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一部 プリステラ王国編
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しおりを挟む「おかげで元手要らずで稼げるけど、手足どころか首に腰にジャラジャラつけると重いのよね」
「お嬢様、負荷訓練と思えば問題ありません」
シャオメイは袖をまくり自分の腕につけた三重のブレスレットを見せる。
騎士は特訓時に重石を手足につけることがあるという、シャオメイはその感覚なのだろうか。それでなくともミルクポットを割るほどの握力があるのだから、もういいでしょうにと思っても口に出さないメイファだった。
「どこかで停車して昼食になさいますか?」
「このまま走らせながら、中でいただきましょう。少しでも早く帰りたいもの」
「かしこまりました」
シャオメイはテーブルを引き出し、食事の準備を始める。
この馬車はプリステラ王国に売り出された馬車と違って特別使用だ。外装は装飾や公爵家の紋章が取り外し可能で、すでに見た目は平民が使いそうな装飾のない馬車となっている。
内装は地味だが、座面は弾力があり、長時間でもお尻が痛まない。その座席の下には〝空間拡張〟と〝状態維持〟の魔法が付与された収納が取り付けられているのだ。
しかも〝個人認証〟の魔法も付与されており、登録されたもの──この場合、ファルナ、ロンメイ、シャオメイの三名──にしか開けられないのでセキュリティも万全である。
シャオメイは収納からバスケットを取り出し、中から作りたてのように湯気の立ち上る皿をファルナの前に置くのだった。
* * * * *
夜は座席の背もたれを動かすことでベッドにもなる万能馬車で眠る。その間もゴーレム馬車は進み続け、朝日が登る前にはウエイス領に到着した。
だが領境の門は閉まっているので開門までしばらく待つことになる。
今日は貴族令嬢の衣装ではなく、上等な平民の衣装に着替えを済ませたあと、馬車の外装にプラムブル商会の垂れ幕がつけられていることを確認する。
装飾は昨日の時点で外してあったが、道中盗賊に狙われないよう、商会の幕も取り付けていなかった。
行きは侯爵令嬢としてあの門を通ったが、そのまま通過しようとすれば止められるかもしれない。
ウエイス侯爵が手を回して足止めしようとする可能性もあるのだ。
今の格好は貴族令嬢ではなく、そこそこ金のある商人の娘風である。
そして取り出したのは商業ギルド発行の身分証。
〝プラムブル商会 ウエイス領都デルーナ店主 長女ファル〟と書かれた身分証だ。
これはファルナがウエイス領都デルーナにプラムブル商会の支店を作る際に、商業ギルドで作った身分証だ。
商業ギルドの職員の誰一人として、目の前の娘が領主令嬢のファルナとは気が付いていなかった。
まさか侯爵令嬢が、商人の娘のふりをしているとは思わない。
色かえの魔道具で紺色の髪色に変えているが、プリステラ王国では珍しい髪色もウーステラ人といわれれば納得する。
ウーステラ共和国はプリステラ王国よりスーシェン帝国との交易が盛で、濃い髪色のものも若干数存在するのだ。
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