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2話
しおりを挟む「ナタリー、聞いているのかい?」
さっきから黙って俯いたままの私を不思議に感じたのか、ノーランが怪訝そうに問いかけてきた。
「は、はい! 聞いていますわ!」
私は顔を上げて答える。
ノーランは私がショックを受けていないことが気に食わなかったのか、「なんか思っていたのとちがうな……」と呟いた。
しまった、顔に出てしまった。
少し抑えないと。
「……まぁいい、とにかく、君との婚約は破棄するよ」
(是非是非! 今すぐ婚約破棄しましょう!)
私は心のなかでぶんぶん! と勢い良く首を縦に振る。
しかしそれは表には出さず、少し残念そうな表情を作った。もう遅いかもしれないが。
「はい、分かりました……」
「ではこの書類にサインをしてくれ、そして君の父上からもサインを貰ってきて欲しい。そうしないと婚約を解消出来ないからね」
ノーランがある紙を私に向かって差し出した。
そこにはノーランと、ノーランの父の署名が入っている。
(ああ、もどかしいわ。書類の手続きが残ってるなんて)
私はサインをするとすぐに席から立ち上がった。
お父様のサインを貰ってきて一刻も早く婚約を解消するためだ。
「では、私はこれで失礼します」
「早くサインを貰ってきてくれよ。早く婚約破棄していのでね」
ノーランの憎まれ口にも反応を示さず、私は一礼するとすぐに実家へと戻った。
馬車に乗ると最速で屋敷に戻ってもらうように頼んだ。
馬車の中でもうずうずとして落ち着かない。
サインを書いた紙を握りしめ、今か今かとシ屋敷につくのを待っている。
屋敷につくと、私は真っ先にお父様の部屋へと向かった。
「お父様!」
「な、なんだナタリー!」
ばん! と扉を勢い良く開けて入った私に、お父様は跳ね上がるほどに驚いていた。
「これ! これにサインしてください!」
「ん? なんだこれは」
「ノーラン様との婚約破棄を同意する紙ですわ!」
「は?」
お父様は一瞬、ポカンとした表情になった。
「お願いしますお父様! 私、一刻も早く婚約破棄したいんです!」
私は身を乗り出してお父様に近づいた。
お父様は近くで大きな声を出されたことにとても迷惑そうな顔になる。
「分かった分かった! サインすればいいだんろう!」
お父様が紙にサインをした。
私はそれをすぐに受け取った。
「ありがとうございます! お父様!」
「ああ……」
お父様は未だに何故婚約破棄をすることになったのかよく理解していないようだったが、「まぁ、本人が喜んで婚約破棄するならいいか」と呟いて納得した。
私はお父様の部屋から出ると手の中にある紙を抱き締める。
「やった! やったわ!」
私は喜びをかみしめていたが、すぐにあることを思い出して気分が落ち込む。
(でも、明日これをノーラン様に渡すまでは婚約破棄ではないのよね……)
私はため息をついた。
この息苦しい地味メイクから解放されるのは、明日以降になるのだ、ということに絶望しそうになる。
(ん? でも、もう婚約破棄はほとんど完了してるわよね?)
二人の間では合意がされているし、どうせ明日この紙をノーランに渡したら婚約破棄となるのだ。
だから、別にもうノーランの指示に従う必要はないのではないだろうか?
(なら、ちょっとだけ先取りしても、問題ないよね……?)
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