夏だから君を

うづきあお

文字の大きさ
31 / 61
《二人の世界》

【碧人:味方】

しおりを挟む
徹底的に、避けられている。
休み時間も放課後も、チャイムと同時に急いで凛の教室に向かうのに、探し人はいつもいない。
長谷川家に寄っても芳恵さんは不在で、凛も絶対居るくせに出てきてはくれなかった。
メッセージに既読は付かず電話も繋がらない。
長年の付き合いの中で、凛にここまで避けられたのは初めてだ。
ショックのあまり目の前でボコボコと吹き出す鍋をぼんやり見下ろしていると、珍しく早く帰ってきた兄がキッチンに顔を出した。

「碧人、鍋吹いてるぞ」
「え?あ、やばっ」

慌てて火を止めコンロをキッチンペーパーで拭う。
どれだけ落ち込んでいても忙しさは俺を離す気がないようだ。
鍋敷きをテーブルのど真ん中に置き、できたての寄せ鍋をドンと置くと、お腹を空かせた家族がわらわらと集まってきた。

「いい匂い、お腹すいたぁ」
緋那ひな、座る前に箸持ってきて」
「えー、みどり兄ちゃん持ってきてよぉ」
「俺は母さん下ろしてくるから」
「ちぇ」
「ひーちゃん、ポン酢はいる?」
「いる!」
「あ、白音しろね!俺の鉢に胡麻だれ入れといて」
「はいはい。あ、碧人、チョーの餌もうやっといたよ。ニコとココも」

長男のみどり、長女の白音しろね、妹の緋那ひな
盆でもないのに、ここまで食卓に揃うのは珍しい。
母の為に皆出来るだけ早く帰るようにしているのだろう。
その母が兄の手を借り食卓まで運ばれて来ると、一同は揃って手を合わせた。

「頂きます」

ニャーンと甘えた返事が足元でくぐもる。
静まったのも束の間。
箸が動き出せばまた賑やかな会話が飛び交った。

「母さん具合はどう?」
「うん、少し動けるようになってきたみたい」
「もぅ、一時はどうなるかと思ったわ。急に休みなんて取れないし、碧人が頑張ってくれてほんと助かった」
「あ、でも碧人、米切れてたぞ、米」
「明日は確か翠と白音がいないのよね?緋那は?」
「リサリサと約束してるから出かけるよ。今週は碧兄が居るんでしょ?」

何度か自分の名が聞こえたが、俺は鉢に移した豆腐をぼんやりと見ていた。
頭の中ではここ最近の冷めた凛ばかりが浮かぶ。
来週末なんて言ってられない。
早く、会いにいかないと。

「あの、さ。明日ってやっぱ誰も手あかないの?」

思わぬ一言だったのだろう。
全員が箸を止めた。

「何だ、何か急ぎの用なのか?」
「私はちょっと無理かな。平日何度か早く帰らせてもらったから穴埋めしないと」
「私だってリサリサと買い物行きたいよ」

俺は白い箸置きに揃えて箸を置き、背筋を伸ばした。

「俺、今付き合ってる人いるんだ」

同じ形と色の目が揃って丸くなる。
俺がこうして宣言するのは初めてだからだ。
それにしてもこうして見ると皆そっくり母親似だな。

「ここ最近ほったらかしになってて、ちょっと怒らせちゃったみたいでさ。だから……」
「えー⁉︎凛ちゃん怒っちゃったの⁉︎って、痛ったぁーい!」

思わず立ち上がりかけた母が二度重ねて絶叫する。
俺は母の口から凛の名が出てきた事に唖然とし、痛がる悲鳴に一人だけ遅れをとった。

「え、な、なんで」
「知ってるわよぉ。私、芳恵ちゃんにずっと前から相談受けてたんだもん。でも碧ちゃんから聞くまでは黙ってようって、いたたた」

母は姉に掴まりながら親指を立てた。

「碧ちゃん。母さんなら平気だから、明日行っておいで」
「いやでもそんな状態で……」
「大丈夫よぉ。寝てるだけだし」

全く大丈夫そうではないし、追い討ちのように猫二匹が棚の本を蹴たてて床にばら撒いている。
兄と姉が困ったように顔を見合わせるのを目にした俺は、やはり家は空けられないと悟った。

「ごめん。やっぱり……」
「あー、もう!行って来なよ碧兄!」

隣からツンとした声が割って入る。
緋那は食事中でも肌身離さぬスマホをテーブルに置き直した。

「ほら、リサリサにはもう断ったから私がいてあげるよ。そのかわり料理なんて出来ないから何か作り置きしてよね!」

反抗期真っ盛りの態度だが、緋那は俺と目が合うとニッと頬を上げた。

「ね、碧兄の彼女ってどんな人?」
「えっ」
「可愛いい?インスタとかやってないの?」

今度は好奇の目が俺に集まる。
だが俺より早く、ふっふっふと不穏な笑いが母の喉から湧きあがった。

「すごく可愛いわよぉ。お兄ちゃんたちなら凛ちゃん見たことあるんじゃない?」
「そんな女の子いたかな?」
「ほら、昔うちにも遊びに来てた長谷川はせがわりんくんよ」

全員の箸が再び止まる。
沈黙の後、爆発的な声が上がった。

「長谷川凛⁉︎あのバスケやたら上手かった目玉クリクリの小僧か⁉︎」
「うっそ!あの小動物みたいな子よね⁉︎」
「え、男の子なの⁉︎碧兄、男の子と付き合ってるの⁉︎最先端か!写真は⁉︎早く!見せて見せて!」

怒涛の勢いにのけ反っていると、母が何故か得意げに手を二度鳴らした。

「はいはい、お鍋も食べないと煮詰まっちゃうわよ。せっかく碧ちゃんが作ってくれたのに。あ、でも乾杯くらいはしましょうか。みんなグラス持ってグラス」
「乾杯って、この水で?」
「いいの!はい、持った?じゃあいくよ?」

緋那が俺の手に無理やりグラスを押し付けたのを確認すると、母はにっこり笑って杯を掲げた。

「碧ちゃん、いつもみんなの為に頑張ってくれてありがとう。今度絶対凛ちゃん連れて来てね。はい、かんぱーい!」
「母さん、その音頭合わせにくい」

兄のツッコミも相まり、ややバラつきながら謎の乾杯が繰り広げられる。
その後も疲労困憊な俺に容赦ない質問攻撃は続いたが、とりあえず明日は絶対凛に会うと決め、今日は久々に早めに寝る事にした。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

BL団地妻-恥じらい新妻、絶頂淫具の罠-

おととななな
BL
タイトル通りです。 楽しんでいただけたら幸いです。

吊るされた少年は惨めな絶頂を繰り返す

五月雨時雨
BL
ブログに掲載した短編です。

[BL]憧れだった初恋相手と偶然再会したら、速攻で抱かれてしまった

ざびえる
BL
エリートリーマン×平凡リーマン モデル事務所で メンズモデルのマネージャーをしている牧野 亮(まきの りょう) 25才 中学時代の初恋相手 高瀬 優璃 (たかせ ゆうり)が 突然現れ、再会した初日に強引に抱かれてしまう。 昔、優璃に嫌われていたとばかり思っていた亮は優璃の本当の気持ちに気付いていき… 夏にピッタリな青春ラブストーリー💕

父親が再婚したことで地獄の日々が始まってしまいましたが……ある日その状況は一変しました。

四季
恋愛
父親が再婚したことで地獄の日々が始まってしまいましたが……ある日その状況は一変しました。

JKメイドはご主人様のオモチャ 命令ひとつで脱がされて、触られて、好きにされて――

のぞみ
恋愛
「今日から、お前は俺のメイドだ。ベッドの上でもな」 高校二年生の蒼井ひなたは、借金に追われた家族の代わりに、ある大富豪の家で住み込みメイドとして働くことに。 そこは、まるでおとぎ話に出てきそうな大きな洋館。 でも、そこで待っていたのは、同じ高校に通うちょっと有名な男の子――完璧だけど性格が超ドSな御曹司、天城 蓮だった。 昼間は生徒会長、夜は…ご主人様? しかも、彼の命令はちょっと普通じゃない。 「掃除だけじゃダメだろ? ご主人様の癒しも、メイドの大事な仕事だろ?」 手を握られるたび、耳元で囁かれるたび、心臓がバクバクする。 なのに、ひなたの体はどんどん反応してしまって…。 怒ったり照れたりしながらも、次第に蓮に惹かれていくひなた。 だけど、彼にはまだ知られていない秘密があって―― 「…ほんとは、ずっと前から、私…」 ただのメイドなんかじゃ終わりたくない。 恋と欲望が交差する、ちょっぴり危険な主従ラブストーリー。

上司、快楽に沈むまで

赤林檎
BL
完璧な男――それが、営業部課長・**榊(さかき)**の社内での評判だった。 冷静沈着、部下にも厳しい。私生活の噂すら立たないほどの隙のなさ。 だが、その“完璧”が崩れる日がくるとは、誰も想像していなかった。 入社三年目の篠原は、榊の直属の部下。 真面目だが強気で、どこか挑発的な笑みを浮かべる青年。 ある夜、取引先とのトラブル対応で二人だけが残ったオフィスで、 篠原は上司に向かって、いつもの穏やかな口調を崩した。「……そんな顔、部下には見せないんですね」 疲労で僅かに緩んだ榊の表情。 その弱さを見逃さず、篠原はデスク越しに距離を詰める。 「強がらなくていいですよ。俺の前では、もう」 指先が榊のネクタイを掴む。 引き寄せられた瞬間、榊の理性は音を立てて崩れた。 拒むことも、許すこともできないまま、 彼は“部下”の手によって、ひとつずつ乱されていく。 言葉で支配され、触れられるたびに、自分の知らなかった感情と快楽を知る。それは、上司としての誇りを壊すほどに甘く、逃れられないほどに深い。 だが、篠原の視線の奥に宿るのは、ただの欲望ではなかった。 そこには、ずっと榊だけを見つめ続けてきた、静かな執着がある。 「俺、前から思ってたんです。  あなたが誰かに“支配される”ところ、きっと綺麗だろうなって」 支配する側だったはずの男が、 支配されることで初めて“生きている”と感じてしまう――。 上司と部下、立場も理性も、すべてが絡み合うオフィスの夜。 秘密の扉を開けた榊は、もう戻れない。 快楽に溺れるその瞬間まで、彼を待つのは破滅か、それとも救いか。 ――これは、ひとりの上司が“愛”という名の支配に沈んでいく物語。

邪神の祭壇へ無垢な筋肉を生贄として捧ぐ

BL
鍛えられた肉体、高潔な魂―― それは選ばれし“供物”の条件。 山奥の男子校「平坂学園」で、新任教師・高尾雄一は静かに歪み始める。 見えない視線、執着する生徒、触れられる肉体。 誇り高き男は、何に屈し、何に縋るのか。 心と肉体が削がれていく“儀式”が、いま始まる。

冤罪で堕とされた最強騎士、狂信的な男たちに包囲される

マンスーン
BL
​王国最強の聖騎士団長から一転、冤罪で生存率0%の懲罰部隊へと叩き落とされたレオン。 泥にまみれてもなお気高く、圧倒的な強さを振るう彼に、狂った執着を抱く男たちが集結する。

処理中です...