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42話 ノエル様のお手伝い

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そうして私の半分脅迫のような説得により、翌日から私はノエル様の政務を手伝うこととなった。
なったのだが。

「……昨日のことでちょっと顔を合わせずらいと言いますか」
「ごたごた言ってないで早く入ったら?」

私はノエル様の書斎の前で入るか迷っていた。
そんな私をアンナは呆れたような瞳で見つめている。

「で、でも昨日逃げ帰ってしまって、どんな顔で会えばいいか……」
「そんなのノエル様は気にして無いわよ」
「でも……」
「そんなに気になるんなら直接確かめてみたら良いじゃない。もう私は仕事に戻るからね」

アンナは付き合い切れないと仕事に戻って行った。

「アンナさん……」

私は情けない声を上げるがアンナは目もくれずに仕事に戻っていってしまった。
逃げ道が塞がれ向き合わざるを得なくなった私は覚悟を決めることにした。

「ふぅ……」

深呼吸して心を落ち着かせる。
そして扉をノックした。

「ノエル様。リナリアです」
「入ってください」

緊張しながら扉を開けて書斎に入るとノエル様はいつも通りの表情で座っていた。
昨日はかなり疲れていそうな表情をしていたが、一日寝ていたからか顔色もスッキリしている。
そんなノエル様を見て私が最初に感じたのは安堵だった。

「良かったですノエル様。もう快復なされたんですね」
「ええ、あの後しっかりと休んだらすっかり元気になりました。これもリナリアの作ってくれた薬草粥のおかげですね」
「そんなことは……」

私はノエル様がどんな反応をするのかが心配だったが、その心配とは裏腹にノエル様の反応はあっさりとしたものだった。
昨日のことをあまり意識されてないのもこれはこれで何というか言葉にしがたい感情になったが、微妙な雰囲気になるのも避けたかったので、ノエル様のこの態度はありがたかった。

「ノエル様、昨日は申し訳ありませんでした」

私は昨日逃げ帰るようにして部屋に戻ってしまったことを謝る。

「いえ、私は気にしていませんから」
「ありがとうございます」

取り敢えず嫌われた、ということはなさそうだったので私は安堵の息を漏らす。

「それどころか本来は私の方が謝罪しなければならないんです。本当に申し訳ありません」
「ノ、ノエル様!? お顔を上げてください! その、ノエル様が倒れたのは私のせいでもあるのですから……」」

ノエル様が頭を下げてきたので私は慌ててノエル様に顔を上げてもらう。

「これからはリナリアに心配をかけないと誓います」
「これからは大変なものは分かち会いましょう」
「はい」

ノエル様は私の言葉に頷いた。

「じゃあ、私もこの書斎でお仕事を手伝っても構いませんか?」
「えっ」
「寂しいので……駄目ですか?」

私が上目がちに見上げるとノエル様はたじろぐ。

「構いませんが……」
「ありがとうございます!」
「もう好きにしてください……」

私が満面の笑みで感謝の言葉を述べるとノエル様は観念したような表情になった。

「それではリナリアの机はこちらを使ってください」

そう言ってノエル様はノエル様がいつも仕事で使っている机から少し離れたところにある、恐らく軽食と取ったり休憩したりするための丸テーブルを指差した。

「……」

私はその机を見て顎に手を当てながら少し考え込んだ。

「リナリア?」

ノエル様は私のその様子を見て首を傾げる。

「ノエル様、ちょっとこっちを持っていただけますか?」
「はぁ……」

私が机の端を持ち、反対側を指してそう言うとノエル様は不思議そうな顔をしながらも私の言うとおりにしてくれた。

「では少し運びますよ……」

私はノエル様と共に机を持ち上げて移動させる。
そしてピッタリとノエル様の机の前にくっつけた。椅子はノエル様と向かい合わせになるように設置する。

「これでノエル様のお顔をいつでも見ながらお仕事ができますね」

机を向かい合わせにすることで仕事の最中でも身近にノエル様を感じることが出来るし、寂しくならない。
我ながら名案ではないだろうか。

「……」
「ノエル様?」
「いえ、少々動揺してしまいました」

動揺? 何の話だろう。
ノエル様は深呼吸をして心を落ち着かせると机から数枚の紙を取り出し、私に渡した。

「では、こちらをよろしくお願いします。計算に間違いがないか確認してもらえますか?」
「はい」

さっきまでよりも幾分か事務的な話し方になったノエル様に渡された書類を手にとる。
計算間違いのチェックは地味だが一番重要な仕事だ。
私は気合いを入れ直す。
そして一旦机に戻ってざっと上から下へと目を通すと、急いでいたからか計算が間違っている箇所をいくつか発見した。

「ノエル様、こことここが計算が合ってません」

私はノエル様の側まで近寄って計算が間違っているところを指を指して教える。

「え?」

ノエル様がポカンとした顔をしていた。

「も、もう終わったのですか……?」

私は自慢気に胸を張る。

「前に言ったじゃないですか、こういう仕事が得意だって」
「ま、まさかこれ程とは……」
「ふふ、もう少し早く手伝ってもらっていれば、って思いました?」

私は悪戯っぽく笑ってノエル様に質問する。

「……いえ、やはり過去の判断が間違っていたとは思いません。あの時私にとってはリナリアが笑顔でいることが大切でしたから」
「そ、そうですか……」

少し揶揄ってみるつもりが逆にカウンターを喰らって私は赤面する。

「ん? どうかしましたか?」
「いえ……気づいてないなら良いです」

それにノエル様はこうやって私を簡単に赤面させるようなことを平気で言って、しかもその事実に気づいていないのだ。
本当にこういうところはずるいと言うか、駄目だと思う。

「本当にノエル様は……」
「では、次はこちらを──」



それから数日間、私はノエル様の仕事を手伝っていた。
そしてその日も私はノエル様の書斎で仕事を手伝っていたのだが。不意に扉がノックされる。

「どなたで──」

ノエル様が誰が来たのか確認しようとしたが、その前に書斎の扉が開かれる。
私がびっくりしていると書斎の中に二人の夫婦が入ってきた。

「なっ!?」

ノエル様はその二人を見た瞬間、驚愕に目を見開いた。

「父上に母上! なぜ急にこんな所へ!」
「え?」

ノエル様の両親がやってきた。
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