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【六】-1 忍者とは
【六】
──忍者とは、何と心得る?
かつて、師匠にそう問われた。
ノーマンは何も考えていなかった。
ただ、エルシアがあらゆる刃を使いこなす神の才を持っているのだから、
背中が見える位置に食らいつき続けるためには、
忍者がベストだと思った。
リチャードに教えられて以来、
いつかは学ぼうと思っていたものだった。
東の果てまで旅しなければならなかったし、
もうそう簡単には帰れない所に来てしまったが、
ノーマンには確かな当てがあった。
忍者は口寄せで巨大な生き物の力を借りるとされる。
帰りは巨大動物の背中に乗って、素早く安全に戻るつもりだった。
──人間にできることは何でもできるのが忍者、と認識しています。
──合っているが、違う。忍者とは文明の最先端にいるものだ。科学・薬学・運動力学、あらゆる術理を修め、最適解を取るもののことだ。
つまりは、とノーマンは聞いた。
──文明が崩壊した世界に忍者の居場所はない。
──では、御暇いたします。よくこのような黴臭い所に引きこもっていられますね。俺なら生き甲斐のなさに首を吊っています。
──まあ怒るな。文明の力は借りられなくなったが。
──口寄せは?
──無い。
──今すぐ帰らなければ。
──せっかちになるな。忍術にはまだできることがある。己が五体の統べ方、軛の断ち方よ。
機械の躯体に据えられた生身の首。
十五歳の堕落したドラ息子に過ぎなかった
パトリックの変貌、かつての面影の復活。
その異形が、類稀な槍術を繰り出してくる。
「遅い!」
攻撃を避け、音速に匹敵する速度で動く。
千赤忍法・鋼鉄降臨は
人体を鋼鉄の強度にするものだ。
体内の鉄分を集中させ、
呼吸法により、皮膚を硬化させることで、
脆弱な人体を砲弾も通さぬ身体にする。
それにより、通常なら肉体が先に悲鳴を上げる速度でも、
十分に動くことができる。
「なんだあの速さは」
グランテイマーが驚愕した。
だが、これしきではない。
忍法を解放すればもっと先がある。
「奴をこの場で殺せ、息子よ!
でなければ、我が領土に居場所はないと思え!」
「今の息子の変貌に気づいていないのか?」
それとも、ノーマンにしかわからないのか。
「パトリック。俺のことがわかるか」
駄目で元々のつもりで、
決闘相手に話しかけてみた。
相手の表情にも口ぶりにも、ノーマンの知る”戦友”がいたからだ。
もしかして、という望みに似た疑いを確認せずにいられなかった。
「参謀殿。もちろんです。小さくなられましたね」
「もっとデカくなるために一度小さくなることにした」
「エルシア様はオチビさんがタイプとは思えませんけどね」
「俺の方が付き合いが長いんだ。
俺が知らないことをお前が知るわけないだろう」
「近いからこそわからないものですよ」
昔と、正確には前の時間と変わらないやり取り。
あのどうしようもない都市型モヒカンが、
精悍な英霊の覇気を纏っている。
それならば、もう問題はないように思えた。
馬鹿な今のパトリックは、昔の立派なパトリックに取って代わられて終わりだと。
「今のお前がどういう状態で、
槍を収めることができるかわかるか」
「自分はリピートされた模倣体です。
歴史を定められた通りに動かすためのプログラムというやつです」
「なら仕方ないか」
開口一番に槍を突いてきたから望みは薄いと思っていたが、
それでも万が一、億が一に賭けたい気持ちもあった。
だが、ノーマンは知っている。
パトリックは”プログラム”という単語を知るはずがない。
知識と人格をトレースしただけの存在なのだ。
「せっかく代償を払ったのに、と思わないのですね」
「タダでは終わらないとは聞いていた」
懐中時計型の先史文明の遺産。
最も価値あるものと引き換えに願いを叶えるというもの。
だが、それは教訓を齎すためだと言われた。
「どんな願いを叶えても、最後は願った時と同じ状況になるとな」
この場合は、歴史を元に戻そうという動きか。
それが形となって、
こうしてパトリックの姿を取って現れている。
「そこまでご理解いただけるなら、話が早い。
貴方には死んでもらいます」
機械の腕によって槍が旋回し、圧倒的な竜巻が発生した。
近くにいた衛兵が次々に巻き込まれては空に打ち出される。
「旋風眼!」
空気の乱れで対象の動きを止め、
一点集中させた風の奔流が閃光のように迫る。
パトリックの得意技だ。
「ぐあっ!!」
速さだけでは避けきれない。
受け止めようにも、あの技には鋼鉄すら穿つ威力がある。
”あの術”を使うにも、風で体の動きが阻害される。
ここまで再現されるとは。
本物でない以上、技は劣化しているはずだ。
それでも、地力があまりに違う。
左肩に穴が開き、
致命傷じみた衝撃で意識が飛びかける。
焼けるような激痛の中、脳内の全域で警鐘が喚き立てる。
避けられないものとして、死が迫っている。
──忍者とは、何と心得る?
かつて、師匠にそう問われた。
ノーマンは何も考えていなかった。
ただ、エルシアがあらゆる刃を使いこなす神の才を持っているのだから、
背中が見える位置に食らいつき続けるためには、
忍者がベストだと思った。
リチャードに教えられて以来、
いつかは学ぼうと思っていたものだった。
東の果てまで旅しなければならなかったし、
もうそう簡単には帰れない所に来てしまったが、
ノーマンには確かな当てがあった。
忍者は口寄せで巨大な生き物の力を借りるとされる。
帰りは巨大動物の背中に乗って、素早く安全に戻るつもりだった。
──人間にできることは何でもできるのが忍者、と認識しています。
──合っているが、違う。忍者とは文明の最先端にいるものだ。科学・薬学・運動力学、あらゆる術理を修め、最適解を取るもののことだ。
つまりは、とノーマンは聞いた。
──文明が崩壊した世界に忍者の居場所はない。
──では、御暇いたします。よくこのような黴臭い所に引きこもっていられますね。俺なら生き甲斐のなさに首を吊っています。
──まあ怒るな。文明の力は借りられなくなったが。
──口寄せは?
──無い。
──今すぐ帰らなければ。
──せっかちになるな。忍術にはまだできることがある。己が五体の統べ方、軛の断ち方よ。
機械の躯体に据えられた生身の首。
十五歳の堕落したドラ息子に過ぎなかった
パトリックの変貌、かつての面影の復活。
その異形が、類稀な槍術を繰り出してくる。
「遅い!」
攻撃を避け、音速に匹敵する速度で動く。
千赤忍法・鋼鉄降臨は
人体を鋼鉄の強度にするものだ。
体内の鉄分を集中させ、
呼吸法により、皮膚を硬化させることで、
脆弱な人体を砲弾も通さぬ身体にする。
それにより、通常なら肉体が先に悲鳴を上げる速度でも、
十分に動くことができる。
「なんだあの速さは」
グランテイマーが驚愕した。
だが、これしきではない。
忍法を解放すればもっと先がある。
「奴をこの場で殺せ、息子よ!
でなければ、我が領土に居場所はないと思え!」
「今の息子の変貌に気づいていないのか?」
それとも、ノーマンにしかわからないのか。
「パトリック。俺のことがわかるか」
駄目で元々のつもりで、
決闘相手に話しかけてみた。
相手の表情にも口ぶりにも、ノーマンの知る”戦友”がいたからだ。
もしかして、という望みに似た疑いを確認せずにいられなかった。
「参謀殿。もちろんです。小さくなられましたね」
「もっとデカくなるために一度小さくなることにした」
「エルシア様はオチビさんがタイプとは思えませんけどね」
「俺の方が付き合いが長いんだ。
俺が知らないことをお前が知るわけないだろう」
「近いからこそわからないものですよ」
昔と、正確には前の時間と変わらないやり取り。
あのどうしようもない都市型モヒカンが、
精悍な英霊の覇気を纏っている。
それならば、もう問題はないように思えた。
馬鹿な今のパトリックは、昔の立派なパトリックに取って代わられて終わりだと。
「今のお前がどういう状態で、
槍を収めることができるかわかるか」
「自分はリピートされた模倣体です。
歴史を定められた通りに動かすためのプログラムというやつです」
「なら仕方ないか」
開口一番に槍を突いてきたから望みは薄いと思っていたが、
それでも万が一、億が一に賭けたい気持ちもあった。
だが、ノーマンは知っている。
パトリックは”プログラム”という単語を知るはずがない。
知識と人格をトレースしただけの存在なのだ。
「せっかく代償を払ったのに、と思わないのですね」
「タダでは終わらないとは聞いていた」
懐中時計型の先史文明の遺産。
最も価値あるものと引き換えに願いを叶えるというもの。
だが、それは教訓を齎すためだと言われた。
「どんな願いを叶えても、最後は願った時と同じ状況になるとな」
この場合は、歴史を元に戻そうという動きか。
それが形となって、
こうしてパトリックの姿を取って現れている。
「そこまでご理解いただけるなら、話が早い。
貴方には死んでもらいます」
機械の腕によって槍が旋回し、圧倒的な竜巻が発生した。
近くにいた衛兵が次々に巻き込まれては空に打ち出される。
「旋風眼!」
空気の乱れで対象の動きを止め、
一点集中させた風の奔流が閃光のように迫る。
パトリックの得意技だ。
「ぐあっ!!」
速さだけでは避けきれない。
受け止めようにも、あの技には鋼鉄すら穿つ威力がある。
”あの術”を使うにも、風で体の動きが阻害される。
ここまで再現されるとは。
本物でない以上、技は劣化しているはずだ。
それでも、地力があまりに違う。
左肩に穴が開き、
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避けられないものとして、死が迫っている。
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