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寝落ちてしまったフィーリアは、一宿の恩を彼らに返す。
第8話 銀貨一枚のすごさ(1)
しおりを挟む「必要ないだろキッチンの掃除なんて。どうせ誰も使わないんだし」
「自分たちで料理を作ったりは?」
「しねぇよそんなの、出来ねぇし。周りからくすねて来たのをそのまま食べる方が楽だろうが」
まぁ確かにそうなのだけれど、料理しないと食べられないようなものはどうするのか。そういうものは頂いてくる対象から外すのかな、なんて考える。
ズカズカと歩いてきたディーダが、昨日と同じ暖炉の前にドカッと座った。今は火をくべていないけれどノインもすぐそばに陣取ったところを見ると、もしかしてそこが定位置なのだろうか。
「おい、お前に銀貨一枚の凄さ、見せてやる」
仏頂面のディーダが振り返って言った。目つきが悪いせいでまるで睨み上げているように見えるけれど、口調の荒々しさに反して空気感は意外にもピリついていない。
「昨日に続いて、今日も豪華な食事だからね」
空いている床をダンダンと鳴らすように叩いたディーダに促されて、そちらに寄って腰を下ろす。
ちょうど三人で円が作れる位置関係だと気が付いたのは、二人からそれぞれ一本ずつ、持っていた串焼きを渡された時である。
こちらの都合も考えず少し無遠慮に突き出された手に少し驚いたが、すぐに二人が仲間に入れたような気持ちになれて、嬉しさが勝りクスリと笑う。
無言のままに串を受け取って、改めて両手を交互に見る。
見た目だけでは、同じ肉のように見える。右手に持ったのはタレ、もう一つは見た目だけだと素焼きに見えるが、何だろう。
「食ってみろ、こっちの方が絶対美味い」
「食べてみなよ、こっちの方が絶対に美味しいから」
二人の声が、綺麗に合わさって私の耳に届いた。互いに互いを見た二人は、あからさまに不満顔だ。
「何言ってんだ! タレが最強に決まってるだろ!」
「塩の美味しさが分からないなんて、人生の八割損してるよね」
「何だと?!」
「何だよ」
顔を突き合わせ言い合う二人に「もしかして先程外でしきりにしていたタレとか塩とかいう話は、これの事を言っていたのだろうか」とふと思い出した。
ご飯の好みで言い合うだなんて、何だかとても可愛らしい。思わず笑ってしまったところで、ディーダはムッと、ノインは片眉を上げて「は?」という顔になる。
「今はちょうど一対一、お前が勝ちを決めるんだからな!」
「責任重大なんだからね?」
彼らの手元を見てみれば、ディーダはタレ、ノインは素焼き風の串をそれぞれ二本ずつ持っている。どうやら彼らはそれぞれに、自分好みの味のを二本ずつ買ってきたらしい。
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