とあるダンジョンのラスボス達は六周目に全てを賭ける

太嘉

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幕間

幕間5「冒険者ギルドにて」─3─

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冒険者ギルドが再稼働して十一日後の事だった。

昼下がり、人の波がほとんど捌けたころ、カランコロン、と玄関の鐘が鳴る。

「フォスタンド殿」
「フェンティセーザ殿」
訪ねて来たのは、フェンティセーザともう一人。
確か数日前に滞在者登録をしに来た『学府アレクサンドリア』の徒、森の民エルフのヘリオドール・アガットだ。
彼が滞在者登録に来た際の、目の前で起こったフェンティセーザとのどつき漫才的なやり取りは記憶に新しい。
優美で繊細、知的なエルフのイメージを覆すような一幕だった。
二人とも『学府』の徒というのもあり、眼鏡を掛けているイメージだが、今日は二人とも眼鏡を掛けていない。少なくとも、今回は書類絡みではないのだろう。
「今日は?」
「なに、引き継ぎだ」
「…は?」
フェンティセーザの言葉に、ヘリオドールがあからさまに「聞いてないよ」の表情を浮かべる。

「まあ、バタバタしてたからな、言うのは今日初めてだ」
にっこり、と笑みを浮かべるフェンティセーザに、フォスタンドとヘリオドールの顔に「そういうところだぞ」という感情がありありと浮かぶ。

「フォスタンド殿、今日から彼に、支部長の引き継ぎを行う」
「そこは『』じゃないのかよ!」
こっちの都合は?!
とヘリオドールが突っ込むが
「都合も何も、『善は急げ』という先人の言葉もある。今ここで支部長を引き受けたら…」
ふふふ、と意味深な間を取って

トーリボルここ、支部長権限で調べ放題だぞ」
「またそんなうまい事言って!」

げしげしと肘鉄を脇腹に入れ続けるヘリオドールの、本気では無いそれを受けながら、フェンティセーザはフォスタンドに向き合った。

「フォスタンド殿。彼は遺跡の造りや素材などの研究を主にしている。ヒノモトやアーマラットのサンプルと比較すれば、このトーリボルの街並みの素材について、分かる事もあるかもしれない」
「それは…興味深いな。逆依頼とかこちらから掛けてもいいものなのか?」
「待って?そっちも乗り気になんないでよ!」

トーリボルの街は、地下迷宮再稼働時に、今までの復旧の進まなさを覆す勢いで再生、否、再構築されたのだが、その素材については未だ、材料や強度も含めて不明な所が大きい。それが少しでも解明されれば、同じ素材の開発や、それらを材料に使った新規建築なども可能になる。

「ヘリオ。君が迷宮に潜る必要は無い。
地上にも研究対象は山のようにあるからな」
君の得意分野だろう?と心をくすぐられると、どうしてか、無碍にはできない気持ちが湧いてくる。

「………そう言って」
むう、と膨れてヘリオドールが
「自分が地下迷宮に潜りたいが為に、私に面倒事押し付けてるだけだろ?!」
「そうだとも」
ふふふ、と笑う様も優雅で憎めない、いややっぱりムカつく一発殴らせろ。
「地下迷宮の探索をしながら各種事務処理の時間は流石に取れなくてな──やれないか?」
「や……」

やれない、と否定するのは、どうも、ヘリオドールのプライドに関わるらしい。

「やらないとは……」

本心としては「こんな形ではやりたくない」のだが、「やらない」と「できない」は彼にとっては、引いては『学府』の徒にとっては同義語なのである。

「言わないけどさ……」
「──そうか」

やる気はあるけど腑に落ちない。心が付いていかない。もうちょっと何かこう、大事な事なんだから丁寧に段階を踏んで欲しい──
段々と勢いが先細っていくヘリオドールに、フェンティセーザは満面の笑みを返して

「ならよろしく頼む」
「そういうとこだぞお前はぁ!!!!」

ゴン、とそこそこに重い音が響いて、額に頭突きの一撃を喰らったフェンティセーザがのけぞった。
カウンターの奥から、何故かまばらな拍手が聞こえてくる。
「本当に…その、良いのか?アガット殿」
「…なんか今回もどうせ最後まで付き合わされるんじゃないかな~って思ってはいたんで…」
今回も、という所に、フォスタンドは二人の関係の闇っぽい何かを見た気がしたが黙っておく事にした。
ちなみにヘリオドールも、トーリボルへの派遣が決まった際になんとなくそんな予感がして、研究室へやを畳んでこちらに来てる事は口にはしなかった。どうせそんな細かい情報は他人にはどうでもいい事だし、フェンティセーザが喜ぶだけなので。

「こんな流れでは非常に不本意ですけど、前任者からの指名なので、これから引き継ぎます」
「少しは断っても良いと思うんだが……まあ、よろしく頼む」
「断ったらさっさと切って二度と声掛けないか逃げられない手を仕掛けてくるかの二択なんで……」
嫌な駆け引きだな、とフォスタンドが苦笑すると、
「どうせ逃げられないのは分かってるんで、えげつない手で囲い込まれるよりかは、今の時点で受けてた方が気が楽なんです」
むくれてヘリオドールが返す。
「…分かってるじゃないか」
くすくす笑いながらも起き上がれないフェンティセーザの腹に、無言でヘリオドールは倒れ込みながら肘鉄の追撃をお見舞いしたのだった。

────

ほら、行くよ、と腹を押さえてくの字になっているフェンティセーザを引き起こして連れて行くヘリオドールを見送って

「さあて!」
パンパン、と大きく2回手を鳴らすと、
「今の全員聞いていたな?」
二人のエルフのどつき漫才から退出までを思わず注視してしまい、入口に視線を向けていたギルド員にギルドマスターが声を掛ける。

ささっと視線を戻して仕事のフリをするという無駄な足掻きに入るギルド員達に、もう一度、パン、と一回手を鳴らして自分に注視させると
「今のは確定情報だが、やりとりの一部始終はできれば表に出すなよ、変なのが湧く」
「了解しました!」
あちらこちらから、数日前よりかは多く、バラバラではあったものの、返事が返ってくる。
その中に「え、ダメなんですか…?」という視線もちらほら混ざっていたがとりあえずは黙殺である。
しかしながら、確か領主様から特別に人探しの依頼が来ていたので、そちらに回すとしよう、と誰かは確認を怠たらない。

自分は上層部から直々に、トーリボルの冒険者ギルドの運営を命じられている為、せめて安定して軌道に乗せるまでは地下迷宮に潜る事など夢のまた夢だ。
ただ、もし軌道に乗せられたら、駄目元で本部にちょっと打診してみようかと──フェンティセーザの嬉しそうな顔を思い出して、フォスタンドは考え、それを読まれた副ギルドマスターでかつて仲間だったルチレイトに冊子の角で頭を叩かれたのだった。
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