文字の大きさ
大
中
小
20 / 26
【八】-1 モヒカン軍団
【八】
地名というものは、この時代、全く当てにならない。
共通した知識にならず、
近くに住む者が適当な特徴や逸話から
でっちあげるものだからだ。
「さざめきの丘」という名称と、
地図の目印を頼りに、教えられた場所へ着いた。
小高い山が棘のように立ち並び、
風の音が啜り泣くような、引きつったものになっている。
まるで、何かに怯えているような音だった。
「そろそろモヒカンがいるはずなんだが」
「この子が早く使ってほしいって言ってる」
「干し肉削らせといてくれますか」
エルシアが投げナイフをかちかちと打ち合わせる。
血を求める刃の横で、本人は肉を求めている。
今は素直に干し肉を削って一口サイズに小分けしているが、
このままではぐずりだして、ノーマンにあやすよう強制してきかねない。
「ところでこの服、どう」
鎖鎌の時と同じように、ファッションの感想を求めてきた。
さっきは有耶無耶にできたが、
今回は彼女を焦らしている状態だ。
鎖鎌の時は露出を多くし、
山吹色のバンダナ、ジャケットに、
迷彩のシャツとショートパンツだった。
今は先史文明にあったという
手品師の格好をし、
怪しげな白い付けひげをつけている。
「どう? 可愛い?」
喋るたびに白い口ひげがふごふご動いていた。
相手の顔を見ないようにし、
なんとか他のことで気を引けないかと、モヒカンを探した。
「待ってください。もうすぐモヒカンが……いました!」
山道といっても地面剥き出しの道に、
逆立った髪の連中がいた。
「血を吸いなぁ」
投げナイフを投擲するより先に、
ノーマンがお嬢様の手元から得物を剥ぎ取った。
「様子を見ます。奴らのボスがどこにいるのか知りたいです」
「すぐに終わらせてね」
双眼鏡を取り出し、ノーマンがモヒカンの唇の動きを読む。
一人の男性を囲い込んで脅しつけているようだ。
「お願いだ、見逃してくれ!」
「嫌だなぁ! 身ぐるみ剥いだ後は俺達の娯楽になってもらうぜ!」
「今の流行はザクザク祭りよぉ!」
「ここならギリ死なねえだろって感じに斬って次に回すんだ。
それで死んだ時の番になってる奴の直前に斬った奴が強者なんだ!
やめられねえんだ、止まらねえんだ! スリリングなんだ!」
「まずは右足の爪先をズバッと行くぜ!」
「なんて慎重派な野郎だ!
人間喰う時も骨は吐き出すタイプだ、こいつ!」
「投げていいですよ」
「さっそくザクッと──あれ、斬れてねえ」
「おいおいこいつはウケるぜぇ。
なんでおめえの手がザクッと斬れてんだ」
「そういうお前の首にナイフが突き刺さってるぜ」
「ゴボボボボ」
首に深々とナイフが突き刺さったモヒカンが、
血の濁流に溺れている。
何が起きているのか分かる前に、
モヒカンたちにエルシアの投げたナイフが次から次へと刺さっていく。
「なんだ! 俺達の方がザクザクされてる」
「逃げっ、足ッ、でべえっ!!」
絶命しかけたモヒカンが、最後の力でダイナマイトに火を点けた。
それも、エルシアの投げたナイフが手から弾き飛ばし、
天高く飛んでから爆発した。
エルシアなら導火線をナイフで切断し、爆発を阻止することもできただろう。
しかし、空中で爆発したそれは、
首領級モヒカンを呼び寄せるためのもの。
狙い通りに、地響きを立ててモヒカンの群れがやってきた。
奴らはこの荒野で気配を全く隠そうとしない唯一の生き物だ。
「ヒッ、ヒイイッ!」
「あんた、チニスに戻れ!
追い出されても、今は受け入れられるはずだ」
絡まれた男が脱兎の如く走り去っていく。
骸獣ではなく、モヒカンから逃げるなら、それでいい。
奴らは己の存在感を誇示するために、
居場所と接近が非常に分かりやすい。
つまりは、とにかく安全そうな所へ走れば、
遭遇の危険を抑えられる。
生き物の存在を感じたら、
それがそのままモヒカンである。
巨大な牛の怪物が丘を登ってくる。
それだけならば骸獣と判断しかねないが、
皮膚は布で、その下にはエンジン音が響く。
これはバイクを土台にして工作した、
牛を模した乗り物だ。
その証拠に、背には牛の角を生やした巨漢がいた。
「なんだね、君らミルクどもは。
このモーカギュウの縄張りと知ってのことか」
「チニスの新領主だ。
貴様の命を貰いに来た」
「カーーーウカウカウカウッ!
ミルクな乳臭さだ、ガキどもよ。
これを見ても同じことを言えるかなッ!」
地名というものは、この時代、全く当てにならない。
共通した知識にならず、
近くに住む者が適当な特徴や逸話から
でっちあげるものだからだ。
「さざめきの丘」という名称と、
地図の目印を頼りに、教えられた場所へ着いた。
小高い山が棘のように立ち並び、
風の音が啜り泣くような、引きつったものになっている。
まるで、何かに怯えているような音だった。
「そろそろモヒカンがいるはずなんだが」
「この子が早く使ってほしいって言ってる」
「干し肉削らせといてくれますか」
エルシアが投げナイフをかちかちと打ち合わせる。
血を求める刃の横で、本人は肉を求めている。
今は素直に干し肉を削って一口サイズに小分けしているが、
このままではぐずりだして、ノーマンにあやすよう強制してきかねない。
「ところでこの服、どう」
鎖鎌の時と同じように、ファッションの感想を求めてきた。
さっきは有耶無耶にできたが、
今回は彼女を焦らしている状態だ。
鎖鎌の時は露出を多くし、
山吹色のバンダナ、ジャケットに、
迷彩のシャツとショートパンツだった。
今は先史文明にあったという
手品師の格好をし、
怪しげな白い付けひげをつけている。
「どう? 可愛い?」
喋るたびに白い口ひげがふごふご動いていた。
相手の顔を見ないようにし、
なんとか他のことで気を引けないかと、モヒカンを探した。
「待ってください。もうすぐモヒカンが……いました!」
山道といっても地面剥き出しの道に、
逆立った髪の連中がいた。
「血を吸いなぁ」
投げナイフを投擲するより先に、
ノーマンがお嬢様の手元から得物を剥ぎ取った。
「様子を見ます。奴らのボスがどこにいるのか知りたいです」
「すぐに終わらせてね」
双眼鏡を取り出し、ノーマンがモヒカンの唇の動きを読む。
一人の男性を囲い込んで脅しつけているようだ。
「お願いだ、見逃してくれ!」
「嫌だなぁ! 身ぐるみ剥いだ後は俺達の娯楽になってもらうぜ!」
「今の流行はザクザク祭りよぉ!」
「ここならギリ死なねえだろって感じに斬って次に回すんだ。
それで死んだ時の番になってる奴の直前に斬った奴が強者なんだ!
やめられねえんだ、止まらねえんだ! スリリングなんだ!」
「まずは右足の爪先をズバッと行くぜ!」
「なんて慎重派な野郎だ!
人間喰う時も骨は吐き出すタイプだ、こいつ!」
「投げていいですよ」
「さっそくザクッと──あれ、斬れてねえ」
「おいおいこいつはウケるぜぇ。
なんでおめえの手がザクッと斬れてんだ」
「そういうお前の首にナイフが突き刺さってるぜ」
「ゴボボボボ」
首に深々とナイフが突き刺さったモヒカンが、
血の濁流に溺れている。
何が起きているのか分かる前に、
モヒカンたちにエルシアの投げたナイフが次から次へと刺さっていく。
「なんだ! 俺達の方がザクザクされてる」
「逃げっ、足ッ、でべえっ!!」
絶命しかけたモヒカンが、最後の力でダイナマイトに火を点けた。
それも、エルシアの投げたナイフが手から弾き飛ばし、
天高く飛んでから爆発した。
エルシアなら導火線をナイフで切断し、爆発を阻止することもできただろう。
しかし、空中で爆発したそれは、
首領級モヒカンを呼び寄せるためのもの。
狙い通りに、地響きを立ててモヒカンの群れがやってきた。
奴らはこの荒野で気配を全く隠そうとしない唯一の生き物だ。
「ヒッ、ヒイイッ!」
「あんた、チニスに戻れ!
追い出されても、今は受け入れられるはずだ」
絡まれた男が脱兎の如く走り去っていく。
骸獣ではなく、モヒカンから逃げるなら、それでいい。
奴らは己の存在感を誇示するために、
居場所と接近が非常に分かりやすい。
つまりは、とにかく安全そうな所へ走れば、
遭遇の危険を抑えられる。
生き物の存在を感じたら、
それがそのままモヒカンである。
巨大な牛の怪物が丘を登ってくる。
それだけならば骸獣と判断しかねないが、
皮膚は布で、その下にはエンジン音が響く。
これはバイクを土台にして工作した、
牛を模した乗り物だ。
その証拠に、背には牛の角を生やした巨漢がいた。
「なんだね、君らミルクどもは。
このモーカギュウの縄張りと知ってのことか」
「チニスの新領主だ。
貴様の命を貰いに来た」
「カーーーウカウカウカウッ!
ミルクな乳臭さだ、ガキどもよ。
これを見ても同じことを言えるかなッ!」
感想 0
あなたにおすすめの小説
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。
私が王子との結婚式の日に、妹に毒を盛られ、公衆の面前で辱められた。でも今、私は時を戻し、運命を変えに来た。
MayonakaTsuki王子との結婚式の日、私は最も信頼していた人物――自分の妹――に裏切られた。毒を盛られ、公開の場で辱められ、未来の王に拒絶され、私の人生は血と侮辱の中でそこで終わったかのように思えた。しかし、死が私を迎えたとき、不可能なことが起きた――私は同じ回廊で、祭壇の前で目を覚まし、あらゆる涙、嘘、そして一撃の記憶をそのまま覚えていた。今、二度目のチャンスを得た私は、ただ一つの使命を持つ――真実を突き止め、奪われたものを取り戻し、私を破滅させた者たちにその代償を払わせる。もはや、何も以前のままではない。何も許されない。
お二人共、どうぞお幸せに……もう二度と勘違いはしませんから
結城芙由奈@コミカライズ連載中【もう私は必要ありませんよね?】
私には2人の幼なじみがいる。一人は美しくて親切な伯爵令嬢。もう一人は笑顔が素敵で穏やかな伯爵令息。
その一方、私は貴族とは名ばかりのしがない男爵家出身だった。けれど2人は身分差に関係なく私に優しく接してくれるとても大切な存在であり、私は密かに彼に恋していた。
ある日のこと。病弱だった父が亡くなり、家を手放さなければならない
自体に陥る。幼い弟は父の知り合いに引き取られることになったが、私は住む場所を失ってしまう。
そんな矢先、幼なじみの彼に「一生、面倒をみてあげるから家においで」と声をかけられた。まるで夢のような誘いに、私は喜んで彼の元へ身を寄せることになったのだが――
※ 他サイトでも投稿中
途中まで鬱展開続きます(注意)
里帰りをしていたら離婚届が送られてきたので今から様子を見に行ってきます
結城芙由奈@コミカライズ連載中<離婚届?納得いかないので今から内密に帰ります>
政略結婚で2年もの間「白い結婚」を続ける最中、妹の出産祝いで里帰りしていると突然届いた離婚届。あまりに理不尽で到底受け入れられないので内緒で帰ってみた結果・・・?
※「カクヨム」「小説家になろう」にも投稿しています
婚約者の幼馴染?それが何か?
仏白目
タバサは学園で婚約者のリカルドと食堂で昼食をとっていた
「あ〜、リカルドここにいたの?もう、待っててっていったのにぃ〜」
目の前にいる私の事はガン無視である
「マリサ・・・これからはタバサと昼食は一緒にとるから、君は遠慮してくれないか?」
リカルドにそう言われたマリサは
「酷いわ!リカルド!私達あんなに愛し合っていたのに、私を捨てるの?」
ん?愛し合っていた?今聞き捨てならない言葉が・・・
「マリサ!誤解を招くような言い方はやめてくれ!僕たちは幼馴染ってだけだろう?」
「そんな!リカルド酷い!」
マリサはテーブルに突っ伏してワアワア泣き出した、およそ貴族令嬢とは思えない姿を晒している
この騒ぎ自体 とんだ恥晒しだわ
タバサは席を立ち 冷めた目でリカルドを見ると、「この事は父に相談します、お先に失礼しますわ」
「まってくれタバサ!誤解なんだ」
リカルドを置いて、タバサは席を立った
宮女、危うきに近寄らず 〜偉大なる下級宮女の成り上がり〜
いぬがみとうま🐾華麗なる後宮の片隅。掃部司(かもんし)の下働き宮女、弥宝(ミーパオ)には誰にも言えない秘密があった。
それは、没落した伝説の表具師を父に持ち、壊れた調度品を「修復」することに異常な悦びを感じる変態的な職人気質だ。
ある日、彼女の前に現れたのは、絶世の美形官吏、蒼彗(ツァンフイ)。
彼は弥宝の腕を見抜き、後宮を震撼させる「呪いの肖像画」の修復を命じる。
夜な夜な首筋から血を流すという呪いの絵。
弥宝は、その怪異を「湿度と顔料の物理現象」と切り捨て、鮮やかに解体していく。
だが、剥がされた裏打ち紙の奥に隠されていたのは、現皇帝の地位を揺るがす大逆の証拠だった――。
これって政略結婚じゃないんですか? ー彼が指輪をしている理由ー
小田恒子この度、幼馴染とお見合いを経て政略結婚する事になりました。
でも、その彼の左手薬指には、指輪が輝いてます。
もしかして、これは本当に形だけの結婚でしょうか……?
表紙はぱくたそ様のフリー素材、フォントは簡単表紙メーカー様のものを使用しております。
全年齢作品です。
ベリーズカフェ公開日 2022/09/21
アルファポリス公開日 2025/06/19
stellajean公開日 2026/04/19
作品の無断転載はご遠慮ください。