「君の婚約者、浮気しているよ」と婚約者が代わるたびに教えてくれる親切な元婚約者がいるので、いつになっても結婚が出来ません……。

月密

文字の大きさ
2 / 17

第一話

しおりを挟む


 ある屋敷の中庭の一角に設置されている小さな丸テーブルには、一人分のお茶と焼き菓子が置かれている。
 椅子に座っているストロベリーブロンドの女性は優雅にカップに口を付け読書をしていた。


 空は晴れ渡り、庭の木々が日の光を程よく緩和してくれる。時折り吹く穏やかな風が心地良い。

 ここはロワリエ侯爵家の屋敷であり、侯爵家の長女であるクリスタ・ロワリエは、今日は特別な用事もなく天気も良いので外で読書をする事にした。
 人払いをし一人静かな時間を過ごしていたが、不意に視線を感じ顔を上げた。

「またテディを買収されたんですか」
「人聞きが悪いな。これはただの取り引きだよ」

 テディはロワリエ家の使用人で、クリスタが生まれた時には既に屋敷で働いていた。明るく気さくで働き者だが、困った事に何時も彼に買収されてこうやって中へと入れてしまう。
 彼は本来、出入り禁止になっているのだが……。

「はい、これはクリスタに。今日は特製アップルパイだよ」
「ありがとうございます……」

 そう言って彼は布を被せたバスケットをテーブルに置いた。中からはアップルパイの甘くて良い匂いがする。
 因みにこのアップルパイが今日の買収の品だ。
 テディは甘党なので金品などではなく甘い物の誘惑に負けてしまう。

「お父様に見つかったら叩き出されますよ」
「大丈夫だよ。ここは執務室からは見えないだろう」

 空いている向かい側の椅子に座ると、彼は手際よくクリスタの皿に切り分けられているアップルパイを乗せてくれた。

「はい、あ~んして」
「自分で食べれます。子供扱いしないで下さい」

 フォークで一口にしたアップルパイを口元へと差し出され不満気に彼を見る。だが彼は笑みを浮かべ手を引っ込めるつもりは全くないようだ。
 仕方なくそれを食べると、彼は満足そうに笑った。

 端正な顔、肩までの銀色の髪は一つに縛り、サファイアのように美しい青い瞳の彼はブラッド・ラヴァン。
 クリスタの幼馴染であり元婚約者でもある。
 侯爵家の嫡男で歳は二十二歳、その容姿や肩書き、穏やかな性格から男女問わず人気がある。
 何時も相談に乗ってくれる頼り甲斐のある優しい人だが、少し意地悪な面もあったりする。

 婚約は破談となってしまったが、幼馴染という事もあり未だに交流は続いている。ただ正直、父は良い顔をしない。現に屋敷を出入り禁止にしているくらいだ。

「それで今日はどうされたんですか?」
「あぁ、そうそう。うっかりしていたよ」

 一応用件を訊いてみるが、嫌な予感しかしない。

「君の婚約者、浮気しているよ」
「……」

(やっぱり……)

「あれ、驚かないのかい」
「ブラッド様の意地悪」

 絶対分かっている癖にそんな風に訊いてくる。
 流石に驚く筈もない。何故なら浮気されるのはこれで十八回目であり、歴代の婚約者達との婚約破棄の理由は十中八九これだ。

「一応お聞きしますが、どうやって知ったんですか?」
「偶然君の婚約者と女性が一緒にいる所を見たんだ」
「偶然、ですか?」
「そう偶然だよ」

 こんなやりとりも十八回目だ。
 彼は毎回"偶然"クリスタの婚約者の浮気現場を目撃している。そんなに都合良く居合わせるものだろうか。
 なんだか腑には落ちないが、毎回調べると本当に黒なので嘘を言っている訳ではない。
 それより今回もまた婚約がダメになるかと思うと気が重くなる。父が落胆する姿が目に浮かぶようだ。
 
「そんなに拗ねないでよ」
「別に拗ねてません」
「まあ拗ねてる顔も可愛いから僕は一向に構わないけど」
「だから拗ねてないです! もう茶化さないで下さい」
「はは、ごめん。それより早くロワリエ侯爵に報告しないと。このまま結婚したら大変な事になるよ。もし結婚後に浮気が発覚したら、お相手殺されるんじゃない?」

 冗談のように言っているが、冗談では済まないだろう。父は死ぬほど不貞が嫌いだ。流石に殺す事はあり得ないが、相手の家を潰すくらいはしそうで怖い……。

「ほら、急いで」

 ブラッドに急かされクリスタは席を立った。
 

 
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

父親が再婚したことで地獄の日々が始まってしまいましたが……ある日その状況は一変しました。

四季
恋愛
父親が再婚したことで地獄の日々が始まってしまいましたが……ある日その状況は一変しました。

娼館で元夫と再会しました

無味無臭(不定期更新)
恋愛
公爵家に嫁いですぐ、寡黙な夫と厳格な義父母との関係に悩みホームシックにもなった私は、ついに耐えきれず離縁状を机に置いて嫁ぎ先から逃げ出した。 しかし実家に帰っても、そこに私の居場所はない。 連れ戻されてしまうと危惧した私は、自らの体を売って生計を立てることにした。 「シーク様…」 どうして貴方がここに? 元夫と娼館で再会してしまうなんて、なんという不運なの!

愛する殿下の為に身を引いたのに…なぜかヤンデレ化した殿下に囚われてしまいました

Karamimi
恋愛
公爵令嬢のレティシアは、愛する婚約者で王太子のリアムとの結婚を約1年後に控え、毎日幸せな生活を送っていた。 そんな幸せ絶頂の中、両親が馬車の事故で命を落としてしまう。大好きな両親を失い、悲しみに暮れるレティシアを心配したリアムによって、王宮で生活する事になる。 相変わらず自分を大切にしてくれるリアムによって、少しずつ元気を取り戻していくレティシア。そんな中、たまたま王宮で貴族たちが話をしているのを聞いてしまう。その内容と言うのが、そもそもリアムはレティシアの父からの結婚の申し出を断る事が出来ず、仕方なくレティシアと婚約したという事。 トンプソン公爵がいなくなった今、本来婚約する予定だったガルシア侯爵家の、ミランダとの婚約を考えていると言う事。でも心優しいリアムは、その事をレティシアに言い出せずに悩んでいると言う、レティシアにとって衝撃的な内容だった。 あまりのショックに、フラフラと歩くレティシアの目に飛び込んできたのは、楽しそうにお茶をする、リアムとミランダの姿だった。ミランダの髪を優しく撫でるリアムを見た瞬間、先ほど貴族が話していた事が本当だったと理解する。 ずっと自分を支えてくれたリアム。大好きなリアムの為、身を引く事を決意。それと同時に、国を出る準備を始めるレティシア。 そして1ヶ月後、大好きなリアムの為、自ら王宮を後にしたレティシアだったが… 追記:ヒーローが物凄く気持ち悪いです。 今更ですが、閲覧の際はご注意ください。

王子を身籠りました

青の雀
恋愛
婚約者である王太子から、毒を盛って殺そうとした冤罪をかけられ収監されるが、その時すでに王太子の子供を身籠っていたセレンティー。 王太子に黙って、出産するも子供の容姿が王家特有の金髪金眼だった。 再び、王太子が毒を盛られ、死にかけた時、我が子と対面するが…というお話。

敵に貞操を奪われて癒しの力を失うはずだった聖女ですが、なぜか前より漲っています

藤谷 要
恋愛
サルサン国の聖女たちは、隣国に征服される際に自国の王の命で殺されそうになった。ところが、侵略軍将帥のマトルヘル侯爵に助けられた。それから聖女たちは侵略国に仕えるようになったが、一か月後に筆頭聖女だったルミネラは命の恩人の侯爵へ嫁ぐように国王から命じられる。 結婚披露宴では、陛下に側妃として嫁いだ旧サルサン国王女が出席していたが、彼女は侯爵に腕を絡めて「陛下の手がつかなかったら一年後に妻にしてほしい」と頼んでいた。しかも、侯爵はその手を振り払いもしない。 聖女は愛のない交わりで神の加護を失うとされているので、当然白い結婚だと思っていたが、初夜に侯爵のメイアスから体の関係を迫られる。彼は命の恩人だったので、ルミネラはそのまま彼を受け入れた。 侯爵がかつての恋人に似ていたとはいえ、侯爵と孤児だった彼は全く別人。愛のない交わりだったので、当然力を失うと思っていたが、なぜか以前よりも力が漲っていた。 ※全11話 2万字程度の話です。

愛される日は来ないので

豆狸
恋愛
だけど体調を崩して寝込んだ途端、女主人の部屋から物置部屋へ移され、満足に食事ももらえずに死んでいったとき、私は悟ったのです。 ──なにをどんなに頑張ろうと、私がラミレス様に愛される日は来ないのだと。

結婚5年目のお飾り妻は、空のかなたに消えることにした

三崎こはく
恋愛
ラフィーナはカールトン家のお飾り妻だ。 書類上の夫であるジャンからは大量の仕事を押しつけられ、ジャンの愛人であるリリアからは見下され、つらい毎日を送っていた。 ある日、ラフィーナは森の中で傷ついたドラゴンの子どもを拾った。 屋敷に連れ帰って介抱すると、驚いたことにドラゴンは人の言葉をしゃべった。『俺の名前はギドだ!』 ギドとの出会いにより、ラフィーナの生活は少しずつ変わっていく―― ※他サイトにも掲載 ※女性向けHOT1位感謝!7/25完結しました!

好きな人に『その気持ちが迷惑だ』と言われたので、姿を消します【完結済み】

皇 翼
恋愛
「正直、貴女のその気持ちは迷惑なのですよ……この場だから言いますが、既に想い人が居るんです。諦めて頂けませんか?」 「っ――――!!」 「賢い貴女の事だ。地位も身分も財力も何もかもが貴女にとっては高嶺の花だと元々分かっていたのでしょう?そんな感情を持っているだけ時間が無駄だと思いませんか?」 クロエの気持ちなどお構いなしに、言葉は続けられる。既に想い人がいる。気持ちが迷惑。諦めろ。時間の無駄。彼は止まらず話し続ける。彼が口を開く度に、まるで弾丸のように心を抉っていった。 ****** ・執筆時間空けてしまった間に途中過程が気に食わなくなったので、設定などを少し変えて改稿しています。

処理中です...