もう私、好きなようにさせていただきますね? 〜とりあえず、元婚約者はコテンパン〜

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第15話 もう『自由』を知ったから。


 しかし私は断固としてする気が無い。

「その件についてはきちんとお断りし、殿下も納得してくださいました。今殿下は、新たなメンバーで頑張っております。そんな所に私が『王妃様の指示を受けて参りました』と言いながら途中参入し簡単に結果を出してしまえば、殿下の評価は一層下がってしまうでしょう」

 もちろん全ては、私がそう言わなければ済む事だ。
 が、婚約者で無い今、あれほどにも拒否していた席に戻るとなればそれなりの理由が必要になる。

 因みに、例えば「心変わりして」とか、そんな薄っぺらい取り繕い方も別に出来なくは無い。
 しかし実際に私がそれをする事は無いだろう。

 「キャスリング公爵家はすぐに言った事を翻す」などという悪評を、まさか立てたい筈が無い。


 そんな私の影の主張に、王妃様は「そうですね」と言葉を続ける。

「しかしならば何故、あの様な場所で生徒会業務の話をしたのか。貴女ならアレを当事者以外に聞かれることのリスクを十分に理解していたでしょうに」

 理解に苦しみます。
 そう言って、彼女はあからさまな落胆を示してみせた。
 
 それは正に私の落ち度を責める言葉である。


 彼女はおそらく「この様な要請を受けるだろう事はそもそも予想できた筈なのにあんな風にやりとりを周りに晒して。自分の失態くらい、自分の手でどうにかするのが道理でしょう?」と言いたいのだ。


 私は、全くその通りだと思う。
 
 やはり、自分の失態は自分でどうにかするべきだ。
 それ故に、この失態を私がどうにかする必要は無い。

「伯爵家の令嬢を正妃に迎えるつもりの殿下があの場で公爵令嬢の私に『側妃になれ』と言ったのも、謹んでお断りした私に対して食い下がり墓穴を掘ったのも、全て殿下が為された事です王妃様」

 そう。
 それはあの場の何人もの人が、その目で直接見た事実である。
 
「私は単に、あの場で公然と爵位的下剋上を起こそうとした殿下に対して抗っただけの事。そしてそれは、この序列社会を守るために必要な措置でもあります」

 普通、公爵家の令嬢と伯爵家の令嬢が妃になるなら、正妃には序列の高い家の令嬢のつける物だ。
 そこに感情は関係ない。
 だってそれこそがこの序列社会で秩序を守る事へと繋がり、それ故にその頂点である王族を守る事にも繋がるのだから。

 
 私は何も、間違った事はしていない。
 確かに私怨がなかったと言えば嘘になる。
 が、それでも胸を張ってそう言える。



 そんな風に思っていると、正面から深いため息が漏れ聞こえてきた。
 見れば、王妃様が紅茶片手に頬杖を突いている。
  
 なるほど、どうやら貴族的な応酬はここまでらしい。

「……ねぇエリザベート」
「はい、王妃様」
「リズリーさんの事はどう思う?」

 さも頭が痛そうに、彼女はそう吐き出した。

 たったそれだけで理解する。
 彼女の中でリズリーは既に不合格なのだ。
 だからここまで私の事を引き止めようとしていたのだ、と。


 王妃様は、既に身分の武装を解いている。
 あえてそうしたのは、私に上辺じゃなく本音を言って欲しいからだろう。
 だから私も、思った事をただ素直に告げる事にする。

「婚約破棄の場で彼女、私に『王族は国民のお手本になるべき存在だ。だから王族こそ愛する者との結婚が望ましい』と言ったのです」
「それはまた……」
「えぇ、彼女は何も理解していません」

 あの時あの場では「言ったところで仕方がないか」と呑み込んだ言葉達を、私は今解放する。

「王族は国民の手本になるべき存在ではなく、国民を統率すべき存在です。そして王族であればこそ、どちらにしても感情よりも国の未来を優先しなければならない。それが分かっていない以上、彼女はこの先王族としては生きにくいでしょう」

 厳密に言えば、そんな生易しいものじゃない。

 その考えを正さぬ限り、周りからは嘲笑を受ける。
 もちろん外交にも出せないので、妃としての役目が果たせず確実に浮く。
 そして幾らそれが息子の最愛の嫁だとしても、成果を出していない娘を王も王妃も庇えない。

 少なくとも孤立するのは目に見えている。

 ……まぁ彼女の場合、婚約者が居る異性に纏わりついた結果、既に国にとって大切な縁を一つぶった斬っている。
 私達が彼女のフォローに回る事は今後絶対にあり得ない。

 それに、学校では彼女はすでに孤立気味になっている。
 そもそも評判が良い方ではなかったが、それでも今回の一件は明らかに『出過ぎた真似』だったのだ。
 同年代にさえ支持されない王妃候補の未来など、真っ暗に決まってる。


 そう続けた私の言葉に、王妃様は「はぁー」とため息を吐いた。

「エリザベート、やはり貴女を手放すのはとても惜しい。ねぇ、今からでも良い。別の王子の婚約者になる気はない? 第5王子なんてちょうど良いと思うのだけれど」

 第5王子。
 そう言われて思い出すのは、2歳下の男の子である。

 知識欲が強く、若くして国に貢献できる規模の研究開発を行なっているその王子は、そこにしか興味がなく王位継承権も低い為に未だ婚約者が1人も居ない。

 昔は一緒に遊んでいたその子は、誰かの為に動けるような心の優しい子だった筈だ。
 今も国に貢献する為の研究に没頭している辺り、その辺はあまり変わっていないのだろう。
 
 第1王子が立派な人なので、次期国王は彼で決まりだ。
 その状態で第3王子の元婚約者だった私には、王位継承権の順位など今更気にすべき事でもない。
 むしろ両者の性格を比較すれば、第5王子の方が余程有料物件だ。

 しかし。

「いいえ、王妃様。私には過ぎたお話です」

 私はもう、王族に続く道は辿らない。
 だって私は、『自由』の味をもう知ってしまったから。

 一度甘い蜜を吸った人間は、その味を決して忘れることは出来ない。
 私は既に、その甘さを知ってしまった。

「私は今後、今まで受けた王族教育を旨に、自分の道を歩いて行きたく存じます」

 強い意志を瞳に宿して私はキッパリそう告げた。

 そんな私を王妃様はしばらくジッと見つめていたが、やがて諦めた様に笑う。

「これ以上押せば、強硬手段に出てきそうね」

 もちろんその通りである。
 それこそ公爵家の力を使って最大限争ってみせるつもりだ。


 まぁしかしとりあえず、その面倒を被る可能性は今去った。
 その成果に満足して、私もフッと微笑んだのだった。


 ~~Fin.
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