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第五章「苦しみを終わらせる者」
1、穢れた剣
シュトラスの王城であるセヴォン城へは、巨鳥になったカエインに乗り、最速の空から向かった。
私を先頭にセドリック、レイヴンと縦に三人並んで巨大な背にまたがり、神殿を正午前に飛び立って昼過ぎには巨大な城塞が見えてくる。
上空から見下ろした高台に建つ城の中庭には、兵士達が降り位置を指定するように、中央を開けてズラリ整列していた。
「出迎えみたいね」
私の呟きに背後のセドリックが答える。
「到着時間を手紙で伝えておいたからね」
事前にカエインに頼み、魔法を使ってセドリックとギディオン王の間で手紙をやり取りしていたのだ。
――と、異変が起きたのは下降している途中だった。
「えっ、なに?」
「どうしたの? シア」
後ろを振り返った私は、腰にさしている守護剣をセドリックに示す。
「急に剣が震えだしたの」
しかもだんだん守護剣の振れ方は激しくなり、キィーンという振動音も高鳴っていく。
初めての現象にとまどう私に、セドリックは思慮深い瞳で返す。
「ああ、それはたぶん剣同士が共鳴しているんだよ」
「共鳴?」
「うん。文献で読んだ知識だけど、ある一定以内の距離に近づくと、対になる剣は反応し合うらしいんだ。
戦女神と軍神は双子であり、君が持つ『戦女神の剣』と、レスターが持つ『軍神の剣』は、同時に打たれた兄妹剣だからね。
実は今まで言わなかったけど、レスターは昔から対の剣の持ち主である君を気にかけて、時おり近況を訊いてきていたよ」
初耳だった。
レスター王子に関しては十年ぐらい前に一度だけ、アスティリアを訪問していた際の姿を遠巻きに見たことがある。
おぼろげな記憶によると、セドリックと双子と言っていいぐらい容姿がそっくりだった筈だ。
「だとしたら、そのたびにあなたから守護剣を満足に扱えない話を聞いて、さぞや幻滅していたことでしょうね」
これまでさんざん両親を失望させ、エルメティアから嘲笑されてきた私には容易に想像がついた。
きっと言えないぐらい、酷い評価をレスター王子は下していたのだと。
「……そんなことは……」
と、セドリックが言い淀んだところで、カエインが地面に着地する――
合わせて一人の漆黒の鎧を纏った人物が進み出てくると、剣鳴りが最高潮に達した。
「久しぶりだな、セドリック!」
鎧と揃いの兜で顔は見えなかったが、セドリックには声だけで誰だか分かったらしい。
「レスター!」
「再び生きてお前と会えて嬉しいよ」
まさに噂をすれば影。
歩み寄ってきたレスター王子は、巨鳥の背から飛び降りたセドリックの二の腕を力強く叩いた。
そしてすぐに続いて地面に降り立った私へ兜の前面を向ける。
「先ほどから異様に俺の腰にさしている守護剣がうるさいが、そこにいるのが、手紙に書いてあったバーン家の娘か」
私は軽く腰を落とした。
「はい、レスター王子。アレイシア・バーンと申します。お目にかかれて光栄です」
一応、初対面の王族相手なので敬語を使う。
「挨拶など良いから、剣を抜いてみせろ」
唐突に言われた私は、一瞬セドリックと視線を交わしたのち、
「かしこまりました」
腰からスラリと剣を抜き放ってみせた。
「なんてことだ……!?」
禍々しい黒炎をまとう守護剣を目にしたとたん、レスター王子は動揺するように叫んで、いきなり抜剣する。
「レスター、何の真似だ?」
「セドリック、下がっていろ」
驚いたように問うセドリックに、レスター王子はゆっくりと白銀の光を放つ剣を構えながら指示をした。
剣呑な空気に私はさっと背後を振り返る。
「カエイン、あなたは絶対に手を出さないで」
鋭く命令してから前方に視線を戻すと、石畳を蹴って迫ってくるレスター王子が見えた。
幼少時から訓練させられてきた私の身体は自然に動き――振り下ろされてきた剣を剣で受けた刹那。
ガキィイイン、という激しい金属音が鳴り、逆巻く黒炎とまばゆい白銀の光がぶつかりあう。
繰り出された剣を剣で弾き返した私は、反動を生かしてバックステップした。
「ずいぶんな歓迎ですね、レスター王子?」
初対面でいきなり斬りかかってくるなんて正気とは思えない。
「くっ――なんと凄まじくも禍々しい気だ! これが現在の『戦女神の剣』の姿だというのか?」
むしろ私の方こそ「デリアンを殺しかけたのは本当なのか?」と問いただしたかった。
狂戦士の剣と打ち合った時に比べるとかなり衝撃が劣っている。
しかしまさかそうとは言えず、別の言葉を口にする。
「ご覧の通り、私の心に燃え盛る黒炎を纏ってるがゆえ、現在は復讐の女神の剣と呼んでおります」
「何が復讐の女神の剣だ!」
忌々しそうな声をあげて脱ぎ捨てた兜の下から銀髪がこぼれ――現れたのはセドリックに良く似た甘く整った美しい顔――ただし、片方の瞼に真横に傷が刻まれている隻眼だった。
「お前はこの世界に現存するわずか七振りしかない貴重な神剣の一つを穢したのだ!」
よもや守護剣のことでこんな風に絡まれるとは予想していなかった。
非常に面倒くさい相手だ。
「お言葉ですが殿下。剣の性能に関しては上がっております」
私を先頭にセドリック、レイヴンと縦に三人並んで巨大な背にまたがり、神殿を正午前に飛び立って昼過ぎには巨大な城塞が見えてくる。
上空から見下ろした高台に建つ城の中庭には、兵士達が降り位置を指定するように、中央を開けてズラリ整列していた。
「出迎えみたいね」
私の呟きに背後のセドリックが答える。
「到着時間を手紙で伝えておいたからね」
事前にカエインに頼み、魔法を使ってセドリックとギディオン王の間で手紙をやり取りしていたのだ。
――と、異変が起きたのは下降している途中だった。
「えっ、なに?」
「どうしたの? シア」
後ろを振り返った私は、腰にさしている守護剣をセドリックに示す。
「急に剣が震えだしたの」
しかもだんだん守護剣の振れ方は激しくなり、キィーンという振動音も高鳴っていく。
初めての現象にとまどう私に、セドリックは思慮深い瞳で返す。
「ああ、それはたぶん剣同士が共鳴しているんだよ」
「共鳴?」
「うん。文献で読んだ知識だけど、ある一定以内の距離に近づくと、対になる剣は反応し合うらしいんだ。
戦女神と軍神は双子であり、君が持つ『戦女神の剣』と、レスターが持つ『軍神の剣』は、同時に打たれた兄妹剣だからね。
実は今まで言わなかったけど、レスターは昔から対の剣の持ち主である君を気にかけて、時おり近況を訊いてきていたよ」
初耳だった。
レスター王子に関しては十年ぐらい前に一度だけ、アスティリアを訪問していた際の姿を遠巻きに見たことがある。
おぼろげな記憶によると、セドリックと双子と言っていいぐらい容姿がそっくりだった筈だ。
「だとしたら、そのたびにあなたから守護剣を満足に扱えない話を聞いて、さぞや幻滅していたことでしょうね」
これまでさんざん両親を失望させ、エルメティアから嘲笑されてきた私には容易に想像がついた。
きっと言えないぐらい、酷い評価をレスター王子は下していたのだと。
「……そんなことは……」
と、セドリックが言い淀んだところで、カエインが地面に着地する――
合わせて一人の漆黒の鎧を纏った人物が進み出てくると、剣鳴りが最高潮に達した。
「久しぶりだな、セドリック!」
鎧と揃いの兜で顔は見えなかったが、セドリックには声だけで誰だか分かったらしい。
「レスター!」
「再び生きてお前と会えて嬉しいよ」
まさに噂をすれば影。
歩み寄ってきたレスター王子は、巨鳥の背から飛び降りたセドリックの二の腕を力強く叩いた。
そしてすぐに続いて地面に降り立った私へ兜の前面を向ける。
「先ほどから異様に俺の腰にさしている守護剣がうるさいが、そこにいるのが、手紙に書いてあったバーン家の娘か」
私は軽く腰を落とした。
「はい、レスター王子。アレイシア・バーンと申します。お目にかかれて光栄です」
一応、初対面の王族相手なので敬語を使う。
「挨拶など良いから、剣を抜いてみせろ」
唐突に言われた私は、一瞬セドリックと視線を交わしたのち、
「かしこまりました」
腰からスラリと剣を抜き放ってみせた。
「なんてことだ……!?」
禍々しい黒炎をまとう守護剣を目にしたとたん、レスター王子は動揺するように叫んで、いきなり抜剣する。
「レスター、何の真似だ?」
「セドリック、下がっていろ」
驚いたように問うセドリックに、レスター王子はゆっくりと白銀の光を放つ剣を構えながら指示をした。
剣呑な空気に私はさっと背後を振り返る。
「カエイン、あなたは絶対に手を出さないで」
鋭く命令してから前方に視線を戻すと、石畳を蹴って迫ってくるレスター王子が見えた。
幼少時から訓練させられてきた私の身体は自然に動き――振り下ろされてきた剣を剣で受けた刹那。
ガキィイイン、という激しい金属音が鳴り、逆巻く黒炎とまばゆい白銀の光がぶつかりあう。
繰り出された剣を剣で弾き返した私は、反動を生かしてバックステップした。
「ずいぶんな歓迎ですね、レスター王子?」
初対面でいきなり斬りかかってくるなんて正気とは思えない。
「くっ――なんと凄まじくも禍々しい気だ! これが現在の『戦女神の剣』の姿だというのか?」
むしろ私の方こそ「デリアンを殺しかけたのは本当なのか?」と問いただしたかった。
狂戦士の剣と打ち合った時に比べるとかなり衝撃が劣っている。
しかしまさかそうとは言えず、別の言葉を口にする。
「ご覧の通り、私の心に燃え盛る黒炎を纏ってるがゆえ、現在は復讐の女神の剣と呼んでおります」
「何が復讐の女神の剣だ!」
忌々しそうな声をあげて脱ぎ捨てた兜の下から銀髪がこぼれ――現れたのはセドリックに良く似た甘く整った美しい顔――ただし、片方の瞼に真横に傷が刻まれている隻眼だった。
「お前はこの世界に現存するわずか七振りしかない貴重な神剣の一つを穢したのだ!」
よもや守護剣のことでこんな風に絡まれるとは予想していなかった。
非常に面倒くさい相手だ。
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