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幕間
幕間3「冒険者ギルドにて」─1─
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城塞都市トーリボルは、冒険者絡みで多数の『ギルド』が存在する有数の街であった。
というのも、二度にわたる王都の暴挙で壊滅的な被害を受けるまで、トーリボルは最初期の最高難易度の地下迷宮『試練場』でも有名で、一攫千金の宝や制覇の名声を獲る為に、沢山の冒険者達がパーティを組み、拠点としていたからだ。
駆け出しがまず割り振られる基本職の『戦士』『僧侶』『盗賊』『魔術師』から、一定の実力を付け資格を得るに至った上級職の『君主』『侍』『司教』『忍者』計八種それぞれの職業寄合的ギルドと、それら以外の、国外から流れてきた特殊な職の寄合的場所も兼ねて全ての冒険者達をまとめる『冒険者ギルド』、冒険者達には無くてはならない蘇生を含めた治療施設でもあるカパタト神の施設から武器屋、防具屋、鍛冶屋などなど、冒険や探索に必要な施設が全て揃っていたのだ。
壊滅的な被害は、建物だけではなかった。
人的な被害も相当だった。
二度目の王都による蹂躙から街を守る為に戦った冒険者達はほとんどが斃された上、『冒険者ギルド』の当時の主要メンバーが処刑され、全員還らぬ人となった──それが、この街の冒険者ギルドから外部への救援が遅れた最大の理由だった。
それがこうして、不可思議な力で、全てが建て直されている。
(何というか…ヒノモトの『城』に似てるじゃあないか)
『冒険者ギルド』本部上層部の命令で派遣された新しいギルドマスター、君主フォスタンド・レイドリックは、建物の材質に触れて空恐ろしさに身震いした。
国境を接しているヒノクニ国のヒノモト領──ダンジョンマスター『トクガワ』が座する『城』の施設に一時期拠点を置いていた者としては、この類似性に自分の好奇心を抑えるのに必死だった。
(『試練場』に、潜りたい)
(自分の実力がどこまで通用するか、試したい)
「──上層部も酷なことしてくれる」
身分と権限で以って縛られた我が身をある意味呪いながら、『試練場』再起動後の『冒険者ギルド』は初日を迎えた。
────
昼下がり、人の波がほとんど捌けたころ、カランコロン、と玄関の鐘が鳴る。
「フォスタンド殿」
「フェンティセーザ殿」
訪ねて来たのは『学府』の徒、古代種エルフの魔術師だった。
地下迷宮の隆起の日から毎日、何かしら自分の所に来ている。
「午前中は忙しかろうと思って」
午前中は、冒険者達の拠点登録やパーティ編成でごった返す為、時間をズラしてやって来た『学府』の徒が持ち込んだのは、『冒険者ギルド』に対しての正式な依頼だった。
「『学府』からの正式依頼を持ってきた。
『試練場』の地図が、今出回っているのと同じかどうか、どこか変わった所が無いかどうかを確認して欲しい。できればすぐに。」
「すぐに?また急な」
『学府』からの依頼であれば、請求は『学府』に回せるので取りっぱぐれがない。ギルドとしても願ったり叶ったりだが
「あの地下迷宮は、ダンジョンマスターの魔力と、自律型システムの組み合わせで難易度が変更できる仕様だと、ダンジョンマスター本人が言っていた。あの二人が地下迷宮に居ない今なら、比較的安全に確認が取れる筈だ」
「ふむ」
そのダンジョンマスターが、ここしばらくトーリボルの街の復旧に尽力していた──そして、冒険者ギルドへ惨状と復旧の手配を依頼した──『アルター』と名乗る魔術師で、それがフェンティセーザの弟子という奇妙な巡り合わせに、フォスタンドの好奇心がまた頭をもたげる。
『アルター』とは、冒険稼業の魔術師にはありふれた名前だ──様々な理由から、本名を伏せたい者が名乗る、という意味で。
他の職にもそういった『通り名』ならぬ『通り偽名』があり、例えば男の戦士の「ジョン・ドゥ」や女君主の「トゥーリーン」などがそれらに当たる。
吟遊詩人達が謳う流行りの詩の登場人物からが多い様だ。
もとい。
冒険者ギルドに冒険者として登録するには、あれば称号と本名を登録する義務があるし、場合によってはそれを元に調査される事もあるが、余程後ろめたい理由が無い限りはそれ以上の余計な詮索はされないし外部の介入からも守られている。
旅の空の元、根無草の身分保証の権利であり、恩恵なのだ。
「今回の再起動で、余計な出入口が増えてないかは特に確認して欲しい」
「確か『試練場』地下十階の最奥の玄室が、『地下宝物庫』の正式な入口だったな」
数日前にフェンティセーザが持ってきた弟子の資料に目を通していたので、余計な所に触るのが命取りなのは充分理解の範疇だ。
「うむ。もしかしたら、魔力だけは地下迷宮起動時に回っているのでね、召喚陣からモンスターが召喚されている可能性もある。装備は怠らない様にともきつく言含めて欲しい」
それと、と前置きをして
「新たに『学府』から人員が派遣される手筈が整った。到着次第、ソレに引き継ぐので、引き継いだら挨拶に連れてこよう」
「引き継ぐ?まさか潜るつもりか?」
「ああ、こういったのは『現地探索』あってのものなのでな」
「なら、先に拠点登録の紙だけ書いていくか?」
地下迷宮に潜るには、探索拠点が必要だ。
『ギルド』に所属を認められるという事は、『ギルド』を保証媒体とした一種の身分証明でもある。家どころか宿すらないならず者を『冒険者』の枠組みに入れるほど、ギルドは懐深くは無い。
「拠点登録だが、7~8人位がまとめて住める様な建物は無かろうか?」
「『学府』の施設じゃ駄目なのか?」
「駄目だな……駄目だ。できれば一軒家が欲しい」
「町外れに、パーティで駐留用の、そこそこ広い敷地が残っていたはずだ。ギルド名義で押さえてあるから手続きは自分でやってくれ」
「助かる」
フェンティセーザが拠点登録の申請用紙に記入している間、フォスタンドが事務員に指示を出す。すぐさま事務員が動いた。
フェンティセーザ・スリスファーゼ
の下に書き込まれた登録名──
『フェンティス』
その名を見て、フォスタンドが驚いた表情を見せる
「なぁもしかして…」
ひそひそと、声をひそめて、
「あんた、もしかして『スリスファーゼの双子』か?」
「…できれば伏せておいてくれ」
その返事で、彼が一軒家を求めた理由がなんとなく分かってしまった。
──フォスタンドがまだ小さかった頃に、街で吟遊詩人達がこぞって謳った詩がある。
後に『姫騎士』と称される、人間の戦士トゥーリーンとハーフフットの絡繰士(盗賊)の従者ハロド、ドワーフの戦士にして鍛冶屋のギムリと酒呑み友達で敬虔なるノームの破戒僧マネラ、遠い時を超えて一族の宝を探しに来た二人のエルフ──『スリスファーゼの双子』が織りなす『アーマラットの呪いの迷宮』の冒険譚だ。
今は封印され監視下にあるものの『アーマラットの呪いの迷宮』自体が実在している以上、その冒険譚も全てが作り物ではないはずだが……
「…あの冒険譚ってさ」
「真実はあれより色々とまあ、酷いぞ」
静かに返された。
ならば偽名でも──とはならないのが、用紙と一緒に差し出した『学府』所属を示すプレートだ。このプレートと、ギルドに登録する名前が一致しないと、当然ながら双方の恩恵が受けられないだけでなく、下手したら身分詐称の罪に問われるのだ。
「ギルド員達には箝口令出しておこう」
「助かる。よろしく頼む。」
迷宮を制覇するほどの冒険者パーティが、拠点にある程度の敷地の広さがある所を希望するのは、様々な理由がある。
かつてフォスタンドの組がそうだった様に、余計な人目や煩わしさを避ける為というのもあれば──どちらかといえば、フェンティセーザ達の場合はもっと深刻な理由であろう。
人物、装備ともに高い知名度は、余計な有象無象を引き寄せかねないのだ。
「他の面子は着き次第そちらに向かわせ…いや、連れて来よう」
「了解した」
「では、依頼と拠点の件は、よろしく頼む」
「拠点は領主様の所に顔を出してくれ」
「分かった」
ではまた、と去っていくエルフを見送った後
「今の全員聞いていたな?」
聞き耳を立てていた、フロアのギルド員達に、ギルドマスターが声を掛ける。
ささっと聞き耳をしまい込むギルド員達に、パン、と一回手を鳴らして注視させると
「今の情報はまだ未確定だから、表に出すなよ」
「了解しました!」
あちらこちらから、バラバラではあったものの、返事が返ってくる。
さて、人の口には戸は建てられないが……
フォスタンドは、自分の部屋に戻ると、これからさらに大変にならない様にと祈るばかりであった。
というのも、二度にわたる王都の暴挙で壊滅的な被害を受けるまで、トーリボルは最初期の最高難易度の地下迷宮『試練場』でも有名で、一攫千金の宝や制覇の名声を獲る為に、沢山の冒険者達がパーティを組み、拠点としていたからだ。
駆け出しがまず割り振られる基本職の『戦士』『僧侶』『盗賊』『魔術師』から、一定の実力を付け資格を得るに至った上級職の『君主』『侍』『司教』『忍者』計八種それぞれの職業寄合的ギルドと、それら以外の、国外から流れてきた特殊な職の寄合的場所も兼ねて全ての冒険者達をまとめる『冒険者ギルド』、冒険者達には無くてはならない蘇生を含めた治療施設でもあるカパタト神の施設から武器屋、防具屋、鍛冶屋などなど、冒険や探索に必要な施設が全て揃っていたのだ。
壊滅的な被害は、建物だけではなかった。
人的な被害も相当だった。
二度目の王都による蹂躙から街を守る為に戦った冒険者達はほとんどが斃された上、『冒険者ギルド』の当時の主要メンバーが処刑され、全員還らぬ人となった──それが、この街の冒険者ギルドから外部への救援が遅れた最大の理由だった。
それがこうして、不可思議な力で、全てが建て直されている。
(何というか…ヒノモトの『城』に似てるじゃあないか)
『冒険者ギルド』本部上層部の命令で派遣された新しいギルドマスター、君主フォスタンド・レイドリックは、建物の材質に触れて空恐ろしさに身震いした。
国境を接しているヒノクニ国のヒノモト領──ダンジョンマスター『トクガワ』が座する『城』の施設に一時期拠点を置いていた者としては、この類似性に自分の好奇心を抑えるのに必死だった。
(『試練場』に、潜りたい)
(自分の実力がどこまで通用するか、試したい)
「──上層部も酷なことしてくれる」
身分と権限で以って縛られた我が身をある意味呪いながら、『試練場』再起動後の『冒険者ギルド』は初日を迎えた。
────
昼下がり、人の波がほとんど捌けたころ、カランコロン、と玄関の鐘が鳴る。
「フォスタンド殿」
「フェンティセーザ殿」
訪ねて来たのは『学府』の徒、古代種エルフの魔術師だった。
地下迷宮の隆起の日から毎日、何かしら自分の所に来ている。
「午前中は忙しかろうと思って」
午前中は、冒険者達の拠点登録やパーティ編成でごった返す為、時間をズラしてやって来た『学府』の徒が持ち込んだのは、『冒険者ギルド』に対しての正式な依頼だった。
「『学府』からの正式依頼を持ってきた。
『試練場』の地図が、今出回っているのと同じかどうか、どこか変わった所が無いかどうかを確認して欲しい。できればすぐに。」
「すぐに?また急な」
『学府』からの依頼であれば、請求は『学府』に回せるので取りっぱぐれがない。ギルドとしても願ったり叶ったりだが
「あの地下迷宮は、ダンジョンマスターの魔力と、自律型システムの組み合わせで難易度が変更できる仕様だと、ダンジョンマスター本人が言っていた。あの二人が地下迷宮に居ない今なら、比較的安全に確認が取れる筈だ」
「ふむ」
そのダンジョンマスターが、ここしばらくトーリボルの街の復旧に尽力していた──そして、冒険者ギルドへ惨状と復旧の手配を依頼した──『アルター』と名乗る魔術師で、それがフェンティセーザの弟子という奇妙な巡り合わせに、フォスタンドの好奇心がまた頭をもたげる。
『アルター』とは、冒険稼業の魔術師にはありふれた名前だ──様々な理由から、本名を伏せたい者が名乗る、という意味で。
他の職にもそういった『通り名』ならぬ『通り偽名』があり、例えば男の戦士の「ジョン・ドゥ」や女君主の「トゥーリーン」などがそれらに当たる。
吟遊詩人達が謳う流行りの詩の登場人物からが多い様だ。
もとい。
冒険者ギルドに冒険者として登録するには、あれば称号と本名を登録する義務があるし、場合によってはそれを元に調査される事もあるが、余程後ろめたい理由が無い限りはそれ以上の余計な詮索はされないし外部の介入からも守られている。
旅の空の元、根無草の身分保証の権利であり、恩恵なのだ。
「今回の再起動で、余計な出入口が増えてないかは特に確認して欲しい」
「確か『試練場』地下十階の最奥の玄室が、『地下宝物庫』の正式な入口だったな」
数日前にフェンティセーザが持ってきた弟子の資料に目を通していたので、余計な所に触るのが命取りなのは充分理解の範疇だ。
「うむ。もしかしたら、魔力だけは地下迷宮起動時に回っているのでね、召喚陣からモンスターが召喚されている可能性もある。装備は怠らない様にともきつく言含めて欲しい」
それと、と前置きをして
「新たに『学府』から人員が派遣される手筈が整った。到着次第、ソレに引き継ぐので、引き継いだら挨拶に連れてこよう」
「引き継ぐ?まさか潜るつもりか?」
「ああ、こういったのは『現地探索』あってのものなのでな」
「なら、先に拠点登録の紙だけ書いていくか?」
地下迷宮に潜るには、探索拠点が必要だ。
『ギルド』に所属を認められるという事は、『ギルド』を保証媒体とした一種の身分証明でもある。家どころか宿すらないならず者を『冒険者』の枠組みに入れるほど、ギルドは懐深くは無い。
「拠点登録だが、7~8人位がまとめて住める様な建物は無かろうか?」
「『学府』の施設じゃ駄目なのか?」
「駄目だな……駄目だ。できれば一軒家が欲しい」
「町外れに、パーティで駐留用の、そこそこ広い敷地が残っていたはずだ。ギルド名義で押さえてあるから手続きは自分でやってくれ」
「助かる」
フェンティセーザが拠点登録の申請用紙に記入している間、フォスタンドが事務員に指示を出す。すぐさま事務員が動いた。
フェンティセーザ・スリスファーゼ
の下に書き込まれた登録名──
『フェンティス』
その名を見て、フォスタンドが驚いた表情を見せる
「なぁもしかして…」
ひそひそと、声をひそめて、
「あんた、もしかして『スリスファーゼの双子』か?」
「…できれば伏せておいてくれ」
その返事で、彼が一軒家を求めた理由がなんとなく分かってしまった。
──フォスタンドがまだ小さかった頃に、街で吟遊詩人達がこぞって謳った詩がある。
後に『姫騎士』と称される、人間の戦士トゥーリーンとハーフフットの絡繰士(盗賊)の従者ハロド、ドワーフの戦士にして鍛冶屋のギムリと酒呑み友達で敬虔なるノームの破戒僧マネラ、遠い時を超えて一族の宝を探しに来た二人のエルフ──『スリスファーゼの双子』が織りなす『アーマラットの呪いの迷宮』の冒険譚だ。
今は封印され監視下にあるものの『アーマラットの呪いの迷宮』自体が実在している以上、その冒険譚も全てが作り物ではないはずだが……
「…あの冒険譚ってさ」
「真実はあれより色々とまあ、酷いぞ」
静かに返された。
ならば偽名でも──とはならないのが、用紙と一緒に差し出した『学府』所属を示すプレートだ。このプレートと、ギルドに登録する名前が一致しないと、当然ながら双方の恩恵が受けられないだけでなく、下手したら身分詐称の罪に問われるのだ。
「ギルド員達には箝口令出しておこう」
「助かる。よろしく頼む。」
迷宮を制覇するほどの冒険者パーティが、拠点にある程度の敷地の広さがある所を希望するのは、様々な理由がある。
かつてフォスタンドの組がそうだった様に、余計な人目や煩わしさを避ける為というのもあれば──どちらかといえば、フェンティセーザ達の場合はもっと深刻な理由であろう。
人物、装備ともに高い知名度は、余計な有象無象を引き寄せかねないのだ。
「他の面子は着き次第そちらに向かわせ…いや、連れて来よう」
「了解した」
「では、依頼と拠点の件は、よろしく頼む」
「拠点は領主様の所に顔を出してくれ」
「分かった」
ではまた、と去っていくエルフを見送った後
「今の全員聞いていたな?」
聞き耳を立てていた、フロアのギルド員達に、ギルドマスターが声を掛ける。
ささっと聞き耳をしまい込むギルド員達に、パン、と一回手を鳴らして注視させると
「今の情報はまだ未確定だから、表に出すなよ」
「了解しました!」
あちらこちらから、バラバラではあったものの、返事が返ってくる。
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