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一部 プリステラ王国編
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しおりを挟む「……お嬢様」
気遣わしげにシャオメイがファルナに声を掛ける。
ファルナは離縁状を握りしめたまま、もう一度そこに書かれた文字を確かめる。
三度読み返すころには、書類を持つ手がぶるぶると震えだした。
「……わ」
「お嬢様?」
ファルナの呟きが聞き取れずシャオメイは顔を覗き込むように聞き返す。
「なんてこと……こんな、こんなことが……」
「お嬢様」
やがてファルナは手だけでなく、全身を震わせる。
「ああ、なんて、なんて……」
書類をポロリととり落とし、震える手で自身の身体を抱きしめる。
「なんて、良いタイミングなんでしょう!」
両手を広げ歓喜にむせぶようにファルナは声をあげた。
「シャオメイ、すぐに領地に戻るわ。最速でよ」
「かしこまりました。お嬢様」
主従は喜びに顔をほころばせ、帰省のための最終確認を猛スピードでこなすのであった。
* * * * *
「それにしても意地が悪いわね」
「本当に」
王都から侯爵領まで、通常なら馬車を使って片道三日かかる。三日で家を出ろなどと言われれば、戻ってろくに休むこともできずに出発しなければならない。まあそれを狙ってのことだろうが。
「馬車の中でロンメイに手紙を書いて飛ばすわ。シャオメイはこの屋敷の鍵を返してきてくれるかしら」
「わかりました」
昨日の時点で出発準備は整っていた。あとは貸家の鍵を返せば出立できる。昨夜のうちにウエイス侯爵がやってくると踏んでいたので、すぐにたてるよう準備は終わっていたのだ。
「昨日のうちに来なかったのはこの書類を用意していたからなのね。ウエイス侯爵も最後は役に立ったじゃない」
馬車の座席に座り、収納型のテーブルをだして手紙を描く準備をする。
この手紙は隣国ウーステラ共和国に本店をおくプラムブル商会を通して購入できる、スーシェン帝国の魔道具の一つである。
封を専用の封蝋で閉じるさい、相手の姿を思い浮かべる。すると閉じられた封筒は小さな鳥へと姿をかえ、目的の人物のところに飛んでいくのだ。
特殊な紙と封蝋はスーシェン帝国の魔法技術で作られており、魔力を持たぬものでも使える優れもので、売れ筋商品の一つである。
ファルナは母の専属メイドであるロンメイに三日後には領地を、そしてこの国を出るので準備を始めるようにと書き記した。
「お嬢様、お待たせしました」
メイド服から平民服に着替えたシャオメイは御者席に乗り込み、小窓からファルナに声を掛ける。
ちょうど手紙を飛ばしたファルナは筆記用具を片付け終えて、シャオメイに返事を返す。
「ええ、では帰りましょう」
「はい」
嬉しげに微笑みあう主従の乗る馬車は静かに進み始める。
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