39 / 61
《再び、夏》
【碧人:震えた手】
しおりを挟む
あぁ、最悪だ。
俺の我慢の限界と、父の帰宅がものの見事に重なってしまった。
予備知識ゼロな父は、まだ俺の腕の中にいる凛に目を止め訝しげに眉を寄せた。
「碧人、その子は?」
俺はゆっくり凛を離し、代わりに手を繋いで改めて紹介した。
「俺がいつも仲良くしてもらってる長谷川凛さん。それから、今は正式に付き合ってる」
凛は俺に合わせてぎこちなく頭を下げた。
「こ、こんばんは。初めまして。それから、お邪魔してます」
父は想定外すぎる相手に困惑している。
ずれ落ちそうな眼鏡を押し上げ、固い顔で凛を見下ろした。
「付き合ってるって、君、男の子だよね?」
「……はい」
「君たちが言うのは、世間一般で言うところの男女の付き合いなのか?」
凛の手から動揺が伝わる。
空気は重い。
「父さん、凛は俺が……」
「碧人は黙ってなさい」
俺だけでなく、援護しようとした母たちも父のひと睨みで黙らされる。
繋いだ手は僅かに震えていた。
父の反応はごく普通なのだろう。
先に勘づいていた芳恵さんや母が寛大に受け止めてくれただけで、まだまだ俺たちの関係は周りに受け入れられにくい。
元々同性愛者でもない凛は、殊更にその事実を今全身で感じているはずだ。
俺はもう一度擁護しようとしたが、その前に繋いでいた手がそっと離された。
「俺は、碧人が好きです」
きっぱりとした声が部屋に響く。
凛はこぶしを握ると、父を真っ直ぐに見上げていた。
「男とか女とかじゃなくて、碧人だから好きで、碧人だから大切で、碧人だからそばにいたいだけです」
「それは友だちとしても充分成り立つものではないのかな?」
詰めるように畳み掛けられても、凛は一歩も引かなかった。
「いやです。俺は碧人の、全部が欲しいので」
父の眼鏡が再びずれ落ちると共に、我慢できなくなった母達が一斉に声を上げた。
「ちょっと父さん!初っ端から失礼だし頭固過ぎない⁉︎」
「そうよそうよぉ!可愛い凛ちゃんに何の不満があるのよぉ!」
「やめてあげなよ!みんなの前でそんなこと言わせるなんて凛くんが可哀想じゃない!それに絶対先に手出したの碧人だって!」
「父さん、今の時代は自由恋愛が容認されてるんだぜ」
「ニャー!ニャー!」
「チョット、アンタ、カワイーンダカラ!」
興奮したペット達も交えながら迫る様は凄まじい。
父はさすがにたじろいだ。
「ま、待ちなさい。夜中に騒ぐんじゃない」
持ち直すように咳払いをすると俺に向き直る。
「長谷川くんの気持ちはよく分かったが、碧人も同じなのか?」
俺がはっきり頷くと、父の疲れ切った口元からため息がこぼれ落ちた。
「そうか」
「父さん、あの……」
「もう話すことはない。上へ行きなさい」
父は腕時計を外すとさっさと洗面所へ行ってしまった。
凛と二人で呆然としていると、母が席を立ち俺の肩に手を乗せた。
「部屋へ上がっておいで。誠一さんなら大丈夫、後は母さんたちに任せなさい。凛ちゃんも気にせずゆっくり休んでね」
バラバラ聞こえる「おやすみ」を背に、俺と凛はリビングを追いやられた。
繋いだ手はそのままで階段を上り、自室に入るとすぐに凛を抱きしめる。
「うわっ、ちょ……」
それだけじゃ全然足りなくて、凛をベッドに押し倒し全身で抱き込んだ。
「ごめん、凛」
凛は少し笑うと両手で俺を抱き返した。
「何で謝ってんの?俺なら全然平気だから」
「うん……」
父に立ち向かった凛の言葉が、まだ俺の胸を熱く揺さぶる。
手が離れた時に気がついた。
震えていたのは、俺だった。
だから凛は俺を守る為にあそこまできっぱりと言葉にしたのだろう。
俺が堕としたのに、俺のせいなのに、凛は何の躊躇いもなく自分を盾にした。
こういうところが、本当にかなわないと思う。
階下から途切れることなく聞こえる賑やかな声。
うちには沢山の命と、それから優しさが溢れている。
俺はこの家族が好きだ。
でも、今は扉を閉めて凛の体温だけを感じていたい。
服の下に滑らせた手はペシリとお叱りを受けたけれど、凛は俺が眠りに落ちるまで体を貸し続けてくれた。
俺の我慢の限界と、父の帰宅がものの見事に重なってしまった。
予備知識ゼロな父は、まだ俺の腕の中にいる凛に目を止め訝しげに眉を寄せた。
「碧人、その子は?」
俺はゆっくり凛を離し、代わりに手を繋いで改めて紹介した。
「俺がいつも仲良くしてもらってる長谷川凛さん。それから、今は正式に付き合ってる」
凛は俺に合わせてぎこちなく頭を下げた。
「こ、こんばんは。初めまして。それから、お邪魔してます」
父は想定外すぎる相手に困惑している。
ずれ落ちそうな眼鏡を押し上げ、固い顔で凛を見下ろした。
「付き合ってるって、君、男の子だよね?」
「……はい」
「君たちが言うのは、世間一般で言うところの男女の付き合いなのか?」
凛の手から動揺が伝わる。
空気は重い。
「父さん、凛は俺が……」
「碧人は黙ってなさい」
俺だけでなく、援護しようとした母たちも父のひと睨みで黙らされる。
繋いだ手は僅かに震えていた。
父の反応はごく普通なのだろう。
先に勘づいていた芳恵さんや母が寛大に受け止めてくれただけで、まだまだ俺たちの関係は周りに受け入れられにくい。
元々同性愛者でもない凛は、殊更にその事実を今全身で感じているはずだ。
俺はもう一度擁護しようとしたが、その前に繋いでいた手がそっと離された。
「俺は、碧人が好きです」
きっぱりとした声が部屋に響く。
凛はこぶしを握ると、父を真っ直ぐに見上げていた。
「男とか女とかじゃなくて、碧人だから好きで、碧人だから大切で、碧人だからそばにいたいだけです」
「それは友だちとしても充分成り立つものではないのかな?」
詰めるように畳み掛けられても、凛は一歩も引かなかった。
「いやです。俺は碧人の、全部が欲しいので」
父の眼鏡が再びずれ落ちると共に、我慢できなくなった母達が一斉に声を上げた。
「ちょっと父さん!初っ端から失礼だし頭固過ぎない⁉︎」
「そうよそうよぉ!可愛い凛ちゃんに何の不満があるのよぉ!」
「やめてあげなよ!みんなの前でそんなこと言わせるなんて凛くんが可哀想じゃない!それに絶対先に手出したの碧人だって!」
「父さん、今の時代は自由恋愛が容認されてるんだぜ」
「ニャー!ニャー!」
「チョット、アンタ、カワイーンダカラ!」
興奮したペット達も交えながら迫る様は凄まじい。
父はさすがにたじろいだ。
「ま、待ちなさい。夜中に騒ぐんじゃない」
持ち直すように咳払いをすると俺に向き直る。
「長谷川くんの気持ちはよく分かったが、碧人も同じなのか?」
俺がはっきり頷くと、父の疲れ切った口元からため息がこぼれ落ちた。
「そうか」
「父さん、あの……」
「もう話すことはない。上へ行きなさい」
父は腕時計を外すとさっさと洗面所へ行ってしまった。
凛と二人で呆然としていると、母が席を立ち俺の肩に手を乗せた。
「部屋へ上がっておいで。誠一さんなら大丈夫、後は母さんたちに任せなさい。凛ちゃんも気にせずゆっくり休んでね」
バラバラ聞こえる「おやすみ」を背に、俺と凛はリビングを追いやられた。
繋いだ手はそのままで階段を上り、自室に入るとすぐに凛を抱きしめる。
「うわっ、ちょ……」
それだけじゃ全然足りなくて、凛をベッドに押し倒し全身で抱き込んだ。
「ごめん、凛」
凛は少し笑うと両手で俺を抱き返した。
「何で謝ってんの?俺なら全然平気だから」
「うん……」
父に立ち向かった凛の言葉が、まだ俺の胸を熱く揺さぶる。
手が離れた時に気がついた。
震えていたのは、俺だった。
だから凛は俺を守る為にあそこまできっぱりと言葉にしたのだろう。
俺が堕としたのに、俺のせいなのに、凛は何の躊躇いもなく自分を盾にした。
こういうところが、本当にかなわないと思う。
階下から途切れることなく聞こえる賑やかな声。
うちには沢山の命と、それから優しさが溢れている。
俺はこの家族が好きだ。
でも、今は扉を閉めて凛の体温だけを感じていたい。
服の下に滑らせた手はペシリとお叱りを受けたけれど、凛は俺が眠りに落ちるまで体を貸し続けてくれた。
0
あなたにおすすめの小説
[BL]憧れだった初恋相手と偶然再会したら、速攻で抱かれてしまった
ざびえる
BL
エリートリーマン×平凡リーマン
モデル事務所で
メンズモデルのマネージャーをしている牧野 亮(まきの りょう) 25才
中学時代の初恋相手
高瀬 優璃 (たかせ ゆうり)が
突然現れ、再会した初日に強引に抱かれてしまう。
昔、優璃に嫌われていたとばかり思っていた亮は優璃の本当の気持ちに気付いていき…
夏にピッタリな青春ラブストーリー💕
JKメイドはご主人様のオモチャ 命令ひとつで脱がされて、触られて、好きにされて――
のぞみ
恋愛
「今日から、お前は俺のメイドだ。ベッドの上でもな」
高校二年生の蒼井ひなたは、借金に追われた家族の代わりに、ある大富豪の家で住み込みメイドとして働くことに。
そこは、まるでおとぎ話に出てきそうな大きな洋館。
でも、そこで待っていたのは、同じ高校に通うちょっと有名な男の子――完璧だけど性格が超ドSな御曹司、天城 蓮だった。
昼間は生徒会長、夜は…ご主人様?
しかも、彼の命令はちょっと普通じゃない。
「掃除だけじゃダメだろ? ご主人様の癒しも、メイドの大事な仕事だろ?」
手を握られるたび、耳元で囁かれるたび、心臓がバクバクする。
なのに、ひなたの体はどんどん反応してしまって…。
怒ったり照れたりしながらも、次第に蓮に惹かれていくひなた。
だけど、彼にはまだ知られていない秘密があって――
「…ほんとは、ずっと前から、私…」
ただのメイドなんかじゃ終わりたくない。
恋と欲望が交差する、ちょっぴり危険な主従ラブストーリー。
上司、快楽に沈むまで
赤林檎
BL
完璧な男――それが、営業部課長・**榊(さかき)**の社内での評判だった。
冷静沈着、部下にも厳しい。私生活の噂すら立たないほどの隙のなさ。
だが、その“完璧”が崩れる日がくるとは、誰も想像していなかった。
入社三年目の篠原は、榊の直属の部下。
真面目だが強気で、どこか挑発的な笑みを浮かべる青年。
ある夜、取引先とのトラブル対応で二人だけが残ったオフィスで、
篠原は上司に向かって、いつもの穏やかな口調を崩した。「……そんな顔、部下には見せないんですね」
疲労で僅かに緩んだ榊の表情。
その弱さを見逃さず、篠原はデスク越しに距離を詰める。
「強がらなくていいですよ。俺の前では、もう」
指先が榊のネクタイを掴む。
引き寄せられた瞬間、榊の理性は音を立てて崩れた。
拒むことも、許すこともできないまま、
彼は“部下”の手によって、ひとつずつ乱されていく。
言葉で支配され、触れられるたびに、自分の知らなかった感情と快楽を知る。それは、上司としての誇りを壊すほどに甘く、逃れられないほどに深い。
だが、篠原の視線の奥に宿るのは、ただの欲望ではなかった。
そこには、ずっと榊だけを見つめ続けてきた、静かな執着がある。
「俺、前から思ってたんです。
あなたが誰かに“支配される”ところ、きっと綺麗だろうなって」
支配する側だったはずの男が、
支配されることで初めて“生きている”と感じてしまう――。
上司と部下、立場も理性も、すべてが絡み合うオフィスの夜。
秘密の扉を開けた榊は、もう戻れない。
快楽に溺れるその瞬間まで、彼を待つのは破滅か、それとも救いか。
――これは、ひとりの上司が“愛”という名の支配に沈んでいく物語。
邪神の祭壇へ無垢な筋肉を生贄として捧ぐ
零
BL
鍛えられた肉体、高潔な魂――
それは選ばれし“供物”の条件。
山奥の男子校「平坂学園」で、新任教師・高尾雄一は静かに歪み始める。
見えない視線、執着する生徒、触れられる肉体。
誇り高き男は、何に屈し、何に縋るのか。
心と肉体が削がれていく“儀式”が、いま始まる。
冤罪で堕とされた最強騎士、狂信的な男たちに包囲される
マンスーン
BL
王国最強の聖騎士団長から一転、冤罪で生存率0%の懲罰部隊へと叩き落とされたレオン。
泥にまみれてもなお気高く、圧倒的な強さを振るう彼に、狂った執着を抱く男たちが集結する。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる