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幕間─弍─
水屋にて─『サムライ長屋』のちょっとした騒動─
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すっぱりと、食材ごと両断された板の前で、ガタイの良い男が頭を抱え、雰囲気がふんわりとした細身の青年が困った様な笑顔を浮かべる。
──ここは『サムライ長屋』。
サムライ達の寄合所、管理者達の住まいに併設された食事処の、カウンターを隔てた水屋では、昼餉の提供後の毎度の光景だ。
「…力の加減が、難しいです」
「…最初ン頃に比べたらマシじゃあマシ」
────
「私も料理が作りたいです」
と言って聞かない『ミフネ』に『シマヅ』が教える事になった。
が。
如何せん、『ミフネ』は幼少期に非合法な肉体改造を受けていて、力の制御に難がある──本気を出そうものなら、肉体が自壊し、神の奇跡の復活すら望めぬ程度には。
ただ、ヒノモトでの修行の日々のお陰か、普通に生活していくには困らない程度にはなった。
料理を除いて。
『ミフネ』の名を貰った後、ヒノモトの『城』で、『トクガワ』の側で仕えていた頃は、食事は準備など何もせずとも出てきていたし、片付けもしなくて良かった。任務で遠出する時は、距離や期間に応じて握り飯や携行食が支給されたし、民草には外での食事の文化が根付いていたから、こっそり混ざって食事をするのに忌避感も無かった。
ここトーリボルも然り。
そもそもが、冒険者という外部の者達が金を落としていく街である。
目抜き通りには、冒険者相手に食事を提供する様々な店が並ぶ。少し入れば街の住人向けの店も少なくないし、そんな店でも、慣れているのか、客が冒険者だろうが分け隔てない扱いである。
そんな環境の中で、寄合所として、軽いものとはいえ料理を提供する側になったのだから、それは自分でも作ってみたくなるものだろう。提供してみたくなるものだろう。
おまけに『シマヅ』が卒なく旨い料理を作るとなれば、自分だってと思うのも難くない。
が、具材と一緒にまな板を切っていれば世話無しである。
これでも初日は、まな板を両断して包丁の刃が半分、台に埋まったのだ。ソレに比べたら──まあ、台が切れていないだけマシだろう。
(──味付けまじゃあ、遠いのォ)
この状態だと、食材を切ったり剥いたりさせる事は厳しい。手を滑らせて、指でも落としたらことである。
『シマヅ』とて焦りはある。
『試練場』が再解放されて、今はまだ間もない。
『シマヅ』が任された地下4階まではまだまだとは言え、地下3階の踏破が近づいたら、彼は冒険者達を迎え討つ為に、ヒノモトから派遣されて来る手勢を連れて、迷宮に籠らないといけなくなる。
それまでに、せめて、せめて包丁が扱える様にさせておきたいのだ──
────
しかしながら、時は無常にも過ぎ──
────
「…という訳なんだ」
そもそも探索済みで各階の正確な地図も出回っている迷宮である。 脱落パーティもそれなりにいる中、10日遅れで迷宮踏破に乗り込んだ『五行』含め、地下3階の踏破を間近に控えた者達がちらほらと出始めるまでに1ヶ月程。
そんなとある休息日。
各寄合所の名目上の休館日でもある日の昼下がり。
店休日のサムライ長屋の調理場に立つのは『アルター』だ。カウンターにヘリオドールと『ミフネ』が並んで座っている所に、フェンティセーザが乗り込んで来た形である。
『シマヅ』はいない。
地下に籠ってばかりなせいか、陽射しを浴びに出掛けてそのままだ。
店休日とはいえ、店内には、エルフに引きずり込まれる『アルター』の姿を認めた──そうして、運良くおこぼれにありつこうと──勇気を示せた他の冒険者の姿も、ちらほらと。
ことの発端は、休息日にまで領主に使われて書類業務をこなしていた『アルター』を
「トーリボルの食事に飽きたから何か作れ」
とヘリオドールが引っ張り連れ出したことからだ。
『学府』の探索棟所属者は、食料を現地調達して調理することも少なくないため、料理の腕には困らない者が多い。ヘリオドールと『アルター』もそうである。と言うより、正確には、ヘリオドールが『アルター』──かつて『エル・ダーナス』と名乗っていた青年を現地に連れ出しては技術を叩き込んだ。
理由は単純だ。
当時から今に至るまで連んでいる、『アルター』の師でもある二人が、探索先で『エルフの焼き菓子』一本の食生活で、これではいつか弟子が泣きを見るのが想像に難くなかったからだ。
それがよりにもよって『学府』ではなく『サムライ長屋』なのは、心底トーリボルの味以外をヘリオドールが求めたせいでしかない。
そうしたらだ。
『サムライ長屋』の管理人で『アルター』の拾い子でもある『ミフネ』が「料理を教えて欲しい」と言ってきたのだ。
「……師匠、席にどうぞ」
口元に下げている布でやや籠った声で『アルター』が着席を促すと、フェンティセーザは無言で席に着いた。
「『ミフネ』。包丁でまな板まで断つと言ったな」
「…はい」
食材の解凍に使うカウンター下の台から、『アルター』は鶏肉を二枚、取り出した。
あっさりとした胸身だ。
ちょっと入って来なさい、と言われて、素直に従う。
「包丁だろうがナイフだろうが、料理で『切る』時は「引き切る」というのは分かるな?」
「はい」
頷く『ミフネ』に「では」と続ける。
「食材には、切り分けやすい固さというのがある。
固すぎても刃が立たないし、柔らかすぎても切りにくい。
今は切り分けるのに丁度いい固さがあるのだけ分かってるといい。
そして、モノそれぞれに固さがある様に、食べ物の固さと、まな板の固さは違う」
まな板に油紙を敷き、程よく解凍されている肉を置くと『アルター』はすっ、と切り分けた。二枚、三枚、と薄く削ぎ切って行く。
手入れが行き届いていて、よく切れる。
「切って行くうちに、固さが違う感覚に行き着く。感覚を拾いながら、同じくらいの厚みになる様に、ゆっくり切り分けてご覧」
「はい」
包丁を渡されて『ミフネ』が肉に向き直る。
「なあに、骨と肉の感覚が分かれば、分かる」
横から気楽な物言いで『アルター』が声をかける。
(骨と肉の、感覚──)
『ミフネ』が、猫の手で肉に手を添え、師父の見様見真似でゆっくりと引き切る。
「───あ」
ほんの僅かだが、確かに固さが変わった感覚を、手が拾った。
「そのまま。
今、刃先が肉を切り終えて、別のものに当たっている感覚があるな?その感覚が無くなる程度、ほんのちょっとでいい。刃先を浮かせて引き抜く様に切ってごらん」
言われた通りに刃先を浮かせてすっ、と引き抜く。
「……切れました!師父、ちゃんと、切れました…!」
油紙は切れていたが、まな板はそこまで切れていない。パッ、と顔を明るくした『ミフネ』に、うむ、と『アルター』の表情が和らいだ。
「もう二、三枚、切ってみようか」
「はい」
先を促され、二枚、三枚、四枚…と削ぎ切りにしていく。
「うむ、この調子で残りも切ってみよう」
私は次の準備に入る、と残して『アルター』は手を洗いに向かった。
────
『ミフネ』が鶏肉の削ぎ切りを一枚終えた頃には、油紙の切り込みもだんだん薄く短くなっていき、二枚目を切り終える頃には、油紙の切り込みは無くなっていた。
その間に、『アルター』は大鍋に湯を沸かし、別の大鍋に氷水を作り、ボウルをいくつか準備すると、カウンターの下の台から香味野菜を取り出し、こちらはこちらで切り始めた。
「師父、終わりました」
「そうか」
成果を見て「出来たじゃないか」と『アルター』が微笑むと、褒められた子供の様な無邪気な笑みを『ミフネ』が浮かべる。
「料理はそれで終わりではないぞ。
続きを頼むから、手を洗って来なさい」
「はい!」
────
(……ほんっとアイツ、教えるの上手いよな)
香味野菜を刻んで掛けダレを作りながら指示を出して行く弟子に、内心ヘリオドールは舌を巻く。
相手の性質を見抜き、相手がやり易い方法で、理解しやすく伝える。
本人としては『師の真似をしている』に過ぎないのだろうが、そこには深い理解が必要だ。真似ようとしてできるものではない、と言うのは本人の埒外なのは言うまでもない。
肉全体に軽く塩を振り、全体に粉をまぶして揉み込んだ肉を茹で上げてみせ、後を任せた『アルター』が
「どうして、料理を?」
世間話をする様に『ミフネ』に投げる。
「……『鞘』に、なりたいのです」
ぽつり、と答えが返って来た。
誰の、とは言わなかった。が、誰の、かは分かった。
「『鞘』?」
「師父とフウライの様な、特別な間柄の事です」
フェンティセーザの問いかけに『ミフネ』が答える。
それこそ、死が二人を分つまで寄り添い、共に生き、共に在る──遺される位なら、共に──ヒノモトの侍にとっての唯一無二を、刀と鞘の関係に準えたものだ。
「以前『鞘』に迎えるなら、料理が出来るひとがいいと、言われていたのを耳にしまして」
(──いやいや、さすがにそれは女性が対象では?)
『虚空』絡みでヒノモトにもしばらく居たことがあるヘリオドールが心の中で思わずツッコむ。
ヘリオドールがいた頃、『鞘』とは、ヒノモトにて男のサムライに付き従う小姓や女性の事を指していた。今は法ができたせいか、小姓であることは殆ど無くなってしまったが──
湯がき上がったものをその都度『アルター』に渡すと、『アルター』が氷水に晒して冷やす。
「──私は、あのひとに、あのひとが欲しいものを差し上げられる。
でも、それは一度きりなのです」
冷やした肉を皿に盛り、タレを掛けて薬味をあしらいながら『アルター』は拾い子の独白を静かに聞いていた。
「──相手に、死合いを。
どこまでも強いあのひとの前に立つには、本気を以て相対せねば失礼に値します。
ですが、私の身体は脆くて、本気を出せば、肉体が耐え切れず自壊します」
悔しさを滲ませながら『ミフネ』は続けた。
どこまで力を振るっていいのかが分からないうちは、何度も何度も、限界を超えて自壊しかけては、城の奥にある再生施設に運び込まれた。
ヒノモトで『城』に居たのは、強さからだけではない。
脆さ故に、自壊という憐れ極まりない喪失を起こさない様にとの『トクガワ』の愛からでもあったのだ。
ヒノモトで再生施設でまだ再生ができたからこそ、今がある。
しかしトーリボルに、頼みの綱の再生施設はない。
「私はここに、師父に恩返しをするために馳せ参じました。それに目処が付くまでの間に、あのひとの側に居るのに少しでも相応しくありたいのです」
相手の唯一無二になる為にできる事を努力して身に付ける──そんな事などした事がなかった三人は、ただただその言葉に耳を傾けるしかできなかった。
が。
「私があのひとと一度死合えば、勝とうが負けようが私は死にます。相打ちになるならまだしも──もしあのひとが、勝ったら」
湯がき上がった最後の肉を渡しながら『ミフネ』が続ける。
「私の後釜に、どこの馬の骨とも知れないのが居座るとか耐えられなくないです?」
心当たりがありすぎる三人は、思わず力強く頷いた。
もう、それについては、分かりみしかなかった。
────
「──ヒノモトで憶えてきました『水晶鶏』です。
主食は米、汁物は、ヒノモトで『ミソ』と呼ばれている調味料を使った野菜のスープ、口直しに野菜を塩漬けして水分を抜いたものに風味を足したものを少々」
しばらくの後、豆と穀物を醗酵させた調味料で作った野菜のスープと、ヒノモトから取り寄せた米を搗いて炊き上げたもの、品良く盛り合わせた野菜の漬物と一緒に出されたのは、つるんとした輝きをたたえた茹で鶏にたっぷりの香味野菜を盛り付けた一皿だった。
「綺麗だな。香りもいい」
トーリボルの店では出ない組み合わせに、食べるのが勿体無いと言いながらも手を合わせてヘリオドールとフェンティセーザが食べ始める。
「箸が使えないならフォークでいってしまえ」
別に誰も気にしないさ、と、ヘリオドールが客席に常備されているフォークを渡すと、さすがに箸は無理だったのか、素直に受け取る。
「私は今いる方々に振る舞ってきます」
「私も」
そう言うと、『アルター』と『ミフネ』は振る舞う分を手にカウンターを離れた。
「…うん、うん」
「変わった味だな。だが悪くはない」
「素直に『美味しい』って言いなよ」
「食べ慣れてない味だが不思議な位腹に入っていくな」
トーリボルのものとは全く違う料理に舌鼓を打つヘリオドールに、今まで食べたことのない味と風味の複雑な味わいにおっかなびっくりしているフェンティセーザを尻目に
「ようこそ、マヌエラ嬢にエィンヤ嬢」
「ふぇえ?!」
「お、お久しぶりっ…す」
席に着いて、カウンターでのやりとりを静かに伺っていた領主の客人たちの所に『アルター』がやってきた。
「いつも領主殿が世話になっている。仕事の仕上がりも美しい。助かっている。その礼も兼ねてだ。
まだ食べていないなら、食べていってくれたまえ」
ことり、と小気味良い音と共に、盆を置いて戻っていく。
慌てて背中に隠したペンとノートをこっそりと膝上に戻したマヌエラに
「先輩、いただきましょう?」
いつぶりのまともな食事だろうか、といった目で水晶鶏を注視しながらエィンヤが声を掛ける。
「そ、そうね」
いただきましょう?と返して、二人一緒に合掌する。
──この世界に来てから、食事に困ると言う事はあまりなかったはずなのに、この「まともな食事」という感覚は、とても不思議で。
「先輩、水晶鶏美味しいっすよ」
「お味噌汁もお漬物もご飯が進むわあ…」
そう言えば元の世界で、こうして二人で落ち着いて食べた事は──だからか、と。
異世界からの客人達は、転生前を懐かしみながら箸を進めた。
────
「お久しぶりです、四代目」
『ミフネ』が向かった先は、カウンターが見える客席の一番奥にいた、何の変哲も無さげな冴えない男の元だった。
が、顔馴染みである。
「お久しゅうございます、坊」
『ミフネ』の事を『坊』などと呼ぶ男はたった一人しかいない。四代目の『トビザル』の名を持つこの男だけだ。
「今の話は内密に」
「……へいへい」
かつて『エルダナス』と名乗っていた『アルター』と物言えぬ『フウライ』が、小さな子供を連れてヒノモトに来た時からずっと世話をしてきたのだ。
可愛い弟分を、あんな男に持って行かれるのは不本意だ。
が、可愛い弟分がそれを望むのならば──いや、相手が相手なので不本意なのには変わりは無いのだが。
「せいぜい、坊が死んだら後の露払い程度はやっておきますよっと。だから」
目の前に置かれた料理の盛り付けに目を輝かせ、合掌しながら、小声で。
「余計な仕事をオレにさせんじゃねぇよ、ずっとな」
「──そうそう死にませんから、大丈夫です」
ふうわりと微笑んで小声で返すと、カウンターへと戻っていく。
潜入任務があるため、ヒノモトの忍者達は語学に通ずる。今回の任務に関して、トーリボルでの経緯の手記を読んだが──
時を遡る時点で、夢物語かと思った。
領主の館で見つけた、五冊づつある初代領主と魔術師の手記に、頭痛がした。
これが本当なら──かつてこの迷宮で最下層に陣取っていた『ミフネ』は、二代前にその『名』を授かって出奔した──
件の魔術師が、ここの領主が、ここで何をどうしようとしているのか。それがヒノモトにどう影響を与えるか──それ如何によっては、上の指示を仰がねばならない。
(……それでも)
弟分が笑っていられるのなら、笑っていられるうちは、まだ、それでいい。
今はそう思う事にして、男は食事に箸を付けた。
────
散歩から戻って『シマヅ』が『ミフネ』の成長に驚くまで、そう遠くはない。
──ここは『サムライ長屋』。
サムライ達の寄合所、管理者達の住まいに併設された食事処の、カウンターを隔てた水屋では、昼餉の提供後の毎度の光景だ。
「…力の加減が、難しいです」
「…最初ン頃に比べたらマシじゃあマシ」
────
「私も料理が作りたいです」
と言って聞かない『ミフネ』に『シマヅ』が教える事になった。
が。
如何せん、『ミフネ』は幼少期に非合法な肉体改造を受けていて、力の制御に難がある──本気を出そうものなら、肉体が自壊し、神の奇跡の復活すら望めぬ程度には。
ただ、ヒノモトでの修行の日々のお陰か、普通に生活していくには困らない程度にはなった。
料理を除いて。
『ミフネ』の名を貰った後、ヒノモトの『城』で、『トクガワ』の側で仕えていた頃は、食事は準備など何もせずとも出てきていたし、片付けもしなくて良かった。任務で遠出する時は、距離や期間に応じて握り飯や携行食が支給されたし、民草には外での食事の文化が根付いていたから、こっそり混ざって食事をするのに忌避感も無かった。
ここトーリボルも然り。
そもそもが、冒険者という外部の者達が金を落としていく街である。
目抜き通りには、冒険者相手に食事を提供する様々な店が並ぶ。少し入れば街の住人向けの店も少なくないし、そんな店でも、慣れているのか、客が冒険者だろうが分け隔てない扱いである。
そんな環境の中で、寄合所として、軽いものとはいえ料理を提供する側になったのだから、それは自分でも作ってみたくなるものだろう。提供してみたくなるものだろう。
おまけに『シマヅ』が卒なく旨い料理を作るとなれば、自分だってと思うのも難くない。
が、具材と一緒にまな板を切っていれば世話無しである。
これでも初日は、まな板を両断して包丁の刃が半分、台に埋まったのだ。ソレに比べたら──まあ、台が切れていないだけマシだろう。
(──味付けまじゃあ、遠いのォ)
この状態だと、食材を切ったり剥いたりさせる事は厳しい。手を滑らせて、指でも落としたらことである。
『シマヅ』とて焦りはある。
『試練場』が再解放されて、今はまだ間もない。
『シマヅ』が任された地下4階まではまだまだとは言え、地下3階の踏破が近づいたら、彼は冒険者達を迎え討つ為に、ヒノモトから派遣されて来る手勢を連れて、迷宮に籠らないといけなくなる。
それまでに、せめて、せめて包丁が扱える様にさせておきたいのだ──
────
しかしながら、時は無常にも過ぎ──
────
「…という訳なんだ」
そもそも探索済みで各階の正確な地図も出回っている迷宮である。 脱落パーティもそれなりにいる中、10日遅れで迷宮踏破に乗り込んだ『五行』含め、地下3階の踏破を間近に控えた者達がちらほらと出始めるまでに1ヶ月程。
そんなとある休息日。
各寄合所の名目上の休館日でもある日の昼下がり。
店休日のサムライ長屋の調理場に立つのは『アルター』だ。カウンターにヘリオドールと『ミフネ』が並んで座っている所に、フェンティセーザが乗り込んで来た形である。
『シマヅ』はいない。
地下に籠ってばかりなせいか、陽射しを浴びに出掛けてそのままだ。
店休日とはいえ、店内には、エルフに引きずり込まれる『アルター』の姿を認めた──そうして、運良くおこぼれにありつこうと──勇気を示せた他の冒険者の姿も、ちらほらと。
ことの発端は、休息日にまで領主に使われて書類業務をこなしていた『アルター』を
「トーリボルの食事に飽きたから何か作れ」
とヘリオドールが引っ張り連れ出したことからだ。
『学府』の探索棟所属者は、食料を現地調達して調理することも少なくないため、料理の腕には困らない者が多い。ヘリオドールと『アルター』もそうである。と言うより、正確には、ヘリオドールが『アルター』──かつて『エル・ダーナス』と名乗っていた青年を現地に連れ出しては技術を叩き込んだ。
理由は単純だ。
当時から今に至るまで連んでいる、『アルター』の師でもある二人が、探索先で『エルフの焼き菓子』一本の食生活で、これではいつか弟子が泣きを見るのが想像に難くなかったからだ。
それがよりにもよって『学府』ではなく『サムライ長屋』なのは、心底トーリボルの味以外をヘリオドールが求めたせいでしかない。
そうしたらだ。
『サムライ長屋』の管理人で『アルター』の拾い子でもある『ミフネ』が「料理を教えて欲しい」と言ってきたのだ。
「……師匠、席にどうぞ」
口元に下げている布でやや籠った声で『アルター』が着席を促すと、フェンティセーザは無言で席に着いた。
「『ミフネ』。包丁でまな板まで断つと言ったな」
「…はい」
食材の解凍に使うカウンター下の台から、『アルター』は鶏肉を二枚、取り出した。
あっさりとした胸身だ。
ちょっと入って来なさい、と言われて、素直に従う。
「包丁だろうがナイフだろうが、料理で『切る』時は「引き切る」というのは分かるな?」
「はい」
頷く『ミフネ』に「では」と続ける。
「食材には、切り分けやすい固さというのがある。
固すぎても刃が立たないし、柔らかすぎても切りにくい。
今は切り分けるのに丁度いい固さがあるのだけ分かってるといい。
そして、モノそれぞれに固さがある様に、食べ物の固さと、まな板の固さは違う」
まな板に油紙を敷き、程よく解凍されている肉を置くと『アルター』はすっ、と切り分けた。二枚、三枚、と薄く削ぎ切って行く。
手入れが行き届いていて、よく切れる。
「切って行くうちに、固さが違う感覚に行き着く。感覚を拾いながら、同じくらいの厚みになる様に、ゆっくり切り分けてご覧」
「はい」
包丁を渡されて『ミフネ』が肉に向き直る。
「なあに、骨と肉の感覚が分かれば、分かる」
横から気楽な物言いで『アルター』が声をかける。
(骨と肉の、感覚──)
『ミフネ』が、猫の手で肉に手を添え、師父の見様見真似でゆっくりと引き切る。
「───あ」
ほんの僅かだが、確かに固さが変わった感覚を、手が拾った。
「そのまま。
今、刃先が肉を切り終えて、別のものに当たっている感覚があるな?その感覚が無くなる程度、ほんのちょっとでいい。刃先を浮かせて引き抜く様に切ってごらん」
言われた通りに刃先を浮かせてすっ、と引き抜く。
「……切れました!師父、ちゃんと、切れました…!」
油紙は切れていたが、まな板はそこまで切れていない。パッ、と顔を明るくした『ミフネ』に、うむ、と『アルター』の表情が和らいだ。
「もう二、三枚、切ってみようか」
「はい」
先を促され、二枚、三枚、四枚…と削ぎ切りにしていく。
「うむ、この調子で残りも切ってみよう」
私は次の準備に入る、と残して『アルター』は手を洗いに向かった。
────
『ミフネ』が鶏肉の削ぎ切りを一枚終えた頃には、油紙の切り込みもだんだん薄く短くなっていき、二枚目を切り終える頃には、油紙の切り込みは無くなっていた。
その間に、『アルター』は大鍋に湯を沸かし、別の大鍋に氷水を作り、ボウルをいくつか準備すると、カウンターの下の台から香味野菜を取り出し、こちらはこちらで切り始めた。
「師父、終わりました」
「そうか」
成果を見て「出来たじゃないか」と『アルター』が微笑むと、褒められた子供の様な無邪気な笑みを『ミフネ』が浮かべる。
「料理はそれで終わりではないぞ。
続きを頼むから、手を洗って来なさい」
「はい!」
────
(……ほんっとアイツ、教えるの上手いよな)
香味野菜を刻んで掛けダレを作りながら指示を出して行く弟子に、内心ヘリオドールは舌を巻く。
相手の性質を見抜き、相手がやり易い方法で、理解しやすく伝える。
本人としては『師の真似をしている』に過ぎないのだろうが、そこには深い理解が必要だ。真似ようとしてできるものではない、と言うのは本人の埒外なのは言うまでもない。
肉全体に軽く塩を振り、全体に粉をまぶして揉み込んだ肉を茹で上げてみせ、後を任せた『アルター』が
「どうして、料理を?」
世間話をする様に『ミフネ』に投げる。
「……『鞘』に、なりたいのです」
ぽつり、と答えが返って来た。
誰の、とは言わなかった。が、誰の、かは分かった。
「『鞘』?」
「師父とフウライの様な、特別な間柄の事です」
フェンティセーザの問いかけに『ミフネ』が答える。
それこそ、死が二人を分つまで寄り添い、共に生き、共に在る──遺される位なら、共に──ヒノモトの侍にとっての唯一無二を、刀と鞘の関係に準えたものだ。
「以前『鞘』に迎えるなら、料理が出来るひとがいいと、言われていたのを耳にしまして」
(──いやいや、さすがにそれは女性が対象では?)
『虚空』絡みでヒノモトにもしばらく居たことがあるヘリオドールが心の中で思わずツッコむ。
ヘリオドールがいた頃、『鞘』とは、ヒノモトにて男のサムライに付き従う小姓や女性の事を指していた。今は法ができたせいか、小姓であることは殆ど無くなってしまったが──
湯がき上がったものをその都度『アルター』に渡すと、『アルター』が氷水に晒して冷やす。
「──私は、あのひとに、あのひとが欲しいものを差し上げられる。
でも、それは一度きりなのです」
冷やした肉を皿に盛り、タレを掛けて薬味をあしらいながら『アルター』は拾い子の独白を静かに聞いていた。
「──相手に、死合いを。
どこまでも強いあのひとの前に立つには、本気を以て相対せねば失礼に値します。
ですが、私の身体は脆くて、本気を出せば、肉体が耐え切れず自壊します」
悔しさを滲ませながら『ミフネ』は続けた。
どこまで力を振るっていいのかが分からないうちは、何度も何度も、限界を超えて自壊しかけては、城の奥にある再生施設に運び込まれた。
ヒノモトで『城』に居たのは、強さからだけではない。
脆さ故に、自壊という憐れ極まりない喪失を起こさない様にとの『トクガワ』の愛からでもあったのだ。
ヒノモトで再生施設でまだ再生ができたからこそ、今がある。
しかしトーリボルに、頼みの綱の再生施設はない。
「私はここに、師父に恩返しをするために馳せ参じました。それに目処が付くまでの間に、あのひとの側に居るのに少しでも相応しくありたいのです」
相手の唯一無二になる為にできる事を努力して身に付ける──そんな事などした事がなかった三人は、ただただその言葉に耳を傾けるしかできなかった。
が。
「私があのひとと一度死合えば、勝とうが負けようが私は死にます。相打ちになるならまだしも──もしあのひとが、勝ったら」
湯がき上がった最後の肉を渡しながら『ミフネ』が続ける。
「私の後釜に、どこの馬の骨とも知れないのが居座るとか耐えられなくないです?」
心当たりがありすぎる三人は、思わず力強く頷いた。
もう、それについては、分かりみしかなかった。
────
「──ヒノモトで憶えてきました『水晶鶏』です。
主食は米、汁物は、ヒノモトで『ミソ』と呼ばれている調味料を使った野菜のスープ、口直しに野菜を塩漬けして水分を抜いたものに風味を足したものを少々」
しばらくの後、豆と穀物を醗酵させた調味料で作った野菜のスープと、ヒノモトから取り寄せた米を搗いて炊き上げたもの、品良く盛り合わせた野菜の漬物と一緒に出されたのは、つるんとした輝きをたたえた茹で鶏にたっぷりの香味野菜を盛り付けた一皿だった。
「綺麗だな。香りもいい」
トーリボルの店では出ない組み合わせに、食べるのが勿体無いと言いながらも手を合わせてヘリオドールとフェンティセーザが食べ始める。
「箸が使えないならフォークでいってしまえ」
別に誰も気にしないさ、と、ヘリオドールが客席に常備されているフォークを渡すと、さすがに箸は無理だったのか、素直に受け取る。
「私は今いる方々に振る舞ってきます」
「私も」
そう言うと、『アルター』と『ミフネ』は振る舞う分を手にカウンターを離れた。
「…うん、うん」
「変わった味だな。だが悪くはない」
「素直に『美味しい』って言いなよ」
「食べ慣れてない味だが不思議な位腹に入っていくな」
トーリボルのものとは全く違う料理に舌鼓を打つヘリオドールに、今まで食べたことのない味と風味の複雑な味わいにおっかなびっくりしているフェンティセーザを尻目に
「ようこそ、マヌエラ嬢にエィンヤ嬢」
「ふぇえ?!」
「お、お久しぶりっ…す」
席に着いて、カウンターでのやりとりを静かに伺っていた領主の客人たちの所に『アルター』がやってきた。
「いつも領主殿が世話になっている。仕事の仕上がりも美しい。助かっている。その礼も兼ねてだ。
まだ食べていないなら、食べていってくれたまえ」
ことり、と小気味良い音と共に、盆を置いて戻っていく。
慌てて背中に隠したペンとノートをこっそりと膝上に戻したマヌエラに
「先輩、いただきましょう?」
いつぶりのまともな食事だろうか、といった目で水晶鶏を注視しながらエィンヤが声を掛ける。
「そ、そうね」
いただきましょう?と返して、二人一緒に合掌する。
──この世界に来てから、食事に困ると言う事はあまりなかったはずなのに、この「まともな食事」という感覚は、とても不思議で。
「先輩、水晶鶏美味しいっすよ」
「お味噌汁もお漬物もご飯が進むわあ…」
そう言えば元の世界で、こうして二人で落ち着いて食べた事は──だからか、と。
異世界からの客人達は、転生前を懐かしみながら箸を進めた。
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「お久しぶりです、四代目」
『ミフネ』が向かった先は、カウンターが見える客席の一番奥にいた、何の変哲も無さげな冴えない男の元だった。
が、顔馴染みである。
「お久しゅうございます、坊」
『ミフネ』の事を『坊』などと呼ぶ男はたった一人しかいない。四代目の『トビザル』の名を持つこの男だけだ。
「今の話は内密に」
「……へいへい」
かつて『エルダナス』と名乗っていた『アルター』と物言えぬ『フウライ』が、小さな子供を連れてヒノモトに来た時からずっと世話をしてきたのだ。
可愛い弟分を、あんな男に持って行かれるのは不本意だ。
が、可愛い弟分がそれを望むのならば──いや、相手が相手なので不本意なのには変わりは無いのだが。
「せいぜい、坊が死んだら後の露払い程度はやっておきますよっと。だから」
目の前に置かれた料理の盛り付けに目を輝かせ、合掌しながら、小声で。
「余計な仕事をオレにさせんじゃねぇよ、ずっとな」
「──そうそう死にませんから、大丈夫です」
ふうわりと微笑んで小声で返すと、カウンターへと戻っていく。
潜入任務があるため、ヒノモトの忍者達は語学に通ずる。今回の任務に関して、トーリボルでの経緯の手記を読んだが──
時を遡る時点で、夢物語かと思った。
領主の館で見つけた、五冊づつある初代領主と魔術師の手記に、頭痛がした。
これが本当なら──かつてこの迷宮で最下層に陣取っていた『ミフネ』は、二代前にその『名』を授かって出奔した──
件の魔術師が、ここの領主が、ここで何をどうしようとしているのか。それがヒノモトにどう影響を与えるか──それ如何によっては、上の指示を仰がねばならない。
(……それでも)
弟分が笑っていられるのなら、笑っていられるうちは、まだ、それでいい。
今はそう思う事にして、男は食事に箸を付けた。
────
散歩から戻って『シマヅ』が『ミフネ』の成長に驚くまで、そう遠くはない。
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