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一部 プリステラ王国編
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しおりを挟む「お嬢様、随分とお早いお戻りで」
迎えに出た専属メイドのシャオメイが差し出した手に己の手を重ね、ファルナは馬車から降りた。
「予期せぬ出来事がありましたから、早々に退散することにしたのです。詳しい話は中でします、帰省が早まりそうです」
「それは上々でございますね」
ファルナの黒髪と近い色合いだが、紺色の髪を結い上げたメイドは、ひとつ頷くとファルナの後ろをついて歩き出した。
ここは王都の侯爵邸ではなく、ファルナ自身が借り受けている屋敷だ。
王城に近い場所にある侯爵邸には、ファルナの父である侯爵本人と愛妾とその子供たちが住んでいる。
本妻であるファルナの母メイファは侯爵領にいて、侯爵の指示で王都に来ることを許されていない。
たとえ許しがあったとしても、メイファの身体は王都までの旅路に耐えられる状態ではないが。
「どちらが本妻なのか……」
小さな呟きを耳に捉えたメイドは何も言わず、己の主人の後に付き従うのだった。
* * * * *
そもそもファルナの母メイファと父ウエイス侯爵は政略結婚だ。
この国、プリステラ王国は大陸中唯一海を持たない、四方を他国に囲まれた小国。
三日月大陸中最弱と言っていい。
大陸一の大国は、北の隣国ノーラトスラ王国を挟んだその向こうにある、四神帝国である。
スーシェン帝国貴族はこの三日月大陸の中で、特に強い魔力を保持する民族であった。
今より十六年ほど前、プリステラ王国はノーラトスラ王国を牽制するため、現王(当時の王太子)とスーシェン帝国皇帝一族との婚姻により縁を繋ごうとした。当時スーシェン帝国には王太子に相応しい年齢の公主がおらず、結果上級貴族の令嬢が嫁ぐこととなった。
やってきたのは確かに上級貴族の娘ではあったが、下級貴族出身の母親を持つメイファであった。
花嫁は帝国貴族としての高い魔力と技を期待されていたが、メイファは輿入の際、義母兄により魔法の使用を封じられ帝た。
前王(当時の国王)はこれを侮りと捉えて、メイファを予定していた王太子(当時すでに妃も子もいた)の惻妃ではなく、家臣であるウエイス侯爵と婚姻を上げさせたのだった。
当時ウエイス侯爵にも婚約者がていたが、この国は王族以外は一夫一婦制であったため、ウエイス侯爵の婚約は破棄された。
すでに式の日取りが迫っていたことがメイファの嫁ぎ先として選ばれた理由の一つでもあった。
急遽王命により花嫁がすげ替えられたのだ。
突然押し付けられた花嫁に花婿は愛情を注ぐことはなかった。そして件のことから、国王ウエイス侯爵に愛妾を持つことを許し、元婚約者を本妻のように王都に随伴することを暗黙のうちに認めた。
考えていたほどの国家間関係は得られずとも、プリステラ王国そしてウエイス公爵家はメイファの輿入れでスーシェン帝国との繋がりを得、メイファの実家である華家との貿易により益を得た。
華家は帝国の西北部に領地を持ち、西の半月大陸との交易で栄える商業都市を収める上級貴族であったため、メイファは婚姻直後は大切に扱われていた。
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