VRMMO レヴェリー・プラネット ~ユビキタス監視社会~

夏野かろ

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第9章 この社会を革命するために 前編

第151話 言葉では拳を止められない Words are not enough to stop the bullets

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 柳さんが鋭く質問してきた。

「では、トラックの件は完全にお任せしてよろしいんですね?」
「この仕事は俺が責任をもって完了させます。信じてください」
「……わかりました。それでお願いします」

 倉間さんからも質問が来る。

「念のために確認します。なぜ我々が豪月円太を殺すか、その理由を答えてください」
「彼の父親は真実を知っている、その気になればすべてを公表できる。しかしLMのご機嫌を損ねないため、見て見ぬふりをして改ざんを黙認した。
 そんなことを許していいわけがない。だって、あぁいう奴がLMに味方するからこの監視社会が続いていくわけです。
 LMは我々の敵であり、彼女を手助けする存在も同じく我々の敵である。だから、協力をやめるまで徹底的に攻撃しなくてはならない」
「まさにその通り。問題はその次です。久泉くん、君は本当に、いま言った考えにしたがって豪月円太を殺す覚悟があるんですか?」

 俺は倉間さんの顔を見る。真剣そのものだ。だからこっちも負けないくらいの真剣さで答える。

「えぇ、ありますよ。ありますとも。どんなに激しく罵られようと、俺は必ず豪月円太を殺します。
 確かに彼には何の罪もない、殺されるような悪人ではない。しかし、彼が死ねば父親はショックを受け、これまでの行いを後悔する。
 うまくいけばLMへの協力をやめるでしょう。そうなればこちらにとってそれだけ有利になる。俺はそのために行動するんです」
「そこまで覚悟されているのなら、何も問題ありません。あなたを全面的に信頼します」
「はい!」

 正義を唱えるつもりなどない。俺の言い分はある意味では狂人のそれであり、真っ当な常識から思いっきり外れている。それくらい自覚しているさ。
 それでも決めたのだ。LMを倒すためなら、この監視社会を打破するためなら、どんな悪事もやるのだと。俺は必ず豪月円太を殺す、誰が妨害しようとやり遂げる。

 しかし、こんな俺の熱意に水を差すかのように、ある若い女性メンバーがため息まじりにつぶやいた。

「別に久泉さんを非難するわけでも、武装戦線のやり方を批判するわけでもないんですが……。でもちょっと質問させてください。
 私たちにはこういう武力闘争の道しか残されていないんでしょうか? 話し合いによって平和的にLMを解体し、監視社会を終わらせる、それは無理なんでしょうか」

 即座に俺は答える。

「気持ちは分かりますがね、しかしもう力ずくで解決するしかありませんよ。だって、じゃあ聞きますが、なぜ話し合いで片づくと思うんです?
 これまでに多くの人たちが、非暴力的な、いわばガンジー的なやり方でLMを終わらせようと努力してきたし、監視社会に反対してきた。
 だが全く無駄だった! 署名活動やデモ行進には何の意味もない、権力者にとってそれは単なる騒音だ。うるさいだけで実害はゼロ。だからとことん無視する。
 そしてその騒音すらも、結局は奴らにコントロールされているんだ。デモなんてLMによる自作自演にすぎない。この場の誰もが知っている話だ、そうでしょう?」
「えぇ……」
「俺だって昔はデモをやってました。だからその無意味さがよく分かるんですよ。そして、無意味と思ったから別の方法を考え、武力闘争を決意した。
 かつて日本革命解放軍に参加したのは、そういう理由があったからです。でもあれもナンセンスだった!
 昔、柳さんたちが教えてくれたじゃないですか。解放軍はデモ隊と同じく情報局の操り人形に過ぎないと」

 そうだ、どこまでもそうなんだ。今の日本では反体制的なことすらも支配者層に握られている。
 デモに参加していた時の俺も、解放軍にいた時の俺も、どっちも馬鹿だった。釈迦の手のひらで走り回る孫悟空に過ぎなかったんだ。

 ちくしょう! 何もかも奴らの思う通りだなんて! 怒りがこみ上げ、強い言葉がマグマのように流れ出る。

「エルネスト・ゲバラやポール・カガメは言いましたよ。
 話し合いは限界まで続けられるべきである、しかし、いくら話し合っても相手がいっさい譲歩しないなら、もはや武力に訴えるしかないのだ、と。
 1994年、アフリカのルワンダで内戦が始まり、少数民族のツチ族が何十万人と殺された。世界はユダヤ人の虐殺を経験したのに、また同じ過ちを繰り返した!
 あの時、殺されていくツチ族を助けたのは言葉ではなかった。拳だ。カガメ将軍の部隊が力ずくで人殺したちを止めたから、多くの人々が救われた!
 もし言葉で戦いを止められるなら、カガメ将軍は戦う必要などなかった。ラジオか何かで「殺人をやめましょう」と呼びかければ、それで戦いが終わったはずだ。
 じゃあなぜ彼はそうしなかったのか? どうしてだと思いますか?」
「それは……」
「答えは実にシンプルだ。事態が一線を越えてしまったら言葉はもはや役に立たない、だからたとえ血を流す結果になろうと、力で解決するしかない!
 言葉では拳を止められない、だが逆に、拳はその威力でもって言葉を黙らせることができる。
 LMが監視社会という拳で言論の自由を奪って国民を黙らせ、支配するなら、こちらにできる対抗策はもはや実力行使だけだ。
 拳を止められるのは言葉ではなく拳である。……違いますか?」

 場が非常に荒れてきたのを心配したのだろう、柳さんが会話に割りこんできた。

「久泉さん、もう会議の時間がありません。すみませんがそれで終わりにしてください。
(先ほどの女性に視線を向けて、)あなたの仕事の進み具合はどうなっているんですか?」
「順調と思います。豪月の屋敷の使用人2名、それと、豪月の父の側近を買収しました。おかげでいろんな情報がわかります」」
「そのやり方で本当にうまくいくのですか?」
「与えられた仕事は命にかえてもやり遂げます。豪月円太がいつどのタイミングであの海沿いの道をドライブするか、絶対にその情報をつかんでみせます」
「今回の暗殺がうまくいくかはあなた次第です。くれぐれも失敗のないようお願いします」
「かしこまりました」

 本当、この女性がしっかりやってくれんと困るぜ。円太が行動するタイミングに合わせてこっちも動かないと意味ないからな。まったく。
 こんな時、かつて仲間だった奴らがいてくれたらどれほど助かることだろう。あいつらの情報収集能力なら、円太のスマホをセサミしてどんな秘密も盗めたはずだ。

 ……ふん、今さらそんなことを思ってどうする? 連中は「武装戦線はあまりに暴力的過ぎる」といって離反し、新たな組織、自由回復革命戦団を作った。
 奴らはこの期に及んでなおハト派の考えを捨てきれていない。そんなことでLMを倒せるものか! 戦い以外にどうやって革命を成し遂げるというんだ!

 まぁ革命戦団のことを気にしても始まらんさ。それより、俺は俺の仕事を、豪月円太の暗殺をしっかりやり遂げねば。自分のことだけ心配していればいい。
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