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第4章 現代の監視社会における具体的な監視方法とその運用の実態について
第78話 緊急逮捕 They can invade everything
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情報局が作った秘密回線をたどり、森たちの頭に無線通信が送られてくる。話者は大伝馬。
(チーフ、こっちは展開終了だ。全員この公園にいる。で、今後は?)
(ステルス迷彩を起動。ウェンに気づかれないように包囲しろ)
(了解)
(やつのガラ(※身柄)を取る指示は私が出す。それまで待機)
(あいよ!)
通信が終わる。そのすぐ後に、映像の外から誰かが入ってくる。ジャージを着た中年の日本人男性だ。
彼はウェンが座っているベンチに腰を下ろす。すぐさま森の顔つきが変わり、卓上のコンピューター・キーボードを引き寄せ、叩きだす。
同時に、情報班の責任者へ命じる。
(このジャージ男の情報を洗え。おそらく武装戦線のメンバーだ。それと、ブレイカーを準備しろ。こいつら、暗号化された無線通信で喋るつもりだ)
(了解)
森の十指がキーボード上で忙しく踊る。それを見て気後れしつつ、理堂は質問する。
「チーフ……。ブレイカーっていうのは?」
「暗号を破る専門ソフトだ。今回は私が操作する、お前は見てるだけでいい」
「はい。でも、暗号なんて複雑なもの、破れるんですか?」
「テロリストのチャチな暗号なんて、幼稚園児のお遊戯さ。すぐに終わらせる……」
一枚の画面が空中に浮かぶ。森はそれに視線を走らせ、つぶやく。
「3……2……1……来た!」
先ほどの画面が赤く輝き、直後、森たちの頭にウェンの声が流れこむ。ソフトが暗号を破り、盗聴を始めたのだ。
理堂は、まるでラジオ放送のようなそれに耳を傾ける。
(遅いぞ、斎木)
(すまねぇ。でも、ウェンだって前回は遅刻しただろ)
(ふん……)
(で、調子は?)
(つまらん毎日さ。くだらん……)
大伝馬が森に問いかける。
(おい、ジャージも捕まえんの?)
(当たり前でしょ)
(めんどくせぇ……)
(理堂! 公園東側の映像をチェック、急いで!)
彼は言われたとおりに行動する。電柱に設置された防犯カメラからの映像をながめる、公園の出入口に多くの人がいるのがわかる。
その中には子どもたちを連れた保育士数人の姿もある。理堂は保育士たちの足取りを見ながら言う。
(チーフ。民間人がウェンのいる区画へ向かってます。まずいですよ……)
できるならもう少しウェンたちの会話を盗聴したい。なにか重要情報を喋るかもしれないからだ。
しかし、時間の猶予はあと少し。そして犠牲は許されない。だから森は決断する。
(デンマ、やれ!)
(了解!)
現場の全隊員が動き出す。一気に走ってベンチを囲み、ハンドガンを突きつけ、ステルスを解く。
大伝馬が怒鳴る。
「動くな! 特調だ!」
特調とは特別調査室の省略だ。ウェンは一瞬で事態を理解し、逃げ場がないことを悟る。彼は苦い顔をデンマに向け、言う。
「逮捕……というわけか?」
「他になにがある?」
「令状を見せてもらおう」
「緊急逮捕にそんなの関係ねぇ。情報局特権だ、知ってるだろ?」
「ふん、酷い世の中だな。24時間せっせと監視して、プライバシーを侵害する。そして令状なしで逮捕、人権まで侵害する」
「ゴタク並べてんじゃねぇ! 両手を挙げろ!」
「分かっているさ……」
この会話の裏ではウェンとジャージ男の通信が行われている。それは情報班のコンピューターを通じ、大伝馬の頭にも中継されている。
(ウェン、どうする?)
(おとなしく捕まるのが無難だろう)
(しかし……)
(どうせこの会話も盗聴されている。だから逃走作戦を立てても無駄だ、すぐにバレる)
(クソッ!)
(斎木。いいから特調の言うとおりにしたまえ)
ウェンは両手を挙げる。少し遅れてジャージ男も。
手錠をかけるために隊員たちが動く。その映像を見つつ理堂が述べる。
「意外と呆気なかったですね……」
森は「そうだな」と返し、続けて言う。
「少しは勉強になったか?」
「はい」
「なら、いい。次からは現場に出られるよう、しっかり訓練しておけよ」
「わかりました」
作戦が終了する。
(チーフ、こっちは展開終了だ。全員この公園にいる。で、今後は?)
(ステルス迷彩を起動。ウェンに気づかれないように包囲しろ)
(了解)
(やつのガラ(※身柄)を取る指示は私が出す。それまで待機)
(あいよ!)
通信が終わる。そのすぐ後に、映像の外から誰かが入ってくる。ジャージを着た中年の日本人男性だ。
彼はウェンが座っているベンチに腰を下ろす。すぐさま森の顔つきが変わり、卓上のコンピューター・キーボードを引き寄せ、叩きだす。
同時に、情報班の責任者へ命じる。
(このジャージ男の情報を洗え。おそらく武装戦線のメンバーだ。それと、ブレイカーを準備しろ。こいつら、暗号化された無線通信で喋るつもりだ)
(了解)
森の十指がキーボード上で忙しく踊る。それを見て気後れしつつ、理堂は質問する。
「チーフ……。ブレイカーっていうのは?」
「暗号を破る専門ソフトだ。今回は私が操作する、お前は見てるだけでいい」
「はい。でも、暗号なんて複雑なもの、破れるんですか?」
「テロリストのチャチな暗号なんて、幼稚園児のお遊戯さ。すぐに終わらせる……」
一枚の画面が空中に浮かぶ。森はそれに視線を走らせ、つぶやく。
「3……2……1……来た!」
先ほどの画面が赤く輝き、直後、森たちの頭にウェンの声が流れこむ。ソフトが暗号を破り、盗聴を始めたのだ。
理堂は、まるでラジオ放送のようなそれに耳を傾ける。
(遅いぞ、斎木)
(すまねぇ。でも、ウェンだって前回は遅刻しただろ)
(ふん……)
(で、調子は?)
(つまらん毎日さ。くだらん……)
大伝馬が森に問いかける。
(おい、ジャージも捕まえんの?)
(当たり前でしょ)
(めんどくせぇ……)
(理堂! 公園東側の映像をチェック、急いで!)
彼は言われたとおりに行動する。電柱に設置された防犯カメラからの映像をながめる、公園の出入口に多くの人がいるのがわかる。
その中には子どもたちを連れた保育士数人の姿もある。理堂は保育士たちの足取りを見ながら言う。
(チーフ。民間人がウェンのいる区画へ向かってます。まずいですよ……)
できるならもう少しウェンたちの会話を盗聴したい。なにか重要情報を喋るかもしれないからだ。
しかし、時間の猶予はあと少し。そして犠牲は許されない。だから森は決断する。
(デンマ、やれ!)
(了解!)
現場の全隊員が動き出す。一気に走ってベンチを囲み、ハンドガンを突きつけ、ステルスを解く。
大伝馬が怒鳴る。
「動くな! 特調だ!」
特調とは特別調査室の省略だ。ウェンは一瞬で事態を理解し、逃げ場がないことを悟る。彼は苦い顔をデンマに向け、言う。
「逮捕……というわけか?」
「他になにがある?」
「令状を見せてもらおう」
「緊急逮捕にそんなの関係ねぇ。情報局特権だ、知ってるだろ?」
「ふん、酷い世の中だな。24時間せっせと監視して、プライバシーを侵害する。そして令状なしで逮捕、人権まで侵害する」
「ゴタク並べてんじゃねぇ! 両手を挙げろ!」
「分かっているさ……」
この会話の裏ではウェンとジャージ男の通信が行われている。それは情報班のコンピューターを通じ、大伝馬の頭にも中継されている。
(ウェン、どうする?)
(おとなしく捕まるのが無難だろう)
(しかし……)
(どうせこの会話も盗聴されている。だから逃走作戦を立てても無駄だ、すぐにバレる)
(クソッ!)
(斎木。いいから特調の言うとおりにしたまえ)
ウェンは両手を挙げる。少し遅れてジャージ男も。
手錠をかけるために隊員たちが動く。その映像を見つつ理堂が述べる。
「意外と呆気なかったですね……」
森は「そうだな」と返し、続けて言う。
「少しは勉強になったか?」
「はい」
「なら、いい。次からは現場に出られるよう、しっかり訓練しておけよ」
「わかりました」
作戦が終了する。
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