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第1章
現在地、浜辺
しおりを挟む水に慣れた体は、地上に出ると重い。瀬名渚は足を引きずるようにして、砂浜に上がる。勝手にセーブポイントとして利用していた木の根元に近付き、重い体の力を抜いてドサッと身を任せた。
木のそばに適当に転がしていたミネラルウォーターのペットボトルを手に取り、キャップを開ける。口に含むと、さっきまで感じていた海水とは全く違う真水の美味しさにほっとした。一気に半分ほど飲み干して、立ち上がる。転がしていたサンダルを足に引っ掛け、濡れた己の肌に付いた砂を軽く払っていると、甲高い籠った音が聞こえた。
船の汽笛である。一回の長い音――これは恐らく、船が帰ってきた音だろう。水揚げに出ていた船たちが帰ってきたのだ。その音をぼんやりと聞き入っていて、ふと我に帰った。
まずい、今何時だ。
慌てて己のダイバーウォッチを確認する。6時15分。一度帰宅して、シャワーを浴びてから出勤するには余裕で遅刻の時間だ。渚は帰宅することを早々に諦めた。
幸運なことに、職場は目の前に見えているのだ。
急いで立ち上がり、腰掛けていた付近の砂をひっくり返す。不自然に盛り上がった砂を掘り起こすと、そこから出てきたのは密封袋。中には見慣れた自分のスマートフォン。
電源を付けると、通知が流れ込んでくる。不在通知が12件にメッセージ通知が56件。全て同じ相手。チッ、と小さく舌打ちした瞬間、また電話が掛かってきた。
電源を切るのは簡単だ。だが、今日一日この調子で掛けられ続けるのは面倒臭いし、スマホの充電が保たない。仕方なく、通話ボタンを押した。
「……何」
『ッな、なぎさか!?』
「俺以外誰が電話に出んだよ。――お前じゃあるまいし」
『わ、悪かった、そんなつもりじゃ……』
言い訳を並べる相手に、はあ、と溜め息しか出ない。
「二度と掛けてくんな。お前とは、これまでも、これからも、金輪際、関わりたくねえから」
『おい!なぎ』
何か喚いていたが、切ってやった。まあ言いたいことははっきり大きな声で言ってやったんだから、聞こえていただろう。手元のスマホが再度ブルブルと震える。また舌打ちして、今度こそ電源を落とした。
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