水の庭にて

遠海

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第2章

中条俊希とは(中条視点)

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 大学の時、就職に困らないようにと取った単位だったのだ。教員免許があれば履歴書にも書けるし、人に教えることも嫌いじゃなかったし。だから教育実習生として高校へ通っている時、社会科見学が重なってそこへ行ったのは本当に偶然だったのだ。俺が教育実習で行った高校は珍しいことに水産科があり、その繋がりでわざわざ畠中まで水族館と漁港へ行くことになった。
 水族館に行ったことがないわけではなかった。ただ、畠中港水族館は初めてだっただけ。俺は割と都会育ちで、新しくできた大きな水族館などにはよく行っていたのだ。幼い頃に連れて行ってもらったりだとか、定番のデートスポットだから、なんて理由で。
 でも水産科の学習として行く水族館は目新しく、面白かった。バックヤードツアーだったり、餌やりなんかもさせてもらった。漁港にも行って、初めてその時にアカナマコも食べた。その場で切って食べさせてくれたんだ。……誰だっけ?名前は忘れちまったけど、顔はわかるぜ。俺は漁港行くことあんまないから、あの時の人にそれ以来会えてないんだよなあ。え?いや、なんか唐突に出してくれたんだよ。『今朝採れたてだぞ』って。気前のいいおじさんで、組合の偉い人って聞いたんだけど。もういい?知ってるのか?お前顔広いもんなあ。今度教えてくれよ、いい経験させてもらったから挨拶に行きたいな。『気が向いたら』って……。まあいつでもいいけどよぉ。
 えーと、どこまで話したっけ。……そうだ、水族館。本当に驚いたんだ。巨大な海を丸ごと移動させたみたいな大水槽に。すっげえ迫力で。どれがどの魚なのかなんてちっとも分からなかった。ただ、ゆっくり泳ぐジンベイザメとかマダラトビエイとかの大きい魚と、イワシとかアジとかの小さな魚が共生してるのが不思議だった。海が大きいって意識したことなかったけど、こんな一部分の海でもこんなに沢山の魚がいるんだって感動したっけ。生徒の様子も見ずに、じっくり大水槽の周りを歩いた。

 ――その時、俺はその小さな海の中を自由に泳ぐお前を見たんだ。大きな海の中から、真っ直ぐこっちへ向かって泳いでくる人間に驚いて目が離せなかった。しかもその時は酸素ボンベとかつけてなくって、ものすごい軽装備で。ガキっぽいし馬鹿みたいだけど『人魚だ』なんて思った。おい笑うなよ……。

 でも俺は、その人魚にもう一回会いたかったんだ。なんでだろうな、その時は分かんなかったけど、きっと綺麗で純粋で自由に見えたんだ。『就職に有利だから』なんてしょうもない理由で、自分の時間を浪費してた俺が馬鹿みたいに感じてさ。だから内定してた企業を蹴って、水族館を受けた。『同期』?あぁ、嘘じゃねえよ、だって俺がお前を見たのが七月くらいだったかな。その後水族館に内定したのが秋くらいだから。実質同期だろ。……まぁ、働き始めたのは四月だけど、そんな細かいこと言うなって。だってお前、同期だからって理由くらいないと話しかけても警戒すんじゃん。……俺はお前を――

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