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5話
しおりを挟む「よ」
「え、ハルト?」
次の日、ハルトはまたやって来た。
今度は手に紙袋を持っている。
「何で今日も来たの?」
「用事がないと、会いに来たら駄目なのか?」
「いや、そういうわけじゃないけど……」
「なら、ほら、これ」
ハルトは手に持っていた紙袋を私へ差し出した。
私はそれを受け取る。
「何これ?」
「お前が昔すきだったパン屋のアップルパイ」
「えっ!? 覚えてたの?」
「当たり前だろ。昔一緒に食べたんだし。あ、一つ俺も貰うからな」
私は急いで使用人に紅茶を用意してもらい、アップルパイをテーブルに並べた。
テーブルの向かいにハルトは座っている。
「美味しい……」
口にアップルパイを運ぶと、途端に昔の記憶が蘇ってきた。
公園のベンチにハルトと並んで座り、夕日を見ながら食べたことを思い出した。
「上手い」
そういうハルトもモグモグと食べている。
そしてしばらくティータイムをして、一息ついたころ、ハルトは話し始めた。
「実は、今日来たのはメアリーに頼みがあるんだ」
私はやっぱり頼みごとがあったのか、と思いながら返事をする。
「どんな頼み?」
「今度開かられる王家のパーティーがあるだろ?」
「知ってるわ」
王家が貴族たちを集めて開くパーティーだ。
私は離婚されたばかりなので休もうと思っていたのだが……。
「まぁ、俺はまだこれといった配偶者がいなくてな。しかし一人で出るというのも気まずいんだ」
「はぁ……?」
話が見えない。
どういうことだろう。
「俺と、一緒にそのパーティーに出てほしい」
「え……?」
私は困惑した。
女性とパーティーに一緒に出るということは、つまり配偶者として見られる、ということで、ハルトはそれを理解しているのだろうか。
「ハルトは大丈夫なの?」
「ああ。問題ない」
「でも……」
「頼む、俺を助けると思って一緒にでてくれ」
ハルトは頭を下げて頼んできた。
そこまで切羽詰まっているなら、手を貸すほかないだろう。
「分かった。一緒にでてあげる」
「本当か? ありがとう……!」
私がそう言うとハルトは感謝の言葉を述べた。
そして、私はハルトと一緒にパーティーに出ることになった。
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