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第10話 彼が私を呼んだ理由(わけ)(2)
しおりを挟むそう思って改めて見ると、こちらを見つめてくる馬の優しげでありながら静かな瞳が、まるで訪れる人間を吟味しているかのようである。
馬は軍事利用や荷運びに用いられ勇敢さや純粋な労働力の象徴として見られがちだけど、五代前の国王陛下は自分の馬をあげて『洞察力に優れ、思慮深い生き物だ』と称していたという記録もある。
そう思えば、門番のような印象を受けるこの馬の彫刻は、入室するものの為人を見極め中の者――つまりは領主を守る意味を込めて彫られたものなのかもしれない。
そんな風にまたつい歴史に想いを馳せている間に、ガチャリと扉が開かれた。
清掃が行き届いていながらも、少し乱雑な印象を受ける場所だった。
机には角の揃えられていない紙束が置かれており、黙々と机に向かっているケルビン様の後ろにある大きな窓のカーテンは、引っ張り開けただけで束ねられていない。
おそらく着ていたものを脱いでポイッと置いたのだろう。
応接用のソファーの背もたれに乱雑に掛けられている上着は、そのままにしておくと皺がつきそうだ。
私がよくミアに小言を交じりにフォローされるような事が、彼もできていないという印象を受けた。
私よりも先に室内に入ったジョンが、視界の端でテキパキとそれらを整えていく。
ちょうどいいところまで済んだのだろうか。
目の前の書類から顔を上げたケルビン様が、ペンをペン立てに戻してこちらに目を向けた。
鋭い、切れ長の紺色の瞳。
相変わらず雪のように冷たく……いや、何故かそれに輪をかけて苛立ちのような悔しさのような感情が見て取れる。
少なくとも、マイナスの感情である事には違いない。
わざわざ呼んでおいてそんな目を向けられる意味も心当たりもなくて、私は少し困惑した。
一方彼が「お前」と口を開く。
「ジョンに妙な入れ知恵をしたらしいな」
「入れ知恵?」
「適当な事を言ってジョンに気に入られようとは、小賢しい」
思わず「は?」と思った。
よく分からないが、流石に「小賢しい」とまで言われてニコニコと笑っていられるほど私もバカではない。
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