悪役令嬢の取り巻きBから追放された私は自由気ままに生きたいと思います。

水垣するめ

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1章

31話

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 一旦会場を出た後、控え室でクレアに男性用の衣装を着せた。

「サイズぴったり……こんなのいつの間に作ったんだ」

「それは企業秘密です」

 クレアは自分の姿を体をひねって確認する。
 クレアは燕尾服に身を包んでいた。まあ、燕尾服と言っても元の世界から持ち込んだファッションを取り入れているので、どちらかと言えばタキシードに見た目は近い。

「よくお似合いです」

 私は素直にクレアのことを褒める。
 実際にクレアは女装できるほどに顔が整っているので、男性風に髪を括り身だしなみを整えたクレアは中世的な美少年、と言っても差し支えないほどだった。

 ただ、女装がバレないように女性用のメイクもしているので、どちらかと言うと女性寄りの印象を受ける。これならクレアが男性だということもバレる心配は無さそうだ。

 私は少し見とれていた。
 すると視線に気づいたのかクレアが私を見て、ニヤリと笑う。

「なんだ? 見惚れていたか?」

「勘違いしないでください。このナルシスト。私が見てるのは外見だけです」

「お前どんどん俺に対する暴言酷くなってないか!?」

 私はクレアに見惚れていたことを指摘された照れ臭さから、つい強い言葉でクレアを突き放す。
 大丈夫。これはあの俺様ナルシストなのだ。見惚れはしたが断じて靡いたりはしない。
 私は強引に話題を逸らす。

「これでダンスを踊っても問題なさそうですね」

「それどころか注目を集めそうだな……」

「まあ良いじゃないですか。注目を集めるのは慣れてるでしょう?」

 私が挑発的に笑うと、クレアは真剣な表情で息を吐いた。

「それもそうだな……腹を括るか」

「おっ、男らしい」

「男だバカ」

 クレアはふっと微笑む。
 そして私へと手を差し出した。

「え? 何ですか、これ?」

「エスコートだ。今の俺は男だからな」

「エスコート? 私を?」

「中身はともかく、お前をエスコートしたくない男はそういないと思うぞ」

 クレアはサラッとそんなことを言ってきた。

「………………これはナルシスト。これはナルシスト……」

 全然違う。ときめいてはいない。
 ちょっとドキっとしただけだ。ただの不整脈に違いない。

「どういう意味かは分からんが、俺を馬鹿にしてることだけは分かったぞ……!」

 クレアは怒りを堪えた表情で拳を震わせている。

「おい、どうするんだ。エスコートがいらないなら引っ込めるぞ」

 そう言ってクレアは本当に手を引っ込めようとしたので、私は慌てて謝った。

「ああ、すみません! お願いします!」

 私はすっと手を取るとクレアは歩き出す。
 そして私たちは会場まで戻ってきた。
 扉の前に立つと、私は深呼吸をする。

「緊張してるのか?」

「悪いですか……」

「いや。でも、お前も緊張するんだなと思ってな」

「クレアさんは注目されることに慣れているかもしれませんが、私はあんまり慣れてないんですよ……」

 人に注目されると分かっていると、否が応でも心拍数が上がってくる。
 クレアは笑って私の耳元に口を寄せた。

「大丈夫だ。しっかり握れ」

「…………はい」

 クレアの腕をぎゅっと握る。
 やっぱり、ずるい。
 いつも女装してるくせにこんなところだけ格好いいなんて。

「いくぞ」

 クレアが歩き始めた。
 扉が開いた瞬間、私たちへと視線が集中した。
 皆、絶世の美少年になったクレアに見惚れている。どこからか息を呑む声も聞こえた。

 私はその視線に一瞬足が止まったが、本当に注目されることに慣れているのだろうクレアが、隣でなんて事はない表情をしていたので私は落ち着きを取り戻した。

 私とクレアはゆっくりと歩き始める。
 そうするとまるで道を作るように前にいる人が退いていった。
 その中を歩いているとヒソヒソと囁く声が聞こえる。

「あの方は誰……?」

「美しい……」

「あんな方学園にいたかしら?」

「どことなくクレア様に似てるけど……まさか!?」

 どうやら正体がクレアだと分かったようで、次第にざわめきが広がっていく。
 特に女性はクレアを見て黄色い歓声をあげていた。

「男装されたクレア様、とても素敵……!」

「まさかこんなに美しいなんて……!」

 そしてクレアを見ていると隣でエスコートされている私にも気づいたようで、疑問の声を上げた。

「隣にいるのは誰ですか?」

「美しいが、あまりパッとしないな」

 失礼な。誰だってこのクレアの隣に並んだら霞むに決まってるだろう。

「あれってもしかしてクレア様の取り巻きじゃないか?」

「じゃあ、クレア様は取り巻きの方と踊るの?」

 皆、私が誰だか気づいたのか、会場がより騒がしくなる。
 私が心の中でそう呟いている間に、ダンスフロアの真ん中へとやってきた。

 クレアと私は向き合う。
 音楽が始まった。

(いち、に……)

 私はリズムを取りながら踊る。
 実はパーティー用のダンスを人と踊ったのは幼い頃お母様からダンスを習った時以来なので、ちゃんと踊れているかはかなり怪しい。
 クレアも男性の踊りなんて全くしていないはずなのに、さすがというべきか完璧だった。

「どうした。遅れてるぞ」

 クレアは私だけに聞こえるように意地悪そうな笑顔を浮かべる。

「分かってます……!」

 私は対抗心を燃やしながら何とか追いつこうと頑張る。
 そうしている内にだんだんダンスにも慣れてきて、逆に楽しくなってきた。
 クレアの方を見るとクレアも楽しそうに笑っていた。
 くるくると回る景色の中で、私とクレアは見つめ合いながら踊る。

 照明もこちらを向いて私達を照らし、まるでパーティーの主役になったような気分だった。
 そして緊張から永遠にも思えるような一曲が終わり、同時にダンスも終わった。

 私とクレアは頭を下げて見ている人へ挨拶をする。
 すると大量の拍手が飛んできた。

「美しいわ……!」

「感動しました!」

「クレア様、かっこいい……!」

 皆クレアを褒め称えている。正直私のダンスは普通だっただろうが、皆クレアを見ていて気づいていないのだろう。
 会場中から称賛の声が上がる。
 中にはぼーっとクレアを頬を赤らめながら見つめていて、クレアに惚れてしまったと思われる女子生徒もいるのが見えた。

 私たちは拍手をその身に受けながら会場の端の方へと移動する。流石に端の方まで来ると注目もなくなり、すぐにパーティーは元の雰囲気へと戻っていった。
 私たちは壁にもたれかかりながらグラスの飲み物を飲んだ。冷えた果実水がダンスを終えて疲れた体に沁みる。

「いやー、大成功ですね」

「ほとんど俺のおかげだろ」

「私のアイデアのおかげですね」

「いーや、俺がイケメンだからだ」

「ふーん……まだ分かってないんですか?」

「何がだ?」

「私のアイデアは、一石二鳥なんですよ?」

「どういうことだ……?」

「ヒントは、クレアさんの今の格好です」

「俺の格好…………あ」

「ふふ、ようやく気づきましたか。王子はもうクレアさんをお誘いできません」

 そう。今のクレアは男装中だ。
 それが何を表しているのかというと、クレアは男性側のダンスしかできない。
 つまり私が男装させたことにより、ルーク王子はダンスに誘うことは出来なくなった。加えて他の男性からのお誘いもシャットアウトできると言うことだ。

「……お前すごいな」

「策士と呼んでくれて構いませんよ」

 ぶっちゃけて言うと今気づいたのだが、それを言うと馬鹿にされそうなので言わない。

「だから許して欲しいんですけど……」

「何だ?」

 私がもじもじとしていると、クレアが質問してきた。

「あのー、えっと、クレアさんにとっても嬉しいと思うんですよ」

「だから何がだ」

 クレアは煮え切らない私の説明にイライラしたのか、詰め寄って質問してきた。
 その時、クレアに声がかけられた。

「ク、クレア様……っ!」

 振り向くと、そこにいたのは女子生徒だった。
 そして次の瞬間、クレアに対してお願いした。

「わ、私と一緒に踊っていただけませんか!」

「わ、私も!」

「私もお願いします!」

「え?」

 堰を切ったように次々に殺到する女子生徒に、クレアは困惑しているようだった。
 そう。クレアが今男装していると言うことは、男性からダンスのお誘いは来ないが女性からのダンスのお誘いは来ると言うことだ。
 それに加えてさっきのクレアのダンスを見て踊りたい女子生徒は大勢いる。
 その結果、クレアの元に女子生徒が殺到したと言うわけだ。

「エ、エマ……!」

 女子生徒にもみくちゃにされながらクレアが私の名前を叫ぶ。

「ごめんなさい。でも、クレアさんも女の子にモテモテで嬉しいですよね」

「助けて……!」

 クレアが私に助けを求める。

「ごめんなさい。さすがに私でもこれは無理です」

「策士じゃないのか!」

「運命には抗えません」

 アーメン、と胸の前で腕を組む。
 クレアは女子生徒の波に押し流されていった。

 私はその流れを見送りながら、一息つこうとした。
 しかし、私の元にある人物がやってきたため、それは無理だった。

「おい」

 振り返るとそこにはルーク王子が立っていた。
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