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第五章「苦しみを終わらせる者」
2、ギディオン王との謁見
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「ぬかせ!」
吐き捨てるように言って、レスター王子が再び斬りかかってくる。
すると、私の発言の正しさを裏づけるように、キィン、キィンと剣と剣がぶつかる一合、一合から、あきらかに軍神の剣を圧倒する力が発揮された。
「止めろよレスター、もういいだろう!」
悲鳴のようなセドリックの声が響いても、レスター王子は構わず意地になったように剣を繰り出し続ける。
最初は仕方なく応戦していた私だが、次第に相手の顔に苦渋の表情が浮かぶのを見て愉しくなってくる。
この程度の腕と力でデリアンに致命傷を負わせられるなら、今の私であれば確実に殺せることになる。
そう思って、あやうく口から笑いの声が漏れそうになったとき、
「レスター、お止めなさい! 何を勝手なことをしているの?」
場に凛とした女性の声が響いた。
レスターははっとしたような表情になり、慌てて剣を引いて背後に飛びのく。
「母上……」
現れた人物に視線を走らせた私も、即座に剣先を下ろして地面に跪いた。
セドリックの母セレーナ妃そっくりの容姿から、一目でシュトラスの第一王女にして次期女王であるガートルード王太女だと分かったからだ。
光沢のある薄茶のドレスを揺らし、背筋をしっかり伸ばして歩いてくる優雅な姿は白鳥を思わせる。
「さあ、ギディオン王がお待ちかねです。行きますよ」
有無を言わさぬ口調でガートルード王太女がうながすと、レスター王子は急いで剣を仕舞い「はっ」と返事した。
踵を返した王太女につき従い、城の入口をくぐって内部を進んでいく途中、前方を歩くセドリックが尋ねる。
「レスター、その目はどうしたんだ?」
「ああ、これか」レスター王子はやや勿体ぶったような間を開けたあと答えた。「デリアンの胴体を刺し貫いたお礼に、兜の目元部分に剣先を差し込まれたのだ」
デリアンの名を聞いて思わず足が止まりかけた私を、さりげなくカエインの手が押した。
そうして入り組んだ城内を進み、謁見の間に出ると、
「お久しぶりです、カエイン様。ご無沙汰しております」
入ってすぐの場所に、光沢のある豪華な紺色のローブを纏った、見るからに高位の魔法使い然とした壮年の男性が控えていた。
床に低く腰を落としてうやうやしく挨拶する彼にたいし、
「ギモスか。久しいな」
カエインは素っ気なく一言だけ告げてさっと通り過ぎる。
歩きながらまっすぐ見通した室内奥の高みには、真っ白な髪と顎髭をたくわえたギディオン王の姿があった。
皺に埋もれていてもその瞳の輝きは鋭く、黄金の玉座に深く腰かけるようすは威厳に満ちている。
「まさか生きているうちに伝説のアスティリアの宮廷魔法使いに会えるとはな。つくづく長生きはするものだ」
真っ先に老王に話しかけられたカエインは、私の背後にぴったり立って否定する。
「生憎だが今の俺はアスティリアの宮廷魔法使いではない。
もう国に仕えるのを辞めた身分なのでな」
「ほお。では今は、個人的にセドリックに仕えておるというのか?」
訊かれたカエインは、私の肩に手を置いてきっぱりと宣言する。
「いいや違う、現在の俺の主人は、このアレイシア・バーンだ。
先に断っておくが、主人以外の命令は一切聞かない主義だ」
すると玉座の一段下に立つレスター王子が、くっと喉を鳴らす。
「これまた女の趣味がすこぶる悪い」
一瞬後、ヒュンと風切り音が鳴り――銀髪が一房、空を舞って床に溢れ落ちる。
「……なっ!?」
絶句して、頬に薄くついた傷を押さえるレスター王子に、カエインの脅し文句が飛ぶ。
「よーく覚えておくんだな。何人たりとも俺の主人であるシアを愚弄することは許さない。
次に同じことを言ったら、即刻、首と胴体が離れると思え?」
この世界最高位の魔法使いは、相手が王族であろうと躊躇や遠慮はしないらしい。
おかげでたちまち周囲の私を見る目が一変したが、カエインの威光で敬われても少しも嬉しくない。
私は深く溜め息をつき、カエインに注意する。
「カエイン止めて。別に誰にどう思われようと私は気にしないわ。二度と勝手に庇わないで」
「……分かった」
あっさり頷くカエインをギディオン王は目を丸くして見る。
「なんと、つまりカエイン・ネイル殿は、現在はアレイシア・バーン嬢の従者をしておると?」
「現在ではない、未来永劫、俺はシアの下僕だ」
カエインは迷惑なほど自信満々に言い切り、初めて王の視線が私へと向けられた。
「そうなると、わしが交渉するのは、バーン嬢ということになるな」
何にしても話が早いのは助かる。
ギティオン王の言葉を受けて、私は玉座の前に進み出て跪く。
「恐れながら陛下、私の望みはアスティリアの王位を簒奪者リュークから取り戻し、正当な継承者であるセドリックに戻すことです」
本音を言えばデリアンが王になるのが許せないから阻止したいだけだが。
「セドリックも同じ意志なのか?」
ギディオン王に話を振られたセドリックは、隣にいる私の顔をチラチラと見ながら、遠慮がちに想いを口にする。
「……僕個人としては、これ以上、アスティリア王国が疲弊することを望みません。王位よりもできるだけ戦いを避けた、穏やかな解決法を望みます」
いかにもセドリックらしい発言だった。
自分の考えを他人に押しつける気はないが、戦いを避けられたのでは、私が直接この手でデリアンを地獄に叩き落とすことができない。
単に栄光の座から引きずりおろすだけではなく、最強の剣士や英雄という称号と誇りを失った、敗北と屈辱にまみれた惨めなデリアンの姿を見たいのだ。
ゆえに、絶対にそんな意見を通すわけにはいかないと口を開きかけたとき、
「セドリック! この上、何を甘ったるいことを言っているのです!」
まるで私の気持ちを代弁するかのような叱責の言葉が飛んだ。
「伯母上……」
びっくりしたように瞳を見張るセドリックを睨みつけ、ガートルード王女はさらに大声を張り上げる。
「いいですかセドリック! 王位を取り返すことはもちろんのこと、お前は実の兄を裏切り、私の可愛い妹セレーナを辱めた畜生以下の獣、リューク・バロアに復讐せねばなりません!」
吐き捨てるように言って、レスター王子が再び斬りかかってくる。
すると、私の発言の正しさを裏づけるように、キィン、キィンと剣と剣がぶつかる一合、一合から、あきらかに軍神の剣を圧倒する力が発揮された。
「止めろよレスター、もういいだろう!」
悲鳴のようなセドリックの声が響いても、レスター王子は構わず意地になったように剣を繰り出し続ける。
最初は仕方なく応戦していた私だが、次第に相手の顔に苦渋の表情が浮かぶのを見て愉しくなってくる。
この程度の腕と力でデリアンに致命傷を負わせられるなら、今の私であれば確実に殺せることになる。
そう思って、あやうく口から笑いの声が漏れそうになったとき、
「レスター、お止めなさい! 何を勝手なことをしているの?」
場に凛とした女性の声が響いた。
レスターははっとしたような表情になり、慌てて剣を引いて背後に飛びのく。
「母上……」
現れた人物に視線を走らせた私も、即座に剣先を下ろして地面に跪いた。
セドリックの母セレーナ妃そっくりの容姿から、一目でシュトラスの第一王女にして次期女王であるガートルード王太女だと分かったからだ。
光沢のある薄茶のドレスを揺らし、背筋をしっかり伸ばして歩いてくる優雅な姿は白鳥を思わせる。
「さあ、ギディオン王がお待ちかねです。行きますよ」
有無を言わさぬ口調でガートルード王太女がうながすと、レスター王子は急いで剣を仕舞い「はっ」と返事した。
踵を返した王太女につき従い、城の入口をくぐって内部を進んでいく途中、前方を歩くセドリックが尋ねる。
「レスター、その目はどうしたんだ?」
「ああ、これか」レスター王子はやや勿体ぶったような間を開けたあと答えた。「デリアンの胴体を刺し貫いたお礼に、兜の目元部分に剣先を差し込まれたのだ」
デリアンの名を聞いて思わず足が止まりかけた私を、さりげなくカエインの手が押した。
そうして入り組んだ城内を進み、謁見の間に出ると、
「お久しぶりです、カエイン様。ご無沙汰しております」
入ってすぐの場所に、光沢のある豪華な紺色のローブを纏った、見るからに高位の魔法使い然とした壮年の男性が控えていた。
床に低く腰を落としてうやうやしく挨拶する彼にたいし、
「ギモスか。久しいな」
カエインは素っ気なく一言だけ告げてさっと通り過ぎる。
歩きながらまっすぐ見通した室内奥の高みには、真っ白な髪と顎髭をたくわえたギディオン王の姿があった。
皺に埋もれていてもその瞳の輝きは鋭く、黄金の玉座に深く腰かけるようすは威厳に満ちている。
「まさか生きているうちに伝説のアスティリアの宮廷魔法使いに会えるとはな。つくづく長生きはするものだ」
真っ先に老王に話しかけられたカエインは、私の背後にぴったり立って否定する。
「生憎だが今の俺はアスティリアの宮廷魔法使いではない。
もう国に仕えるのを辞めた身分なのでな」
「ほお。では今は、個人的にセドリックに仕えておるというのか?」
訊かれたカエインは、私の肩に手を置いてきっぱりと宣言する。
「いいや違う、現在の俺の主人は、このアレイシア・バーンだ。
先に断っておくが、主人以外の命令は一切聞かない主義だ」
すると玉座の一段下に立つレスター王子が、くっと喉を鳴らす。
「これまた女の趣味がすこぶる悪い」
一瞬後、ヒュンと風切り音が鳴り――銀髪が一房、空を舞って床に溢れ落ちる。
「……なっ!?」
絶句して、頬に薄くついた傷を押さえるレスター王子に、カエインの脅し文句が飛ぶ。
「よーく覚えておくんだな。何人たりとも俺の主人であるシアを愚弄することは許さない。
次に同じことを言ったら、即刻、首と胴体が離れると思え?」
この世界最高位の魔法使いは、相手が王族であろうと躊躇や遠慮はしないらしい。
おかげでたちまち周囲の私を見る目が一変したが、カエインの威光で敬われても少しも嬉しくない。
私は深く溜め息をつき、カエインに注意する。
「カエイン止めて。別に誰にどう思われようと私は気にしないわ。二度と勝手に庇わないで」
「……分かった」
あっさり頷くカエインをギディオン王は目を丸くして見る。
「なんと、つまりカエイン・ネイル殿は、現在はアレイシア・バーン嬢の従者をしておると?」
「現在ではない、未来永劫、俺はシアの下僕だ」
カエインは迷惑なほど自信満々に言い切り、初めて王の視線が私へと向けられた。
「そうなると、わしが交渉するのは、バーン嬢ということになるな」
何にしても話が早いのは助かる。
ギティオン王の言葉を受けて、私は玉座の前に進み出て跪く。
「恐れながら陛下、私の望みはアスティリアの王位を簒奪者リュークから取り戻し、正当な継承者であるセドリックに戻すことです」
本音を言えばデリアンが王になるのが許せないから阻止したいだけだが。
「セドリックも同じ意志なのか?」
ギディオン王に話を振られたセドリックは、隣にいる私の顔をチラチラと見ながら、遠慮がちに想いを口にする。
「……僕個人としては、これ以上、アスティリア王国が疲弊することを望みません。王位よりもできるだけ戦いを避けた、穏やかな解決法を望みます」
いかにもセドリックらしい発言だった。
自分の考えを他人に押しつける気はないが、戦いを避けられたのでは、私が直接この手でデリアンを地獄に叩き落とすことができない。
単に栄光の座から引きずりおろすだけではなく、最強の剣士や英雄という称号と誇りを失った、敗北と屈辱にまみれた惨めなデリアンの姿を見たいのだ。
ゆえに、絶対にそんな意見を通すわけにはいかないと口を開きかけたとき、
「セドリック! この上、何を甘ったるいことを言っているのです!」
まるで私の気持ちを代弁するかのような叱責の言葉が飛んだ。
「伯母上……」
びっくりしたように瞳を見張るセドリックを睨みつけ、ガートルード王女はさらに大声を張り上げる。
「いいですかセドリック! 王位を取り返すことはもちろんのこと、お前は実の兄を裏切り、私の可愛い妹セレーナを辱めた畜生以下の獣、リューク・バロアに復讐せねばなりません!」
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