文字の大きさ
大
中
小
2 / 26
【一】-1 死に戻った剣豪、ポンコツ剣士になる
【一】
二周目なら、全て斬れると確信していた。
現実は、ノーマンの右腕では、ケダモノ一匹さえ剣で斬り伏せられない。
鳥も飛ばなくなって久しい空。
乾いた風がどこまでも吹き抜ける。
「来てくださったんですね!」
生き残りの行商人達が荷物をありったけかき集めて、
護衛や同業の亡骸を飛び越えて、
こちらへ駆けてくる。
「大きく動くな。奴らは動く者を優先する」
ノーマンの警告を聞かない。
「銃器も何も通用しないんですよ!
もう終わりだと思っていました。感謝します!」
それだけ捲し立てると去っていく。
「金をケチったな」
哀れな犠牲者達だと、ノーマンは思った。
野盗退治なら問題ないマシンガンが、半ばからへし曲がって転がっている。
かつての文明を破壊したケダモノ達。
太古の正式名称は、機獣種(ケダモノ)。
だが今は違う。
滅びかけた獣の骨格を真似、捕食を真似、
激変した世界で、骸となった獣のふりをして生き残った鉄の獣。
骸獣(ケダモノ)。
その呼び名の方が、今ではずっと馴染んでいる。
人間に産み落とされながら、造物主の模倣ではなく、
獣を模倣する生存戦略を取った化物ども。
それが、この時代の災厄だ。
目の前で、犬の骨格をした機械が排熱し、口らしき部分から湯気を吐き出す。
物資の交易のために整備された道、
人が行き交うための道に棲み着いた、鋼鉄の野良犬。
背骨に沿って並ぶ排熱板、喉奥で赤熱する炉心。
その獣の名をストレイナーという。
ケダモノに共通する拳銃もガスも効かない構造と装甲。
そこに野犬の獰猛さと俊敏さが加わっている。
自動車を紙切れ同然に切り裂く爪が地面を蹴り、
大きな顎を開いて飛びかかってきた。
「ハッ!」
身体全体を使って遠心力と速度を載せ、トマホークで叩き伏せる。
「剣豪だった頃が懐かしいな」
忌々しげに舌打ち。
時間を遡った代償だ。
刃物を握れば、得物が手から逃げる、
そんな身体では刃を潰した無骨な鉄塊を振るう他ない。
火花が散って、トマホークの頭部が赤熱化した。
熱と衝撃が、まだ幼くて小さな手に伝わってくる。
「しゅわーーーーーーーーっ」
骸獣は動きを止めない。
怯んだ様子は見せても、
すぐに身を翻してこちらに再度仕掛けてくる。
鋼に強烈に打ち付けた反動だ。
手が痺れ、ビリビリしている。
「剣を振るえればな……!」
舌打ち。
利き腕とはいえ、愛用ではない武器で、
十分な威力を出すのは、この体では不可能だ。
「ありがとう」
再度の攻撃に備えるより先に、
白銀の煌めきが視界の端に映る。
全身の力を抜き、
自分と同じ小さな女の子が最小限の動作で鋼鉄を両断した。
最初から切れ目が機械にあり、
彼女はなぞっただけ。
そう言われたら誰もが信じるほどに、
滑らかな刃の入れ方だった。
「素晴らしい」
ノーマン・ロストは、感嘆の吐息を漏らす。
「俺だけで何とでもなりましたよ」
「私が剣を振りたかったの」
そう言って剣を鞘に収める。
彼女の背後にはすでに五体の骸獣が転がっている。
流石は未来の剣聖殿だ、とノーマンは思った。
齢十三歳でしかないのに、大人の大半を凌駕する剣の腕を持っている。
「じゃあ俺は戦利品を集めますから」
「生き残り……」
「もちろん確認します」
転がっている人々の顔を確認し、
眼球があるかを確かめる。
獣は眼球を主に喰らう。
もしくは、耳だ。
何を求めているのかは知らないが、
犠牲者は乱暴に機械に押し付けられ、
その衝撃で全身が砕け、
そして感覚器官を喰われる仕組みになっている。
つまり、眼球、もしくは耳がないのであれば、
その者は死んでいるという目安になる。
「生存者はゼロ」
折り重なって倒れる恋人か夫婦の死亡を確認し、独りごちる。
生身の肉にこびりついた鉄錆と機械油の粘つく臭い、
抉り取られた眼窩には、機械が強引に齧りついたことで、金属片が零れ落ちている。
「右手のピリピリはどう?」
「うわぁっ!」
突然に、エルシアのシミ一つない白磁の頬がぴたりとくっついてきた。
まるで気づかずに、ノーマンは少年らしい悲鳴をあげてしまう。
「気配を消して顔をくっつけないでください!
失礼だって言いましたよね!」
「ピリピリ」
「平気です!」
「ウソだ」
ぼんやりしているのに、こういう所だけは目敏い。
「ちょっと剣抜いてあげますから、その辺で遊んでてください」
「絶対にウソ」
食い下がるお嬢様の腰元から家宝の剣を抜いて押し付ける。
たちまちエルシアは、手元の剣に意識を奪われていた。
いつものことだった。
「回収作業をします」
返事はない。
彼女が倒した骸獣の残骸を漁る。
どれも貴重な戦利品だ。特に、日用品を修理する部品にも事欠く時代なら。
「これだけあれば家も足も立派にできるか」
領民の住居、それと移動手段。
インフラの整備にも
骸獣(ケダモノ)の体を使う。
「じゃあ、帰りましょうか」
「はい」
二周目なら、全て斬れると確信していた。
現実は、ノーマンの右腕では、ケダモノ一匹さえ剣で斬り伏せられない。
鳥も飛ばなくなって久しい空。
乾いた風がどこまでも吹き抜ける。
「来てくださったんですね!」
生き残りの行商人達が荷物をありったけかき集めて、
護衛や同業の亡骸を飛び越えて、
こちらへ駆けてくる。
「大きく動くな。奴らは動く者を優先する」
ノーマンの警告を聞かない。
「銃器も何も通用しないんですよ!
もう終わりだと思っていました。感謝します!」
それだけ捲し立てると去っていく。
「金をケチったな」
哀れな犠牲者達だと、ノーマンは思った。
野盗退治なら問題ないマシンガンが、半ばからへし曲がって転がっている。
かつての文明を破壊したケダモノ達。
太古の正式名称は、機獣種(ケダモノ)。
だが今は違う。
滅びかけた獣の骨格を真似、捕食を真似、
激変した世界で、骸となった獣のふりをして生き残った鉄の獣。
骸獣(ケダモノ)。
その呼び名の方が、今ではずっと馴染んでいる。
人間に産み落とされながら、造物主の模倣ではなく、
獣を模倣する生存戦略を取った化物ども。
それが、この時代の災厄だ。
目の前で、犬の骨格をした機械が排熱し、口らしき部分から湯気を吐き出す。
物資の交易のために整備された道、
人が行き交うための道に棲み着いた、鋼鉄の野良犬。
背骨に沿って並ぶ排熱板、喉奥で赤熱する炉心。
その獣の名をストレイナーという。
ケダモノに共通する拳銃もガスも効かない構造と装甲。
そこに野犬の獰猛さと俊敏さが加わっている。
自動車を紙切れ同然に切り裂く爪が地面を蹴り、
大きな顎を開いて飛びかかってきた。
「ハッ!」
身体全体を使って遠心力と速度を載せ、トマホークで叩き伏せる。
「剣豪だった頃が懐かしいな」
忌々しげに舌打ち。
時間を遡った代償だ。
刃物を握れば、得物が手から逃げる、
そんな身体では刃を潰した無骨な鉄塊を振るう他ない。
火花が散って、トマホークの頭部が赤熱化した。
熱と衝撃が、まだ幼くて小さな手に伝わってくる。
「しゅわーーーーーーーーっ」
骸獣は動きを止めない。
怯んだ様子は見せても、
すぐに身を翻してこちらに再度仕掛けてくる。
鋼に強烈に打ち付けた反動だ。
手が痺れ、ビリビリしている。
「剣を振るえればな……!」
舌打ち。
利き腕とはいえ、愛用ではない武器で、
十分な威力を出すのは、この体では不可能だ。
「ありがとう」
再度の攻撃に備えるより先に、
白銀の煌めきが視界の端に映る。
全身の力を抜き、
自分と同じ小さな女の子が最小限の動作で鋼鉄を両断した。
最初から切れ目が機械にあり、
彼女はなぞっただけ。
そう言われたら誰もが信じるほどに、
滑らかな刃の入れ方だった。
「素晴らしい」
ノーマン・ロストは、感嘆の吐息を漏らす。
「俺だけで何とでもなりましたよ」
「私が剣を振りたかったの」
そう言って剣を鞘に収める。
彼女の背後にはすでに五体の骸獣が転がっている。
流石は未来の剣聖殿だ、とノーマンは思った。
齢十三歳でしかないのに、大人の大半を凌駕する剣の腕を持っている。
「じゃあ俺は戦利品を集めますから」
「生き残り……」
「もちろん確認します」
転がっている人々の顔を確認し、
眼球があるかを確かめる。
獣は眼球を主に喰らう。
もしくは、耳だ。
何を求めているのかは知らないが、
犠牲者は乱暴に機械に押し付けられ、
その衝撃で全身が砕け、
そして感覚器官を喰われる仕組みになっている。
つまり、眼球、もしくは耳がないのであれば、
その者は死んでいるという目安になる。
「生存者はゼロ」
折り重なって倒れる恋人か夫婦の死亡を確認し、独りごちる。
生身の肉にこびりついた鉄錆と機械油の粘つく臭い、
抉り取られた眼窩には、機械が強引に齧りついたことで、金属片が零れ落ちている。
「右手のピリピリはどう?」
「うわぁっ!」
突然に、エルシアのシミ一つない白磁の頬がぴたりとくっついてきた。
まるで気づかずに、ノーマンは少年らしい悲鳴をあげてしまう。
「気配を消して顔をくっつけないでください!
失礼だって言いましたよね!」
「ピリピリ」
「平気です!」
「ウソだ」
ぼんやりしているのに、こういう所だけは目敏い。
「ちょっと剣抜いてあげますから、その辺で遊んでてください」
「絶対にウソ」
食い下がるお嬢様の腰元から家宝の剣を抜いて押し付ける。
たちまちエルシアは、手元の剣に意識を奪われていた。
いつものことだった。
「回収作業をします」
返事はない。
彼女が倒した骸獣の残骸を漁る。
どれも貴重な戦利品だ。特に、日用品を修理する部品にも事欠く時代なら。
「これだけあれば家も足も立派にできるか」
領民の住居、それと移動手段。
インフラの整備にも
骸獣(ケダモノ)の体を使う。
「じゃあ、帰りましょうか」
「はい」
感想 0
あなたにおすすめの小説
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。
私が王子との結婚式の日に、妹に毒を盛られ、公衆の面前で辱められた。でも今、私は時を戻し、運命を変えに来た。
MayonakaTsuki王子との結婚式の日、私は最も信頼していた人物――自分の妹――に裏切られた。毒を盛られ、公開の場で辱められ、未来の王に拒絶され、私の人生は血と侮辱の中でそこで終わったかのように思えた。しかし、死が私を迎えたとき、不可能なことが起きた――私は同じ回廊で、祭壇の前で目を覚まし、あらゆる涙、嘘、そして一撃の記憶をそのまま覚えていた。今、二度目のチャンスを得た私は、ただ一つの使命を持つ――真実を突き止め、奪われたものを取り戻し、私を破滅させた者たちにその代償を払わせる。もはや、何も以前のままではない。何も許されない。
お二人共、どうぞお幸せに……もう二度と勘違いはしませんから
結城芙由奈@コミカライズ連載中【もう私は必要ありませんよね?】
私には2人の幼なじみがいる。一人は美しくて親切な伯爵令嬢。もう一人は笑顔が素敵で穏やかな伯爵令息。
その一方、私は貴族とは名ばかりのしがない男爵家出身だった。けれど2人は身分差に関係なく私に優しく接してくれるとても大切な存在であり、私は密かに彼に恋していた。
ある日のこと。病弱だった父が亡くなり、家を手放さなければならない
自体に陥る。幼い弟は父の知り合いに引き取られることになったが、私は住む場所を失ってしまう。
そんな矢先、幼なじみの彼に「一生、面倒をみてあげるから家においで」と声をかけられた。まるで夢のような誘いに、私は喜んで彼の元へ身を寄せることになったのだが――
※ 他サイトでも投稿中
途中まで鬱展開続きます(注意)
里帰りをしていたら離婚届が送られてきたので今から様子を見に行ってきます
結城芙由奈@コミカライズ連載中<離婚届?納得いかないので今から内密に帰ります>
政略結婚で2年もの間「白い結婚」を続ける最中、妹の出産祝いで里帰りしていると突然届いた離婚届。あまりに理不尽で到底受け入れられないので内緒で帰ってみた結果・・・?
※「カクヨム」「小説家になろう」にも投稿しています
宮女、危うきに近寄らず 〜偉大なる下級宮女の成り上がり〜
いぬがみとうま🐾華麗なる後宮の片隅。掃部司(かもんし)の下働き宮女、弥宝(ミーパオ)には誰にも言えない秘密があった。
それは、没落した伝説の表具師を父に持ち、壊れた調度品を「修復」することに異常な悦びを感じる変態的な職人気質だ。
ある日、彼女の前に現れたのは、絶世の美形官吏、蒼彗(ツァンフイ)。
彼は弥宝の腕を見抜き、後宮を震撼させる「呪いの肖像画」の修復を命じる。
夜な夜な首筋から血を流すという呪いの絵。
弥宝は、その怪異を「湿度と顔料の物理現象」と切り捨て、鮮やかに解体していく。
だが、剥がされた裏打ち紙の奥に隠されていたのは、現皇帝の地位を揺るがす大逆の証拠だった――。
婚約者の幼馴染?それが何か?
仏白目
タバサは学園で婚約者のリカルドと食堂で昼食をとっていた
「あ〜、リカルドここにいたの?もう、待っててっていったのにぃ〜」
目の前にいる私の事はガン無視である
「マリサ・・・これからはタバサと昼食は一緒にとるから、君は遠慮してくれないか?」
リカルドにそう言われたマリサは
「酷いわ!リカルド!私達あんなに愛し合っていたのに、私を捨てるの?」
ん?愛し合っていた?今聞き捨てならない言葉が・・・
「マリサ!誤解を招くような言い方はやめてくれ!僕たちは幼馴染ってだけだろう?」
「そんな!リカルド酷い!」
マリサはテーブルに突っ伏してワアワア泣き出した、およそ貴族令嬢とは思えない姿を晒している
この騒ぎ自体 とんだ恥晒しだわ
タバサは席を立ち 冷めた目でリカルドを見ると、「この事は父に相談します、お先に失礼しますわ」
「まってくれタバサ!誤解なんだ」
リカルドを置いて、タバサは席を立った
これって政略結婚じゃないんですか? ー彼が指輪をしている理由ー
小田恒子この度、幼馴染とお見合いを経て政略結婚する事になりました。
でも、その彼の左手薬指には、指輪が輝いてます。
もしかして、これは本当に形だけの結婚でしょうか……?
表紙はぱくたそ様のフリー素材、フォントは簡単表紙メーカー様のものを使用しております。
全年齢作品です。
ベリーズカフェ公開日 2022/09/21
アルファポリス公開日 2025/06/19
stellajean公開日 2026/04/19
作品の無断転載はご遠慮ください。