38 / 67
第五章「苦しみを終わらせる者」
2、ギディオン王との謁見
「ぬかせ!」
吐き捨てるように言って、レスター王子が再び斬りかかってくる。
すると、私の発言の正しさを裏づけるように、キィン、キィンと剣と剣がぶつかる一合、一合から、あきらかに軍神の剣を圧倒する力が発揮された。
「止めろよレスター、もういいだろう!」
悲鳴のようなセドリックの声が響いても、レスター王子は構わず意地になったように剣を繰り出し続ける。
最初は仕方なく応戦していた私だが、次第に相手の顔に苦渋の表情が浮かぶのを見て愉しくなってくる。
この程度の腕と力でデリアンに致命傷を負わせられるなら、今の私であれば確実に殺せることになる。
そう思って、あやうく口から笑いの声が漏れそうになったとき、
「レスター、お止めなさい! 何を勝手なことをしているの?」
場に凛とした女性の声が響いた。
レスターははっとしたような表情になり、慌てて剣を引いて背後に飛びのく。
「母上……」
現れた人物に視線を走らせた私も、即座に剣先を下ろして地面に跪いた。
セドリックの母セレーナ妃そっくりの容姿から、一目でシュトラスの第一王女にして次期女王であるガートルード王太女だと分かったからだ。
光沢のある薄茶のドレスを揺らし、背筋をしっかり伸ばして歩いてくる優雅な姿は白鳥を思わせる。
「さあ、ギディオン王がお待ちかねです。行きますよ」
有無を言わさぬ口調でガートルード王太女がうながすと、レスター王子は急いで剣を仕舞い「はっ」と返事した。
踵を返した王太女につき従い、城の入口をくぐって内部を進んでいく途中、前方を歩くセドリックが尋ねる。
「レスター、その目はどうしたんだ?」
「ああ、これか」レスター王子はやや勿体ぶったような間を開けたあと答えた。「デリアンの胴体を刺し貫いたお礼に、兜の目元部分に剣先を差し込まれたのだ」
デリアンの名を聞いて思わず足が止まりかけた私を、さりげなくカエインの手が押した。
そうして入り組んだ城内を進み、謁見の間に出ると、
「お久しぶりです、カエイン様。ご無沙汰しております」
入ってすぐの場所に、光沢のある豪華な紺色のローブを纏った、見るからに高位の魔法使い然とした壮年の男性が控えていた。
床に低く腰を落としてうやうやしく挨拶する彼にたいし、
「ギモスか。久しいな」
カエインは素っ気なく一言だけ告げてさっと通り過ぎる。
歩きながらまっすぐ見通した室内奥の高みには、真っ白な髪と顎髭をたくわえたギディオン王の姿があった。
皺に埋もれていてもその瞳の輝きは鋭く、黄金の玉座に深く腰かけるようすは威厳に満ちている。
「まさか生きているうちに伝説のアスティリアの宮廷魔法使いに会えるとはな。つくづく長生きはするものだ」
真っ先に老王に話しかけられたカエインは、私の背後にぴったり立って否定する。
「生憎だが今の俺はアスティリアの宮廷魔法使いではない。
もう国に仕えるのを辞めた身分なのでな」
「ほお。では今は、個人的にセドリックに仕えておるというのか?」
訊かれたカエインは、私の肩に手を置いてきっぱりと宣言する。
「いいや違う、現在の俺の主人は、このアレイシア・バーンだ。
先に断っておくが、主人以外の命令は一切聞かない主義だ」
すると玉座の一段下に立つレスター王子が、くっと喉を鳴らす。
「これまた女の趣味がすこぶる悪い」
一瞬後、ヒュンと風切り音が鳴り――銀髪が一房、空を舞って床に溢れ落ちる。
「……なっ!?」
絶句して、頬に薄くついた傷を押さえるレスター王子に、カエインの脅し文句が飛ぶ。
「よーく覚えておくんだな。何人たりとも俺の主人であるシアを愚弄することは許さない。
次に同じことを言ったら、即刻、首と胴体が離れると思え?」
この世界最高位の魔法使いは、相手が王族であろうと躊躇や遠慮はしないらしい。
おかげでたちまち周囲の私を見る目が一変したが、カエインの威光で敬われても少しも嬉しくない。
私は深く溜め息をつき、カエインに注意する。
「カエイン止めて。別に誰にどう思われようと私は気にしないわ。二度と勝手に庇わないで」
「……分かった」
あっさり頷くカエインをギディオン王は目を丸くして見る。
「なんと、つまりカエイン・ネイル殿は、現在はアレイシア・バーン嬢の従者をしておると?」
「現在ではない、未来永劫、俺はシアの下僕だ」
カエインは迷惑なほど自信満々に言い切り、初めて王の視線が私へと向けられた。
「そうなると、わしが交渉するのは、バーン嬢ということになるな」
何にしても話が早いのは助かる。
ギティオン王の言葉を受けて、私は玉座の前に進み出て跪く。
「恐れながら陛下、私の望みはアスティリアの王位を簒奪者リュークから取り戻し、正当な継承者であるセドリックに戻すことです」
本音を言えばデリアンが王になるのが許せないから阻止したいだけだが。
「セドリックも同じ意志なのか?」
ギディオン王に話を振られたセドリックは、隣にいる私の顔をチラチラと見ながら、遠慮がちに想いを口にする。
「……僕個人としては、これ以上、アスティリア王国が疲弊することを望みません。王位よりもできるだけ戦いを避けた、穏やかな解決法を望みます」
いかにもセドリックらしい発言だった。
自分の考えを他人に押しつける気はないが、戦いを避けられたのでは、私が直接この手でデリアンを地獄に叩き落とすことができない。
単に栄光の座から引きずりおろすだけではなく、最強の剣士や英雄という称号と誇りを失った、敗北と屈辱にまみれた惨めなデリアンの姿を見たいのだ。
ゆえに、絶対にそんな意見を通すわけにはいかないと口を開きかけたとき、
「セドリック! この上、何を甘ったるいことを言っているのです!」
まるで私の気持ちを代弁するかのような叱責の言葉が飛んだ。
「伯母上……」
びっくりしたように瞳を見張るセドリックを睨みつけ、ガートルード王女はさらに大声を張り上げる。
「いいですかセドリック! 王位を取り返すことはもちろんのこと、お前は実の兄を裏切り、私の可愛い妹セレーナを辱めた畜生以下の獣、リューク・バロアに復讐せねばなりません!」
吐き捨てるように言って、レスター王子が再び斬りかかってくる。
すると、私の発言の正しさを裏づけるように、キィン、キィンと剣と剣がぶつかる一合、一合から、あきらかに軍神の剣を圧倒する力が発揮された。
「止めろよレスター、もういいだろう!」
悲鳴のようなセドリックの声が響いても、レスター王子は構わず意地になったように剣を繰り出し続ける。
最初は仕方なく応戦していた私だが、次第に相手の顔に苦渋の表情が浮かぶのを見て愉しくなってくる。
この程度の腕と力でデリアンに致命傷を負わせられるなら、今の私であれば確実に殺せることになる。
そう思って、あやうく口から笑いの声が漏れそうになったとき、
「レスター、お止めなさい! 何を勝手なことをしているの?」
場に凛とした女性の声が響いた。
レスターははっとしたような表情になり、慌てて剣を引いて背後に飛びのく。
「母上……」
現れた人物に視線を走らせた私も、即座に剣先を下ろして地面に跪いた。
セドリックの母セレーナ妃そっくりの容姿から、一目でシュトラスの第一王女にして次期女王であるガートルード王太女だと分かったからだ。
光沢のある薄茶のドレスを揺らし、背筋をしっかり伸ばして歩いてくる優雅な姿は白鳥を思わせる。
「さあ、ギディオン王がお待ちかねです。行きますよ」
有無を言わさぬ口調でガートルード王太女がうながすと、レスター王子は急いで剣を仕舞い「はっ」と返事した。
踵を返した王太女につき従い、城の入口をくぐって内部を進んでいく途中、前方を歩くセドリックが尋ねる。
「レスター、その目はどうしたんだ?」
「ああ、これか」レスター王子はやや勿体ぶったような間を開けたあと答えた。「デリアンの胴体を刺し貫いたお礼に、兜の目元部分に剣先を差し込まれたのだ」
デリアンの名を聞いて思わず足が止まりかけた私を、さりげなくカエインの手が押した。
そうして入り組んだ城内を進み、謁見の間に出ると、
「お久しぶりです、カエイン様。ご無沙汰しております」
入ってすぐの場所に、光沢のある豪華な紺色のローブを纏った、見るからに高位の魔法使い然とした壮年の男性が控えていた。
床に低く腰を落としてうやうやしく挨拶する彼にたいし、
「ギモスか。久しいな」
カエインは素っ気なく一言だけ告げてさっと通り過ぎる。
歩きながらまっすぐ見通した室内奥の高みには、真っ白な髪と顎髭をたくわえたギディオン王の姿があった。
皺に埋もれていてもその瞳の輝きは鋭く、黄金の玉座に深く腰かけるようすは威厳に満ちている。
「まさか生きているうちに伝説のアスティリアの宮廷魔法使いに会えるとはな。つくづく長生きはするものだ」
真っ先に老王に話しかけられたカエインは、私の背後にぴったり立って否定する。
「生憎だが今の俺はアスティリアの宮廷魔法使いではない。
もう国に仕えるのを辞めた身分なのでな」
「ほお。では今は、個人的にセドリックに仕えておるというのか?」
訊かれたカエインは、私の肩に手を置いてきっぱりと宣言する。
「いいや違う、現在の俺の主人は、このアレイシア・バーンだ。
先に断っておくが、主人以外の命令は一切聞かない主義だ」
すると玉座の一段下に立つレスター王子が、くっと喉を鳴らす。
「これまた女の趣味がすこぶる悪い」
一瞬後、ヒュンと風切り音が鳴り――銀髪が一房、空を舞って床に溢れ落ちる。
「……なっ!?」
絶句して、頬に薄くついた傷を押さえるレスター王子に、カエインの脅し文句が飛ぶ。
「よーく覚えておくんだな。何人たりとも俺の主人であるシアを愚弄することは許さない。
次に同じことを言ったら、即刻、首と胴体が離れると思え?」
この世界最高位の魔法使いは、相手が王族であろうと躊躇や遠慮はしないらしい。
おかげでたちまち周囲の私を見る目が一変したが、カエインの威光で敬われても少しも嬉しくない。
私は深く溜め息をつき、カエインに注意する。
「カエイン止めて。別に誰にどう思われようと私は気にしないわ。二度と勝手に庇わないで」
「……分かった」
あっさり頷くカエインをギディオン王は目を丸くして見る。
「なんと、つまりカエイン・ネイル殿は、現在はアレイシア・バーン嬢の従者をしておると?」
「現在ではない、未来永劫、俺はシアの下僕だ」
カエインは迷惑なほど自信満々に言い切り、初めて王の視線が私へと向けられた。
「そうなると、わしが交渉するのは、バーン嬢ということになるな」
何にしても話が早いのは助かる。
ギティオン王の言葉を受けて、私は玉座の前に進み出て跪く。
「恐れながら陛下、私の望みはアスティリアの王位を簒奪者リュークから取り戻し、正当な継承者であるセドリックに戻すことです」
本音を言えばデリアンが王になるのが許せないから阻止したいだけだが。
「セドリックも同じ意志なのか?」
ギディオン王に話を振られたセドリックは、隣にいる私の顔をチラチラと見ながら、遠慮がちに想いを口にする。
「……僕個人としては、これ以上、アスティリア王国が疲弊することを望みません。王位よりもできるだけ戦いを避けた、穏やかな解決法を望みます」
いかにもセドリックらしい発言だった。
自分の考えを他人に押しつける気はないが、戦いを避けられたのでは、私が直接この手でデリアンを地獄に叩き落とすことができない。
単に栄光の座から引きずりおろすだけではなく、最強の剣士や英雄という称号と誇りを失った、敗北と屈辱にまみれた惨めなデリアンの姿を見たいのだ。
ゆえに、絶対にそんな意見を通すわけにはいかないと口を開きかけたとき、
「セドリック! この上、何を甘ったるいことを言っているのです!」
まるで私の気持ちを代弁するかのような叱責の言葉が飛んだ。
「伯母上……」
びっくりしたように瞳を見張るセドリックを睨みつけ、ガートルード王女はさらに大声を張り上げる。
「いいですかセドリック! 王位を取り返すことはもちろんのこと、お前は実の兄を裏切り、私の可愛い妹セレーナを辱めた畜生以下の獣、リューク・バロアに復讐せねばなりません!」
あなたにおすすめの小説
【完結】愛とは呼ばせない
野村にれ
恋愛
リール王太子殿下とサリー・ペルガメント侯爵令嬢は六歳の時からの婚約者である。
二人はお互いを励まし、未来に向かっていた。
しかし、王太子殿下は最近ある子爵令嬢に御執心で、サリーを蔑ろにしていた。
サリーは幾度となく、王太子殿下に問うも、答えは得られなかった。
二人は身分差はあるものの、子爵令嬢は男装をしても似合いそうな顔立ちで、長身で美しく、
まるで対の様だと言われるようになっていた。二人を見つめるファンもいるほどである。
サリーは婚約解消なのだろうと受け止め、承知するつもりであった。
しかし、そうはならなかった。
婚約破棄された私は、処刑台へ送られるそうです
秋月乃衣
恋愛
ある日システィーナは婚約者であるイデオンの王子クロードから、王宮敷地内に存在する聖堂へと呼び出される。
そこで聖女への非道な行いを咎められ、婚約破棄を言い渡された挙句投獄されることとなる。
いわれの無い罪を否定する機会すら与えられず、寒く冷たい牢の中で断頭台に登るその時を待つシスティーナだったが──
他サイト様でも掲載しております。
【完結】時戻り令嬢は復讐する
やまぐちこはる
恋愛
ソイスト侯爵令嬢ユートリーと想いあう婚約者ナイジェルス王子との結婚を楽しみにしていた。
しかしナイジェルスが長期の視察に出た数日後、ナイジェルス一行が襲撃された事を知って倒れたユートリーにも魔の手が。
自分の身に何が起きたかユートリーが理解した直後、ユートリーの命もその灯火を消した・・・と思ったが、まるで悪夢を見ていたように目が覚める。
夢だったのか、それともまさか時を遡ったのか?
迷いながらもユートリーは動き出す。
サスペンス要素ありの作品です。
設定は緩いです。
6時と18時の一日2回更新予定で、全80話です、よろしくお願い致します。
【完結】試される愛の果て
野村にれ
恋愛
一つの爵位の差も大きいとされるデュラート王国。
スノー・レリリス伯爵令嬢は、恵まれた家庭環境とは言えず、
8歳の頃から家族と離れて、祖父母と暮らしていた。
8年後、学園に入学しなくてはならず、生家に戻ることになった。
その後、思いがけない相手から婚約を申し込まれることになるが、
それは喜ぶべき縁談ではなかった。
断ることなったはずが、相手と関わることによって、
知りたくもない思惑が明らかになっていく。
幼い頃に魔境に捨てたくせに、今更戻れと言われて戻るはずがないでしょ!
克全
恋愛
「カクヨム」と「小説家になろう」にも投稿しています。
ニルラル公爵の令嬢カチュアは、僅か3才の時に大魔境に捨てられた。ニルラル公爵を誑かした悪女、ビエンナの仕業だった。普通なら獣に喰われて死にはずなのだが、カチュアは大陸一の強国ミルバル皇国の次期聖女で、聖獣に護られ生きていた。一方の皇国では、次期聖女を見つけることができず、当代の聖女も役目の負担で病み衰え、次期聖女発見に皇国の存亡がかかっていた。
つまらない妃と呼ばれた日
柴田はつみ
恋愛
公爵令嬢リーシャは政略結婚で王妃に迎えられる。だが国王レオニスの隣には、幼馴染のセレスが“当然”のように立っていた。祝宴の夜、リーシャは国王が「つまらない妃だ」と語る声を聞いてしまい、心を閉ざす。
舞踏会で差し出された手を取らず、王弟アドリアンの助けで踊ったことで、噂は一気に燃え上がる――「王妃は王弟と」「国王の本命は幼馴染」と。
さらに宰相は儀礼と世論を操り、王妃を孤立させる策略を進める。監視の影、届かない贈り物、すり替えられた言葉、そして“白薔薇の香”が事件現場に残る冤罪の罠。
リーシャは微笑を鎧に「今日から、王の隣に立たない」と決めるが、距離を取るほど誤解は確定し、王宮は二人を引き裂いていく。
――つまらない妃とは、いったい誰が作ったのか。真実が露わになった時、失われた“隣”は戻るのか。
【完結160万pt】王太子妃に決定している公爵令嬢の婚約者はまだ決まっておりません。王位継承権放棄を狙う王子はついでに側近を叩き直したい
宇水涼麻
恋愛
ピンク髪ピンク瞳の少女が王城の食堂で叫んだ。
「エーティル様っ! ラオルド様の自由にしてあげてくださいっ!」
呼び止められたエーティルは未来の王太子妃に決定している公爵令嬢である。
王太子と王太子妃となる令嬢の婚約は簡単に解消できるとは思えないが、エーティルはラオルドと婚姻しないことを軽く了承する。
その意味することとは?
慌てて現れたラオルド第一王子との関係は?
なぜこのような状況になったのだろうか?
ご指摘いただき一部変更いたしました。
みなさまのご指摘、誤字脱字修正で読みやすい小説になっていっております。
今後ともよろしくお願いします。
たくさんのお気に入り嬉しいです!
大変励みになります。
ありがとうございます。
おかげさまで160万pt達成!
↓これよりネタバレあらすじ
第一王子の婚約解消を高らかに願い出たピンクさんはムーガの部下であった。
親類から王太子になることを強要され辟易しているが非情になれないラオルドにエーティルとムーガが手を差し伸べて王太子権放棄をするために仕組んだのだ。
ただの作戦だと思っていたムーガであったがいつの間にかラオルドとピンクさんは心を通わせていた。
許婚と親友は両片思いだったので2人の仲を取り持つことにしました
結城芙由奈@コミカライズ連載中
恋愛
<2人の仲を応援するので、どうか私を嫌わないでください>
私には子供のころから決められた許嫁がいた。ある日、久しぶりに再会した親友を紹介した私は次第に2人がお互いを好きになっていく様子に気が付いた。どちらも私にとっては大切な存在。2人から邪魔者と思われ、嫌われたくはないので、私は全力で許嫁と親友の仲を取り持つ事を心に決めた。すると彼の評判が悪くなっていき、それまで冷たかった彼の態度が軟化してきて話は意外な展開に・・・?
※「カクヨム」「小説家になろう」にも投稿しています