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幕間
幕間6「冒険者ギルドにて」─4─
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冒険者ギルドが再稼働して十七日後の事だった。
小昼頃、やっと人の波が捌けるかという頃、カランコロン、と玄関の鐘が鳴る。
「こんにちは、フォスタンド殿」
「これはこれは、ミフネ殿にシマヅ殿」
訪ねて来たのは、『シマヅ』を伴った『ミフネ』だった。
「やあやあ、久しゅうござるな」
城下街の再建案の打ち合わせなどで何度か顔を合わせたので憶えている。
『カトウ』の出した案のそれぞれに、その気になれば住人でもできる様な市街戦案まで添えてきて、ヒノモトの戦に対する考えの在り方の違いに舌を巻いたものだ。
そんな彼らは、前もってフェンティセーザを通して、迷宮の試練側へと回って貰う手筈となっている、と、冒険者ギルド側に一報が入っていた。
「詳しい話はアルター殿に確認して貰う事にしまして」
「うむ、なんか…理由があるんじゃろうなぁ」
滞在者登録用の記入用紙を差し出しながら、フォスタンドは冒険者ギルド側からの依頼を告げる。
「実は、ギルド側からもお二人に折り入って依頼があるのだが」
「何でしょう?」
「この街の、サムライ達専用のギルドの運営をお願いしたい」
ギルド運営と言っても、職業寄合的なもので、サムライ達の情報交換の場の運営や、拠点が無いサムライ達への拠点斡旋が主になる。
しかし、立て直しで派遣されて来たサムライ達は、皆自分達のパーティと共に既に拠点を持っていて、施設はあるのに運営を任せられる者が居ないのだ。
これが基本職であれば、絶対数が多い為、持ち回りで運営などが可能だが、上級職になるとぐっと数が減るので、今のところ単独では人手不足から運営難という状態である。
司教はカパタト神の施設と兼用状態にしているし、忍者は元からこっそり絡繰士ギルドに居着いている。君主はフォスタンドがギルドマスターと兼任で今のところつつがなく運営できているが、サムライだけが空いていた。
「引き受けて頂けるなら、そのままギルドの建物を拠点にして頂いて構わないのだが」
「まず彼が師父に詳しい話を聞いてからですね」
私は構わないのですが、と『ミフネ』が言う。
「ミフネ殿はもう話を?」
「私はそもそもが師父側ですので…ああ、一定以上の強さを持つ人は、師父からお誘いがあるんですよ」
なんか変な話になってるな?と言う顔の『シマヅ』に、そう『ミフネ』が補足する。
「一人でも多く、強い者を『育てたい』のだとか」
「『育てたい』とな…分かった、話を聞いてみよう」
────
拠点のみを空欄にして書類を仕上げて話を聞きに行った二人が帰って来たのは夕方頃だった。
「ただいま戻りました」
「お、どうだった?」
「うむ、アルター殿の話も、こちらの話もお受けしようと思う」
戻ってきた『シマヅ』は、どこか浮き足だった感じがした。何と言うか……
急に開けた都会を目にしたお上りさんのようだ。
「それにしても何と言うか、凄いな、この街は」
抑えに抑えているものの興奮冷めやらぬ感じだ。
「…『カトウ』の派の仕事の結果は直ぐには出ぬ。十年、二十年後に形になるのが常なのだ。計画段階に携わりながらも生きている内に見られない事もある。この様なことは滅多に無い」
「『カトウ』がこの有様を見たらきっと吃驚なさるのでしょうねと話しながら、あちこち見て来たのです」
「そしてもっとこうすればああすれば、と言い出すだろうよともな」
言葉を交わしながら、記入用紙の最後の空欄を埋めて行く。
「サムライギルドの寄合所の鍵はこちらだ。
酒場兼食事処と稽古場と手洗いが共用部分としてあって、別に管理者用の部屋と水屋、風呂などの施設一式がある。
共用の湯殿は拠点の方にあるが、これは拠点に人が入り始めてからの運用になる。
もし、拠点を必要とする者達が来たら、その時に鍵を一式渡したいので、連絡を飛ばす形で良いだろうか?」
「相分かった。こちらこそ宜しく頼む」
────
サムライ達の寄合所がどうなっているのか期待に胸を膨らませる『シマヅ』と、先導する『ミフネ』を見送ると
「さあて!」
パンパン、と大きく2回手を鳴らすと、
「今の全員聞いていたな?」
どこか仲睦まじげな二人の侍を、十人十色な思いで見送るギルド員にギルドマスターが声を掛ける。
こう言った時にもう仕事のフリをするという無駄な足掻きすらもしないギルド員達に、もう一度、パン、と一回手を鳴らして自分に注視させると
「これでやっと全ギルドの寄合所の管理者が確定した。何か用がある時は全員走れる様に頭の中に入れとけ!」
「了解しました!」
あちらこちらから、声を揃えて返事が返ってくる。
全ての職業別ギルドが揃った事で、今まで冒険者ギルドがやっていた事務処理を、一部ではあるが職業別ギルドに分散させられる事になった。
引き継ぎと伝達でしばらくは忙しくはなるが、慣れてくれば冒険者ギルドの負担が減るだけでなく、横の情報交換が活発になり、量も質も高まってくる。そして仕事の流れを知る人間が増えると言うことは、万が一の時──殲滅でもされない限りは、すぐに次のギルドマスターを立て、冒険者ギルドの立て直しがききやすくなる。
(箱物って、こうしてみると結構重要だったりするんだな…)
今まで街の復旧に割いていた労力が無くなると、こんなに日々の雑務を捌く方に回せるのか…というのは、新しい冒険者ギルドが回り始めて痛感していたが、これから更に、運営について色々と試行錯誤を重ねて行くのが、実は楽しみになっているのに気付いたらフォスタンドだった。
────
ちなみに、寄合所は料理と酒が美味しい事で大変な賑わいをみせ、情報交換の場として充分な成果を上げたものの、この街で探索に当たるサムライ職がことごとく自分の仲間達と拠点を共にしたため、通称「サムライ長屋」になかなか人が入らず──
後に短期滞在の冒険者達の一時宿泊等に使われる様になるのは、また別の話である。
小昼頃、やっと人の波が捌けるかという頃、カランコロン、と玄関の鐘が鳴る。
「こんにちは、フォスタンド殿」
「これはこれは、ミフネ殿にシマヅ殿」
訪ねて来たのは、『シマヅ』を伴った『ミフネ』だった。
「やあやあ、久しゅうござるな」
城下街の再建案の打ち合わせなどで何度か顔を合わせたので憶えている。
『カトウ』の出した案のそれぞれに、その気になれば住人でもできる様な市街戦案まで添えてきて、ヒノモトの戦に対する考えの在り方の違いに舌を巻いたものだ。
そんな彼らは、前もってフェンティセーザを通して、迷宮の試練側へと回って貰う手筈となっている、と、冒険者ギルド側に一報が入っていた。
「詳しい話はアルター殿に確認して貰う事にしまして」
「うむ、なんか…理由があるんじゃろうなぁ」
滞在者登録用の記入用紙を差し出しながら、フォスタンドは冒険者ギルド側からの依頼を告げる。
「実は、ギルド側からもお二人に折り入って依頼があるのだが」
「何でしょう?」
「この街の、サムライ達専用のギルドの運営をお願いしたい」
ギルド運営と言っても、職業寄合的なもので、サムライ達の情報交換の場の運営や、拠点が無いサムライ達への拠点斡旋が主になる。
しかし、立て直しで派遣されて来たサムライ達は、皆自分達のパーティと共に既に拠点を持っていて、施設はあるのに運営を任せられる者が居ないのだ。
これが基本職であれば、絶対数が多い為、持ち回りで運営などが可能だが、上級職になるとぐっと数が減るので、今のところ単独では人手不足から運営難という状態である。
司教はカパタト神の施設と兼用状態にしているし、忍者は元からこっそり絡繰士ギルドに居着いている。君主はフォスタンドがギルドマスターと兼任で今のところつつがなく運営できているが、サムライだけが空いていた。
「引き受けて頂けるなら、そのままギルドの建物を拠点にして頂いて構わないのだが」
「まず彼が師父に詳しい話を聞いてからですね」
私は構わないのですが、と『ミフネ』が言う。
「ミフネ殿はもう話を?」
「私はそもそもが師父側ですので…ああ、一定以上の強さを持つ人は、師父からお誘いがあるんですよ」
なんか変な話になってるな?と言う顔の『シマヅ』に、そう『ミフネ』が補足する。
「一人でも多く、強い者を『育てたい』のだとか」
「『育てたい』とな…分かった、話を聞いてみよう」
────
拠点のみを空欄にして書類を仕上げて話を聞きに行った二人が帰って来たのは夕方頃だった。
「ただいま戻りました」
「お、どうだった?」
「うむ、アルター殿の話も、こちらの話もお受けしようと思う」
戻ってきた『シマヅ』は、どこか浮き足だった感じがした。何と言うか……
急に開けた都会を目にしたお上りさんのようだ。
「それにしても何と言うか、凄いな、この街は」
抑えに抑えているものの興奮冷めやらぬ感じだ。
「…『カトウ』の派の仕事の結果は直ぐには出ぬ。十年、二十年後に形になるのが常なのだ。計画段階に携わりながらも生きている内に見られない事もある。この様なことは滅多に無い」
「『カトウ』がこの有様を見たらきっと吃驚なさるのでしょうねと話しながら、あちこち見て来たのです」
「そしてもっとこうすればああすれば、と言い出すだろうよともな」
言葉を交わしながら、記入用紙の最後の空欄を埋めて行く。
「サムライギルドの寄合所の鍵はこちらだ。
酒場兼食事処と稽古場と手洗いが共用部分としてあって、別に管理者用の部屋と水屋、風呂などの施設一式がある。
共用の湯殿は拠点の方にあるが、これは拠点に人が入り始めてからの運用になる。
もし、拠点を必要とする者達が来たら、その時に鍵を一式渡したいので、連絡を飛ばす形で良いだろうか?」
「相分かった。こちらこそ宜しく頼む」
────
サムライ達の寄合所がどうなっているのか期待に胸を膨らませる『シマヅ』と、先導する『ミフネ』を見送ると
「さあて!」
パンパン、と大きく2回手を鳴らすと、
「今の全員聞いていたな?」
どこか仲睦まじげな二人の侍を、十人十色な思いで見送るギルド員にギルドマスターが声を掛ける。
こう言った時にもう仕事のフリをするという無駄な足掻きすらもしないギルド員達に、もう一度、パン、と一回手を鳴らして自分に注視させると
「これでやっと全ギルドの寄合所の管理者が確定した。何か用がある時は全員走れる様に頭の中に入れとけ!」
「了解しました!」
あちらこちらから、声を揃えて返事が返ってくる。
全ての職業別ギルドが揃った事で、今まで冒険者ギルドがやっていた事務処理を、一部ではあるが職業別ギルドに分散させられる事になった。
引き継ぎと伝達でしばらくは忙しくはなるが、慣れてくれば冒険者ギルドの負担が減るだけでなく、横の情報交換が活発になり、量も質も高まってくる。そして仕事の流れを知る人間が増えると言うことは、万が一の時──殲滅でもされない限りは、すぐに次のギルドマスターを立て、冒険者ギルドの立て直しがききやすくなる。
(箱物って、こうしてみると結構重要だったりするんだな…)
今まで街の復旧に割いていた労力が無くなると、こんなに日々の雑務を捌く方に回せるのか…というのは、新しい冒険者ギルドが回り始めて痛感していたが、これから更に、運営について色々と試行錯誤を重ねて行くのが、実は楽しみになっているのに気付いたらフォスタンドだった。
────
ちなみに、寄合所は料理と酒が美味しい事で大変な賑わいをみせ、情報交換の場として充分な成果を上げたものの、この街で探索に当たるサムライ職がことごとく自分の仲間達と拠点を共にしたため、通称「サムライ長屋」になかなか人が入らず──
後に短期滞在の冒険者達の一時宿泊等に使われる様になるのは、また別の話である。
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