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第9章 この社会を革命するために 前編

第152話 苦渋の決断 Should I say yes or should I say no

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 それからしばらく経った後、座談会は無事に終了した。心身ともに疲れきった状態の俺は、帰宅してシャワーその他を済ませ、速攻で眠りについた。
 誰に言われずとも分かっているさ。どうせこれからあの悪夢の続きを見るんだろう? まったく不愉快な……。

 豪月円太の暗殺に向けて頑張らなくちゃいけないこの大事な時期に、なんでプラネットの夢が出てくるんだ。奴の暗殺とプラネットと、まるで無関係じゃないか。
 現実世界じゃ肉体労働と革命活動でいっつも疲れてる。だからせめて夢の世界じゃゆっくり休みたいのに、どうしてそうなっちまうんだ。



 レヴェリー・プラネットのリベルタド、冒険者協会の建物内にある談話室。そこは喫茶店のようになっており、今はおよそ15人ほどが滞在中だ。
 俺、ドレ、パティ、レッド・マスクの4人は部屋の奥にある丸テーブルに集まって話し合いの最中で、先ほどからマスクが喋っている。

「まま、そーいうわけで! この俺が見事にまとめてきたわけです、レイザーズとのケンカを終わらせる条件、平和条約を!」

 あの狂人どもを説き伏せるとはマスクもやるなぁ、どういう手品を使ったんだか。俺はそれについて質問しようかと思う、だが俺の前にドレが言った。

「条件の具体的な内容は?」
「えー、合計3つです。
 1、ドレさんがクランを代表してゴーエンたちに謝ること。2、もちろんシルバーさんも謝ること。3、シルバーさんが引退して二度とこのゲームに戻ってこないこと」

 ……は? え、何? どういうこと? パティがすぐに突っこんだ。

「なんですかそれは! 意味不明です!」
「いやいやそんなことないっすよー。簡単明瞭じゃないっすか」
「あのねぇ、うちは襲われた側であり被害者、向こうは襲った側であり加害者! いったいどこの世界に、被害者が加害者に頭を下げるなんて話が……」
「まぁお気持ちは分かります。実際パティさんの言う通りですからね。筋としちゃあこっちじゃなくて逆に向こうが頭を下げるべきっす。
 でもゴーエンたちは絶対そんなんしませんよ。だってプライドがありますもん、「俺たち重課金は微課金や無課金より偉い身分なのだ」ってプライドが。
 知り合いが聞いた話だと、連中はこんなこと言ってるそうっす。”今回の事件は貴族が平民に殺されたようなものだ、立場の違いからいえば平民が謝るべきである”」

 パティは猛烈な語気で「ふざけるな……!」と吐き捨て、なおも言おうとする。そこをマスクが「まままま、もうちょい話させてください!」とさえぎって続ける。

「確かにゴーエンたちの要求は無茶苦茶なんすけど、でも俺が説得を始めた時はもっとヤバかった。
 だって「戦争してエクレールをつぶす」の一点張りでしたからね。そこを何とか矛を収めてくれるよう必死に頼んで、あと、知り合いからも強くお願いしてもらって。
 ようやくそれで今の条件に落ち着いたわけです。だからこれ以上の良い話は無理っすよ、無理!
 皆さんが悔しいのは分かります、えぇ、俺だって悔しいっす。でも戦争は嫌じゃないですか、せっかくの楽しいゲームで殺し合いだなんて……」

 なぁにが「せっかくの楽しいゲーム」だよ、バカバカしい。課金すればするほど偉い、そんな理屈を振り回す連中が傍若無人に暴れるクソ不愉快なゲームだろうが。
 現実世界でもゲームの架空世界でも、金持ちが貧乏人をいたぶる、持つ者が持たざる者をいじめる。なんで人間はこうもいじめが好きなんだ? それが本性だから?

 俺は怒りのこもった視線をマスクにぶつける。彼はすぐに気づいて話しかけてくる。

「そんな怖い顔しないでくださいよ~。それはそれとして、シルバーさん、3つ目の条件についてどう思うんです?」
「3つ目?」
「シルバーさんが引退するって話です」

 引退。そのゲームのプレイを完全にやめて、もう遊ばないこと。仮にそうなったとすれば、ドレにもパティにも他の奴らにも会えなくなる。
 そんな莫大な精神的犠牲をなぜ払わなくちゃならないんだ? なぜだ? なぜだ!

「クソが、そんなん死んでも了解しねぇぞ!」
「ですよねぇ……。しかしですよ、シルバーさん。脅すわけじゃないですが、もし引退しないなら事態はどうなっていくと思います?」
「レイザーズとの戦争が始まるんだろ?」
「えぇ。そうなったら地獄っすよ、だってエクレールのメンバーは誰もがレイザーズに攻撃されるんすよ?
 PKやMPK、メール爆撃みたいな嫌がらせはこれまで以上に激しくなる。そういやこの前シルバーさん言ってましたよね、ゴーエンたちに獲物を横取りされたって」
「あのお屋敷ダンジョンの件か?」
「そう、それっす。あぁいうことがヨシテルさんやガーベラさんにも行われるわけです。シルバーさんはそういう未来が訪れてもいいんすか?」

 俺はさすがに言葉に詰まり、どう返すべきか戸惑う。その隙にマスクが畳みかけてくる。

「ゴーエンたちとしてはですよ、何より許せないのは自分達を殺したシルバーさんなんです。本来ならぶっ殺して復讐したい、だがまた返り討ちにあうのは絶対に嫌。
 じゃあどうするか? 引退させるという嫌がらせを決めれば復讐心が満足し、戦争しようなんて気持ちも消える。そこです、そこなんですよ!
 謝罪その他はあくまでおまけの条件、本命はこれ、シルバーさんの引退! ということはですよ、シルバーさん。
 あなたが引退勧告を受け入れるかどうかでエクレールの命運が決まるといっても過言じゃありません。こういう言い方は不本意なんすが、でも聞いてください。
 ソリッド・シルバーさん。エクレールのメンバー全員のために、どうか犠牲になってもらえないすか?」

 クソッ……。なんつー話だ。俺はこんな嫌な二択をするためにレヴェリー・プラネットを遊び続けてきたっていうのか!
 歯ぎしりして必死に怒りを抑える。何もかもぶっ壊したい攻撃的な衝動が頭をぐちゃぐちゃにかき回していく。

 さて……どうすべきだ? 何がベストなんだ。
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