37 / 227
第2章 2084年
第34話 どうしてこんなにたくさんのカメラが必要なのだろうか Make-believe alibi
しおりを挟む
それから十分後。ベア、タイガー、ポールの三人が、銃で武装し、広大な地下街を歩いている。
周囲の光景は、荒廃した商店街という印象だ。あるいは崩壊したショッピング・センター。
どこもかしこも錆びた鉄の色をしている。湿ったところには薄汚い緑のコケが存在し、暗いところにはナメクジ模様のキノコが生えている。
天井からはいくつもの金属ケーブルが垂れ下がり、ある場所は崩落したダクトで塞がっている。別の場所は瓦礫だらけで進入できない。
楽しそうな調子でタイガーが喋っている。
「猫を飼ってると大変なわけよ。ちょっとしたことで病気になって、その治療費が高くてさ」
ポールが返す。
「家計は大丈夫なんですか? タイガーさんけっこう課金してるじゃないですか、なのに猫でもお金が出てくって……」
「財布がやべぇ時は酒を節約よ。それでもやべぇなら食費を削る」
「えぇ……」
「人間、ちょっとくらい食わなくたって平気だって。心配すんな、必要なカロリーはちゃんと摂ってるから。ビタミンとかはサプリがあるしよ」
「サプリですか」
「よかったらお前も飲んでみろよ。いいの紹介してやるぜ」
「いやぁー、俺は……」
二人の会話を聞きながらベアは考えている。カメラのない世界はプラネット以外に存在しないのだろうか、と。
彼は思い出す。このあいだ日曜大工の店に行った時のことを。
水道掃除の薬品を探し、店内を歩いていた彼は、ふと気づいたのだ。驚くほど多くの防犯カメラが設置されていることに。
通路の天井、エスカレーターの近く、階段、トイレの出入り口、どこもカメラだらけだ。
同時に、彼はこういったことにも気づいた。
(カメラはどれも小さく、天井や壁と同じ色のカバーの中に入っていて目立ちにくい。つまり、居場所を隠すための工夫が凝らされている……)
殆どの客は、いや、従業員でさえも、こういった工夫のせいで大量のカメラに気づけない。
でもどうしてこんなにたくさんのカメラが必要なのだろうか。客の犯罪を防止するためだとしても、あまりに多過ぎではないか?
ベアの耳にタイガーの喋り声が流れこんでくる。
「そういや、俺の知り合いがコンビニの仕事やってんだけどよ。あれで困るのが店員の万引きなんだと」
ポールがびっくりした声で「マジですか?」と聞き返している。
「そりゃ詳しくは知らんが、でも実際しょっちゅうあるらしいぜ。だから防犯カメラが必要なんだとさ。客の犯罪だけじゃなく、店員の犯罪にもご用心ってわけだ」
なるほど、もっともな理屈だ。人々はこうして不安に駆られてカメラを設置し続け、自らの手で監視社会を生み出した……。
考えにふけるベアに、タイガーが話しかける。
「おい、どうしたい。さっきから黙って。調子が悪りぃのか?」
「あぁ、まぁその、胃もたれしてる感じでさ。夕食のパスタがちょっと油っこくて」
「お前って本当パスタが好きだよなぁ」
「子どもの頃、近所に安いイタ飯屋があってさ。家族でよく食べにいったんだよ」
「なるほど、三つ子の魂百までっか」
「三つ子ってほどガキじゃなかったけどな」
ポールが何かに気づく。
「お話し中にすんません。あの、この先に下り坂の通路ありますよね? あれって大部屋に繋がってるんですけど、あそこってホット・スポットなんですよ」
ホット・スポットとは、モンスターが大量に出現する場所のことだ。囲まれる危険をうまく処理できれば、短時間で大量の経験値やドロップを稼げる。
にやっとタイガーが笑う。
「いいじゃねぇか! 是非いこう!」
周囲の光景は、荒廃した商店街という印象だ。あるいは崩壊したショッピング・センター。
どこもかしこも錆びた鉄の色をしている。湿ったところには薄汚い緑のコケが存在し、暗いところにはナメクジ模様のキノコが生えている。
天井からはいくつもの金属ケーブルが垂れ下がり、ある場所は崩落したダクトで塞がっている。別の場所は瓦礫だらけで進入できない。
楽しそうな調子でタイガーが喋っている。
「猫を飼ってると大変なわけよ。ちょっとしたことで病気になって、その治療費が高くてさ」
ポールが返す。
「家計は大丈夫なんですか? タイガーさんけっこう課金してるじゃないですか、なのに猫でもお金が出てくって……」
「財布がやべぇ時は酒を節約よ。それでもやべぇなら食費を削る」
「えぇ……」
「人間、ちょっとくらい食わなくたって平気だって。心配すんな、必要なカロリーはちゃんと摂ってるから。ビタミンとかはサプリがあるしよ」
「サプリですか」
「よかったらお前も飲んでみろよ。いいの紹介してやるぜ」
「いやぁー、俺は……」
二人の会話を聞きながらベアは考えている。カメラのない世界はプラネット以外に存在しないのだろうか、と。
彼は思い出す。このあいだ日曜大工の店に行った時のことを。
水道掃除の薬品を探し、店内を歩いていた彼は、ふと気づいたのだ。驚くほど多くの防犯カメラが設置されていることに。
通路の天井、エスカレーターの近く、階段、トイレの出入り口、どこもカメラだらけだ。
同時に、彼はこういったことにも気づいた。
(カメラはどれも小さく、天井や壁と同じ色のカバーの中に入っていて目立ちにくい。つまり、居場所を隠すための工夫が凝らされている……)
殆どの客は、いや、従業員でさえも、こういった工夫のせいで大量のカメラに気づけない。
でもどうしてこんなにたくさんのカメラが必要なのだろうか。客の犯罪を防止するためだとしても、あまりに多過ぎではないか?
ベアの耳にタイガーの喋り声が流れこんでくる。
「そういや、俺の知り合いがコンビニの仕事やってんだけどよ。あれで困るのが店員の万引きなんだと」
ポールがびっくりした声で「マジですか?」と聞き返している。
「そりゃ詳しくは知らんが、でも実際しょっちゅうあるらしいぜ。だから防犯カメラが必要なんだとさ。客の犯罪だけじゃなく、店員の犯罪にもご用心ってわけだ」
なるほど、もっともな理屈だ。人々はこうして不安に駆られてカメラを設置し続け、自らの手で監視社会を生み出した……。
考えにふけるベアに、タイガーが話しかける。
「おい、どうしたい。さっきから黙って。調子が悪りぃのか?」
「あぁ、まぁその、胃もたれしてる感じでさ。夕食のパスタがちょっと油っこくて」
「お前って本当パスタが好きだよなぁ」
「子どもの頃、近所に安いイタ飯屋があってさ。家族でよく食べにいったんだよ」
「なるほど、三つ子の魂百までっか」
「三つ子ってほどガキじゃなかったけどな」
ポールが何かに気づく。
「お話し中にすんません。あの、この先に下り坂の通路ありますよね? あれって大部屋に繋がってるんですけど、あそこってホット・スポットなんですよ」
ホット・スポットとは、モンスターが大量に出現する場所のことだ。囲まれる危険をうまく処理できれば、短時間で大量の経験値やドロップを稼げる。
にやっとタイガーが笑う。
「いいじゃねぇか! 是非いこう!」
応援ありがとうございます!
0
お気に入りに追加
2
1 / 5
この作品を読んでいる人はこんな作品も読んでいます!
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる