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2話
しおりを挟む「え……?」
義憤にかられたマークは私のそばに近寄ってくると襟を掴みあげ、怒りを顕にして怒鳴る。
「サイモン王子が地に頭をつけたんだぞ! これがどういうことかわからないのか!?」
マークはサイモンを指差すが、私はどこか他人事のようにマークの言葉を聞いていた。
マークの言っていることは的外れだった。
サイモンが土下座したのは自分のせいだ。
身勝手な自分の行いの結果を、勝手に私に許しを請いているだけだ。
私が許す必要なんてどこにもない。
第一、あなたは私がどんな想いで生きてきたか全く知らないでしょう。
「お前は一国の王子に頭を下げさせ、尚且つプライドまで足で踏み躙ったんだ! なのにお前は自分の利益や保身だけ考えて! 最低の貴族だ!」
マークの言葉を皮切りに、周囲の貴族は私へ非難を浴びせ始めた。
「そうだ!」
「人の恋路を邪魔するな!」
その侮蔑を込めた瞳は、私の心を酷く抉った。
「なんで……どうして……」
なぜ、私が責められている?
私はただ人として当たり前の気持ちを言っただけなのに。
「アメリアさん」
その時、私に一人声をかける人物がいた。
公爵家のエリックだ。
彼とは学園のテストで毎回一位を争っている。
彼なら。私のように努力し続けているエリックなら、私を擁護してくれるのではないか──
そうして求めた救いの手は、
「あなたがそんなに我が身が可愛い人間だとは思いもしませんでした。……軽蔑します」
裏切られた。
そして彼は何も話すことなく私のもとを去った。
「……」
味方も、理解者も、誰もいなくなって。
私は空っぽになってしまった。
「もう分かっただろう」
サイモンが私へと語りかけてきた。
「周りの反応を見れば分かるはずだ。君は間違っている」
辺りを見渡す。
「このクズめ!」
「今すぐに王子との婚約を破棄しろ!」
「ローラさんに謝りなさい!」
皆、私を睨み罵声を浴びせ続けている。
なぜ。
なぜ、私が悪者になっている?
サイモンは固く拳を握り、高らかに宣言する。
「俺に謝れとは言わない。俺もお前には酷いことをしたからな。しかし! ローラを平民と呼び、蔑んだことだけは撤回してもらう!」
サイモンがそう言い終えると、歓声が上がった。
「さすが王子! 自分ではなく婚約者の名誉を守ろうとするなんて、素敵ですわ!」
「あんなに酷いことをされたのに謝罪を求めないなんて、なんと器が広いんだ!」
周囲の貴族は口々にサイモンを褒めそやす。
(ああ……)
悟ってしまった。
彼らは、ただ酔っているだけなのだ。
この壮大な悲劇に。
二人の恋を引き裂く悪者を、糾弾したいのだ。
それを理解したとき私は限界を迎え、そこでふっと意識が途切れた。
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