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【五】-2 ボンボン決闘開始
領主の一声。
これには息子の意志も関係ない。
パトリックは突き動かされるように跳び上がって構えた。
「同意ですね? 手袋を投げてください。
無ければなんでもいいから投げていただけますか」
「喰らええ!」
足下の小石を投げられた。
避けるまでもない速さなので、胸で受け止める。
その程度の行動で隙を作れたと思ったのだろう、
ニヤけたパトリックが棍棒を振ってきた。
これは知らなかった。
骸獣のいないエリアで育った彼は、
本来は棍棒を得物にしていたのか。
こちらが避けるだろう方向へ向けて、
ボールを投擲するように腕を撓らせて棍棒を振り下ろしてきた。
踏み込み、体幹、どれも中々のものだ。
鍛え上げれば前のパトリックのように仕上がるかもしれない。
しかし問題は、精神面の器だ。
ノーマンの知る姿が見えないならば、
ここで葬ることも考えなければならない。
尊大な振る舞いをするだけあって、
そこらのモヒカンよりは遥かにやれる。
だが、それだけだ。
本来の、正確にはノーマンの知る彼の強さの足下にも及ばない。
「紙一重で運良く避けたか!」
首だけを動かして相手の攻撃を躱す。
次も、その次も髪の毛一本の距離で避ける。
「その幸運がいつまで続くかな!?」
打ち込むタイミングはいくらでもある。
前の時間でのパトリックは、
自分と並んで先陣を切るに相応しい実力者だった。
本気の手合わせはしなかったが、
二十回もやれば一度は負けただろう。
しかし、今の彼からは、そうなる未来が一切見えない。
「ぜぇ……何でだぁ……!!」
当人視点の幸運とやらが何度も続くせいで、
次第にわかり始めてきたようだ。
どうやっても”紙一重”の差を埋められないくらいに違いがあると。
「貴方に理解できるかはわかりませんが」
両手のトマホークを手の中で回転させ、
慎重に言葉を選ぶ。
刃先を相手の心臓部分に向ける。
「貴方には立派な勇者になれる素質があります。
貴方のお父上がどのような教えをしたかわかりませんが、
それを間違いと認め、変われる強さがあるのですよ」
「知った口を!」
棍棒が目の前を行ったり来たり。
一向に改善が見られない。
……言ってもムダか、そう結論したノーマンは横蹴りを打ち込む。
足刀が鳩尾に入り、くの字に折れた身体。
ちょうどよい高さに下がった頭を、柄で叩く。
それだけで悶絶して蹲った。
もう勝負は決まったか。
溜め息をついて、武器を収めようとする。
「この程度か」
脱力感を覚えて、その場を後にしようとすると、
右足の真横に槍が突き刺さった。
全長2mほどの長槍、
それをグランテイマーが屋敷の窓から
怪力と精度をもって投げたのだ。
「殺せ」
黙って観戦していた者達が、水を打ったように静まり返る。
先程までの沈黙は、ただ口を閉じているだけのものだった。
だが今は違う。身を潜め、息を殺す無音だ。
「貴方の御子息ですよ?
何故、トドメを刺す必要があるのですか」
「我が領土に惰弱はいらぬ。殺せぃ」
領主が親指を下に向ける。
それだけの動きだが、
主に身も心も屈服しきった領民から異音が聴こえ始めた。
「殺せ」
「突き刺せ」
「惰弱を殺せ」
つい五分前は王のように振る舞っていたのが、
死を宣告され、今や民衆にも死ねと囃し立てられる道化か。
これが本当のモヒカンなら、殺すのも問題はない。
だが、ノーマンとしては、
まだこの時間のパトリックの見極めが完了していない。
見込みがないなら、今すぐに首を両断しよう。
しかし、ノーマンの思い出には……。
──ほぉ、エルシア殿の腰巾着か。乱世に身を立てる好機を見たか?
──ごめんなさい……生意気言いました……許して……。
──参謀殿! 部下を集めましたよ。身分問わず、剣豪執事の腕前と泥臭い生き方にトキメク馬鹿揃いです!!
「貴方がこの男を捨てると言うなら、私が──」
その時、蹲るパトリックの喉奥から、泣き声とも笑い声ともつかない音が漏れた。
チク
タク
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