夏だから君を

うづきあお

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《再び、夏》

【凛:碧人の家族】

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胸の奥が、熱くじんとした。
正直、碧人の家族に俺がどう思われているのかは少し心配だった。
それだけにこの手放しの歓迎は心揺さぶられるほど嬉しかった。
俺は、碧人と付き合っていてもおかしくなんてないんだ……。
食事が進み、和やかな空気に固さも取れてくる。
お腹も満たされた頃に「ただいま」と明るい声が廊下から聞こえてきた。

「あら、白音だわ」

ワインでご機嫌な碧人の母が迎えに出ると、綺麗なスーツを着こなした女性がリビングに現れ、その後ろから碧人によく似た男の人も入ってきた。

「あれ?兄ちゃんも一緒だったんだ。お帰り」

碧人が立ち上がり、俺の背中に手を添えた。

「知ってると思うけど、凛だよ」

俺もすぐに立ち上がったが、こっちが口を開く前に二人は迫るように距離を詰めてきた。

「わぁ、いらっしゃい!覚えてるかな?碧人の姉の白音しろねです。こんな可愛い弟が増えるなんて嬉しいわ」
「兄のみどりだ。それにしても昔とあんまり印象変わらないな」
「あ、そうだ。私ケーキ買ってきたの。碧人、お疲れ様だったわね」
「ケーキ⁉︎やったぁ!私はショートケーキが食べたいな!ある⁉︎」
「勿論ひーちゃんのもあるわよ」
「父さんはまだ帰ってないの?」
「九時くらいに帰るって」
「翠、白音、先に着替えてきてご飯食べに来なさいな」

部屋の中は会話で溢れ、俺にはもはや誰が何を喋っているのかさえ分からない。
加えてさっきまで大人しかったオウムが騒ぎ出し、猫二匹がゲージから出せと鳴いている。
あまりの賑やかさにぽかんとしていると、碧人に肘でつつかれた。

「ごめん、もう少しだけ付き合ったら俺の部屋へ避難しよ」
「う、うん……」
「えー⁉︎ダメだよそんなの!私もっと凛さんとお喋りしたい!ねぇ凛さん、こっちのテーブルへ来て来て。ここでケーキ食べようよ」

碧人の妹が自由にしてやったニコを抱え上げ、モフモフの手を使いソファへと手招きする。
碧人はやめさせようとしたが、俺は猫に釣られて席を立った。

「やった、凛さんいい人!」
「あの、俺のことさんづけしなくていいよ」
「じゃあ私も緋那って呼んでね」

人懐っこい笑顔に促されるまま隣に座り、二人でケーキの箱を覗き込む。
俺はごく自然にモンブランを指差した。

「碧人はこれだろ?お皿に入れようか?」
「わぁさすが。碧兄の好きなものよく知ってるね。じゃあ、碧兄に問題!ジャジャン!凛さん……じゃなくて、凛が選ぶケーキはどーれだ!」

碧人はこっちを見もせずにオリーブを一つ摘んだ。

「凛はチョコレートケーキ。それか桃が乗ってるならフルーツタルト」
「なるほど。凛、どう?正解は?」

俺は寸分の狂いもない答えに非常に気まずくなり、顔が熱くなった。

「……あってる」
「うっそ、すごーい!」
「いや、碧人とはただ付き合いが長いからで……」
「凛知らないの?碧兄は誰にでも分け隔てなく優しいけど、その分他人への興味って実はめちゃくちゃ薄いんだよ?人の好みなんてまず覚えてないんだから」

力説されていると、戻ってきた白音さんが面白そうに会話に加わった。

「そうそう、碧人ってそういうところあるよね。自分が決めた範囲だけを深く愛でるというか。逆に凛くんは大変かもねぇ。見てよこのニコとココのツヤツヤの毛並。いつも碧人が丹精込めて手入れしてるのよ」

白音さんは緋那とは反対隣に腰を下ろし、まじまじと俺を見てきた。

「あぁ若い。それにお肌すべすべ。色も白いし私の専属モデルになって欲しいくらいだわ」
「専属モデルって……」
「白姉はメイクアップアーティストなんだよ。確かに凛なら化粧映えしそう!」
「いや、化粧はさすがに」

タジタジになっていると、今度は翠さんが割って入った。

「こら、お前らがっつき過ぎだぞ。凛くんが困ってるじゃないか」
「冗談よ冗談!ほらほら、碧人もそんな怖い顔してないで」
「うわぁ、碧兄ってそんな顔もするんだぁ」

恨めしそうな目をしていた碧人がため息混じりに頭をかく。
いつも人よりひとつ大人な碧人でも、どうやらこのメンバーの前では形無しのようだ。
俺は密かに新鮮な思いで“木崎家の碧人”を見ていた。
それにしても碧人の家族は皆揃って明るい。
緋那はニコと一緒にじゃれるように懐いてくるし、白音さんと碧人母も事あるごとに俺を隣に座らせてはあれこれと話題を振ってくれる。
お酒の入った翠さんまで「まぁ、こっちに座れよ」と自分の隣の椅子をパンパン叩いた。

「それにしても凛ちゃんはほんと可愛いわよねぇ」
「分かる。チーコみたい」
「ハリネズミよりニコの方が似てるよ!」
「いや、案外トカゲじゃないか?ほら、華奢な肩とか」
「やだぁ!翠兄どんな目してんの⁉︎凛が爬虫類なわけないじゃん!」

さすがは生き物を愛でる一家だ。
色々な手が容赦なく撫でてくる。
びっくりはするが、他意のない温かな手に不快感はない。
それから碧人がよく「かわいい」を連発してくることや、撫でる癖がある理由にも納得してしまい、思わず笑みがこぼれた。

「あ、笑った。凛くんが笑った!」
「あぁ動画撮ったらよかった!凛もう一回笑って!」
「母さんは碧ちゃんと凛ちゃんのツーショットが欲しいなぁ」
「みんなやめろって。凛くん、こっちへおいで」
「あ、翠兄ずるい。凛はこっちなの!」

怒涛の勢いに押されていると、後ろから慣れた手に引き寄せられた。

「待って。みんな待って。そろそろ凛返して欲しいんだけど」

騒いでいた一同が揃って目を丸くする。
俺は慌てて背中に感じる重みを押し退けようとしたが、碧人の腕は離そうとしない。

「あ、碧人……!」
「もう我慢の限界。みんな凛に触り過ぎ」

今まで碧人は人前で絶対にこんなことをしなかった。
焦りに比例して体が熱くなったが、周りから聞こえてきたのは冷やかしではなかった。

「ちょっと、あの碧ちゃんが怒ってる……!」
「おぉ、初めて見たかも」
「え、ごめん碧人」
「わぁ、碧兄溺愛……」

四人の反応から見るに、普段から穏やかな碧人は家族の中でも眉をつり上げることは滅多にないようだ。

「悪いけどもう上がっていい?」
「えー、凛連れて行っちゃうの?」

俺を抱えたまま退場しようとする碧人に不満が飛び交ったその時、リビングの扉が内側に開いた。
入ってきた長身の男性は、俺たちを見るなり固まった。

「……修羅場?」

違うよ、碧人の父さん。
初めまして。
うわぁ……。
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