夏だから君を

うづきあお

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《春だけに君と》

【碧人:蕾】

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春。
春万歳って、滅茶苦茶言いたい。
え、何?
付き合ってるよなこれ。
え、付き合ってないの?
だって毎日、毎日毎日、凛が可愛い!

「碧人?」
「え、何」
「いや、なんかさっきから黙りこんでるからさ」
「別に。ちょっと考え事してただけ」

カタンカタンと、急に電車の音が耳に入ってくる。
平静を装いながら窓に目を向けると、ガラスに映った凛がそわそわしながらスマホを手に取った。

「碧人と休日に出かけるのって変な感じ。どこに行こうかな」
「あれ、買い物って言ってなかった?」
「んー、そうなんだけど……」

凛は一万円が入金されている電子マネーの画面をこっちに向けた。

「実はこれ、父さんから。お世話になってる碧人に美味しいもの食べてもらってこいってさ」
「え、そんなの全然いいのに」
「たぶん俺がまた勉強に向き合えて嬉しかったんだと思う。結構悩ませてたみたいだからさ」

少しだけ凛がうつむく。
俺は極力気にしてないように軽く流した。

「そっか。そういう事なら美味しいものお腹いっぱい食べちゃお」
「この金額なら安めに抑えれば二、三回くらいご飯行けそうだよな。どうする?」
「それって三回に分けたら、三回凛と一緒に出かけていいってこと?」

凛は俺と目が合うとパッと顔を逸らした。

「いや、べ、別にいいけど」

……うわ。
意識してる。
凛が意識してる。
これは正月前までにはなかった反応だ。
思わず頬が緩むと、凛が不機嫌になった。

「何ニヤニヤしてるんだよ」
「え、してないよ」
「してる!」

してる。
うん、してる。

「えーと、じゃあ凛の買い物は?」
「一応行こうと思ってる文具店はあるんだけど」
「文具店?あ、そうか。もうすぐ四月だもんな」

凛は新年度を迎える度に必ず文房具を全入れ替えしている。
去年も「一種の願掛けだから」と言っていた。
今思えば、その願いはとても切実なものだったのかもしれない。
少し心配して横目で見たが、凛に浮かんでいるのは憂いではなさそうだ。

「今日は碧人もいるし、なんか楽しく選べそうな気がする」
「そう?じゃあ折角だし俺の趣味で選んでやるよ」
「いや、選ぶのは自分で選ぶけど。碧人に任せたら個性的なの揃いそう」
「まず消しゴムは蛍光イエローかなぁ」
「……やだ」

たわいない話をしながら電車を降りる。
久々に出た都会の空気を味わいながら、俺と凛はぶらぶらと街を歩いた。
だだっ広い文具店で一通り買い揃え、ついでに雑貨屋と本屋も覗いてからレストラン街に出る。
美味しそうなイタリアンもあったが、俺は凛と三回出かける特典を最大限重視してファストフードに入った。

「ほんとにここで良かったのか?」

あまりにも安く済ませた俺に、残りの数千円を持て余した凛がスマホの画面を閉じる。

「全然いい。俺これ好きだし」
「でも、せっかくなのになぁ」
「気合い入れるより気軽に食べられる方がいいじゃん」
「そう?」
「うん」

楽しく腹を満たしていると、通路側から声をかけられた。

「あれ?木崎じゃん。何やってんのこんな所で」

ゴミの乗ったトレーを片付けていたのはクラスメイトの安田と辻本だった。
二人とも去年も同じクラスだったから、勿論凛の事も知っている。

「何だ、またお前ら一緒にいんの?クラス分かれても仲良いな」

辻本に絡まれた凛はジュースを飲みながら二人を見上げた。

「安田と辻本が私服だ」
「当たり前だろ?お前だって私服じゃねぇか」
「なんか新鮮。意外にチャラい」
「へっ。お前は意外もへったくれもなく普通にニットが似合うな。俺の帽子もかぶってみやがれ」

辻本が自分の帽子を凛にかぶせてあそんでいる。
前々からよく見る、二人のじゃれ合いだ。

「木崎?」
「え?あぁ、うん、それで?」

安田が何やら俺に話しかけてくるが、俺の意識は八割辻本と凛に向いた。
何だろう。
去年は気になりつつも極力見てみぬふりが出来たのに、今はそれが出来ない。
馴れ馴れしく凛に触るとか、そこはかとなくやめて欲しいんだけど。
内心不貞腐れながら足を伸ばすと、凛のつま先にちょんと触れた。
偶然当たっただけだが、華奢な肩が僅かに反応する。
それを見た途端ちょっとした悪戯心が湧いた。
傍目には分からないように爪先で凛の足にすり寄ってみる。
凛は変わらず辻本と喋っているが、その動きは少しだけぎこちない。

「じゃあな、木崎、長谷川。また明後日学校で」
「おー」

適当に返事を返すと二人は店を出て行った。
二人きりになると凛が恨みがましげに見てきたが、俺は素知らぬ顔でナゲットを食べ尽くした。
帰り道。
心なしか凛の口数が減った気がする。
まずいな。
怒らせちゃったかも?

「あの、凛……」
「碧人」
「は、はい」

凛は駅の改札口を通り抜け、俺を見ないまま小声で言った。

「ああいうのは、なし」

沢山の人が足早にホームへと流れていく。

「ほんと困るから」

掻き消えそうなほどささやかな苦情と、耳まで真っ赤に染まった顔。
これは……怒っているのではなく困っているようだ。
謝るべきかと構えていた俺は、思わずにっこり笑っていた。

「二人の時はもっとべったりしてるじゃん」
「二人の時はいいけど、外はまた違うだろ」

二人の時はいいんだ、なんて呑気に考えていると凛は躊躇いがちに言った。

「まだ、付き合ってるわけじゃないんだし?」

一拍して、俺の顔がぐわっと熱くなった。
付き合ってない。
‼︎
この二文字の破壊力がなんかやばい!

「あ、碧人電車!電車来てる!ってすごい人だけど!」
「え、次の電車は……駄目だ、結構待つ!」
「じゃあ行こう!」

人の流れについて行き、体を押し込めるように電車に乗る。
満員電車程ではないが、それにしても夕方の下りは人が多い。

「碧人、ちょっとごめん。扉側代わって欲しい」
「ああ、おっけ」

凛は人混みで咳が出たら迷惑になるからといつも気をつけている。
俺は凛と入れ替わると自分の体で人を遮り、凛の周りに僅かなスペースを確保した。

「別にそこまで気を使わなくてもいいよ」

繊細な凛は人に気を使われるのを嫌がる。
だから俺は凛の耳にそっと顔を寄せて、小声で囁いた。

「俺が、誰にも凛を触らせたくないだけ」
「うっ、碧人……!」
「しーっ」
「ひ、人の話聞いてないだろ⁉︎」
「聞いてるよ。、だもんな」

まだ、花は開かない。
でも毎日少しずつ蕾は膨らんでいる気がする。
凛がどんな花を見せてくれるのかとわくわくしてしまう自分は、やっぱり少し意地悪なのかもしれないと思った。
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