銀狼公子の導き手

竜胆 琳

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一部 プリステラ王国編

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「さて、お父様あの男がどう出るか……まああらかた予想はつくけど、出来るだけお母様の負担にならないようにしたいわね」

 その呟きは誰にも聞こえず、また聞かせるつもりもない。
 ファルナはまだとれる手立てはあるかと、顔をしかめ考えに耽る。

 そもそも第二王子との婚約は五年前、ロシャス王子が十三歳ファルナが八歳の時に、政治的な背景の元交わされたもので、そこにファルナの意思はない。

 貴族子息令嬢は、十五歳で社交界デビューとなり、高等学舎で四年間学ぶ義務がある。
 ロシャス王子は王都の隣にある学園都市の全寮制の王立ルテナ学園に学んでいた。

 貴族子息令嬢が八歳から十一歳まで通う初等学舎や、十二歳から十五歳まで通う中等学舎もあるのだが、ファルナはウエイス侯爵父親の意向で入学しておらず、領地で暮らしている。

 王都より遠く離れた侯爵領邸で、母親と二人きりのファルナは、王都に来ることも、ロシャス王子に会うことも五年ぶりなのだ。

 実際、ファルナは王子の顔を覚えていなかったが、王子はよくファルナの顔を見分けられたと思う。
 まあ、この国では珍しい黒髪を見れば嫌でもわかる。
 他国から輿入れしてきた母親譲りの黒髪をそっとなで付ける。

 ファルナにとってはこの国の人間の髪色の方が受け入れがたいのだが。
 自分が普段接している面々────母親は黒髪、母の専属メイドであるロンメイは瑠璃色、自分の専属メイドのシャオメイは紺色、たまに訪れるプラムブル商会の面々も茶系────と比較的くらい色のものたちが揃っていた。
 交友関係が狭すぎるファルナにとって、王都で色素の薄い人間に囲まれている方が違和感があるのだった。

 父親ですら顔を合わすのは二年ぶりである。自分はとって家族と呼べる存在は母と母専属メイドのロンメイ、その娘で自分の専属メイドのシャオメイだけだ。
 メイドが家族というのは貴族令嬢らしからぬが、そもそも貴族らしい生活をしていないので仕方のないところだろう。

 先程の王子の宣言。まるで、どこぞの少女小説の一説のようだ。
 へばりついていた男爵令嬢は、未婚女性が好む夢物語の読みすぎではないのか?
 一時期シャオメイがその手の物語にどハマりして読ませられたことがある。あれは一人の男性を取り合う令嬢の話で、勝ったのは身分が低い方の娘。
 しかし前提が間違っている。あいにくファルナは王子に対して、愛情どころか路傍の石ほどの感情すら持ち合わせていなかった。

「婚約解消する!」
「喜んで」

 くらいのものだ。そもそも王子と結婚する未来が浮かばなかった。

 ガタンと、馬車は大きく揺れ停止する。
 王都の貴族街の端にある、候爵家にしてはこじんまりとした屋敷であった。
 馬車の到着に屋敷からひとりのメイドがやってきて馬車の扉を開けた。



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