ボロ雑巾な伯爵夫人、やっと『家族』を手に入れました。～旦那様から棄てられて、ギブ＆テイクでハートフルな共同生活を始めます2～

二人と一緒に生活すると決めたフィーリアは、お供を連れて街にくり出す。

第15話 野良犬、暴れ犬（２）

　何か言わなければと思うが、そう思えば思うほど言葉が出てこなくて更に焦る。
　嫌な記憶が蘇る。社交界でも何度かこうなり、その度に周りの人は呆れたように、時には迷惑そうにしていた。きっと今回も――。

「何言ってんだい。拾ったって、そんな猫じゃあるまいし」
「というかそれ、古びちゃいるけどドレスだろ。もしかして良いトコのお嬢様……にしてはちょと痩せこけ過ぎてるか？」
「その辺どうなんだい？　ノイン」
「おいババァ！　どうして俺には聞かねぇんだ！」

　彼らはしどろもどろな私を見ても、特に気にした様子はない。
　私に興味を持ってくれたのが嬉しくて、できれば話をしたかった。しかし身の上に関係する話は何もできない。どうしたものかと困っていると、ノインが「さぁ？」と肩をすくめる。

「多分『元家猫の現野良猫』なんじゃない？　まぁ本人が言いたがらないから、別に詮索する気も無いけど」
「気にならないのかい？」
「別に？　ギブ＆テイクができれば十分だよ、ボクは」

　彼の言葉にビックリした。
　ノインが庇うように詮索する必要性を感じないと言ってくれた事ではない。元家猫の現野良猫という形容が、まるで育ちの良さを見透かしているように聞こえたからだ。

　目を見張ると、ふいに薄桃色の瞳と目が合った。
　喜怒哀楽がすぐに目に見えて分かるディーダとは正反対に、彼の目は人を観察する静かな目だ。
　彼の目を見ていると、まるで全てを見透かされているかのような錯覚に陥る。
　いや実際に彼は既に、色々な事を見透かしているのかもしれない。流石に私の素性そのものまでは、まだ彼も知らないだろうけれど。

　バレないようにしなければ。
　バレて彼らに嫌われたくない。特に彼らは、貴族や領主である伯爵家の事を、あまりよく思ってはいないみたいだから。

「それで？　今日は何を買いに来たんだい？」
「さぁな、作るのはこの女だから」
「作るって、もしかして一緒に住んでるのかい？」
「そりゃぁちょうどいい、ちょうどコイツラも野良犬みたいなもんだからな」
「とんだ暴れ犬だけどねぇ」

　言いながら、街の人達が一斉に笑った。
　からかい文句ではあるが、まったく陰険な感じがしない。きっと二人に向ける感情の差なのだろうと、屋敷でレイチェルさんから向けられていたからかい文句を思い出しながら考える。

　ところで、だ。

「あの、何故『犬』なのですか？」