とあるダンジョンのラスボス達は六周目に全てを賭ける

太嘉

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幕間

幕間4「冒険者ギルドにて」─2─

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地下迷宮ごと、トーリボル一帯が隆起して十日後──冒険者ギルドが本格的に再稼働して七日目の事だった。

昼下がり、人の波がほとんど捌けたころ、カランコロン、と玄関の鐘が鳴る。

「フォスタンド殿」
「フェンティセーザ殿…と」
「仲間だ」

フェンティセーザの後ろから、ぞろぞろと三人の冒険者達が入ってくる。
きっと、業務の妨げにならない様に時間をズラして来たのだろうが、ただでさえ人外の美しさを誇る古代種エンシェントのエルフが二人も居ては間違いなく人目を引く。

その上、剣を包んだ布を背負い、腰にも剣を穿く中年の人間の女は、背筋もとしていて、佇まいそのものが凛として美しく、フェンティセーザと同じ古代種のエルフの女はその外観にとてもではないが──凶悪な、という意味で──不釣り合いなモーニングスターを装備し、顔の皺が若干多く見えるような気がする、この街でもあまり見かけないハーフフットとなれば、目を引かずに移動などまあ無理だろう。

建物の外は4人を見るために集まって来た冒険者達でひしめいていた。

「…まだ探索は」
「明日からだ」
「…さっさと依頼に向かわせてくれ…」

古代種のエルフの女は、この冒険者ギルドに登録数が少ない『司教』職で、トーリボルに到着してすぐのカパタト神の施設での武勇伝は冒険者ギルドにも届いていた。
背中の皮のほとんどがずる剥けて埃まみれ土まみれの状態の男に、猿轡を噛ませて情け容赦無くぬるま湯を──ぬるま湯はきっと『温情』なのだろう──何度もぶち撒けて患部洗浄を行なった辺りは、外野からは
「あのエルフの姿は借り物」
「本当に僧侶系か」
「背後に鬼のオーラが観える」
「もっと、もっとこう手心を…!」
だの散々な言われようだったが、その処置の一部始終を見ていた僧侶系の冒険者達からは「ここまでの判断力、実行力、思い切りの良さは見習わねば…」としきりに関心されたという。

「今日は三人の拠点登録の記入だけ頼む」
「分かった。抑えてた拠点はどうだった?」
「あれから領主殿と話をして2箇所に絞ってる。四人で話し合ってどちらかに決めて、すぐにでも建設に入りたい。あと──」
ふう、とため息をついて、フェンティセーザが続けた。

「パーティ名が思いつかない」

拠点登録の際は、便宜上でも所属するパーティ名を決める必要がある。事務作業などでは、パーティ名で呼ばれる事も多いからだ。

「『五行』で良くないか?」
「あからさますぎるだろう」
その位あからさまな方がいい時だってあるさ、とひそひそ言い合ってる間に
「フェンティス、名前どうしたらいい?」
と、戦士系の女が尋ねてくる。
「…好きにしていい」
「どっちの名前が通ってるかねぇ…」
「面倒だから私は変えないわ」
「オイラも」
「二人がそうならいつもの名前でいこうかね」

こうして、三人の用紙が出された。

ハーフフットの男は──驚くことに、盗賊のスキルを持ちながらも前に出て戦える上級職の忍者、ハロドだ。
『学府』のプレートを添えて出された古代種エルフは、魔術師の叡智と僧侶の奇跡に通じ、様々なアイテムを鑑定看破する司教、アレンティーナ・スリスファーゼ。
書き足された登録名は『アレンティー』
そして、見てくれだけは中年の女戦士は、フォスタンドと同じく、僧侶の奇跡を体現できる戦士──君主で、登録名は『トゥーリーン』。
登録名の他に、必ず書かねばならない本名は──

「?!?」
「なぁに、ずうっと昔に褒美で姫さんから名乗る権利を頂いたのさ」
茶目っ気たっぷりのウィンクを投げて寄越された。

『一生城から出る事がかなわぬ身、ならばせめてこの名にだけでも広い世界を──』
昔聴いた、吟遊詩人達が謳う終盤の歌詞が脳裏を過ぎる。

場所が場所であれば不敬と処されてもおかしくはないその名前は──その名は、かつてアーマラット領主の娘で、地下迷宮の真の主の呪いを一身に受け続けた『聖女』の名前だった。

「とりあえず、今から拠点を絞って、パーティ名を決めてからの正式登録になる。それまでは『学府』の施設に拠点を置く。追々あと二人も来るから、本格的に潜るのはそれからだな」
「了解した。すぐに手続きが進められるようにはしておこう。拠点の建築準備は?」
「試しにみようと思う」
フェンティセーザの言い回しに、フォスタンドはあっ…と何かを察してしまった。

うわ……うわ、なんか地下迷宮運営の見なければ良かった裏側を垣間見た気分だ。過程と結果については知らぬ存ぜぬを通そうとフォスタンドは心を決めた。

では、と立った四人を、フォスタンドがギルド員に書類を渡し、奥の部屋に案内するフリをして裏口へと案内する。流石に裏口までには人は居らず、四人は人混みを避ける様にギルドを出て行った。

「さあて!」
パンパン、と大きく2回手を鳴らすと、
「今の全員聞いていたな?」
輪になって書類を覗き込むギルド員達に、ギルドマスターが声を掛ける。

ささっと蜘蛛の子を散らす様に席に戻るギルド員達に、もう一度、パン、と一回手を鳴らして注視させると
「今の情報はだから、表に出すなよ」
「了解しました!」
あちらこちらから、前々日よりかは多く、バラバラではあったものの、返事が返ってくる。

『アーマラットの呪いの迷宮』封印からどれだけの年月が過ぎたのか──吟遊詩人が謳う詩に胸を躍らせていた無知な少年が、こうしてこの場に在れるほどの時を経ても、彼らの耀きは未だ変わらない様に、フォスタンドには思えた。

ここで口留めしたところで、ただでさえ目を引く外観の持ち主の彼らの集結の話題はあっという間に広まるだろう。それを皮切りに、ここには駆け出しから歴戦の者達まで集まる事になるのは想像に難くない。
急にとは言わずとも、徐々に忙殺される羽目にならない様に、何か手を打たねばなとフォスタンドは考えを巡らせ始めた。
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