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第2章 2084年

第34話 どうしてこんなにたくさんのカメラが必要なのだろうか Make-believe alibi

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 それから十分後。ベア、タイガー、ポールの三人が、銃で武装し、広大な地下街を歩いている。
 周囲の光景は、荒廃した商店街という印象だ。あるいは崩壊したショッピング・センター。

 どこもかしこも錆びた鉄の色をしている。湿ったところには薄汚い緑のコケが存在し、暗いところにはナメクジ模様のキノコが生えている。
 天井からはいくつもの金属ケーブルが垂れ下がり、ある場所は崩落したダクトで塞がっている。別の場所は瓦礫だらけで進入できない。

 楽しそうな調子でタイガーが喋っている。

「猫を飼ってると大変なわけよ。ちょっとしたことで病気になって、その治療費が高くてさ」

 ポールが返す。

「家計は大丈夫なんですか? タイガーさんけっこう課金してるじゃないですか、なのに猫でもお金が出てくって……」
「財布がやべぇ時は酒を節約よ。それでもやべぇなら食費を削る」
「えぇ……」
「人間、ちょっとくらい食わなくたって平気だって。心配すんな、必要なカロリーはちゃんと摂ってるから。ビタミンとかはサプリがあるしよ」
「サプリですか」
「よかったらお前も飲んでみろよ。いいの紹介してやるぜ」
「いやぁー、俺は……」

 二人の会話を聞きながらベアは考えている。カメラのない世界はプラネット以外に存在しないのだろうか、と。
 彼は思い出す。このあいだ日曜大工の店に行った時のことを。

 水道掃除の薬品を探し、店内を歩いていた彼は、ふと気づいたのだ。驚くほど多くの防犯カメラが設置されていることに。
 通路の天井、エスカレーターの近く、階段、トイレの出入り口、どこもカメラだらけだ。

 同時に、彼はこういったことにも気づいた。

(カメラはどれも小さく、天井や壁と同じ色のカバーの中に入っていて目立ちにくい。つまり、居場所を隠すための工夫が凝らされている……)

 殆どの客は、いや、従業員でさえも、こういった工夫のせいで大量のカメラに気づけない。
 でもどうしてこんなにたくさんのカメラが必要なのだろうか。客の犯罪を防止するためだとしても、あまりに多過ぎではないか?

 ベアの耳にタイガーの喋り声が流れこんでくる。

「そういや、俺の知り合いがコンビニの仕事やってんだけどよ。あれで困るのが店員の万引きなんだと」

 ポールがびっくりした声で「マジですか?」と聞き返している。

「そりゃ詳しくは知らんが、でも実際しょっちゅうあるらしいぜ。だから防犯カメラが必要なんだとさ。客の犯罪だけじゃなく、店員の犯罪にもご用心ってわけだ」

 なるほど、もっともな理屈だ。人々はこうして不安に駆られてカメラを設置し続け、自らの手で監視社会を生み出した……。
 考えにふけるベアに、タイガーが話しかける。

「おい、どうしたい。さっきから黙って。調子が悪りぃのか?」
「あぁ、まぁその、胃もたれしてる感じでさ。夕食のパスタがちょっと油っこくて」
「お前って本当パスタが好きだよなぁ」
「子どもの頃、近所に安いイタ飯屋があってさ。家族でよく食べにいったんだよ」
「なるほど、三つ子の魂百までっか」
「三つ子ってほどガキじゃなかったけどな」

 ポールが何かに気づく。

「お話し中にすんません。あの、この先に下り坂の通路ありますよね? あれって大部屋に繋がってるんですけど、あそこってホット・スポットなんですよ」

 ホット・スポットとは、モンスターが大量に出現する場所のことだ。囲まれる危険をうまく処理できれば、短時間で大量の経験値やドロップを稼げる。
 にやっとタイガーが笑う。

「いいじゃねぇか! 是非いこう!」
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