんか? ここでは話せないことがあるので」

「……ん? 何だ? 分かった」

 エドワードは首をかしげつつも了承した。
 席を立って、酒場を出る。酒場での飲食代は、エドワードが出してくれた。
 そのまま、まっすぐに宿に戻る。
 部屋に入り、ロキはエドワードに向き直った。

「……今から見ることは、絶対に誰にも言わないでほしいんですけど、守れますか?」

「秘密事か? 大丈夫だ。俺は口が固い」

 エドワードは自信満々にそう言った。
 果たして本当に口が堅いのか不安になったが、どうせ言いふらしたところで誰も信じないだろう。
 ロキは気にしないことにした。

「見せた方が早いので、見せますね」

 そう言って、ロキは変身した。
 白金の魔法少女、モコモフの姿になる。

「……は?」

 突然現れた少女に、エドワードの目が丸くなる。
 光景と理解が追い付いていないようだった。

「僕、ユニークスキル持ちなんです。簡単に言うと、この姿に変身するとスキルが二段階強化するユニークスキルなんですけど、って聞いてますか?」

「す、すすすすごいッ! リリーより可愛い子を初めてみたぞ! あ、もちろん俺はそれでもリリー一筋なんだがな。どういうしくみなんだこれは!?」

「……今言いましたけど、僕のユニークスキルです。他言無用でお願いしますね」

「もちろん、誰にも言わないぞ! なるほど、これならバレないし、やりたい放題だな! そうだ、いい作戦を思いついたぞ!」

 エドワードは目をキラキラと輝かせながら、そう言った。
 ロキは、とてつもなく嫌な予感がしたが、念のため確認してみる。

「なんですか、いい作戦って」

「アーロンは、無数の女好きなんだ。それだけ可愛いければ、色仕掛けで足止めできる! その隙に、俺とレイラちゃんでリリーを助けに行くから、ロキくんはおとりになってくれないか?」

 名案、といった口調で言われて、ロキは頭がくらくらした。

しおりを挟む

この作品の感想を投稿する

みんなの感想(6件)

PAN
2019.10.14 PAN

一年以上たった今も未だに待ってます。

解除
PAN
2019.10.12 PAN

一年以上たった今も未だに続きを待ってます笑

解除
もっちゃん
2019.07.04 もっちゃん

続き頑張ってください

解除

処理中です...
本作については削除予定があるため、新規のレンタルはできません。

このユーザをミュートしますか?

※ミュートすると該当ユーザの「小説・投稿漫画・感想・コメント」が非表示になります。ミュートしたことは相手にはわかりません。またいつでもミュート解除できます。
※一部ミュート対象外の箇所がございます。ミュートの対象範囲についての詳細はヘルプにてご確認ください。
※ミュートしてもお気に入りやしおりは解除されません。既にお気に入りやしおりを使用している場合はすべて解除してからミュートを行うようにしてください。