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第三章:オルトガン三兄妹、報告ティータイムに興じる。
第3話 ズルい兄の友人とチョコレートカヌレ(3)
しおりを挟むきっとまた、周りに噂され、探りを入れられる日々が待っているだろう。
せっかく労力を割いてまで、こちらに有利になる形で事を収束させる算段を付けたのに。
「つまりあちらは『他人のふんどしで相撲を取って勝ち星を上げようとしている』という事なんでしょう?」
「『相撲』とはまた面白い例えをするものだ。確か東の方の伝統的なスポーツだったっけ?」
「お兄様」
誤魔化そうとして話を逸らす策に出たキリルだが、まんまと末妹にそんな思考を見透かされて睨まれた。
そんな彼女に、仕方がなく「あぁ、ごめんごめん」と言って、キリルは折れる選択肢を取る。
そして「まぁ」と友人の悪癖を語ってみせた。
「ケントはその……変に勝負所を見極める目が肥えてるというか、要領が良いというか……」
だから仕方がないとでも言いたげな兄に、セシリアは「ムーッ」と頬を膨らませる。
しかし困った笑みを浮かべながらセシリアの好物・チョコレートカヌレを取ってくれる彼を見て、セシリアは「はぁ」とため息をついた。
確かにこれに関しては、キリルに対して怒ったところで何の意味も無い。
結局のところ、これは単なる八つ当たりだ。
しかも、兄に甘える形での。
(……しょうがないか)
セシリアは、差し出されたカヌレに手を伸ばしながら、彼のご機嫌取りに乗ってやる事にした。
……決してそのカヌレが美味しそうだったからではない。
そう、決して。
機嫌を直して好物をもぐもぐとし始めた末妹の様子に、兄はあからさまにホッとした。
そしてここぞとばかりに話の矛先を微修正する。
「どちらにしてもそのお陰で噂の広がりが早いのは確かだし、今頃侯爵はさぞかし腸が煮えくり返っている事だろうね」
キリルのそんな言葉に、マリーシアが「そうですね」と言いながら微笑む。
「侯爵の方も『向こうが謝って来たのでこちらが鷹揚に許したのだ』という主旨の噂話を流してはいるようですが、それを信じる人は限りなく少ないようですね」
口は確かに弧を描いていた。
にも関わらず、何故か恐ろしい雰囲気が醸し出されているのは、きっと目が笑っていないからだろう。
その瞳は明らかに「こちらを貶めようとするなど100年早い」と言っている。
「これについては『劇』での事に加えて、ヘンゼル子爵夫人に巻いた種が芽吹いた結果もあるようですよ」
そう言って、マリーシアは一度自分の喉を紅茶で軽く潤した。
そして持っていたティーカップをソーサーの優雅な手つきで戻してから、両手を机上で重ねて姿勢を正す。
「『どうやら、侯爵が噂の件を全て事実だと認めた上で謝罪したというのが事実らしい』などという対抗噂話を同派閥の人間が実しやかに囁いているのですから、最早『革新派』は」
そこまで言うと、マリーシアは人差し指でコツンッとテーブルを軽く叩いてこう続けた。
「内部分裂状態、ですよ」
その言葉にセシリアは、思わずカヌレを楽しむ手を止めて目を見開いたのだった。
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