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2章 Secret Origins
【四】ダサいことを言うなっ
しおりを挟む親友というのは、すぐにできるものではない。
経験を共有し、少しずつ絆が深まっていくものだ。
六川リンと僕の出会いは偶然だったが、
それから頻繁に会うようになった。
たった一キロ先の隣家に住む、ご近所さんだ。
むしろ、これまで活動範囲が重ならなかったことの方が不思議に思えるほどだった。
人間関係というのは、一度歩み寄ると、
急に距離が縮まることが多い。
僕たちの関係も、まさにそうだった。
晴れの日も、雨の日も、
僕はリンの後をついて歩いた。
女の体を持った男性である彼は、
何もない、自然豊かな秋田で、
特別なものを探し続けていた。
「今日は、このエリアで熊が異常に活発化している理由を探すぞ」
「餌がないとか?」
人が切り分けて作った道から、
獣が通る道へと入っていく。
青々とした緑の匂いが強まる方へ、
茂みが深くなる方へと進んだ。
道を掻き分けながら、リンが言う。
「つまらないことを言うんじゃないぜ。
熊ってのは、古来より極めて神聖な生き物だ。
この洗練とは程遠い土地のような文化じゃ、熊は人と近い存在だった。
狩りの時は殺すし、向こうが村に来たり、不意に出くわしたら殺される。
肉は生きる糧で、毛皮は生命をつなぐ鎧だ。
熊の中には人間がいて、人間が恵みを与え、人間が恵みを齎す仲間とされてきた」
「それが、熊の活発化とどう関係があるの?」
「大昔は、熊の冬眠なんて概念は知られていなかった。
巣の近くが危険なのは当たり前だな。
冬の間、熊は熊だけが行ける楽園に行っていると信じられていた。
今回は、それを探してみよう」
「おお……!」
熊の王国。
わくわくするネーミングだ。
想像すると、とても可愛らしい光景が思い浮かぶ。
もしかしたら、僕も熊の見た目をした人間なのかもしれない。
「まあ、本当にそんなものがあるわけはないがな。
僕が求めているのは、太古の人間に
そんな発想を持たせるに足る“別の世界”ってやつだ。
火のないところに煙は立たないとも言うだろ?」
ないのか、クマさんの王国。
少しがっかりした。
それはそれとして、リンが特別なものを追い求める姿を見るのは好きだった。
好奇心に瞳を輝かせていると、こちらまでわくわくする。
長い髪を揺らしながら、ぐいぐい進んでいく様子は爽快だった。
「熊の活動が異常に活発化しているのは事実なんだ。
最悪、僕の熊語翻訳アプリで、熊本人から話を聞くのもいい」
彼女が作った世紀の発明品。
これによって、世界中から莫大な金が洪水のように毎日流れ込んでいるらしい。
もとは僕の発明の尻拭いで作ったものに過ぎないのに、
天才というのは、片手間でとんでもないことをやってのける。
「他の発明品は作らないの?」
「金は十分にある。だから、いらない」
「発明で、みんなを豊かにするとかさ!」
「冗談だろ?
どうして馬鹿どもを楽しませるために、
僕が苦労しなきゃいけないんだ。
自分でやれ、自分で」
あまりにも人を突き放した物言いだった。
己の趣味嗜好を満たすことこそが、世界の最大使命だと信じて疑わない自信。
僕にはまったくないもので、不思議と嫌悪感はなかった。
それどころか、
「本当の天才って、こういうことなのか」と、
物語の英雄(チャンピオン)を目の当たりにしているような感動があった。
「僕は、みんなが幸せになればいいと思うよ」
「ハハッ」
明らかに馬鹿にした笑いだった。
さすがにムッとして、頬を膨らませる。
僕たちは性格も思想も違っていて、
こうした対立は何度もあった。
そして、いつも年上のリンが折れてくれた。
「……笑うごどねべっだ」
「わかった。僕が無神経だった。
機嫌を直そう。そろそろ熊の巣だしな」
彼は年上の余裕を見せていたが、
僕もまた、彼を影から守っていた。
実はさっきから、熊が僕たちを狙っていた。
こっそり石を投げて追い払ったり、
彼が見ていない隙に高速移動して、
直接熊を遠ざけたりしていた。
たしかに、熊が多い。
もしかしたら、本当に裏で何かが起きているのかもしれない。
「君にも、本物を見せたいしな」
「なんで?」
「そりゃあ……」
熊の巣──寝床を見つけ、
息を殺して観察する。
聴覚に集中すると、中には熊はいない。
どこかへ行っているようだった。
だが、それはそれとして、
こうして友達と一緒に何かをする時間は、ただ楽しかった。
「いつも付き合わせてるからな。
何か、甲斐のあるものがあった方がいいだろ?」
「えー。僕は一緒に遊べるなら、なんでも楽しいけどなあ」
「ダサいこと言うなっ」
肩を強く揺さぶられ、叱られた。
この日も、結局大した収穫はなかった。
彼は誰よりも賢かったが、
それでも無理なものは無理だった。
今思うと、
彼は僕に良いところを見せたかったのかもしれない。
決裂するまで、僕は彼にとって唯一の親しい人物だったのだから。
そう考えると、
僕はシニスター・セイメイの人間性の根源、
その近くにいられたのだろう。
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