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四章.仲間集め!②

1.出張! 隣町の誘拐事件①

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 ――ああ、嫌よ。絶対に嫌。いや、いや……。
 あんな男と結婚なんて、絶対にしないわ。
 だってわたしは、大好きな人と結ばれて、幸せな暮らしを送るという夢があるんだから。

 わたしの大好きな、王子様。
 どうかわたしを、助けて。
 わたしをここから、連れ去って……。



*****


 酒場『豚の乱切り亭』
 ロキたちのパーティは、この場所で5日に1度、夕方にミーティングをしている。

「明日から、ちょっと遠出をして、隣町に行こうと思ってるんだ」

 エールを一口飲んで、ロキがそう切り出すと、スイとレイラはうなずいた。

『そうね。毎日毎日、いろんな生き物を見ているけれど、この街にはもう絶望している生き物の気配がないわ』

「賛成です。他の街へ、仲間を探しにいきましょう」

「復路を合わせると、5日以上かかってしまうと思うけれど、レイラさんは大丈夫なの?」

 ロキはまだ幼いレイラが長い間、家を空けてもいいのか心配になり尋ねる。
 レイラとは最初は敬語で話していたが、しばらく過ごすうちに、普通に話せるようになっていた。
 レイラは、にっこりと笑って、うなずいた。

「問題ありません。前のパーティのときなど、家出に近かったですし。それに、以前のパーティリーダーだったジャックさんは両親に嫌われていましたが、ロキさんは印象が良いみたいで、安心して預けられると言っておりましたわ」

「え、その信頼はどこから……」

「ふふ。きっと、一度ご挨拶にいらしたからですわ。ジャックさんなど、姿も見せませんでしたから」

 ロキは一度、レイラの実家に挨拶に行ったことがあった。
 幼い一人娘をパーティに入れたいなど、殴られる覚悟もしていたが、レイラの両親はレイラが強くなるならと喜んで、ごちそうまで用意してくれた。
 家柄の割に、放任らしい。

「なら、よかった。じゃあ、隣街『ヴィアポート』に行こう。明日の朝に迎えに行くよ」

「分かりましたわ」

『隣町のグルメも楽しみね!』

 一人、目的を忘れた仲間がいることは無視した。
 その日は明日の準備のため、早々にお開きとなった。


***


 翌日。
 早朝にレイラを迎えに行くと、レイラの両親が満面の笑みで送り出してくれた。
 レイラにそっくりな美人の母親は、なぜかニヤニヤとロキを見ていたが、その意図は分からなかった。

 街を出て、人気のないところで三人は変身をする。
 隣町へは徒歩で向かうことにした。
 馬車を借りることもできるのだが、ほとんどが商人用で、冒険者はほとんど利用しない。
 道中はモンスターも出現する。
 しかしCランク以下の雑魚モンスターばかりだったので、スイやレイラが一蹴し、三人はスムーズに進むことができた。

 日が暮れた頃、隣町『ヴィアポート』に到着する。
 ロキたちはまず、宿を確保した。宿はすぐに見つかり、少し古いが広い部屋は掃除が行き届いている、いい宿だ。
 三人は、荷物を整理をしてから近くの酒場に向かった。
 この街にも冒険者ギルドがあるため、酒場はこの街を拠点としている冒険者たちであふれかえっている。

「今日はお疲れさまでした! とりあえず仲間探しは、明日からだね。かんぱーい!」

『よっしゃ食べるわよ!』

「ふふ、おつかれさまでした」

 ロキたちは、適当なつまみを頼んで、乾杯した。
 ロキはエール、レイラはオレンジジュース、スイはいつも通り安酒に身体を沈ませている。
 食事をはじめた、そのときだった。

「あんたら、見ない顔だな。兄妹か?」

 唐突に男の声に話しかけられて、ロキが振り返る。
 そこには19、20歳ぐらいの青年がいた。高級な仕立てのジャケットを着用しているので、地主の息子なのかもしれない。濃青色の髪には寝癖がついており、紫色の瞳は丸い。愛嬌のある顔立ちをしている。

「僕らは、隣町から遠征に来た冒険者です。何か用ですか?」

「つまり、この街を拠点にしてる冒険者ではないということか?」

「……そうですけど、それが何か?」

 ロキが首をかしげた途端、その男は目をカッと開いた。
 攻撃されるのかと思い、ロキとレイラが立ち上がって身構える。
 しかし、青年がとった次の行動は呆気にとられるものだった。

「お願いがある! どうか、俺の頼みを聞いてほしい!」

 苦しそうな声で呟きながら、男は突然、地面に土下座をしたのだ。
 突然のことに、ロキとレイラは顔を見合わせる。
 スイだけは、安酒に浮かんだまま、何事もないように食事を続けていた。食べ物に夢中でこの騒動に気付いていないらしい。

「きゅ、急に何をしているんですか! 目立つので、顔を上げてください!」

「……俺の話を聞いてくれるか?」

「聞きます! 聞きますから!」

 ロキがそう言うと、青年はやっと顔を上げた。
 ふらつく青年を無理矢理座らせて、適当に青年の分の飲み物を頼む。
 青年は暗い顔をしたまま、口を開いた。

「俺の名前は、エドワード・ラッセル。年齢は20歳だ。実は俺、この街を冒険者に、頼みがあって探していたんだ」

 この街を拠点にしていない冒険者に頼み?
 依頼内容の想像ができなくて、ロキは首をかしげた。

「頼みって何ですか?」

「……助けてほしい人がいる」

 エドワードと名乗った青年は、悔しそうに両手をぎゅっと握り、そう言った。

「助けてほしい人? どういう方なんですか?」

「……俺の婚約者だ」

 エドワードは身体を震わせながら、そう呟いた。
 それから顔をあげて、泣きそうな表情でロキを見た。

「婚約者の名前はリリー・プラネット。リリーは、この街を牛耳っている、冒険者ギルド長の男に見初められて、攫われてしまったんだ……!」


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