「地味でブサイクな女は嫌いだ」と婚約破棄されたので、地味になるためのメイクを取りたいと思います。

水垣するめ

文字の大きさ
2 / 7

2話

しおりを挟む

「ナタリー、聞いているのかい?」

 さっきから黙って俯いたままの私を不思議に感じたのか、ノーランが怪訝そうに問いかけてきた。

「は、はい! 聞いていますわ!」

 私は顔を上げて答える。
 ノーランは私がショックを受けていないことが気に食わなかったのか、「なんか思っていたのとちがうな……」と呟いた。

 しまった、顔に出てしまった。
 少し抑えないと。

「……まぁいい、とにかく、君との婚約は破棄するよ」

(是非是非! 今すぐ婚約破棄しましょう!)

 私は心のなかでぶんぶん! と勢い良く首を縦に振る。
 しかしそれは表には出さず、少し残念そうな表情を作った。もう遅いかもしれないが。

「はい、分かりました……」

「ではこの書類にサインをしてくれ、そして君の父上からもサインを貰ってきて欲しい。そうしないと婚約を解消出来ないからね」

 ノーランがある紙を私に向かって差し出した。
 そこにはノーランと、ノーランの父の署名が入っている。

(ああ、もどかしいわ。書類の手続きが残ってるなんて)

 私はサインをするとすぐに席から立ち上がった。
 お父様のサインを貰ってきて一刻も早く婚約を解消するためだ。

「では、私はこれで失礼します」

「早くサインを貰ってきてくれよ。早く婚約破棄していのでね」

 ノーランの憎まれ口にも反応を示さず、私は一礼するとすぐに実家へと戻った。
 馬車に乗ると最速で屋敷に戻ってもらうように頼んだ。
 馬車の中でもうずうずとして落ち着かない。
 サインを書いた紙を握りしめ、今か今かとシ屋敷につくのを待っている。

 屋敷につくと、私は真っ先にお父様の部屋へと向かった。

「お父様!」

「な、なんだナタリー!」

 ばん! と扉を勢い良く開けて入った私に、お父様は跳ね上がるほどに驚いていた。

「これ! これにサインしてください!」

「ん? なんだこれは」

「ノーラン様との婚約破棄を同意する紙ですわ!」

「は?」

 お父様は一瞬、ポカンとした表情になった。

「お願いしますお父様! 私、一刻も早く婚約破棄したいんです!」

 私は身を乗り出してお父様に近づいた。
 お父様は近くで大きな声を出されたことにとても迷惑そうな顔になる。

「分かった分かった! サインすればいいだんろう!」

 お父様が紙にサインをした。
 私はそれをすぐに受け取った。

「ありがとうございます! お父様!」

「ああ……」

 お父様は未だに何故婚約破棄をすることになったのかよく理解していないようだったが、「まぁ、本人が喜んで婚約破棄するならいいか」と呟いて納得した。
 私はお父様の部屋から出ると手の中にある紙を抱き締める。

「やった! やったわ!」

 私は喜びをかみしめていたが、すぐにあることを思い出して気分が落ち込む。

(でも、明日これをノーラン様に渡すまでは婚約破棄ではないのよね……)

 私はため息をついた。
 この息苦しい地味メイクから解放されるのは、明日以降になるのだ、ということに絶望しそうになる。

(ん? でも、もう婚約破棄はほとんど完了してるわよね?)

 二人の間では合意がされているし、どうせ明日この紙をノーランに渡したら婚約破棄となるのだ。
 だから、別にもうノーランの指示に従う必要はないのではないだろうか?

(なら、ちょっとだけ先取りしても、問題ないよね……?)
しおりを挟む
感想 48

あなたにおすすめの小説

義母と義妹に虐げられていましたが、陰からじっくり復讐させていただきます〜おしとやか令嬢の裏の顔〜

有賀冬馬
ファンタジー
貴族の令嬢リディアは、父の再婚によりやってきた継母と義妹から、日々いじめと侮蔑を受けていた。 「あら、またそのみすぼらしいドレス? まるで使用人ね」 本当の母は早くに亡くなり、父も病死。残されたのは、冷たい屋敷と陰湿な支配。 けれど、リディアは泣き寝入りする女じゃなかった――。 おしとやかで無力な令嬢を演じながら、彼女はじわじわと仕返しを始める。 貴族社会の裏の裏。人の噂。人間関係。 「ふふ、気づいた時には遅いのよ」 優しげな仮面の下に、冷たい微笑みを宿すリディアの復讐劇が今、始まる。 ざまぁ×恋愛×ファンタジーの三拍子で贈る、スカッと復讐劇! 勧善懲悪が好きな方、読後感すっきりしたい方にオススメです!

『スキルなし』だからと婚約を破棄されましたので、あなたに差し上げたスキルは返してもらいます

七辻ゆゆ
恋愛
「アナエル! 君との婚約を破棄する。もともと我々の婚約には疑問があった。王太子でありスキル『完全結界』を持つこの私が、スキルを持たない君を妻にするなどあり得ないことだ」 「では、そのスキルはお返し頂きます」  殿下の持つスキル『完全結界』は、もともとわたくしが差し上げたものです。いつも、信じてくださいませんでしたね。 (※別の場所で公開していた話を手直ししています)

タダ働きなので待遇改善を求めて抗議したら、精霊達から『破壊神』と怖れられています。

渡里あずま
ファンタジー
出来損ないの聖女・アガタ。 しかし、精霊の加護を持つ新たな聖女が現れて、王子から婚約破棄された時――彼女は、前世(現代)の記憶を取り戻した。 「それなら、今までの報酬を払って貰えますか?」 ※※※ 虐げられていた子が、モフモフしながらやりたいことを探す旅に出る話です。 ※重複投稿作品※ 表紙の使用画像は、AdobeStockのものです。

私の婚約者でも無いのに、婚約破棄とか何事ですか?

狼狼3
恋愛
「お前のような冷たくて愛想の無い女などと結婚出来るものか。もうお前とは絶交……そして、婚約破棄だ。じゃあな、グラッセマロン。」 「いやいや。私もう結婚してますし、貴方誰ですか?」 「俺を知らないだと………?冗談はよしてくれ。お前の愛するカーナトリエだぞ?」 「知らないですよ。……もしかして、夫の友達ですか?夫が帰ってくるまで家使いますか?……」 「だから、お前の夫が俺だって──」 少しずつ日差しが強くなっている頃。 昼食を作ろうと材料を買いに行こうとしたら、婚約者と名乗る人が居ました。 ……誰コイツ。

主人公の恋敵として夫に処刑される王妃として転生した私は夫になる男との結婚を阻止します

白雪の雫
ファンタジー
突然ですが質問です。 あなたは【真実の愛】を信じますか? そう聞かれたら私は『いいえ!』『No!』と答える。 だって・・・そうでしょ? ジュリアーノ王太子の(名目上の)父親である若かりし頃の陛下曰く「私と彼女は真実の愛で結ばれている」という何が何だか訳の分からない理屈で、婚約者だった大臣の姫ではなく平民の女を妃にしたのよ!? それだけではない。 何と平民から王妃になった女は庭師と不倫して不義の子を儲け、その不義の子ことジュリアーノは陛下が側室にも成れない身分の低い女が産んだ息子のユーリアを後宮に入れて妃のように扱っているのよーーーっ!!! 私とジュリアーノの結婚は王太子の後見になって欲しいと陛下から土下座をされてまで請われたもの。 それなのに・・・ジュリアーノは私を後宮の片隅に追いやりユーリアと毎晩「アッー!」をしている。 しかも! ジュリアーノはユーリアと「アッー!」をするにしてもベルフィーネという存在が邪魔という理由だけで、正式な王太子妃である私を車裂きの刑にしやがるのよ!!! マジかーーーっ!!! 前世は腐女子であるが会社では働く女性向けの商品開発に携わっていた私は【夢色の恋人達】というBLゲームの、悪役と位置づけられている王太子妃のベルフィーネに転生していたのよーーーっ!!! 思い付きで書いたので、ガバガバ設定+矛盾がある+ご都合主義。 世界観、建築物や衣装等は古代ギリシャ・ローマ神話、古代バビロニアをベースにしたファンタジー、ベルフィーネの一人称は『私』と書いて『わたくし』です。

護国の聖女、婚約破棄の上、国外追放される。〜もう護らなくていいんですね〜

ココちゃん
恋愛
平民出身と蔑まれつつも、聖女として10年間一人で護国の大結界を維持してきたジルヴァラは、学園の卒業式で、冤罪を理由に第一王子に婚約を破棄され、国外追放されてしまう。 護国の大結界は、聖女が結界の外に出た瞬間、消滅してしまうけれど、王子の新しい婚約者さんが次の聖女だっていうし大丈夫だよね。 がんばれ。 …テンプレ聖女モノです。

初対面の婚約者に『ブス』と言われた令嬢です。

甘寧
恋愛
「お前は抱けるブスだな」 「はぁぁぁぁ!!??」 親の決めた婚約者と初めての顔合わせで第一声で言われた言葉。 そうですかそうですか、私は抱けるブスなんですね…… って!!こんな奴が婚約者なんて冗談じゃない!! お父様!!こいつと結婚しろと言うならば私は家を出ます!! え?結納金貰っちゃった? それじゃあ、仕方ありません。あちらから婚約を破棄したいと言わせましょう。 ※4時間ほどで書き上げたものなので、頭空っぽにして読んでください。

出来損ないの私がお姉様の婚約者だった王子の呪いを解いてみた結果→

AK
恋愛
「ねえミディア。王子様と結婚してみたくはないかしら?」 ある日、意地の悪い笑顔を浮かべながらお姉様は言った。 お姉様は地味な私と違って公爵家の優秀な長女として、次期国王の最有力候補であった第一王子様と婚約を結んでいた。 しかしその王子様はある日突然不治の病に倒れ、それ以降彼に触れた人は石化して死んでしまう呪いに身を侵されてしまう。 そんは王子様を押し付けるように婚約させられた私だけど、私は光の魔力を有して生まれた聖女だったので、彼のことを救うことができるかもしれないと思った。 お姉様は厄介者と化した王子を押し付けたいだけかもしれないけれど、残念ながらお姉様の思い通りの展開にはさせない。

処理中です...