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隣の国への道中、モフっ子との出会い編
第9話 一人ぼっちの獣人少女
しおりを挟むピルピルと震える彼女の獣耳に、俺は困って眉尻を下げる。
「大丈夫だからそんなに怖がらないで。俺はただ、君の置かれた状況を知って、出来れば君の助けになってあげたいと思っているだけなんだ」
できるだけ怖がらせないように最大限声色を柔らかく、顔を朗らかに作って俺は言う。
この国への人族以外の入国は禁止されている。
国境は全て検問されている為、正規の門からではこの国に入れない筈だ。
それでももしこの国で他種族が見つかったら、その場合は元いた国へと送還……という名の『放り出し』が為される決まりになっている。
しかし、稀に差別主義者に見つかった場合は危害を加えられ、最悪殺されることもあるだろう。
また、この国では一応奴隷制度を禁止しているが、ここは人族の国だ。
法は、基本的に人間に対してしか適用されない。
つまり他種族を国内に引き入れる事は罪になるが、勝手に入ってきた他種族を奴隷のように扱って例えばそれが国にバレたとしても、だ。
その事に対しては特に罰則などは与えられない。
見つかった他種族民が取り上げられ、国外に放り出されるだけなのである。
早い話が、この国は獣人が住むには窮屈過ぎるという事だ。
だって、悪い人族に見つかれば権利無視で好きに扱われてしまうのだから。
「勿論君が『助けなんて必要ない』っていうんなら無理強いはしないよ。でもさっき君は追われていたし、困ってるんじゃないかなと思ってさ」
今の俺は、もう何の権力も持たない人間だ。
しかしだからこそ、もしかしたら俺に出来ることが何かあるかもしれない。
これはただの直感で、何の根拠もないことだけど。
それでも、一人で震えているこの子に出来れば手を貸してあげたいと思った自分の心に俺は、ただ素直でいたかった。
控え目な俺の言葉に促されるように、怯えながらも少女はゆっくりと口を開く。
「……お母さんは『人間に会ったらすぐ逃げなさい。人間はみんなすぐに襲いかかってきて、私達を鍋にして食べちゃうから』って言ってたの」
「そっかぁ」
正直言って、どんなに獣人好きでも嫌いでも、獣人を鍋にするような人間は居ないと思う。
そして多分、彼女の母親もそれは分かっていたんじゃないだろうか。
しかしそれでも、母親はそう言ったのだ。
人間に会ってしまった時、恐怖でも何でも良い。
彼女がすぐに逃げるように。
そこには母親の、人への悪感情が見て取れる。
(もしかしたら、過去に人間にひどい仕打ちを受けたか、受けた人を見たことがあったのかもしれないな)
そんな事を思いながら、俺は朗らかに笑って彼女に言葉を向けた。
「でも俺がもしその気だったら、君はもう食べられちゃってるかな。だってさっき見た通り、俺は君より強いからね」
「……そうかもしれないの」
良かった。
ちょっとは納得してくれたみたいだ。
体の震えも弱まっている。
「君は、お母さん二人なの?」
「二人……だったの。でももう居ない。『ていこく』から逃げてきてここに来るまでの途中で、お母さん死んじゃったの……」
「そっか……」
死んじゃった。
そう言うと同時に耳がシュンっとしてしまう。
何と雄弁な耳なのか。
赤い髪の毛の上に乗っている金色のもふもふ耳だ。
今かなりもふもふしたい誘惑に駆られているが、ここで警戒されたら終わりである。
抑えて、抑えて……。
「じゃぁ君は、今一人っていう事で良いのかな?」
「うんなの……。お母さんが『ニョッキ山』の方に向かって行くのよって言ってたから、そこに向かってる途中なの」
「そうか。君はお母さんの言いつけを守ってるんだね」
遠くに見える山を指差しながら言った彼女に、俺はそう言って相槌を打った。
そして顎に手を当てて、「ふむ」と考えを巡らせる。
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