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第13話 良い眼を持っているというのに。
学校での一件から、1週間後。
私はとある場所に呼び出しを受けていた。
「ご無沙汰しております、王妃様」
場所は王宮、王妃様の私室。
今日は彼女と2人きりのお茶会に招待されたのだ。
「待っていたわ、エリザベート。この前会ったばかりだというのに、何だかとても久しぶりな気がするわね」
コロコロと笑いながらそう言う王妃様に、私はただ「そうですね」とだけ返しておく。
彼女と最後に会ったのは、丁度例の婚約破棄の1週間前。
3週間は経過してるのでそれ程『この前』でもない様に思えるが、そこはまぁ普段の顔を合わせる頻度にもよる。
私がまだ学生という事もあり、実際にあってゆっくりする時間を作るのはそう頻繁に出来ることではない。
大抵短くても1ヶ月おき、長いと2ヶ月空くこともある。
その間は手紙のやり取りで交流を図るのが、2人の間の通例だった。
しかしまぁそれも婚約破棄騒動以降はピタリと途切れてしまっていたので、彼女が久しぶりに感じる気持ちも分からなくはない。
私も実際、似た様な感覚でいる。
「よく来てくれたわね、エリザベート」
そう言いながら、彼女が手で着席を促してくれた。
私はそれに倣いながら、微笑み混じりに言葉を返す。
「勿論ですわ、王妃様。王妃様の御呼びかけに応じるのは、貴族令嬢の勤めですもの」
その言葉は、真正面から解釈すると「王妃様の為なら馳せ参じるのは当たり前です」という、何とも忠誠心溢れる言葉に聞こえる。
しかし、物事をそう真っ直ぐに解釈できるほど、社交場は綺麗な場所ではない。
私は彼女に「貴族令嬢の義務だからここに来たのだ。でなければ来ない」と、そう言ったのだ。
そして王妃様も、きちんとそういう解釈をした。
だから言う。
「あらエリザベート、例え王子の婚約者では無くなったとしても、私にとっては我が子も同じよ?」
「――そんな、恐れ多い事です」
我が子も同じだから気軽に来て良い。
言外にそう言う彼女からは「あら、王妃とのコネクションは貴女にとっても有用な物でしょう?」という気持ちが透けて見えている。
まぁ確かに、世間的には喜ぶべき人脈なのかもしれないが。
(今の私にとっては最早不要よ)
利害関係という物は、両者双方に一定の利が発生しなければ成立しない。
私側にとってのソレが『王妃とのコネクション』であるのと同時に、あちらにとっても『我が公爵家とのパイプ』は大いに利がある。
それを互いに利だと思えている内は良かった。
しかしそう思えなくなった今、私の中にはわざわざ要らない利を受け取ってまで相手に協力する義理は無い。
(そうでなくとも私が殿下に疎まれていたのは、王妃様が事ある毎に私の名前を出して煽っていたからだし)
それによって殿下を奮起させる算段だったのは、分かっている。
が、それが奮起ではなく私への嫉妬と八つ当たりを誘発していた事を、王妃なら知っていた筈だ。
彼が私に侮辱にも似た言葉を投げていた事も。
それが彼の周辺貴族にも心的影響を与えていた事も。
私が生徒会でずっと使い潰されていた事も。
リズリーの事も。
彼女は全て知っていた。
知っていて放置した。
もしかしからそれすらも王族教育の一貫だったのかもしれないが、ならば私は不合格だ。
不合格でいい。
(国母には時としてそんな冷たさも必要だったのです、とか言いそうだけど)
ならばその国母らしく、どうぞ私を捨ておいてください、だ。
少なくとも私は、やった事は適正に評価して欲しい。
家族の場では甘やかしたいし甘やかされたい。
しかし王妃様が、いったいいつそうしてくれたのか。
(自分の子供に苦言の一つも言わない人に、今更「我が子も同じだ」なんて。そんな事言われても、「ふーん?」としか思えない)
それこそが、解き放たれた今の私が思う事だ。
着席したテーブルに、淹れたての紅茶がコトリと置かれた。
それに口を付け、内心で「流石は王族」と賞賛する。
勿論茶葉もいい物を使っているが、それより凄いのはこれを淹れたメイドの腕だ。
王妃様付きのメイドにそういうスキルがある事は、外交をする上でも有利に働く。
(確かこのメイドを側付きに指名したのは、何を隠そう王妃様ご自身だった筈)
流石は「良い目」を持っている。
彼女には、人を見る目も状況を見る目も備わっている。
伊達に国母なんてやっていない。
なのに今、彼女には『私』が見えていない。
逃げたがっている相手を前にまだ本気で「囲い込める」と思っているようなのだから、バカらしいやら、アホらしいやら。
もしかしたらそういう傲慢さえも、王族にとっては一種の武器なのかもしれないけれど。
「先日のパーティーでの一件、さぞ驚いた事でしょう。バカな事をした王子の事を、許してあげてくださいね?」
王妃様が、そう言ってニコリと笑う。
その笑顔には「そのくらいの事は流して当たり前だ」と書いてある。
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