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四章.仲間集め!②
2.出張! 隣町の誘拐事件②
しおりを挟む「婚約者がさらわれた、ですか……? 今どきそんなことあるんですか……?」
「信じられないかもしれないが、今どきそんなことがあったんだッ!」
エドワードは、ロキの顔に近づいて叫んだ。
ロキはあからさまに嫌そうな顔をして、エドワードの顔を押し返す。距離感が近い人だと思った。
「……この街の冒険者ギルド長の名前はアーロン。とてつもない金持ちで、この街を完全に牛耳っている。金に物を言わせて、欲しいものは何でも手に入れている危険な奴なんだが、この街を拠点に冒険者をしている奴は、アーロンを敵に回したくないから、いくら金を積んでも誰も手伝ってくれないんだ」
「なるほど、だから街外の冒険者を探していたんですね……」
ロキが納得してそう言うと、エドワードは大きくうなずいた。
「……その通りだ。もう時間がない。二日後にはアーロンとリリーの結婚式がある。どうか、リリーを助けるのを手伝ってくれないか?」
「いやいや、急にそんなことを言われても困りますよ! 僕らだって用があってこの街に来ているんですから」
「こ、この状況で断るなんて、お前人間かッ!? 今明らかに受けてくれそうな雰囲気だったじゃないかッ!」
エドワードは、泣きそうな表情で食い下がってくる。
その犬のような表情を見て、ロキの心が少し揺らいだ。
どこの街だろうが冒険者ギルドを敵に回すことにメリットはない。拠点にしている街は違っても、ギルド同士が繋がっていることも珍しくないからだ。普通の冒険者なら、エドワードの話を相手にしないだろう。
だがロキは目の前のこの男が、とてつもなく可哀想に思えてきてしまった。
『――ロキ、待ちなさい。全く、お人よしもほどほどにしなさいよ!』
今まで暴食を続けていたスイが、呆れたような声をあげた。
大きな魚を丸飲みしたのち、ロキの肩に飛び乗ってくる。
『簡単に安請け合いしようとするんじゃないわよ! 大事なのは報酬でしょ? こういうのはまず、報酬を聞いてから考えるのが定石よ』
「たしかにそうだね。エドワードさん、僕らがそれを手伝った場合の報酬を教えてください」
「受けてくれるなら、報酬ははずむつもりだ! こう見えて実家が金持ちだからな。前金で金貨2枚、成功報酬でさらに3枚出す」
「えっ、そんなにくれるの!?」
羽振りのいい報酬に、ロキの心がさらに傾く。
現在の全財産のほぼ2倍だ。かなりいい報酬だと思った。
逆に、その報酬でも協力者が現れないのは、それほど冒険者ギルドを敵に回すことが、危険だということを意味していた。
『ふんふん、成功したら金貨5枚ってことね。ロキ、それは串肉何本分に値するのかしら?」
「……大体、1万本分かな」
『す、すごいわ! 串肉のプールを作って泳げるじゃない! ロキ、これは絶対に受けるべきよ!』
スイは興奮したようにそう言った。
さっきまで気が乗らない様子だったのにも関わらず、串肉換算で簡単に心変わりしたようだ。
ぴょこぴょこと跳ねまくるスイは無視して、ロキは改めてエドワードを見た。
「……具体的に、どうやって彼女を助けるつもりなんですか?」
「ぐ……っ! それを聞かれると痛いんだが、まだ何も考えていない。だが監禁されている場所は分かっているし潜入ルートもある! ギルド長の自宅の最上階に閉じ込められているらしい。これは、酒場に来ていたアーロンの使用人が話していたから、間違いない」
エドワードが再び涙目でロキを見る。
この犬のような目に、どうも弱い。
ロキは振り返って、レイラを見た。
「レイラさんは、どう思いますか?」
たずねると、レイラはにっこりと笑った。
「わたくしは、ロキさんに従いますわ。リーダーはロキさんですから。けれど、報酬はかなり良いと思いますよ。それに、そもそもわたくしたちは、身元がばれませんから、ギルドとの確執を気にする必要はないかと思います」
「あ、そっか。そうだよね……」
レイラに言われて、納得した。
ロキたちは基本的に変身して戦っているが、ギルドの受注は元の姿で行っている。
変身後の姿で何をやらかそうが、元の姿がバレなければ、問題ないような気がした。
「分かりました。エドワードさんの依頼、お受けしま――」
「本当かッ!? ロキくんとやら、ありがとうッ!」
エドワードが勢いよく抱き着いてきたせいで、ロキの言葉は途切れた。
ロキは少しイラッとしつつ、エドワードを足蹴にして引きはがしながら、体勢を整えた。
「ちょっと、離れてください! では明日の夜に、リリーさんを取り返してきます。エドワードさんは危ないので、待機していてください」
「いやいや、何を言っている! もちろん俺も行くぞ! 囚われた姫を王子が自ら助けに行く。これこそロマンじゃないか! リリーもさらに俺に惚れ直すはずだ!」
エドワードは目を輝かせてそう言った。
めんどくさい青年だ。
ロキは、あからさまに不満げな目を向けてしまう。
そもそも、エドワードが着いてくるのは、問題がある。
『魔法少女』のことをエドワードに明かす必要があるため、できればロキは三人で行動したいと思っていた。
「……きっと強い使用人とか護衛とかいるでしょうし、一般人のエドワードさんが一緒だと、僕らも動きにくいんで、出来れば待機しててほしいんですけど」
「そういうことなら心配ない! 俺も、ロキくんぐらいの年齢のときは冒険者をしていた。自分の身ぐらいは、自分で守れる!」
エドワードは自信満々にそう言った。
ロキは胡散臭い目でエドワードを見ながらも、試しに鑑定してみることにした。
『鑑定』スキルを発動させた途端、エドワードの周りに情報が文字になって浮き上がってくる。
剣術 :B
魔法 :B
采配 :C
回避 :D
冒険者としては普通のステータスだが、自分の身は自分で守れるという言葉は嘘ではないらしい。
このまま説得しても、エドワードは応じてくれないだろう。
ロキはため息を吐いた。
「……分かりました。けれど、その前に話があります。今から僕らの宿に来てくれませんか? ここでは話せないことがあるので」
「……ん? 何だ? 分かった」
エドワードは首をかしげつつも了承した。
席を立って、酒場を出る。酒場での飲食代は、エドワードが出してくれた。
そのまま、まっすぐに宿に戻る。
部屋に入り、ロキはエドワードに向き直った。
「……今から見ることは、絶対に誰にも言わないでほしいんですけど、守れますか?」
「秘密事か? 大丈夫だ。俺は口が固い」
エドワードは自信満々にそう言った。
果たして本当に口が堅いのか不安になったが、どうせ言いふらしたところで誰も信じないだろう。
ロキは気にしないことにした。
「見せた方が早いので、見せますね」
そう言って、ロキは変身した。
白金の魔法少女、モコモフの姿になる。
「……は?」
突然現れた少女に、エドワードの目が丸くなる。
光景と理解が追い付いていないようだった。
「僕、ユニークスキル持ちなんです。簡単に言うと、この姿に変身するとスキルが二段階強化するユニークスキルなんですけど、って聞いてますか?」
「す、すすすすごいッ! リリーより可愛い子を初めてみたぞ! あ、もちろん俺はそれでもリリー一筋なんだがな。どういうしくみなんだこれは!?」
「……今言いましたけど、僕のユニークスキルです。他言無用でお願いしますね」
「もちろん、誰にも言わないぞ! なるほど、これならバレないし、やりたい放題だな! そうだ、いい作戦を思いついたぞ!」
エドワードは目をキラキラと輝かせながら、そう言った。
ロキは、とてつもなく嫌な予感がしたが、念のため確認してみる。
「なんですか、いい作戦って」
「アーロンは、無数の女好きなんだ。それだけ可愛いければ、色仕掛けで足止めできる! その隙に、俺とレイラちゃんでリリーを助けに行くから、ロキくんはおとりになってくれないか?」
名案、といった口調で言われて、ロキは頭がくらくらした。
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一年以上たった今も未だに待ってます。
一年以上たった今も未だに続きを待ってます笑
続き頑張ってください